100日後、巨大隕石落下

橘靖竜

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第一章 隕石発見

Day93 虚構と祈り

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《日本・総理官邸 午前9時》

テレビカメラの光が一斉に点灯する。

壇上のマイクの前に立つのは、内閣総理大臣・鷹岡サクラ。

前夜からSNSでは、#地球終了まであと100日 が世界のトレンド1位になっていた。

政府発表は、もはや“火消し”ではなく、“現実の説明”になっていた。

「おはようございます。

 本日は、ネット上で拡散している
 “巨大隕石衝突説”についてお話しします。」

会場には国内外の報道機関。

通訳機越しに世界中へ、彼女の声が生配信されていた。

「現在、JAXAおよびNASAの観測によると、

 “オメガ”と呼ばれる天体が地球に接近中です。

 ただし、衝突は確定しておりません。」

会見場にざわめき。

カメラのフラッシュが閃光のように弾けた。

「確率は変動します。

 しかし、政府は国民の安全を最優先に、

 “最悪を想定しながら希望を持つ”体制を整えます。」

一瞬の静寂。

そして世界の記者たちが一斉に質問を浴びせる。

「Prime Minister, what is the probability now?(今の衝突確率は?)」


「Will Japan cooperate with NASA’s plan?(日本はNASAの計画に参加するか?)」


「Are you hiding the truth?(真実を隠していたのでは?)」

サクラは一歩前に出た。

「“隠していた”のではなく、“言葉を選んでいた”。

 恐怖は、事実そのものよりも、誤解によって広がります。

 だから、私たちは今、正しい言葉で話します。」


《アメリカ・ワシントンD.C./ホワイトハウス》

大統領 ジョナサン・ルース は、サクラの会見映像を見ていた。


隣で補佐官が言う。

「日本の対応が最も早いです。ヨーロッパはまだ沈黙を保っています。」

ルースは低く呟いた。

「沈黙は一番危険だ。世界中がネットで“情報戦”を始めている。」

モニターにはCNNの速報。

BREAKING: “#100DaysUntilImpact” 
dominates global media.
Stock markets plunge worldwide.

ルースは顎に手を当てた。

「経済のパニックは始まったな。

 ——政治より早い。」


《イギリス・ロンドン》

金融街シティでは株価が急落。

大通りには「天体衝突」の見出しを掲げた新聞が並ぶ。

“OMEGA COMING?”
“THE FINAL 100 DAYS”

通勤途中の人々がスマホを見て立ち止まり、誰もが空を見上げた。

厚い雲の向こうに、何も見えない空。

けれど、誰もが“何か来る”気配を感じていた。


《フランス・パリ》

セーヌ川沿いのカフェ。
ニュースキャスターが興奮気味に話す。

「Le Japon admet enfin l’existence d’Omega
(日本がついにオメガの存在を認めました)」


客席ではカップを持つ手が止まる。

「Mon Dieu…(なんてこと)」

「C’est la fin du monde?(世界の終わり?)」

外では、教会の鐘が鳴り始めた。

午前でもないのに、祈りの鐘が。


《中国・北京/国務院緊急対策室》

「情報統制を強化せよ。SNSで“隕石”という単語を遮断。」

「だが、もう遅いです。VPN経由で世界のニュースが流れています。」

モニターにはWeiboのトレンド。

#末日来了 (終末が来た)

#欧米隐瞒 (欧米が隠していた)

政治家たちは顔を見合わせた。

世界が“情報”というウイルスで繋がっていく。


《日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》

白鳥レイナはテレビの会見映像を見つめていた。

「……あの人、覚悟を決めたのね。」

部下が尋ねた。

「“あの人”って?」

「総理よ。政治家は真実を言うより、“真実を背負う”人だと思ってたけど、

 今の彼女は、ちゃんと“科学の言葉”で話してる。」

モニターにはサクラの映像。

その目は揺れていなかった。

「主任、世界中がパニックです。

 もう、“説明”じゃ止められません。」

白鳥はうなずいた。

「そうね。でも、私たちは“冷静さ”で戦うしかない。」


《東京・新聞社社会部》

記者 桐生誠 は原稿を打ちながら、ニュースフィードを追っていた。

“オメガ”の検索数、24時間で50億回。

SNSでは、宗教・陰謀・ジョーク・祈り――あらゆる言葉が混ざっていた。

同僚が叫ぶ。

「海外取材班から速報! 中東で“終末の火”を信じる群衆が暴徒化してる!」

「アメリカもだ。“避難バンカー”が買い占められてる。」

「ヨーロッパじゃ、偽の“衝突地図”が出回ってるぞ!」

桐生は深呼吸し、キーボードに指を置いた。

“真実より速いのは、不安だ。”


《東京都郊外・廃教会》

カメラの前に立つ女。
天城セラ。

静かな微笑みと、神話のような声。


「恐れないでください。

 これは“選ばれた時代”の証です。

 天が私たちを見つめている。」

ライブ視聴者は一気に百万人を突破。

コメントが次々と流れる。

〈セラ様の言葉で救われた〉

〈祈りが世界を救う〉

〈#黎明の火〉

セラは目を閉じた。

「“光”は神の息吹。

 あなたの恐怖を、温かな炎に変えなさい。」

その配信が終わるころには、

“黎明教団”という名前がSNSに定着していた。


《アメリカ・ニューヨーク》

タイムズスクエアの大型ビジョンがニュース速報を映す。

“WORLD REACTS TO JAPAN’S DISCLOSURE”
“OMEGA THREAT LEVEL RAISED”

その下、誰かが叫ぶ。

「宇宙は神の怒りだ!」


別の誰かが答える。

「違う、科学の失敗だ!」

言葉がぶつかり合い、街の空気が熱を帯びる。

誰もが“何か”に縋りたくなっていた。


《日本・総理官邸 夜》

官邸の電話は鳴りやまない。

海外首脳からの緊急通話、メディア、宗教団体、市民の声。

すべてが一夜にして押し寄せていた。

藤原が報告する。

「株式市場は混乱、物流にも影響。

 一部では買い占めが発生しています。」

中園が静かに言った。

「人々は“明日があるか”を信じたいんです。」

サクラは立ち上がった。

「なら、信じさせましょう。“明日を準備している国”だと。」

窓の外には、報道ヘリのライトが夜空を照らしていた。

まるで、空の向こうにある“何か”を探しているように。

サクラは呟いた。

「世界が一つになる瞬間があるとすれば――

 きっと、それは“希望”じゃなく、“恐怖”から始まるのね。」


本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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