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第二章 真実と混乱
Day87 静かな崩壊
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《早朝4時/日本・総理官邸 私室》
真っ暗な部屋の中で、スマホの画面だけが青く光っていた。
鷹岡サクラは、表示された名前をしばらく見つめてから、通話ボタンを押した。
「……もしもし。起こした?」
『起きてた。どうせ今日もニュースだらけでしょ?』
娘の声は、思ったより元気そうだった。
それだけで少し肩の力が抜ける。
「大学、ちゃんと行ってる? サボって“残りの人生プラン”とか立ててない?」
『うわ、総理モードだ。……行ってるよ。一応ね。
でも、周りは休んでる子も多い。
“どうせ終わるならバイト増やす”とか、“旅行行く”とか。』
「……そうなるわよね。」
一瞬、言葉が途切れる。 官邸の静けさが、逆に耳に痛い。
『ねえ、お母さんこそ大丈夫?
ニュース見てると、ずっと起きてるみたいなんだけど。』
「うん……まあ、寝たりはしてる。ちょっとだけ。」
『ちょっとだけって言う人は、だいたい全然寝てないよ。』
娘の軽いツッコミに、サクラは小さく笑った。
その笑いのあと、ふっと声が低くなる。
「……怖くないわけじゃないよ。
あんたの顔も、これからのことも、考えちゃうし。」
『うん。こっちも怖いよ。でも――』
少し息を吸う音がして、娘が続けた。
『お母さんが仕事サボったほうが、もっと怖い。』
サクラはしばらく黙って、それから短く答えた。
「そう。……じゃあ、もうちょっと頑張る。」
『うん。じゃ、行ってきます。またね。』
通話が切れたあと、サクラはスマホを胸の前で握りしめた。
ほんの少しだけ、目が熱くなる。
「……あんたの“またね”のために、やるか。」
誰もいない部屋で、小さくつぶやいた。
《午前9時/日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》
観測室のモニターに、新しい数字が表示される。
Impact Probability:23.4%
白鳥レイナは、眉をひそめることもなく、その数字を眺めた。
隣の若手研究員が、おそるおそる口を開く。
「……ちょっと、上がりましたね。」
「誤差の範囲。でも、ニュース的には“上がった”になるわね。」
「テレビ、また騒ぎますかね。」
「たぶん。“0.3%上昇”ってテロップが踊るわ。」
白鳥の声は淡々としていたが、指先にはわずかな力がこもっていた。
「主任は……怖くないんですか?」
若手の質問に、白鳥は手を止めた。
少しだけ考えてから、ごく普通の口調で答える。
「怖いよ。
でも、“怖いから仕事休みます”って言ったら、もっと怖いでしょ。」
若手は苦笑してうなずいた。
「それは、たしかに。」
「ほら、軌道のブレ見て。
——今日も、この線が“外れてくれますように”って見てるのよ。」
その言い方が妙に人間らしくて、若手は少しほっとした。
《午前11時/東京・とあるスーパー》
店内は静かだった。
二日前まで水とカップ麺が消えていた棚に、
少しずつ商品が戻り始めている。
「落ち着いてきたねぇ。」
レジのおばちゃんが言う。
客の主婦が答えた。
「買い占めても、結局食べきれないですからね。
それに、毎日“あと◯日”って言われると……慣れちゃう。」
もう一人の客が、カゴを覗き込みながら苦笑する。
「うちは日用品だけです。洗剤とトイレットペーパー。
隕石落ちるまでに、何回洗濯するのかって話ですけど。」
三人とも笑った。
笑いながら、どこかで「本当に笑っていいのか」と自分に問うていた。
《午後0時/ビジネス街のオフィス》
昼休み。
食堂のテレビには、ワイドショーが映っている。
「“退職者急増”企業も。 “残りの時間を自由に生きたい”という声が——」
スーツの男が、ため息をつきながら弁当のフタを開ける。
「なあ、あと87日って聞くと、やる気出る? 仕事。」
同僚が箸を止める。
「出ないけど……辞めてもすることないしな。」
「宝くじ当たったら辞める、みたいなノリ?」
「当たってない宝くじで悩んでる感じだな、それ。」
二人はくだらない冗談を言い合いながら、
テレビのテロップから目を離せなかった。
《午後2時/新聞社社会部》
桐生誠は、原稿のカーソルが点滅する画面を見ていた。
『オメガ確率23.4%。“慣れ”という名の静かな崩壊』
タイトルだけで、もう疲れていた。
編集長がコーヒーを片手に近づく。
「顔が死んでるぞ、桐生。」
「みんな、数字に慣れてきましたね。
昨日も今日も“20%台”。
“どうせすぐには落ちない”って空気があります。」
「それが怖いんだよな。」
編集長は椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見た。
「一気に叫んでる間は、まだ健全なんだ。
静かになり始めたときが、一番危ない。」
「……ですよね。」
桐生はキーボードに手を置く。
「“静かに崩れていく国”を書きたいです。」
「書け。お前はそれ、得意だろ。」
「得意って、あんまり嬉しくないジャンルですけど。」
二人の会話は軽い。
だが、画面の向こうにある現実は重かった。
《夕方ニュース「NEWS α」》
アナウンサー
「今日も“オメガ隕石”関連の影響が続いています。」
画面には、
通勤電車の乗車率の低下グラフ、
学校の欠席者数が昨日より増えている表、
そして海外の街角が映る。
ニューヨーク——
スーパーの棚の水だけがごっそり消えていた。
ロンドン——
ATM前に長い列。人々の表情はどこか硬い。
アナウンサー
「専門家は“過度な行動は控えるように”と呼びかけていますが、
SNSでは“備蓄すべきだ”という投稿が拡散中。
各国の市民生活にも、静かに不安が広がっています。」
コメンテーター
「“20%”という数字は、
人によって“低い”にも“高い”にも見えるんですよね。
受け取り方の差が、社会の分断を生んでいます。」
スタジオの空気が、わずかに重く沈んだ。
《午後6時/日本・総理官邸 会議室》
官邸の会議室に、いつものメンバーが揃っていた。
だが今日は、どこか沈んだ空気が漂っている。
藤原が資料を読み上げる。
「出勤率、全国平均で一〇%ほど低下。
特に都市部のオフィスワーカーと学生が顕著です。」
防衛大臣・佐伯が腕を組む。
「自衛隊のほうは、逆に志願者が少し増えています。
“最後くらい何かしたい”という若い隊員が多い。」
中園広報官が続ける。
「教団関連の“祈りの集会”参加者も増加。
ただ、暴力やテロの兆候は、今のところ大きくはありません。」
サクラは、資料ではなく顔ぶれを眺めていた。
疲れた目。
乾いた笑い。
それでも、ここに毎日集まってくる人たち。
「……みんな、ちゃんと寝てる?」
突然の言葉に、場の空気が少し緩む。
佐伯が苦笑する。
「総理にだけは言われたくないですね。」
中園も笑った。
「三時間寝たら“寝た”って言いそうですよね、総理。」
サクラは肩をすくめた。
「ひどい言われようね。」
少し笑いが起きてから、彼女は真面目な声に戻す。
「ありがとう。
こんな状況で、毎日ここに来てくれて。」
誰かが小さく息を飲んだのが、サクラにも分かった。
「国民のことを考える前に、
ここにいる人たちのことを、ちゃんと見ないといけないなって。
最近、やっと思いました。」
藤原が目を伏せる。
「……我々の仕事ですから。」
「そうね。でも、仕事だからって、
怖くなくなるわけじゃないでしょ。」
その一言に、部屋の空気が少しだけ柔らかくなった。
「私も怖い。
だから一緒にいてください。
それだけで、だいぶ違うから。」
決め台詞というほど強くない、
けれど素直な言葉だった。
《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》
《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》
巨大なスクリーンに、
“オメガ”の軌道が細い赤線で表示されている。
ESA軌道解析官
「最新の観測データで、わずかにブレが出ている。
太陽方向の反射が不安定だ。」
NASA
「インパクターの—最適衝突タイミング“窓”—が狭まる可能性がある。
計画は前倒しで検討すべきだ。」
JAXA・白鳥レイナ
「日本側でも計算を進めます。
“誤差の幅”が落ち着くまで待つのは危険です。
最低限、“打ち上げ候補日”だけでも共有しませんか?」
ESA
「正式な国際合意はまだだが……
非公開前提で、候補日を送る。」
白鳥は息をついた。
(……科学は迷っている暇はない。
政治より先に動かなきゃ。)
その顔には、 不安と闘志が入り混じっていた。
《夜/都内・マンションの一室》
テレビでは、経済評論家が真面目な顔で話している。
「“オメガ景気”という言葉も出始めています。
旅行・高級品・娯楽の分野は、一時的に需要が増加しています。」
ソファに座る若い夫婦。
テーブルの上には、旅行パンフレットが広がっている。
「ねえ、本当に行く? ハワイ。」
「行きたいよ。
今まで我慢してきたじゃん。お金も貯めたし。」
「でもさ……飛行機乗ってる途中でニュース流れたら、きつくない?」
「家で見てても同じだよ。
向こうの空の色、見てみたい。」
2人はしばらく黙ってパンフレットを眺めていた。
最後に、妻がぽつりと言う。
「帰ってこれるといいね。」
「帰ってきて、“あのとき行ってよかったね”って笑いたいな。」
《深夜/荒川河川敷》
川の音と、遠くの車の音だけが聞こえる。
城ヶ崎悠真は、橋の下に座り込んで空を見上げた。
「……やけに静かだな。」
スマホは電源を切ったまま。
ニュースも、SNSも、何も入ってこない。
「世界中、騒いでるはずなのに。」
彼はポケットからメモ帳を取り出し、 新しいページを開く。
“Day87
確率、23.4%。
数字は小さい。
でも、世界はそれ以上に壊れ始めてる。”
書き終えると、ペンを止めた。
「俺がいなくても、勝手に転がっていくんだな。」
川面に映る夜空は、少し歪んで見えた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
真っ暗な部屋の中で、スマホの画面だけが青く光っていた。
鷹岡サクラは、表示された名前をしばらく見つめてから、通話ボタンを押した。
「……もしもし。起こした?」
『起きてた。どうせ今日もニュースだらけでしょ?』
娘の声は、思ったより元気そうだった。
それだけで少し肩の力が抜ける。
「大学、ちゃんと行ってる? サボって“残りの人生プラン”とか立ててない?」
『うわ、総理モードだ。……行ってるよ。一応ね。
でも、周りは休んでる子も多い。
“どうせ終わるならバイト増やす”とか、“旅行行く”とか。』
「……そうなるわよね。」
一瞬、言葉が途切れる。 官邸の静けさが、逆に耳に痛い。
『ねえ、お母さんこそ大丈夫?
ニュース見てると、ずっと起きてるみたいなんだけど。』
「うん……まあ、寝たりはしてる。ちょっとだけ。」
『ちょっとだけって言う人は、だいたい全然寝てないよ。』
娘の軽いツッコミに、サクラは小さく笑った。
その笑いのあと、ふっと声が低くなる。
「……怖くないわけじゃないよ。
あんたの顔も、これからのことも、考えちゃうし。」
『うん。こっちも怖いよ。でも――』
少し息を吸う音がして、娘が続けた。
『お母さんが仕事サボったほうが、もっと怖い。』
サクラはしばらく黙って、それから短く答えた。
「そう。……じゃあ、もうちょっと頑張る。」
『うん。じゃ、行ってきます。またね。』
通話が切れたあと、サクラはスマホを胸の前で握りしめた。
ほんの少しだけ、目が熱くなる。
「……あんたの“またね”のために、やるか。」
誰もいない部屋で、小さくつぶやいた。
《午前9時/日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》
観測室のモニターに、新しい数字が表示される。
Impact Probability:23.4%
白鳥レイナは、眉をひそめることもなく、その数字を眺めた。
隣の若手研究員が、おそるおそる口を開く。
「……ちょっと、上がりましたね。」
「誤差の範囲。でも、ニュース的には“上がった”になるわね。」
「テレビ、また騒ぎますかね。」
「たぶん。“0.3%上昇”ってテロップが踊るわ。」
白鳥の声は淡々としていたが、指先にはわずかな力がこもっていた。
「主任は……怖くないんですか?」
若手の質問に、白鳥は手を止めた。
少しだけ考えてから、ごく普通の口調で答える。
「怖いよ。
でも、“怖いから仕事休みます”って言ったら、もっと怖いでしょ。」
若手は苦笑してうなずいた。
「それは、たしかに。」
「ほら、軌道のブレ見て。
——今日も、この線が“外れてくれますように”って見てるのよ。」
その言い方が妙に人間らしくて、若手は少しほっとした。
《午前11時/東京・とあるスーパー》
店内は静かだった。
二日前まで水とカップ麺が消えていた棚に、
少しずつ商品が戻り始めている。
「落ち着いてきたねぇ。」
レジのおばちゃんが言う。
客の主婦が答えた。
「買い占めても、結局食べきれないですからね。
それに、毎日“あと◯日”って言われると……慣れちゃう。」
もう一人の客が、カゴを覗き込みながら苦笑する。
「うちは日用品だけです。洗剤とトイレットペーパー。
隕石落ちるまでに、何回洗濯するのかって話ですけど。」
三人とも笑った。
笑いながら、どこかで「本当に笑っていいのか」と自分に問うていた。
《午後0時/ビジネス街のオフィス》
昼休み。
食堂のテレビには、ワイドショーが映っている。
「“退職者急増”企業も。 “残りの時間を自由に生きたい”という声が——」
スーツの男が、ため息をつきながら弁当のフタを開ける。
「なあ、あと87日って聞くと、やる気出る? 仕事。」
同僚が箸を止める。
「出ないけど……辞めてもすることないしな。」
「宝くじ当たったら辞める、みたいなノリ?」
「当たってない宝くじで悩んでる感じだな、それ。」
二人はくだらない冗談を言い合いながら、
テレビのテロップから目を離せなかった。
《午後2時/新聞社社会部》
桐生誠は、原稿のカーソルが点滅する画面を見ていた。
『オメガ確率23.4%。“慣れ”という名の静かな崩壊』
タイトルだけで、もう疲れていた。
編集長がコーヒーを片手に近づく。
「顔が死んでるぞ、桐生。」
「みんな、数字に慣れてきましたね。
昨日も今日も“20%台”。
“どうせすぐには落ちない”って空気があります。」
「それが怖いんだよな。」
編集長は椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見た。
「一気に叫んでる間は、まだ健全なんだ。
静かになり始めたときが、一番危ない。」
「……ですよね。」
桐生はキーボードに手を置く。
「“静かに崩れていく国”を書きたいです。」
「書け。お前はそれ、得意だろ。」
「得意って、あんまり嬉しくないジャンルですけど。」
二人の会話は軽い。
だが、画面の向こうにある現実は重かった。
《夕方ニュース「NEWS α」》
アナウンサー
「今日も“オメガ隕石”関連の影響が続いています。」
画面には、
通勤電車の乗車率の低下グラフ、
学校の欠席者数が昨日より増えている表、
そして海外の街角が映る。
ニューヨーク——
スーパーの棚の水だけがごっそり消えていた。
ロンドン——
ATM前に長い列。人々の表情はどこか硬い。
アナウンサー
「専門家は“過度な行動は控えるように”と呼びかけていますが、
SNSでは“備蓄すべきだ”という投稿が拡散中。
各国の市民生活にも、静かに不安が広がっています。」
コメンテーター
「“20%”という数字は、
人によって“低い”にも“高い”にも見えるんですよね。
受け取り方の差が、社会の分断を生んでいます。」
スタジオの空気が、わずかに重く沈んだ。
《午後6時/日本・総理官邸 会議室》
官邸の会議室に、いつものメンバーが揃っていた。
だが今日は、どこか沈んだ空気が漂っている。
藤原が資料を読み上げる。
「出勤率、全国平均で一〇%ほど低下。
特に都市部のオフィスワーカーと学生が顕著です。」
防衛大臣・佐伯が腕を組む。
「自衛隊のほうは、逆に志願者が少し増えています。
“最後くらい何かしたい”という若い隊員が多い。」
中園広報官が続ける。
「教団関連の“祈りの集会”参加者も増加。
ただ、暴力やテロの兆候は、今のところ大きくはありません。」
サクラは、資料ではなく顔ぶれを眺めていた。
疲れた目。
乾いた笑い。
それでも、ここに毎日集まってくる人たち。
「……みんな、ちゃんと寝てる?」
突然の言葉に、場の空気が少し緩む。
佐伯が苦笑する。
「総理にだけは言われたくないですね。」
中園も笑った。
「三時間寝たら“寝た”って言いそうですよね、総理。」
サクラは肩をすくめた。
「ひどい言われようね。」
少し笑いが起きてから、彼女は真面目な声に戻す。
「ありがとう。
こんな状況で、毎日ここに来てくれて。」
誰かが小さく息を飲んだのが、サクラにも分かった。
「国民のことを考える前に、
ここにいる人たちのことを、ちゃんと見ないといけないなって。
最近、やっと思いました。」
藤原が目を伏せる。
「……我々の仕事ですから。」
「そうね。でも、仕事だからって、
怖くなくなるわけじゃないでしょ。」
その一言に、部屋の空気が少しだけ柔らかくなった。
「私も怖い。
だから一緒にいてください。
それだけで、だいぶ違うから。」
決め台詞というほど強くない、
けれど素直な言葉だった。
《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》
《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》
巨大なスクリーンに、
“オメガ”の軌道が細い赤線で表示されている。
ESA軌道解析官
「最新の観測データで、わずかにブレが出ている。
太陽方向の反射が不安定だ。」
NASA
「インパクターの—最適衝突タイミング“窓”—が狭まる可能性がある。
計画は前倒しで検討すべきだ。」
JAXA・白鳥レイナ
「日本側でも計算を進めます。
“誤差の幅”が落ち着くまで待つのは危険です。
最低限、“打ち上げ候補日”だけでも共有しませんか?」
ESA
「正式な国際合意はまだだが……
非公開前提で、候補日を送る。」
白鳥は息をついた。
(……科学は迷っている暇はない。
政治より先に動かなきゃ。)
その顔には、 不安と闘志が入り混じっていた。
《夜/都内・マンションの一室》
テレビでは、経済評論家が真面目な顔で話している。
「“オメガ景気”という言葉も出始めています。
旅行・高級品・娯楽の分野は、一時的に需要が増加しています。」
ソファに座る若い夫婦。
テーブルの上には、旅行パンフレットが広がっている。
「ねえ、本当に行く? ハワイ。」
「行きたいよ。
今まで我慢してきたじゃん。お金も貯めたし。」
「でもさ……飛行機乗ってる途中でニュース流れたら、きつくない?」
「家で見てても同じだよ。
向こうの空の色、見てみたい。」
2人はしばらく黙ってパンフレットを眺めていた。
最後に、妻がぽつりと言う。
「帰ってこれるといいね。」
「帰ってきて、“あのとき行ってよかったね”って笑いたいな。」
《深夜/荒川河川敷》
川の音と、遠くの車の音だけが聞こえる。
城ヶ崎悠真は、橋の下に座り込んで空を見上げた。
「……やけに静かだな。」
スマホは電源を切ったまま。
ニュースも、SNSも、何も入ってこない。
「世界中、騒いでるはずなのに。」
彼はポケットからメモ帳を取り出し、 新しいページを開く。
“Day87
確率、23.4%。
数字は小さい。
でも、世界はそれ以上に壊れ始めてる。”
書き終えると、ペンを止めた。
「俺がいなくても、勝手に転がっていくんだな。」
川面に映る夜空は、少し歪んで見えた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
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