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第二章 真実と混乱
Day84 広がる亀裂
しおりを挟む《午前7時/アメリカ・シアトル》
スーパーの駐車場が炎に包まれていた。
煙が街を覆い、遠くで銃声が聞こえる。
「“命の残り時間”を理由にした抗議運動が拡大、
現在までに全米で逮捕者は二千人を超えました」
テレビのリポーターがヘルメット姿で叫ぶ。
「市民の半数以上が“会社を辞めた”というデータもあります!
街は実質的に機能停止状態です!」
カメラの向こうで、誰かが叫ぶ。
「どうせあと数十日なんだよ! 好きにさせろ!」
声が、燃える車の音に消えた。
《午前8時/日本・東京都心》
朝の通勤電車。
ニュースアプリの通知音が、車内で連続して響く。
「日本人の48%、“仕事を休む・辞めたい”と回答」
「“終末婚”申込数が2日で300%に増加」
「天城セラの配信、累計視聴者1000万人突破」
立っている人たちの表情は薄く、 疲れと諦めの色が混ざっていた。
その中に、同じ制服を着た女子高校生たち。
「ねえ、今日学校どうする?」
「……行くけどさ。授業中ずっとスマホ見ちゃいそう。」
「だよねー。てか、もう何しても怒られる気がしない。」
笑っているのに、どこか張りつめた声だった。
《午前9時/新聞社社会部》
桐生誠は、記事タイトルを入力しては消し、また入力していた。
『冷静と混乱—声明翌日の街』
『“青い空”の下で揺れる社会』
『三つに割れ始めた日本』
どれもしっくりこなかった。
デスクに肘をつきながら、桐生はつぶやく。
「……何を書けばいいんだろうな。」
編集長が缶コーヒーを置く。
「書け。“割れた社会”を。」
桐生は顔を上げる。
「割れた、ですか。」
「ああ。 “総理を信じる派”、
“政府は隠蔽してる派”、
“天の意思を信じる派”。
街もネットも、完全に三方向に割れ始めてる。」
編集長はスマホの画面を見せた。
【SNS】
・総理支持派:「サクラの言葉で落ち着いた」
・疑う派:「数字を隠してるだろ」
・祈り派:「セラ様の言葉のほうが心にしみる」
「お前は……どれに属してんだ?」
聞かれて桐生は少し考える。
「属したくない派、ですかね。」
編集長は笑った。
「それが一番難しい立場なんだよ。」
桐生は小さくため息をついた。
「……行ってきます。街を見てきます。」
《午前11時/都内・新宿駅前》
桐生は群衆を眺めていた。
・駅の前で“政府を信じろ”と書かれたプラカードを掲げる人々
・その隣で、“真実を隠すな”と怒鳴る別の集団
・さらに離れた場所では、白いローブを着た“祈りの輪”
三つのグループは決して混じらない。
しかし、互いを意識しながら渦を巻いていた。
桐生は取材用ノートを開く。
「……これが、分断か。」
その瞬間、背後で誰かが叫んだ。
「おい!お前、記者だろ!」
振り返ると、怒りに満ちた目の男が桐生をにらんでいた。
「昨日の総理の言葉、
あれ本当か?
本当に隠してないのか?」
桐生は一瞬言葉を失った後、 正直に答える。
「……分からない。
だから、探してる。」
男はしばらく桐生をにらんでいたが、
最後にはふっと笑って去っていった。
「……難しい国になってきたな。」
桐生は自分に向かってつぶやいた。
《IAWN(国際小惑星警報ネットワーク)臨時連絡》
《SMPAG(宇宙ミッション計画アドバイザリーグループ)非公式調整》
ESA技術官
「“ミッションタイムライン”の暫定版を共有する。
まだ非公開だが、
このまま進めば“打ち上げ準備”に最低でも30~40日は必要だ。」
NASA主任
「観測誤差が収まるのを待てば、
その分“衝突ウィンドウ”は狭まる……」
白鳥レイナ
「ならば、誤差を抱えたまま“複数案同時進行”で計画するしかありません。
偏向角度も、衝突速度も、“幅”を持たせる。」
アンナ・ロウエル
「地球側の国際協議がまとまるまでに、
最低限“軌道修正予測のパターン”は全部出すわ。
政治判断を待つ時間はもう残ってない。」
ESA
「了解した。
正式発表前に、技術だけは進めておこう。」
モニターに映る“暫定タイムライン”には、 赤字で
《T–70~T–40:最終観測フェーズ》
《T–40~T–10:打ち上げ準備・姿勢制御試験》
《T–10:インパクター射出》 と書かれていた。
静かだが確実に、 技術者たちの顔つきが変わり始めていた。
《午後4時/荒川河川敷》
城ヶ崎悠真は、河川敷の草の上に座り込み、
スマホを手にしたまま動けずにいた。
(昨日の総理のメッセージが、
予想以上に国民に響いている……)
SNSでは、公式発表を支持する投稿が増えていた。 その一方で、
「最初にデマを流したのは誰だ」
「匿名のあいつが混乱の元凶だ」
という“犯人探し”も加速している。
(俺が生んだ炎が……勝手に形を変えて燃え広がってる。)
画面に新しい通知が表示される。
【記者・桐生誠】
「“情報隠蔽”の確証なし。 追跡調査中。」
(……こいつか。)
城ヶ崎は桐生の過去記事を何本か読み返した。
飾らない文章。 結論を決めつけず、ただ事実を集めていく。
(珍しいタイプの記者だな。)
ふと、城ヶ崎の指が動く。
“連絡を取る”
“取らない”
しばらく迷ったあと、 彼は画面を消した。
「……まだだ。
まだ、このデータを渡す相手じゃない。」
風が吹き、ページがめくれたメモ帳に、
“Day84:社会の分裂が加速”と書かれていた。
《午後7時/総理官邸・会議室》
中園広報官がタブレットを持って入室する。
「総理、反応が出そろいました。
昨日の声明“支持 62%”。
ただ、残りの38%の中には、
“政府は隠している”“祈りに従うべき”などの声が強く……。」
サクラは静かに聞いていた。
「分かってたことよ。
100%をまとめるなんて無理だもの。」
佐伯防衛大臣が口を開く。
「問題は、“分裂がどこまで広がるか”です。
海外みたいに暴動が起きても不思議じゃない。」
藤原危機管理監が淡々と言う。
「国内の分断を甘く見るべきではありません。
昨日より今日のほうが、人々の信じる道が別れている。」
サクラは短く答える。
「分裂は止められない。
でも……壊れないように守ることはできる。」
誰かが静かに息を飲む音がした。
《午後11時/東京都内・路地裏》
白いローブをまとった集団がろうそくを持ち、祈っていた。
天城セラの音声がスマホから流れている。
「恐れる必要はありません。 終わりは“再生”の始まりです。」
若者たちが涙を流してうなずく。
《深夜2時/総理官邸 屋上》
サクラは一人、静かな空を見上げていた。
「……今日も、青かったな。」
遠くで雷が小さく鳴る。
その音は、空のどこかで何かが軋んだようにも聞こえた。
「みんな、どうか……壊れないで。」
小さく呟いた声は、夜風に溶けていった。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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