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第四章 恐怖と祈り
Day29 見えないハンドルを切る前に
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《NASA/PDCOオペレーションルーム》
深夜のはずなのに、
部屋の空気は妙に冴えていた。
巨大スクリーンには、
いつものように数字が並んでいる。
〈TSUKUYOMI:地球からの距離 18万km〉
〈対Fragment B 相対速度:数km/s〉
〈予定迎撃日:Day26〉
〈TCM-1(第一軌道修正):Day27 実施予定〉
スタッフが、
静かな声で報告する。
「ツクヨミ、クルーズフェーズ順調です。」
「スラスタ系統も異常なし。
Day27 のTCM-1に向けた事前チェック、
今のところ“問題なし”です。」
アンナ・ロウエルは、
腕を組んだまま軌道図を見上げていた。
地球の周りを回る細い線と、
その先を走る Fragment B の軌道。
二つの線は、
Day26 のあたりで
小さな“×”として交差している。
「明後日、
ここで“ハンドルを切る”わけね。」
隣の解析担当が頷く。
「はい。
TCM-1でツクヨミに
数cm/sレベルのΔVを与えて、」
「Fragment B に対して
“正面衝突コース”へ
軌道を微調整します。」
「数cm/s?」
新人スタッフが
思わず口を挟む。
「たったそれだけで
何か変わるんですか?」
アンナは、
少しだけ笑った。
「“たったそれだけ”だからこそ、
今この距離でやるのよ。」
「遠くにいるうちに
ほんの少しハンドルを切れば、」
「何十万km先では
“何百kmの差”になる。」
「逆に、
近づいてから同じことをしようとしても
もう手遅れなの。」
新人は
納得したような、
まだ怖いような顔をする。
「……つまり、
明後日のTCM-1で
私たちは“オメガ120m破片Bのど真ん中”を
狙いにいくってことですね。」
「そのつもりでやるわ。」
アンナは
視線をスクリーンから離さない。
(この“数cm/s”に、
日本や東アジア、
もしかしたら地球の別のどこかの
空模様が乗っている。)
「IAWNとSMPAG向けの文書、
更新しておきましょう。」
「“Day27のTCM-1が
Fragment B の最終コリドーにも
大きく影響する”って、
はっきり書いて。」
スタッフが
真剣な表情で頷いた。
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンス管制室》
壁の時計は昼を指しているのに、
部屋の空気は
夜みたいに張り詰めていた。
ホワイトボードには
太いマーカーで書かれた文字。
『Day27:TCM-1(第一軌道修正)
Day26:Fragment B 迎撃予定』
白鳥レイナが、
スタッフたちを見渡す。
「――大事なことなので、
もう一回だけ整理するわね。」
「明後日のTCM-1は、
“ツクヨミが本当に120メートルの石に
体当たりしに行くのかどうか”を
決めるハンドルです。」
若手がごくりと喉を鳴らす。
「逆に言えば、
ここで“ハンドルを切り損ねたら”、」
「Day26 に
Fragment B のすぐそばを
素通りしてしまう可能性だってある。」
レイナは、
ホワイトボードに
簡単な図を描いた。
『いまのコース:▲(すぐ横をかすめる矢印)』
『TCM-1後の理想コース:●(真ん中に突っ込む矢印)』
「もちろん、
実際の軌道はもっと複雑だけど、
イメージとしてはこんな感じ。」
「今は“まあまあ近いところ”へ
向かっているだけ。」
「TCM-1で初めて、
“本当に当てに行く”。」
別の技術者が補足する。
「スラスタの噴射時間は
数十秒レベル。」
「ΔV は数cm/sですが、
Fragment B までの距離を考えると
“当たる/当たらない”を分ける
大きな差になります。」
「だからこそ、
噴射開始のタイミングと
終了のタイミング、」
「それから姿勢制御が
めちゃくちゃ重要です。」
一番後ろで聞いていた若手が、
ぽつりと言った。
「……怖いです。」
「“ミスったら日本に落ちる”って
思ってしまって。」
レイナは、
即座に首を振った。
「それはちょっと違う。」
「“ミスったら日本に落ちる”んじゃなくて、
“何もしなかったら
どこかに確実に落ちるかもしれない”の。」
「私たちがやろうとしているのは、
その“確実に近い最悪”を
少しでも崩す作業。」
「だから、
あなたが怖がるのは正しいけど、」
「“自分のせいで日本が終わる”とまでは
背負わなくていい。」
彼女は
自分の胸を指さした。
「そこは、
政治や国際枠組みの
“SMPAGの仕事”でもある。」
「私たちは、
あくまで“ベストの矢”を
宇宙に送り込む担当。」
「それ以上でも、
それ以下でもない。」
若手は、
少しだけホッとしたような顔で
「はい」と答えた。
《総理官邸・執務室》
机の上には、
新しく届いたIAWNの資料が積まれていた。
藤原危機管理監が
その一枚を指で押さえる。
「Fragment B の予測コリドー、
さらに東アジア寄りに絞られています。」
「“東アジアのどこか”という表現は
維持していますが――」
鷹岡サクラが
続きを引き取った。
「内輪向けの資料では、
“日本列島を含む帯が
かなり濃い”と。」
「はい。」
藤原は、
一切感情を混ぜずに言う。
「まだ“日本に落ちる”と
断定できる段階ではありません。」
「ただ、
少なくとも“完全な他人事”ではない、
というところまでは来ています。」
中園広報官が
タブレットを見せた。
「SNSでは早くも
“落下予測地点マップ”みたいな画像が
出回っています。」
「どれも出どころ不明、
数字も適当ですが、」
「“関東が一番危ない”という
印象を与えるものが多いです。」
サクラは
目を閉じた。
(まだ“確定”じゃないのに、
人の心だけが確定に向かって
走り出している。)
(ツクヨミのTCM-1が、
この“思い込み”を
どう揺らすか。)
机の端に置いていたスマホが、
小さく震えた。
画面には、
娘からのメッセージ。
『ママ、今日はニュース出ない?
クラスの子たち、
落下地点の話ばっかりしてる。
本当のところ、どれくらいヤバいか
正直に教えてほしい。』
サクラは、
指先で画面をなぞり――
すぐには返信しなかった。
(“正直に”と言われても、
私もまだ“正直な数字”を持っていない。)
(だからこそ、
ツクヨミを飛ばしているんだって
うまく伝えられるだろうか。)
「……中園さん。」
「はい。」
「今日は大きな会見は開きません。」
「代わりに、
“今どこツクヨミ”と
“Fragment Bの最新情報”を、」
「政府版として
できるだけ丁寧に出してください。」
中園が頷く。
「“煽らないけど、
誤魔化さない”説明ですね。」
「ええ。」
サクラは
スマホを手に取り、
ようやく短い返信を打ち始めた。
『ちゃんと怖い。でも、
怖いからこそ動いているところ。
今度ちゃんと話すね。』
(まずは、
私が“親としての言葉”を
持っていないと。)
(そのうえで、
“総理としての言葉”を
世界に出さなきゃいけない。)
《関東地方・とあるホームセンター》
店内の「防災コーナー」は、
相変わらず人でいっぱいだった。
飲料水、非常食、
簡易トイレ、発電機。
その隣に、
新しくこんなポップが貼られている。
『オメガ対策? “日常+1”の備えを』
店員が、
棚を整理しながら
客の会話を耳にする。
「関東に落ちるって
ほんとなんですかね。」
「またそういうデマに
惑わされて……。」
「でもニュースで、
“東アジアのリスク帯が”って。」
「だからって、
この店ごと
吹っ飛ぶとは限らないだろ。」
(“吹っ飛ぶとは限らない”。
便利な言葉だな。)
店員は心の中でつぶやいた。
(でも、
“吹っ飛ばない”とも
誰も言ってくれない。)
レジ前のテレビでは、
ワイドショーが
ツクヨミのCGを映していた。
『第二の矢ツクヨミ、
現在地は地球から○万km。』
『明後日、
進路を微修正する“軌道修正(TCM-1)”へ。』
コメンテーターが
分かったような顔で言う。
「この軌道修正で、
“どこの空を守るか”が
決まるとも言われています。」
(そんな簡単な話じゃないだろうけど、)
(そう言った方が、
視聴者には刺さるんだろうな。)
店員は
防災グッズの棚を見つめながら、
自分用に買うべきものを
頭の中でリストアップし始めた。
《黎明教団・地方支部》
薄暗い部屋の壁に、
プロジェクターで地球の映像が映っている。
その周りを
赤いマーカーで
ぐるりと丸が描かれていた。
「ここが、
“彼らの言うリスク帯”です。」
支部長の男が
笑う。
「つまり、
このあたりの人間は
“どちらに転んでも
運命の中心にいる”わけだ。」
信者のひとりが
手を挙げる。
「ツクヨミが成功したら、
私たちの希望は
消えてしまうんでしょうか。」
支部長は首を振る。
「オメガは一度割れた。」
「“神の光”は
もう動き出している。」
「たとえ
ツクヨミが少し押し返しても、」
「この世界が“終わりかけている”事実は
変わらない。」
別の信者が、
スマホの画面を見せる。
「種子島での行動、
ニュースで“過激派”って
言われてました。」
「セラ様は
なんておっしゃってますか。」
支部長は
プロジェクターの光を受けながら
答えた。
「セラ様は、
“暴力は望まない”と
はっきりおっしゃっている。」
「だが同時に、
“それぞれの魂が
自分の向きを選べ”とも。」
部屋の空気が、
じわりと熱を帯びる。
「ツクヨミのTCM-1は
Day27。」
「“神の光に矢を近づける日”だ。」
「その日に向けて、
私たちはそれぞれの場所で
“声”を上げる準備をしよう。」
(その“声”が
どんな形を取るのか――)
(それを制御できる人間は、
もはやどこにもいなかった。)
Day29。
オメガ予測落下日まで29日。
宇宙では、
第二の矢ツクヨミが
120メートルの Fragment B に向けて
静かに飛び続け、
明後日の軌道修正(TCM-1)で
“本当に当てに行く”ための
最後の準備を整えつつあった。
地上では、
予測コリドーが東アジア寄りに絞られ、
“自分ごと”として震える人々と、
世界のリセットを願う黎明教団の信者たち。
見えないハンドルを切る前の
わずかな静けさの中で、
誰もがそれぞれの場所で
「自分の祈りの向き」を
決め始めていた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
深夜のはずなのに、
部屋の空気は妙に冴えていた。
巨大スクリーンには、
いつものように数字が並んでいる。
〈TSUKUYOMI:地球からの距離 18万km〉
〈対Fragment B 相対速度:数km/s〉
〈予定迎撃日:Day26〉
〈TCM-1(第一軌道修正):Day27 実施予定〉
スタッフが、
静かな声で報告する。
「ツクヨミ、クルーズフェーズ順調です。」
「スラスタ系統も異常なし。
Day27 のTCM-1に向けた事前チェック、
今のところ“問題なし”です。」
アンナ・ロウエルは、
腕を組んだまま軌道図を見上げていた。
地球の周りを回る細い線と、
その先を走る Fragment B の軌道。
二つの線は、
Day26 のあたりで
小さな“×”として交差している。
「明後日、
ここで“ハンドルを切る”わけね。」
隣の解析担当が頷く。
「はい。
TCM-1でツクヨミに
数cm/sレベルのΔVを与えて、」
「Fragment B に対して
“正面衝突コース”へ
軌道を微調整します。」
「数cm/s?」
新人スタッフが
思わず口を挟む。
「たったそれだけで
何か変わるんですか?」
アンナは、
少しだけ笑った。
「“たったそれだけ”だからこそ、
今この距離でやるのよ。」
「遠くにいるうちに
ほんの少しハンドルを切れば、」
「何十万km先では
“何百kmの差”になる。」
「逆に、
近づいてから同じことをしようとしても
もう手遅れなの。」
新人は
納得したような、
まだ怖いような顔をする。
「……つまり、
明後日のTCM-1で
私たちは“オメガ120m破片Bのど真ん中”を
狙いにいくってことですね。」
「そのつもりでやるわ。」
アンナは
視線をスクリーンから離さない。
(この“数cm/s”に、
日本や東アジア、
もしかしたら地球の別のどこかの
空模様が乗っている。)
「IAWNとSMPAG向けの文書、
更新しておきましょう。」
「“Day27のTCM-1が
Fragment B の最終コリドーにも
大きく影響する”って、
はっきり書いて。」
スタッフが
真剣な表情で頷いた。
《JAXA/ISAS 相模原キャンパス/プラネタリーディフェンス管制室》
壁の時計は昼を指しているのに、
部屋の空気は
夜みたいに張り詰めていた。
ホワイトボードには
太いマーカーで書かれた文字。
『Day27:TCM-1(第一軌道修正)
Day26:Fragment B 迎撃予定』
白鳥レイナが、
スタッフたちを見渡す。
「――大事なことなので、
もう一回だけ整理するわね。」
「明後日のTCM-1は、
“ツクヨミが本当に120メートルの石に
体当たりしに行くのかどうか”を
決めるハンドルです。」
若手がごくりと喉を鳴らす。
「逆に言えば、
ここで“ハンドルを切り損ねたら”、」
「Day26 に
Fragment B のすぐそばを
素通りしてしまう可能性だってある。」
レイナは、
ホワイトボードに
簡単な図を描いた。
『いまのコース:▲(すぐ横をかすめる矢印)』
『TCM-1後の理想コース:●(真ん中に突っ込む矢印)』
「もちろん、
実際の軌道はもっと複雑だけど、
イメージとしてはこんな感じ。」
「今は“まあまあ近いところ”へ
向かっているだけ。」
「TCM-1で初めて、
“本当に当てに行く”。」
別の技術者が補足する。
「スラスタの噴射時間は
数十秒レベル。」
「ΔV は数cm/sですが、
Fragment B までの距離を考えると
“当たる/当たらない”を分ける
大きな差になります。」
「だからこそ、
噴射開始のタイミングと
終了のタイミング、」
「それから姿勢制御が
めちゃくちゃ重要です。」
一番後ろで聞いていた若手が、
ぽつりと言った。
「……怖いです。」
「“ミスったら日本に落ちる”って
思ってしまって。」
レイナは、
即座に首を振った。
「それはちょっと違う。」
「“ミスったら日本に落ちる”んじゃなくて、
“何もしなかったら
どこかに確実に落ちるかもしれない”の。」
「私たちがやろうとしているのは、
その“確実に近い最悪”を
少しでも崩す作業。」
「だから、
あなたが怖がるのは正しいけど、」
「“自分のせいで日本が終わる”とまでは
背負わなくていい。」
彼女は
自分の胸を指さした。
「そこは、
政治や国際枠組みの
“SMPAGの仕事”でもある。」
「私たちは、
あくまで“ベストの矢”を
宇宙に送り込む担当。」
「それ以上でも、
それ以下でもない。」
若手は、
少しだけホッとしたような顔で
「はい」と答えた。
《総理官邸・執務室》
机の上には、
新しく届いたIAWNの資料が積まれていた。
藤原危機管理監が
その一枚を指で押さえる。
「Fragment B の予測コリドー、
さらに東アジア寄りに絞られています。」
「“東アジアのどこか”という表現は
維持していますが――」
鷹岡サクラが
続きを引き取った。
「内輪向けの資料では、
“日本列島を含む帯が
かなり濃い”と。」
「はい。」
藤原は、
一切感情を混ぜずに言う。
「まだ“日本に落ちる”と
断定できる段階ではありません。」
「ただ、
少なくとも“完全な他人事”ではない、
というところまでは来ています。」
中園広報官が
タブレットを見せた。
「SNSでは早くも
“落下予測地点マップ”みたいな画像が
出回っています。」
「どれも出どころ不明、
数字も適当ですが、」
「“関東が一番危ない”という
印象を与えるものが多いです。」
サクラは
目を閉じた。
(まだ“確定”じゃないのに、
人の心だけが確定に向かって
走り出している。)
(ツクヨミのTCM-1が、
この“思い込み”を
どう揺らすか。)
机の端に置いていたスマホが、
小さく震えた。
画面には、
娘からのメッセージ。
『ママ、今日はニュース出ない?
クラスの子たち、
落下地点の話ばっかりしてる。
本当のところ、どれくらいヤバいか
正直に教えてほしい。』
サクラは、
指先で画面をなぞり――
すぐには返信しなかった。
(“正直に”と言われても、
私もまだ“正直な数字”を持っていない。)
(だからこそ、
ツクヨミを飛ばしているんだって
うまく伝えられるだろうか。)
「……中園さん。」
「はい。」
「今日は大きな会見は開きません。」
「代わりに、
“今どこツクヨミ”と
“Fragment Bの最新情報”を、」
「政府版として
できるだけ丁寧に出してください。」
中園が頷く。
「“煽らないけど、
誤魔化さない”説明ですね。」
「ええ。」
サクラは
スマホを手に取り、
ようやく短い返信を打ち始めた。
『ちゃんと怖い。でも、
怖いからこそ動いているところ。
今度ちゃんと話すね。』
(まずは、
私が“親としての言葉”を
持っていないと。)
(そのうえで、
“総理としての言葉”を
世界に出さなきゃいけない。)
《関東地方・とあるホームセンター》
店内の「防災コーナー」は、
相変わらず人でいっぱいだった。
飲料水、非常食、
簡易トイレ、発電機。
その隣に、
新しくこんなポップが貼られている。
『オメガ対策? “日常+1”の備えを』
店員が、
棚を整理しながら
客の会話を耳にする。
「関東に落ちるって
ほんとなんですかね。」
「またそういうデマに
惑わされて……。」
「でもニュースで、
“東アジアのリスク帯が”って。」
「だからって、
この店ごと
吹っ飛ぶとは限らないだろ。」
(“吹っ飛ぶとは限らない”。
便利な言葉だな。)
店員は心の中でつぶやいた。
(でも、
“吹っ飛ばない”とも
誰も言ってくれない。)
レジ前のテレビでは、
ワイドショーが
ツクヨミのCGを映していた。
『第二の矢ツクヨミ、
現在地は地球から○万km。』
『明後日、
進路を微修正する“軌道修正(TCM-1)”へ。』
コメンテーターが
分かったような顔で言う。
「この軌道修正で、
“どこの空を守るか”が
決まるとも言われています。」
(そんな簡単な話じゃないだろうけど、)
(そう言った方が、
視聴者には刺さるんだろうな。)
店員は
防災グッズの棚を見つめながら、
自分用に買うべきものを
頭の中でリストアップし始めた。
《黎明教団・地方支部》
薄暗い部屋の壁に、
プロジェクターで地球の映像が映っている。
その周りを
赤いマーカーで
ぐるりと丸が描かれていた。
「ここが、
“彼らの言うリスク帯”です。」
支部長の男が
笑う。
「つまり、
このあたりの人間は
“どちらに転んでも
運命の中心にいる”わけだ。」
信者のひとりが
手を挙げる。
「ツクヨミが成功したら、
私たちの希望は
消えてしまうんでしょうか。」
支部長は首を振る。
「オメガは一度割れた。」
「“神の光”は
もう動き出している。」
「たとえ
ツクヨミが少し押し返しても、」
「この世界が“終わりかけている”事実は
変わらない。」
別の信者が、
スマホの画面を見せる。
「種子島での行動、
ニュースで“過激派”って
言われてました。」
「セラ様は
なんておっしゃってますか。」
支部長は
プロジェクターの光を受けながら
答えた。
「セラ様は、
“暴力は望まない”と
はっきりおっしゃっている。」
「だが同時に、
“それぞれの魂が
自分の向きを選べ”とも。」
部屋の空気が、
じわりと熱を帯びる。
「ツクヨミのTCM-1は
Day27。」
「“神の光に矢を近づける日”だ。」
「その日に向けて、
私たちはそれぞれの場所で
“声”を上げる準備をしよう。」
(その“声”が
どんな形を取るのか――)
(それを制御できる人間は、
もはやどこにもいなかった。)
Day29。
オメガ予測落下日まで29日。
宇宙では、
第二の矢ツクヨミが
120メートルの Fragment B に向けて
静かに飛び続け、
明後日の軌道修正(TCM-1)で
“本当に当てに行く”ための
最後の準備を整えつつあった。
地上では、
予測コリドーが東アジア寄りに絞られ、
“自分ごと”として震える人々と、
世界のリセットを願う黎明教団の信者たち。
見えないハンドルを切る前の
わずかな静けさの中で、
誰もがそれぞれの場所で
「自分の祈りの向き」を
決め始めていた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
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