妄想魔法~科学を添えて~

るいす

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第6話 商業都市へ①

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 馬車に乗り込んでからすでに1時間が経過していた。静寂に包まれた車内には、かすかな揺れが伝わるだけで、他の乗客はまだ一人も現れていなかった。広々とした空間の中で、勇次、高橋、中村の三人は座り込んでおり、それぞれの思考が漂っていた。彼らはこれから向かう商業都市での計画について話し合っていたが、話題が尽きると次第に沈黙が広がり、緊張感がその場を支配し始めた。

 車窓の外には街並みが続いており、果てしなく広がる空が青く輝いていた。しかし、その美しい景色も、1か月という長い旅路を前にした彼らの心を完全に和らげることはできなかった。旅の途中で何が待ち受けているのか、想像するだけで不安が募るのも無理はない。

「1か月もかかるとなると、途中で何が起こるかわからないね……」中村が小さく呟いた。その声には不安と心配が色濃く滲んでいた。

 勇次は彼女の言葉に静かに頷き、彼らに向けて穏やかな笑みを浮かべた。「心配するな。この馬車はしっかりと護衛されている。もし何か起こったとしても、俺たちで対処できる。君たちは自分の力を信じるんだ」

 その言葉に、高橋と中村はわずかに安堵の表情を浮かべたものの、心の奥底にはまだ何かしらの不安が残っているようだった。彼らの目は外の景色に向けられていたが、その瞳は遠くを見つめているようで、心ここにあらずといった感じだった。

 そんな時、彼らの耳に外から楽しげな話し声が微かに届いてきた。馬車の前方で、何やら談笑している人々の声が風に乗って響いてくる。それは、明るく、陽気で、長旅の不安を忘れさせるような和やかな雰囲気を持っていた。勇次たちはその声に興味を引かれ、少し体を乗り出して外の様子を窺った。

 前方には、武装した四人の冒険者たちが御者と談笑している姿が見えた。彼らはそれぞれ頑丈な革鎧を身に纏い、各々が個性的な武器を携えていた。特に一人の大柄な男は、背中に巨大な大剣を背負っており、まるで物語に登場する勇者のような風格を漂わせていた。他の三人もまた、それぞれの武器を自信を持って扱っている様子が見て取れた。

 彼らが何を話しているのか、はっきりと聞き取ることはできなかったが、その笑い声からは、旅の厳しさを忘れさせるような陽気な空気が感じられた。勇次たちはその声に少し安心感を覚え、次第に心の中の不安も和らいでいくようだった。

 やがて、その四人は談笑を終え、勇次たちの方に歩み寄ってきた。先頭を歩く大柄な男が親しげな笑みを浮かべ、声をかけてきた。「よう、新しい乗客か?俺たちはこの馬車を護衛してる冒険者だ。商業都市までは長い旅になるが、俺たちが一緒だから安心してくれ」

 その言葉に、勇次は感謝の意を表しつつ、彼らに敬意を払って自己紹介をした。「こちらは私たちの先生、勇次です。私は高橋、そして彼女は中村。よろしくお願いします」

「おお、先生と生徒?面白い組み合わせだな」と大剣を背負った男は興味深そうに頷き、「俺はガイ、こっちは仲間のリーン、アッシュ、そしてリタだ。よろしくな」

 ガイの仲間たちもそれぞれ笑顔を浮かべて挨拶を返した。リーンは落ち着いた表情で軽やかに頷き、アッシュは自信に満ちた笑みを見せた。そして、リタは柔らかな微笑みを浮かべて、優しげな声で「よろしくお願いします」と応じた。彼らの態度は非常にフレンドリーで、長旅の相棒としてはこれ以上ないほど心強い存在に思えた。

「商業都市までの道のりは厳しいが、俺たちがいれば安全だ」とアッシュが自信満々に言った。「俺たちはこの道のプロだ。どんな盗賊でも、魔物でも、全部片付けてやるよ」

 その言葉に、勇次は軽く微笑みながら、「それにしても、あんたたちは冒険者というよりは学者か何かか?」と、疑問を口にしたリーンに答えた。「まあ、そういう感じかもしれないな。でも、いざという時には、我々も戦う覚悟はできている」

 その言葉に、ガイたちは満足そうにうなずき、彼らの間に少しずつ絆が生まれ始めたのを感じた。これからの旅が厳しいものであることは間違いないが、彼らと共に過ごす時間が楽しいものになることを、勇次は確信していた。

「さて、そろそろ行こうか」とガイが言い、再び馬車の前方へと戻っていった。御者とともに馬車の準備を整え、いよいよ長旅が本格的に始まろうとしていた。

 馬車は再び動き始め、広大な草原を抜けていく。緑豊かな大地が果てしなく広がり、彼方に見える山脈や、遠くに広がる森林が次々と姿を変えていった。馬車の中では、勇次たちもまた、それぞれの思いを抱えながら、次の目的地である商業都市へと心を馳せていた。

 外の景色をぼんやりと眺めながら、高橋がぽつりと呟いた。「先生、商業都市に着いたら、まずは何をするんですか?」

「まずは情報収集だ」と勇次は即答した。「街の情勢を確認して、次の冒険に必要な物資を揃える。それから、もし他に価値のある情報が手に入れば、それも活用する。商業都市には、きっと今後に役立つものがたくさんあるだろう」

 中村もその言葉に続いて質問した。「それじゃあ、あのダイヤモンドもどうするんですか?また誰かに売るんですか?」

「まだ決めてはいないが、慎重に扱うつもりだ」と勇次は答えた。「貴重なものだからこそ、その価値を理解してくれる人間に渡すべきだと思っている。次の街では、まず信頼できる宝石商を見つけるところから始めるつもりだ」

 高橋はその言葉に感謝の表情を浮かべ、「そうですね。あの時は良い取引ができましたが、次も同じようにうまくいくとは限りませんから」と静かに頷いた。

 馬車はさらに先へと進み、旅の終わりが少しずつ近づいてくる。彼方に見える山々が次第に近づいてくる中、勇次たちは互いに情報を交換し合いながら、これからの計画を練り続けた。
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