46 / 50
第三幕:継ぐ者として生きる
第46話:風のあとで、はじまったもの
しおりを挟む
夜、ふと思い立ってSNSを開いた。
特に誰かと連絡を取るわけでも、告知をするわけでもなく、ただ流れるタイムラインを眺める。
そのなかで、見覚えのある言葉が目に入った。
「#風のあとで_サークルはじめました」
あかりは、思わず指を止めた。
その投稿には、小さな画像が添えられていた。
テーブルの上に並べられた数冊のノート。
それぞれの表紙には、手書きでタイトルらしき言葉が記されている。
「夕方、コーヒーの香り」
「透明なバス停」
「駅と、彼女の声」
どれも物語というより、日記のような、けれど明らかに“書かれた”タイトルだった。
投稿文の中には、こんな一節があった。
「《風のあとで》を読んで、“私にも何かを書ける気がした”。
そう思った人たちと、週一で集まって、小さな文章を書いています。
ルールは、“日常の一節に名前をつけること”。
誰でも参加OK。創作未経験、歓迎。」
あかりは、しばらく画面を見つめていた。
指先がタップするのをためらっている。
いいねも、リポストも、コメントも、何も押せなかった。
けれど――胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
(届いてたんだ)
あの物語が、誰かの手に。
誰かの心に。
自分の文章がきっかけで、“誰かの最初の一歩”が生まれていた。
それは、あかりが創作を始めたときには想像もできなかったことだった。
あかり自身、《風のあとで》という物語のきっかけを、秋葉の未完の文章に見出した。
あのとき、たったひとつの断片が、自分の世界を変えた。
もしかしたら今、誰かにとって自分の物語が――
あるいは、たったひとつの台詞や、描写の一節が――
新しい“誰かの物語”を始めさせているのかもしれない。
それは、大げさな感動ではなかった。
ただ、胸の奥にそっと置かれた小さな灯火のような、静かな感情だった。
(創作は、継がれていく)
自分が書き終えたと思った物語の、その先があった。
作者がいなくなったあとでも、言葉だけが残り、誰かの中で動き出す。
それが、物語というものの本質なのかもしれない。
あかりは画面を閉じた。
感謝の言葉も、祝福の言葉も、いまは言葉にしなかった。
それはもう、自分が関わるべき世界ではない。
いまは、誰かのものとして、確かに歩き始めている。
ただ一つ、胸の中でそっとつぶやく。
「ありがとう」
それだけ。
物語は、いつか自分の手を離れる。
でも、それは終わりではなく、始まりのかたちを変えただけなのだと、あかりは知った。
夜の風が、静かにカーテンを揺らしていた。
――その風のあとで、きっとまた誰かが、物語を綴りはじめる。
特に誰かと連絡を取るわけでも、告知をするわけでもなく、ただ流れるタイムラインを眺める。
そのなかで、見覚えのある言葉が目に入った。
「#風のあとで_サークルはじめました」
あかりは、思わず指を止めた。
その投稿には、小さな画像が添えられていた。
テーブルの上に並べられた数冊のノート。
それぞれの表紙には、手書きでタイトルらしき言葉が記されている。
「夕方、コーヒーの香り」
「透明なバス停」
「駅と、彼女の声」
どれも物語というより、日記のような、けれど明らかに“書かれた”タイトルだった。
投稿文の中には、こんな一節があった。
「《風のあとで》を読んで、“私にも何かを書ける気がした”。
そう思った人たちと、週一で集まって、小さな文章を書いています。
ルールは、“日常の一節に名前をつけること”。
誰でも参加OK。創作未経験、歓迎。」
あかりは、しばらく画面を見つめていた。
指先がタップするのをためらっている。
いいねも、リポストも、コメントも、何も押せなかった。
けれど――胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
(届いてたんだ)
あの物語が、誰かの手に。
誰かの心に。
自分の文章がきっかけで、“誰かの最初の一歩”が生まれていた。
それは、あかりが創作を始めたときには想像もできなかったことだった。
あかり自身、《風のあとで》という物語のきっかけを、秋葉の未完の文章に見出した。
あのとき、たったひとつの断片が、自分の世界を変えた。
もしかしたら今、誰かにとって自分の物語が――
あるいは、たったひとつの台詞や、描写の一節が――
新しい“誰かの物語”を始めさせているのかもしれない。
それは、大げさな感動ではなかった。
ただ、胸の奥にそっと置かれた小さな灯火のような、静かな感情だった。
(創作は、継がれていく)
自分が書き終えたと思った物語の、その先があった。
作者がいなくなったあとでも、言葉だけが残り、誰かの中で動き出す。
それが、物語というものの本質なのかもしれない。
あかりは画面を閉じた。
感謝の言葉も、祝福の言葉も、いまは言葉にしなかった。
それはもう、自分が関わるべき世界ではない。
いまは、誰かのものとして、確かに歩き始めている。
ただ一つ、胸の中でそっとつぶやく。
「ありがとう」
それだけ。
物語は、いつか自分の手を離れる。
でも、それは終わりではなく、始まりのかたちを変えただけなのだと、あかりは知った。
夜の風が、静かにカーテンを揺らしていた。
――その風のあとで、きっとまた誰かが、物語を綴りはじめる。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる