AIが書いたその物語は、かつて誰かの人生だった

るいす

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第三幕:継ぐ者として生きる

第46話:風のあとで、はじまったもの

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 夜、ふと思い立ってSNSを開いた。
 特に誰かと連絡を取るわけでも、告知をするわけでもなく、ただ流れるタイムラインを眺める。
 そのなかで、見覚えのある言葉が目に入った。

「#風のあとで_サークルはじめました」

 あかりは、思わず指を止めた。

 その投稿には、小さな画像が添えられていた。
 テーブルの上に並べられた数冊のノート。
 それぞれの表紙には、手書きでタイトルらしき言葉が記されている。

 「夕方、コーヒーの香り」
 「透明なバス停」
 「駅と、彼女の声」

 どれも物語というより、日記のような、けれど明らかに“書かれた”タイトルだった。

 投稿文の中には、こんな一節があった。

「《風のあとで》を読んで、“私にも何かを書ける気がした”。
そう思った人たちと、週一で集まって、小さな文章を書いています。
ルールは、“日常の一節に名前をつけること”。
誰でも参加OK。創作未経験、歓迎。」

 あかりは、しばらく画面を見つめていた。
 指先がタップするのをためらっている。
 いいねも、リポストも、コメントも、何も押せなかった。

 けれど――胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

 (届いてたんだ)

 あの物語が、誰かの手に。
 誰かの心に。

 自分の文章がきっかけで、“誰かの最初の一歩”が生まれていた。
 それは、あかりが創作を始めたときには想像もできなかったことだった。

 あかり自身、《風のあとで》という物語のきっかけを、秋葉の未完の文章に見出した。
 あのとき、たったひとつの断片が、自分の世界を変えた。

 もしかしたら今、誰かにとって自分の物語が――
 あるいは、たったひとつの台詞や、描写の一節が――
 新しい“誰かの物語”を始めさせているのかもしれない。

 それは、大げさな感動ではなかった。
 ただ、胸の奥にそっと置かれた小さな灯火のような、静かな感情だった。

 (創作は、継がれていく)

 自分が書き終えたと思った物語の、その先があった。
 作者がいなくなったあとでも、言葉だけが残り、誰かの中で動き出す。
 それが、物語というものの本質なのかもしれない。

 あかりは画面を閉じた。
 感謝の言葉も、祝福の言葉も、いまは言葉にしなかった。

 それはもう、自分が関わるべき世界ではない。
 いまは、誰かのものとして、確かに歩き始めている。

 ただ一つ、胸の中でそっとつぶやく。

 「ありがとう」

 それだけ。

 物語は、いつか自分の手を離れる。
 でも、それは終わりではなく、始まりのかたちを変えただけなのだと、あかりは知った。

 夜の風が、静かにカーテンを揺らしていた。

 ――その風のあとで、きっとまた誰かが、物語を綴りはじめる。
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