君がいない夏

るいす

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第3章:心のページ

第13話:文字のないページ

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 スケッチブックの真ん中にある、まだ何も書かれていないページ。
 そこに、ペン先を置いたまま、ユウトは数分間、動けなかった。

 書きたいことはある。伝えたい気持ちもある。
 でも、それを「ちゃんとした言葉」として並べようとすると、すべてが崩れていく気がした。

 「……難しいな」

 小さく吐き出した言葉が、自室の静けさに溶けた。
 頭の中には、ヒマの物語の続きを描きたいイメージがあった。けれど、ページに向かうと、自分の語彙の乏しさや構成力のなさに阻まれて、前に進めない。

 「ミユキ……お前、こんなすごいの、どうやって思いついてたんだよ」

 ラフ画の一枚を手に取る。
 ヒマが、地球の誰かに手紙を届けようとする場面。星のかけらを渡る途中で風に乗った羽根を見つけ、微笑んでいる。

 細かい描写や設定はない。でも、その一枚に物語が宿っていた。

 ――この絵に、どんな言葉を添えたらいい?

 ユウトは一度ペンを置き、参考になりそうな絵本を何冊か引っ張り出してきた。
 図書館で借りた、ストーリー構成やリズムを学べるもの。
 プロの作家たちは、短い言葉でどうやって世界を作っているのかを知りたかった。

 けれど、ページをめくればめくるほど、自分との距離を思い知らされるだけだった。

 そのとき、不意にスマホが震えた。
 画面には「ナオキ」の名前。

 『今、進んでる? 詰まったらメシでも行こうぜ』

 いつも通りの軽い文章。でも、それだけで少し肩の力が抜けた。
 “完璧じゃなくてもいい”――そう言ってくれた彼の言葉を思い出す。

 再びノートに向かい、ペンを持ち直す。

 完璧な文章じゃなくていい。
 ただ、ヒマの気持ちを、ミユキの気持ちを、自分なりに想像してみる。

「ヒマは、旅の途中で思いました。」
「誰かに手紙を届けるのは、すごくドキドキすることだと。」
「でも、ドキドキは、怖いだけじゃなくて――嬉しい、にも似てる。」

 その言葉が、ページの上に浮かんだ瞬間。
 ようやく、“物語がまた一歩進んだ”と感じた。

 白いページに、たしかに“心”が宿りはじめていた。
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