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第19話 勇者の決意
しおりを挟む俺たちは水族館へ向う前に一度ビルの外に出た。
そして高層ビルの正面にある年中屋台が並ぶクレープ屋台の前で、木陰にあったベンチに座って休憩している。
「えーっと、理香子さん?」
「はい」
「大丈夫ですか?」
「はい」
「ペンギンって飛べるんですかね?」
「はい」
理香子は両手にクレープを持ち、まだ放心状態で笑顔のまま、遠くを見つめて焦点が定まっていない。パニックという訳でもないがロボットに近い状態だ。
まぁ、そりゃそうだよな、突然あの魔人の魔力に充てられたらこうなるよ。
あんなの見たら、この後水族館どころじゃないよなぁ。どうしたものか。
それもこれも、あの魔人のせいだ。
ふぅ、とため息をついて、俺はクレープをかじりながら、2時過ぎの晴れ渡る空を、高層ビル越しに見上げている。
「りかちゃん、どうする? 水族館行く? ペンギン見に行く?」
「は! ぺんぎん!」
お!?
反応アリ?
「弘樹君! さっきのあれなに! 弘樹君って何者? さっきのは夢? 何が起きてるの?」
どうやら帰ってきたようだ。
「うーん、本当は、今日の夜飯食べながら色々説明するつもりだったんだけど、あの人に先にばらされちゃったね。ごめん、もっと早くに言うべきだったよ」
「サプライズ? ドッキリとか? 弘樹君は何者なの!? あれは私の知ってる弘樹君とは別人!? あのでっかい人は誰!? ボスとか!? え、3000万って何!? 実は王子様とかなの!?」
「ちゃんと説明するからとにかく深呼吸して。ほら、クレープ食べて落ち着いて」
「すううううはあああああ、バクバクバクもぐもぐもぐ……」
「俺さ、こないだ昇給して正社員になったでしょ」
「ぅむん……ゴクン」
「それで今は会社の広報課に所属してるんだけど、これからそこで仕事で会社の宣伝するタレントみたいな事をする羽目になっちゃったんだよ」
「タレント……って芸能人?」
「うん、そんな感じ」
「ええええ!」
まぁ、驚くよな。俺もだ。
「じゃあ、これからテレビとか雑誌とか出たりするの?」
「聞いた話では電車の中刷り広告とか、テレビCMとか来るかもしれない」
「そっかー」
そういうと理香子は少し下を向いて考え出す。
恐らく理香子は、俺との関係を心配してるのだと思う。
彼氏が有名人ともなれば気苦労も出てくるだろう。実際今日はサインを求められたりしたわけだ。俺から告ったとは言え、少なからず相思相愛という状態だったわけで、これからその彼氏がチヤホヤされる事は想像にたやすい。
「ほら、今日はその話をしようと思って、昨日電話したんだ」
俺はそう言うと、リュックからサンプル写真を何枚か取り出し、理香子に見せる。
「かっこいい……」
「え?」
「ん、いやいや!えっと、これ弘樹君なんだよね?」
少し赤い顔をして、手に持つ写真を凝視する理香子。
「うん、こないださっきの内藤さんって人に連れまわされて、その写真撮ったり偉い人に紹介されたりしてさ、俺自身も戸惑ってばっかで何が起こってるかよくわからなくて ……」
「うん」
「これからの事もどうなるかよくわからなくて、理香子たちにも言い出せないし、両親にもまだ言ってないし、ここの所ずっとしんどかったんだ」
「そっかぁ」
甘いものを食って少し落ち着いたのか、両手を合わせて伸びをする理香子。
「んーーーっ。じゃあ今日は内藤さんに感謝しないとね!」
「えええ、なんで!」
「だって、そのおかげでこうして私に打ち明けられて、少し気が晴れたんでしょ?」
「うーん。まぁ、そういう事になるか」
「そっかぁ、弘樹君が芸能人かぁ。じゃぁ、弘樹君はどうなるの?」
「何が?」
「うーん、ちゃんと私の事好き?」
「う、なんでそんな事聞くの!」
「だって、これからモテモテになっちゃうかもしれないじゃん……」
やっぱり彼女としてはそう考えるよな。
俺にファンが出来れば彼女という存在は妬まれるかもしれない、たぶん理香子はそういう事をとても心配してるんだと思う。そこで俺の気持ちが揺らいでいるようでは、別れることも考える必要が出てくるだろう。
俺はこの子を守れるだろうか。
いや、自信がある訳じゃないが、そもそも、理香子からの相談は私を守ってほしいという事だった。俺はそれに答えて、忠司から奪った形になっている。
そうして付き合い始めてまだ数カ月ではあるが、そこで俺が守れません、では忠司に顔向けできない。それどころかボコボコにされかねない。いや、それが嫌なのではないのだが、一度守ると決めた以上守り通すのが筋だ。
だから、恥ずかしいけど正直に言おう。
「最初からずっと好きだったし、これからもそうだよ。君は俺がちゃんと守る!」
俺がそういうと、理香子は少しにやけて顔を赤くし、答える。
「そっかぁ……」
う、やっぱ恥ずかしい……。
「じゃぁー、良し!」
「え? よしって……?」
理香子はそう言って、さらに少し考える。
「うーん、そうだなぁ……」
少し考えた後、急にいつもの元気を取り戻して話し出した。
「弘樹君は変身できるの! ヒーローとか勇者みたいに!」
「うぐっ!」
「だってこの写真かっこよすぎるもん。弘樹君じゃないみたい!」
「う、それは俺もそう思ってる」
「そしてヒーローになって、悪い事してた私とか忠司君を助けたり、クラブのみんなを会社に紹介して助けたり、今の会社の人不足を助けたみたいに、日本中の人たちを助けるの!」
「……」
「それでも変身してない時の弘樹君は私の彼氏なの! だから良し!」
「……」
そうか。
俺が理香子に惚れた理由は、彼女のこういう所だ。
ポジティブで、何でも受け入れてくれて、立ち止まらなくて、俺を好きでいてくれてる。だから俺に何が起きても、この子は応援してくれるだろう。
俺はちょっと前まで、世間を疎んで引きこもり、世間知らずでやる気のない人間だった。でも今は忠司たちみたいな仲間もいる。
敵に回せば最悪で強力なあの魔人も今は全力で味方だ。
あの人は、俺をおもちゃにしているというが、一瞬垣間見えた本心は間違いなく俺を信じてくれている。
それに西園寺さんや笹山さんも、俺を一目見ただけで認めてくれた。
あれだけの人たちが、俺が分からない、俺が持っている物を何か感じていた。
だから、俺は何も心配することは無いんだ。出来ない事はプロに任せよう。俺は俺の出来ることをやって、やりたいことを全力でやって、彼女や、彼女以外の沢山の人を救っていくんだ。まだ実感も自信もないけど、たぶん俺にはそれが出来るんだろう。なにより、この子がそばに居てくれる。
「そっか、だから良しか」
「うん!」
「そうだな!」
「だからこの写真は私がもらいます!」
「ええ!?」
「あとでご飯食べるときにもっといろいろ教えてね!」
「う、わかった」
「よし! じゃあ、ペンギン見に行こう!」
「おー!」
俺はヒーローになる。いわゆるゲームで言うところの勇者だ。
まだ、自分で納得するには少し時間がかかるかもしれない。
自分に自信がつくまでには、もっと沢山の恐怖や問題を超えて行かなければならないかもしれない。だが、俺にはたくさんの味方が居る、勇者パーティは一人では成立しないのだ!
ラスボスがいるのかはわからないが、俺の目指す事は日本中にいる沢山の困っている人を救う事で間違いない。
奇しくも、魔人内藤さんの不意のエンカウントと、彼女、理香子の強さのお陰で、俺はここしばらくずっと抱えていた不安を吹っ切ることができた。
ニコニコと笑いながら俺の前を歩いて、引っ張ってくれる理香子の後ろ姿を眺めながら、俺は胸の内で決意する。
俺は勇者になる。
ふと、目の前を見上げると、とてつもなく高いビルがそびえ立っている。
あそこに俺の写真がデカデカと飾られるわけだが。
ビ、ビビるな!
俺は大丈夫だ!
そう奮い立たせて彼女の手を取り、俺たちは水族館へと向かうのだった。
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