討妖の執剣者 ~魔王宿せし鉐眼叛徒~ (とうようのディーナケアルト)

LucifeR

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† 一の罪――堕天使斯く顕現す(肆)

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 ビル街を駆ける三人の狩人と、大量の妖たち。
「くっそ、こいつら……!」
 怪魔はこんな早さで増えない――なにか仕込まれていたようだ。
「もう限界です!」
 槍に変化させたデスペルタルで薙ぎ払いながら、三条が叫ぶ。確かに、結界を張りながらの戦いでは厳しい。が、六本木のど真ん中で解除すれば、人目についてしまう。高速道路の照明灯に降り立って、近い順に屠っているものの、こちらも埒が明かない。
「緑川くん、三人じゃ無理だ! いったん退いて増援を」
 俺はアダマースに拾われて以降、多聞さんの命に背いたことはなかった。しかし、ここで逃げれば、加勢を得て戻るまでの間に、何人の一般人が犠牲になるだろう。
(……また止められないのか、俺は――また目の前で起きている悲劇を止められないのか? あの時みたいに、理不尽な暴力になす術もなく終わるのか……?)
「……撤退だと言って――」
「そりゃ俺だってまだ若いんだし、他人のために命なんてかけたかねーよ。でも、それでも――目の前で理不尽に命が奪われてくのを見んのは、もっと苦しい気がしてなんねーんだよ!」
「緑川……くん?」
(……神様でも悪魔でもなんでもいい! どうか力を貸してくれ)
 狂ったように手当たり次第、敵影を斬り続ける。
「退路を塞がれました!」
 怪魔らしからぬ連携に、今や俺たちは包囲されていた。
(ああ、俺も……あの日の親父たちみたいに――――)
 限度を超えた疲労に、意識が混濁へと導かれてゆく。しかし。
 それでも、なお――――
「いや、違う! 親父も兄貴も弱かったから死んだ。けど……緑川信雄は、こんなとこじゃ終わんねー! 確かに俺は弱ぇよ。だけど――名誉も報酬もいらない。カッコ良くなくても、美しくなくても、讃えられなくてもいい! でも、どうしても俺がやらなきゃならねえ。あんたが必要なんだ。どうか、このちっぽけな俺に力を……!」
――この衝動ねつは、天井おわりを知らない。
「!? 緑川く……ん……?」
 辛うじて両足を支えていた消え入りそうな意地が、迸るほどの闘気となってゆく。
「俺じゃ力不足ってなら、力を借りるしかねーだろがあああああ!」
 理想はあくまで理想かも知れない。だからこそ、遥か彼方にあるからこそ、人は追い求める。夢を失ってまで目指すものなどないのだから。
 そうして、いつの世も人間は、いくらでも届かない星に手を伸ばしてしまう。
「我が声に――応えよおおおッ!」
 燃えるような瞳と共に、自分でも驚くほどの雄叫びが天を衝いた。
「来い! 至高の魔王……!」
 コ・ランド・プランシーは著書・地獄の辞典で「ルシファーを呼び出すのは月曜日」と、記している。

 二〇二六年の十二月七日は、月曜日だった。

「まさか……バカな、無理だ!」
 多聞さんの言葉に反し、俺の足元には魔法陣が展開され、ⅥⅥⅥという紫色の文字が浮かび上がる。
「緑川くん、やめるんだ! 彼の対価は――」
「対価だあ? 上等だ、俺ごと持ってきやがれ!」
 気迫に呼応するようにして、吹き荒れ始める旋風。
「うっ、コンタクトにゴミが……!」
「桜花くん、まだ手術してなかったのかい。戦闘中、もしものことがあってからじゃ遅いって言っ――」
 次の瞬間、耳をつんざく爆発音が轟いた。
「ぐっ……うおおおお!」
 魔法陣から爆炎が赤々と噴出し、孔雀の羽根に似た紋様が左目を囲うように覆ってゆく。熱くはなかった。むしろ、胸の奥が凍てつくような寒気に鳥肌が収まらない。
 そのとき、

「――Fortes fortuna adjuvat.(運命は、強い者を助ける)」
 空気を裂かんばかりに冷たく、何者かが呟いた。

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