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† 四の罪――現世(うつしよ)の邂逅(伍)
しおりを挟む「そーいや多聞さん、さっきこの仕事じゃなかったらって……軍隊にいたときはどうだったんすか?」
話題を変えたかったのと、ふとした疑問から、俺は悪気もなく口にしてしまった。
「の、信ッ……そ、その話は――」
「うん、いたよ」
三条の顔色と、彼の用意したような微笑みから、今はいない、それも別れたからというわけではない、という推測が俺を後悔の淵へと叩き落とす。
こういう渇いた作り笑顔をどれほど、この人はしてきたのだろうか。
「ごめんなさい……何も知らずに…………」
「いや、いいんだ。ほら、これから先の建設的な話をしよう」
「そっ、そうですね……ぼくのせいでこんなことになっちゃったんだし」
「さっきの報告を聞いた感じだと他の悪魔も来ちゃってるみたいだし、今まで以上に鍛錬が必要だろうね。ゼブブっちが乗り気になってくれたとしても、桜花くんの身心が耐えられなければ――――」
当の本人は、騒ぐだけ騒いだら眠ってしまっている。本当に子どものような寝顔だ。
「つらいのは覚悟の上です。かならずや乗りきってみせます!」
「俺も稽古よろしくお願いします!」
俺たちを確かめるように交互に見比べると、多聞さんははじめて、嬉しそうな顔で笑った。
「今日は二人とも模擬戦で疲れたろうから早く寝なさい。明日は朝からしごきまくるよー」
† † † † † † †
ただでさえ、重苦しい空気に満ちている地下室。空間そのもの以上に、そこにいる人間がその禍々しさを増幅させているかのようだ。
「やはり彼女はここに来ましたか。ククッ……あれほどの大物も小娘が呼び出してしまえるとは、相も変わらず悪魔と相性がよろしい場で」
栗毛の美青年が嘲笑を響かせる。中性的な面立ちをしていながらも、そのオーラは暗い天井に負けじと、どす黒い。
「あれをただの小娘とぬかすのなら、お前の目に失望だ」
闇の中より、決して低くはないが、その漆黒でも塗り潰せぬ鋼の如き芯を持った声が加わる。
「これはこれは、失礼いたしました……ところで、元帥殿はわたくしの存在に気づいておられるのでしょうかね。どう思われますか――最強の妖屠様は」
道化は目を細め、暗がりに問いかけた。
† † † † † † †
「ラッシュが甘い! 隙を与えるな!」
叱咤激励を受けながら、多聞さんに挑む俺たち。徒手格闘はチーム多聞丸に入った当初から習っているが、いつもの脱力っぷりが嘘のような彼には、いまだ気圧されてばかりだ。
高速でワンツーを繰り出し、流れるようなローキックにつなげる。時折スイッチして変化をつけるものの、教わったことだけをしていても師には勝てない。
(……やっぱ三条はシュートボクシングやってただけあって安定してんな。接近戦じゃ並んだと思ったけど、こいつも日々強くなってる――くそっ、こいつは魔術型の妖屠なんだぞ……この距離で後れをとってどうする!?)
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