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† 六の罪――第三の悪魔(肆)
しおりを挟む「くっ、化け物め。やられる前にやるぞ……!」
戦車隊の中央で、指揮官が逞しい右腕を掲げる。
「撃ち方始め!」
響き渡る轟音。国防陸軍の誇る二一式戦車の主砲が火を噴いた。耳朶を打つ砲声は、一撃必殺のシグナル。世界最強の五十二口径百三十ミリ滑空砲で、足場ごと彼を吹き飛ばそうというようだ。
が、
「フン、愚かな」
着弾を待つことなく、致死の砲弾は崩れ去った。高熱を帯びる前提につくられた存在が、瞬く間に跡形もない。溶けたと言うより、亜空間に呑まれた、とでも表すべきだろう。ベリアルは悪徳の堕天使。敵意を伴った攻撃に対して、最高の迎撃力を発揮する。
「ふっふっふ……もっと足掻きなさい。その醜態、実に人間らしい」
言葉を失った兵士たちの代わりに、両手を広げて天を仰ぐ彼の哄笑が木霊した。
「ちょっと、なんとかして! きみの愉快な仲間たち的なアレでしょ。ほら、実はいい人そうだし」
ベルゼブブのいるであろう空間に、問い詰める桜花。
「桜花くん、無理を言っちゃ迷惑でしょう。それに、ああいう笑い方をするのは例外なく悪役っていうじゃん」
そうこうしている間にも、空気中に在る負の波動がベリアルの元へと集ってゆく。
「――――其は民惑わす偽りの楽園 狂い咲くは穢れの薔薇
泡沫の戯れに終幕を 今こそ裁きの烈火を受けよ」
無力な有象無象を嘲るようにして、ベリアルが紡いでゆく破滅の呪言。決して声を張っているわけではないが、その詠唱は一帯を包んでゆく。
「むうう、今の吾輩ではあれに抗しえぬか……かくなる上は――」
「そもそもソドムとゴモラって、同性愛で滅ぼされたんじゃなかったっけー。おじさんホモじゃないし納得いかないんすけど」
「うむ。沿岸のどこかに、いるということだろう……彼ら彼女らが」
「やっぱり東京湾のど真ん中なんかできみたちが同窓会おっぱじめたのが悪いんじゃん! 魔界でやれ! てかホモのせいで悪魔祭に巻き込まれて死にたくない。うーっ……ベルゼブブ、ぼくの魔力を使って!」
「たわごとを! そちと契約など――」
「それしかないんだ! 早く!」
桜花の悲痛な嘆願に、幼い顔を曇らせるベルゼブブだったが、意を決したように凛としたまなざしを返した。
「いいのだな……ほんとうに」
「桜花くん、時間が……!」
おぞましいまでの殺気が莫大な熱量を生じさせ、ベリアルの痩躯が陽炎に揺らぎ始める。
「此の身は紅蓮の具現 咎人を灼き尽くす焔を我が手に!
咲き乱れよ、業火の花弁 断末魔と共に灰燼と化せ」
迸る閃光。瞠目する群衆。
そして――ここに、二つ目の太陽が昇った。
「――――灼熱狂騒曲・廃都終焉……!!」
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