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† 十の罪――贖いの雨(肆)
しおりを挟むどれほどの時間が経過したのか。未知の不快感が体内を駆け巡る。経験したことのない衝動が込み上げる。
こんなに辛いのなら、壊してしまいたい。いっそ何もなくなれば、この焦燥も消えるだろう。そうすれば怪魔も、こうやって人を喰らうことはなくなるのではないか。そうか、人の闇が災いを呼ぶんだ。
――――なら、滅ぼしてしまえばいい……!
進行する腐蝕に反応してうごめきだした怪魔の残滓が、そう言っている。人間がつくるこの世界を、無に還してしまえ。
人が人であり続ける限り、傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲――これらの七つの大罪が、今日もどこかで生まれている。人間が存在することによって憎しみが引き起こされるのだ。彼らと共に何もかも、すべて白紙に戻してやる。
「大人は泣きたくても泣いちゃいけないんだって。だから、ぼくがみんなの分の涙を流してあげたかった。でも、もう泣き虫はやめた。世界がひとつになっても泣く人はいる。だから、彼らを消すんだ」
こんな世界なんて――なくしてしまえ……!
(……なくしてしまえば、楽なのに…………)
なのに、忘れられない笑顔があった。思考が滅茶苦茶にされても、何度でも浮かんでくる。
混濁している意識の中で、後悔の念が絶えない。それでも自分は、今この世界を壊そうとしている。
「っつー、ちょっと無理しすぎちゃったか」
多勢に無勢。大の字に横たわった少年が苦笑する。
「なんで……あの人たちはきみの友だちじゃ――」
「友だちだからだよ。友だちがまちがったことしてたら止める、それが本当の友だちだろ?」
その顔は傷だらけなのに、頭上に輝く太陽にも劣らず眩しかった。見とれるあまり、お礼を言いそびれたのが悔やまれる。それどころか、別れも告げられていない。その後まもなく、軍人であった父が発展途上国に転勤となり、自分は彼に黙って日本を後にした。
あの微笑みを再び見ることは、叶わぬ夢となってしまうのか。彼を知らなかった自分なら、こんなにも苦悩せずに諦められただろう。
もはや自分が誰であるのかも、思い出せない。どす黒く塗り潰された頭の中は、汚泥のような漠然とした破壊衝動に支配されている。
(やっぱり、まだ人間でいたいよ……せっかくこの世界にいたいって思えたのに――まだ終わりたくない。終わらせたくない。こんなぼくでも生きたい! 助けてほしい。おねがい……だれか――――)
「助けて、ぼくを……!」
虚空に響く、切実な望み。
「ぼくを助けて! ぼくの、ぼくの名前を呼んで……!」
わかっていた。ただ、大人しく受け入れることが昔より、少し受け入れられなくなっただけ――――
そう自答して、精神の扉を閉じようとした時。
「おい」
あの日と同じような、けれども、少し低くなった声が飛び込んできた。
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