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† 十一の罪――さくら花 散りぬる風の なごりには(陸)
しおりを挟む「聞こえてんか、小娘。このザコはてめェのために命をかけるそうだ。てめェも腹くくれや」
「俺は死ぬこともできない。おまえは限りある命。その貴重な未来をんなとこで無駄にするな。多聞さんだっておまえのことをどんだけ心配してると思ってんだ」
俺たちの呼びかけが届いたのか、双唇を震わせる三条。
「あの人は一度捨てたぼくのことなんか――」
「おいメスガキ、多聞丸がどうしてチビん頃のてめェを突き放したかわからんほどまだガキなのか? 野郎がてめェを沢城のじじいに任せたのは組織に押しつけたかったからじゃねェ。出陣することが決まって、大陸で非道な行いするハメんなっても、幼いてめェの耳に入らんように、てめェの心が壊れんようにと世間から離したんだよ」
「……わかってます。多聞さんがほんとうはぼくのためを思ってしてくれたって、わかってた――あの人にずっと頼りっきりで生きてきたから……でも、これは一度でも身に余る力に身を任せようとしたぼくの欲への報いだから、責任ぐらいは自分で、自分……で…………」
「なら生きることもまた、助けられた者の義務なんじゃねーの。死による逃避など、同じく多聞さんに護られた人間として、俺が赦さない。自分が弱いことに気づいたんだから、泥水を啜り、這いつくばって、せいぜい虫のように弱者として怯え続けてろ。そして……弱者なりに――最期の瞬間まで、全力で生き抜け」
「そうしたいよ。ぼくもそうしたいけど……このままじゃみんな一緒に――そんなの、もっといやだよ…………」
彼女が目を伏せると、おもむろにベルゼブブが歩み出た。
「……契約を、解除する――――」
その申し出に、誰もが耳を疑う。
「契約を……!?」
無理もない。悪魔の側から契約を切るなど、前代未聞の話だ。
「進退これきわまれり……是非におよばず! 吾輩との交わりが絶たれれば、こやつの内に残った呪いがゆき場を失って表へ出るやもしれん。魔王剣の担い手よ、そちが頼みじゃぞ」
「任せろよ、地獄元帥さん。もしものときは俺がやる。元からそのつもりだったしな。隙さえつくってくれりゃカルタグラでカタをつける」
「っけ……ッ! バカたァ思ったが、ここまでバカたーな……死ぬ気かァ?」
「俺は死ぬつもりは皆無だし、こいつも死なせない。誰かが二兎追わなきゃこいつは救われねーんだよ」
「時間がない。始めるぞ!」
ベルゼブブが促すが、思い詰めたような三条の表情は消えない。
「なんで、ぼくなんかのために、そうまでして……ぼくなんて――」
「おまえ自身がまだ諦めてねーからだろが! 苦しいんだろ? 悔しいんだろ? そんな目でもういいからって言われても、はいそうですかで納得して見殺しにできるわけねーだろ……いいよ。わかんねーなら教えてやる。おまえは長所も短所も挙げたらキリがねーほどありやがるが、その中で最大最強な長所であり短所なのは――諦めの悪さだろが」
不愉快そうに黙っていた林原が、呆れたと言わんばかりに溜息をついた。
「んだよ、結局は諦めの悪ィバカガキだらけってか。ま、んな度ォ超したバカに主役は譲ってやる。この俺様を時間稼ぎに使うんだ。見せろよ、バカの意地ってもんを」
「恩に着るぜ。じゃ、見せるとしますかー、必殺の剣を……!」
俺が魔法陣の中心からカルタグラを抜き出したのを認めると、ベルゼブブが意を決したように頷く。
「契約、破棄……ッ!」
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