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7話 久しぶりに食べました
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「アルが初恋か……」
何だか疾う疾うゲームの物語が始まってきたように感じられる。と言っても過去編だけれど。
私がミリーに関わらないことが一番だろう。私の故意でなくても、ちょっとした行動で彼女を死なせてしまったなんてことになったら、私の死亡フラグは乱立する。
ゲームでは彼女がアルにとって救いという名の光で、彼女の優しさに触れて心惹かれていくが、今のアルはゲームのアルではない。好きになったきっかけは違うはずだ。
「出逢いの仕方は違えど心惹かれる……か。なんだかロマンチックね」
言葉を口にしたとたん虚しくなる。
「もうダメダメ! なんで暗くなるかなぁ私は! 何も引っかかることなんてないわ! アルの初恋がなんぼのもんよ! 寧ろ茶化すところよね!」
静かな居間に私の声が響く。
「何やってんだろ……私」
誰も居ないと言うのに途端に恥ずかしくなった私は取り合えずついさっき買ったものを出していく。
味噌と醤油と米、3つ並ぶと本当に感動だ。
米は精米する必要があるが魔法を使えばあっという間だ。
「精米」
米の糠を消すイメージで魔術を発動させれば、米は私が前世で食べなれていた白米へとなる。
炊飯器は魔道具として作れなくもないが、鍋で炊いた方が美味しいため今度にしよう。30分炊いて15分くらい休ませれば美味しく炊けるため、ご飯は普段食べている夕方ぐらいに丁度食べられるようにしよう。
普段はアルに食事を作ってもらっているが、こういう日があってもいいだろう。今世では初の和食だ。アルも見たこともない物ばかりだからきっと驚いて喜ぶ。
「今日のメニューはどうしよう?」
久しぶりに肉じゃがが食べたい。当然味噌汁も。豆腐に似たものでトウという物があるのでそれを代用品にして大根に似た野菜を入れる。
肉じゃがの材料はそろっている。あとは魚の塩焼きにしよう。
どれも対して難しい料理でもない。下ごしらえをしたらご飯を炊きつつ料理を開始し、丁度夕方には食べられるだろう。
順調に調理していると、玄関の扉が開くとともに「ただいま帰りました」と声が聞こえた。
台所からでは少し遠いので、私は「おかえりなさい」と張り上げる。
身軽な格好になったアルは驚いたような顔をして台所に入ってきた。
「師匠、珍しいですね台所に立つなんて……」
「なによ、何か文句でもある?」
意外という風に言ってくるアルに思わずむっとしてしまう。
私のその態度にアルはクスクスと笑うと「いいえ」と否定し「ただ……」と言葉をつづけた。
「久しぶりに師匠の手料理を食べられるなんて嬉しいです。師匠の手料理を食べられたのは俺が拾われたばかりの時だけでしたから」
とても嬉しそうに微笑むアルに何だか照れくさくなってしまう。いけないいけない、アルには想っている人がいるというのに、思わずトキメキそうになってしまった。
こうやって沢山の女の子を落としてきたのだろうというのは想像に難くない。何とも罪づくりな美形だ。
「師匠は一体何をつくっているんですか?」
「和食よ」
「わしょく?」
聞きなれないのか首を傾げるアル。
「和食は海を越えた最果てにあるヤマトという国の料理よ。こっちにはない珍しい料理もあって美味しい上に健康的なのよ。たまたまヤマトの国の調味料と食材を見つけてね、懐かしくて食べたくなっちゃって。きっとアルも気に入ると思うわ」
私が上機嫌に満面の笑みを零すとアルは訝しげな顔をした。
「師匠は和食、という物を食べたことがあったんですね。ヤマトの国に言ったことがあるんですか?」
アルの疑問の声にはっとして自分のミスに気付いた。
「ま、まぁそんな感じね。とっても良い所よ……」
と言っても前世の日本しか知らないが。
「あと盛り付けるだけだからテーブルに座って待ってて」
「いえ、運ぶの手伝いますよ」
私はありがとう、と返し盛り付けていく。
久々に見る和食が並ぶ食卓に思わず笑みを浮かべる
「とても美味しそうですね。このスープはなんですか? この白いのも」
「あぁ、それは大根の味噌汁、白いのは白米のご飯でヤマトの国では主食でこちらでのパンみたいな存在ね」
「この芋と肉が入っているのは……?」
「これは肉じゃが。芋がほくほくして美味しいわよ」
いつもと違い幼さが残る笑みと好奇心旺盛な姿に微笑ましくなる。例え青年に見えるといっても彼は14歳。まだまだ子どもなのだ。
「とっても美味しいです‼」
興奮したように言うアルに思わず笑ってしまう。
「ふふっ、そんなに難しくないからアルでも作れると思うわよ」
「ほんとですか! それなら後でレシピを……」
途中まで言いかけてアルを言葉を紡いだ。
「やっぱりいいです」
「え?」
首を傾げるとアルは柔らかい笑みを浮かべながら言葉をつづける。
「師匠にまた作ってもらいたいですから。俺が知って作ったら師匠、もう作ってくれないでしょ?」
そんなことはない。頼まれればきっと作るだろう。しかしその言葉を言うのに何故か躊躇われた。
「また料理作ってくださいね、師匠」
その言葉に私は内心笑みを零しながら、照れ隠しの様に「仕方がないから弟子の為にまた作ってあげるわ」と返した。
「あ、そういえばアル町で可愛い娘と一緒に楽しそうにいたわよね。やっとアルにも春が来たのかしら。流石色男、やるじゃない」
「可愛い娘?」
「ほら、あのハニーブラウンのフワフワした髪のすっごい可愛い女の子」
「あぁ、ミリーですね。見かけたのなら声を掛けてくれれば良かったのに」
アルは思い出す様にして答えた。
「そんな野暮な真似をするわけないじゃない。それにしても、もう名前で呼んでるのね! とっても幸先がいいじゃない」
私の言葉に怪訝そうなにアルは見てきた。
「師匠一体何を言っているんですか?」
「え? だってアルはそのミリーっていう女の子に恋したんでしょう?」
アルは何かを理解したような顔すると一気に不機嫌になった。茶化されたのに気付いて起こったのだろうか?
「師匠、俺は……」
「大丈夫、気にしないで。鍛錬に支障が無ければ全然かまわないから。寧ろ応援するわ! 可愛い自慢の弟子が恋をしたのに応援をしない師匠がいるものですか!」
私は一体何を言っているのだろうと内心思いながらも、口は勝手に言葉が零れていく。
するとガタンという音がして、目の前をみてアルとの近さに私は驚いた。
俯いていて表情は見えなかったが、何かを堪えるようにしてアルは震えていた。
「アル……?」
「……て、……?」
よく聞き取れず思わず私は「え?」と聞き返した。
アルは絞り出すようにして、そして悲しみや苦痛などすべてが混ざったような声で言葉を紡いだ。
「師匠にとって俺はまだ弟子でしかないんですか?」
言っていることが良く分からず言葉に詰まる。
「師匠は……、いや、ディアナさんにとって俺はあんな言葉が出るほどの存在でしかないんですか……?」
初めて呼ばれる名前に思わずドキリとしながらも、私はアルの言葉に耳を傾けた。
しかし、どう受け止め応えるべきか分からなかった。アルは私に何を伝えたいのだろう? あんな言葉って? 私はただ応援しただけだ。私としてもアルに好きな子が出来たことはとても複雑だし、どこか胸がもやもやする。それでも、少しでもアルの気が楽になればと思ってのことだったが、アルにとってはいらない言葉だったのだろうか。
沈黙を続ける私に、アルは「すみません、急におかしなことを言って」といい居間を出て行った。
その時にちらりと見えたアルの悲しく、そして切なげな表情が私の目に焼き付いてた。
何だか疾う疾うゲームの物語が始まってきたように感じられる。と言っても過去編だけれど。
私がミリーに関わらないことが一番だろう。私の故意でなくても、ちょっとした行動で彼女を死なせてしまったなんてことになったら、私の死亡フラグは乱立する。
ゲームでは彼女がアルにとって救いという名の光で、彼女の優しさに触れて心惹かれていくが、今のアルはゲームのアルではない。好きになったきっかけは違うはずだ。
「出逢いの仕方は違えど心惹かれる……か。なんだかロマンチックね」
言葉を口にしたとたん虚しくなる。
「もうダメダメ! なんで暗くなるかなぁ私は! 何も引っかかることなんてないわ! アルの初恋がなんぼのもんよ! 寧ろ茶化すところよね!」
静かな居間に私の声が響く。
「何やってんだろ……私」
誰も居ないと言うのに途端に恥ずかしくなった私は取り合えずついさっき買ったものを出していく。
味噌と醤油と米、3つ並ぶと本当に感動だ。
米は精米する必要があるが魔法を使えばあっという間だ。
「精米」
米の糠を消すイメージで魔術を発動させれば、米は私が前世で食べなれていた白米へとなる。
炊飯器は魔道具として作れなくもないが、鍋で炊いた方が美味しいため今度にしよう。30分炊いて15分くらい休ませれば美味しく炊けるため、ご飯は普段食べている夕方ぐらいに丁度食べられるようにしよう。
普段はアルに食事を作ってもらっているが、こういう日があってもいいだろう。今世では初の和食だ。アルも見たこともない物ばかりだからきっと驚いて喜ぶ。
「今日のメニューはどうしよう?」
久しぶりに肉じゃがが食べたい。当然味噌汁も。豆腐に似たものでトウという物があるのでそれを代用品にして大根に似た野菜を入れる。
肉じゃがの材料はそろっている。あとは魚の塩焼きにしよう。
どれも対して難しい料理でもない。下ごしらえをしたらご飯を炊きつつ料理を開始し、丁度夕方には食べられるだろう。
順調に調理していると、玄関の扉が開くとともに「ただいま帰りました」と声が聞こえた。
台所からでは少し遠いので、私は「おかえりなさい」と張り上げる。
身軽な格好になったアルは驚いたような顔をして台所に入ってきた。
「師匠、珍しいですね台所に立つなんて……」
「なによ、何か文句でもある?」
意外という風に言ってくるアルに思わずむっとしてしまう。
私のその態度にアルはクスクスと笑うと「いいえ」と否定し「ただ……」と言葉をつづけた。
「久しぶりに師匠の手料理を食べられるなんて嬉しいです。師匠の手料理を食べられたのは俺が拾われたばかりの時だけでしたから」
とても嬉しそうに微笑むアルに何だか照れくさくなってしまう。いけないいけない、アルには想っている人がいるというのに、思わずトキメキそうになってしまった。
こうやって沢山の女の子を落としてきたのだろうというのは想像に難くない。何とも罪づくりな美形だ。
「師匠は一体何をつくっているんですか?」
「和食よ」
「わしょく?」
聞きなれないのか首を傾げるアル。
「和食は海を越えた最果てにあるヤマトという国の料理よ。こっちにはない珍しい料理もあって美味しい上に健康的なのよ。たまたまヤマトの国の調味料と食材を見つけてね、懐かしくて食べたくなっちゃって。きっとアルも気に入ると思うわ」
私が上機嫌に満面の笑みを零すとアルは訝しげな顔をした。
「師匠は和食、という物を食べたことがあったんですね。ヤマトの国に言ったことがあるんですか?」
アルの疑問の声にはっとして自分のミスに気付いた。
「ま、まぁそんな感じね。とっても良い所よ……」
と言っても前世の日本しか知らないが。
「あと盛り付けるだけだからテーブルに座って待ってて」
「いえ、運ぶの手伝いますよ」
私はありがとう、と返し盛り付けていく。
久々に見る和食が並ぶ食卓に思わず笑みを浮かべる
「とても美味しそうですね。このスープはなんですか? この白いのも」
「あぁ、それは大根の味噌汁、白いのは白米のご飯でヤマトの国では主食でこちらでのパンみたいな存在ね」
「この芋と肉が入っているのは……?」
「これは肉じゃが。芋がほくほくして美味しいわよ」
いつもと違い幼さが残る笑みと好奇心旺盛な姿に微笑ましくなる。例え青年に見えるといっても彼は14歳。まだまだ子どもなのだ。
「とっても美味しいです‼」
興奮したように言うアルに思わず笑ってしまう。
「ふふっ、そんなに難しくないからアルでも作れると思うわよ」
「ほんとですか! それなら後でレシピを……」
途中まで言いかけてアルを言葉を紡いだ。
「やっぱりいいです」
「え?」
首を傾げるとアルは柔らかい笑みを浮かべながら言葉をつづける。
「師匠にまた作ってもらいたいですから。俺が知って作ったら師匠、もう作ってくれないでしょ?」
そんなことはない。頼まれればきっと作るだろう。しかしその言葉を言うのに何故か躊躇われた。
「また料理作ってくださいね、師匠」
その言葉に私は内心笑みを零しながら、照れ隠しの様に「仕方がないから弟子の為にまた作ってあげるわ」と返した。
「あ、そういえばアル町で可愛い娘と一緒に楽しそうにいたわよね。やっとアルにも春が来たのかしら。流石色男、やるじゃない」
「可愛い娘?」
「ほら、あのハニーブラウンのフワフワした髪のすっごい可愛い女の子」
「あぁ、ミリーですね。見かけたのなら声を掛けてくれれば良かったのに」
アルは思い出す様にして答えた。
「そんな野暮な真似をするわけないじゃない。それにしても、もう名前で呼んでるのね! とっても幸先がいいじゃない」
私の言葉に怪訝そうなにアルは見てきた。
「師匠一体何を言っているんですか?」
「え? だってアルはそのミリーっていう女の子に恋したんでしょう?」
アルは何かを理解したような顔すると一気に不機嫌になった。茶化されたのに気付いて起こったのだろうか?
「師匠、俺は……」
「大丈夫、気にしないで。鍛錬に支障が無ければ全然かまわないから。寧ろ応援するわ! 可愛い自慢の弟子が恋をしたのに応援をしない師匠がいるものですか!」
私は一体何を言っているのだろうと内心思いながらも、口は勝手に言葉が零れていく。
するとガタンという音がして、目の前をみてアルとの近さに私は驚いた。
俯いていて表情は見えなかったが、何かを堪えるようにしてアルは震えていた。
「アル……?」
「……て、……?」
よく聞き取れず思わず私は「え?」と聞き返した。
アルは絞り出すようにして、そして悲しみや苦痛などすべてが混ざったような声で言葉を紡いだ。
「師匠にとって俺はまだ弟子でしかないんですか?」
言っていることが良く分からず言葉に詰まる。
「師匠は……、いや、ディアナさんにとって俺はあんな言葉が出るほどの存在でしかないんですか……?」
初めて呼ばれる名前に思わずドキリとしながらも、私はアルの言葉に耳を傾けた。
しかし、どう受け止め応えるべきか分からなかった。アルは私に何を伝えたいのだろう? あんな言葉って? 私はただ応援しただけだ。私としてもアルに好きな子が出来たことはとても複雑だし、どこか胸がもやもやする。それでも、少しでもアルの気が楽になればと思ってのことだったが、アルにとってはいらない言葉だったのだろうか。
沈黙を続ける私に、アルは「すみません、急におかしなことを言って」といい居間を出て行った。
その時にちらりと見えたアルの悲しく、そして切なげな表情が私の目に焼き付いてた。
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