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最後の慈悲
【 フェリクスの視点 】
結局、切り落とす勇気が無くて、もしかしたら元に戻るかもしれないと、毎日母上が持ってきた聖水をかけた。
だが異臭もして膿もでて一部溶けてきた。そのうちポロっと取れてしまった。
痛みや高熱や吐き気や様々な苦痛の末、安楽死を願い出た。
「先生、強い麻薬を致死量…投与してください」
「ですが、」
「母上ではなく、父上に許可を取って…ください」
「かしこまりました」
直ぐに医師は戻って来た。
「お許しが出ませんでした」
「そうか」
あれから一度も見舞いに来てくれなかった。
父上は俺を嫌っていたのだな。
夜、医師が連れて来たのはノルベールだった。
不様な姿を見たかったのだろうか。
「見てもつまらないぞ」
「ノルベール王太子殿下が国王陛下に頼み込んで麻薬の使用許可をとってくださいました」
「……」
「私はな、フェリクス。キャロン兄妹を見て羨ましかった。
彼らのようにフェリクスと仲の良い兄弟になりたかった。
別に王座なんて求めていない。母を攻撃せず私と仲良くしてくれていたら、王となったフェリクスを臣下として支えたよ」
「……」
「最後の兄からの慈悲だ。先生、楽にしてやってくれ」
「母上は」
「泥酔している」
「…兄上。ごめんなさい」
「分かった。眠るまで手を握っていてやるから安心しろ」
「個人資産は…全て兄上に」
「あの人も必要だろう」
「兄弟の助け合いです。 先生…」
「ちゃんと聞きましたぞ。遺言として陛下に報告を上げます」
「ごめんなさい…」
「もういい。許すから」
「ごめんなさ…」
【 アレクサンドルの視点 】
エリオットからの呼び出しで王都に来ていた。
フェリクス殿下の父である国王陛下と兄のノルベール王太子殿下から謝罪の手紙と詫びの品が届いていた。
「フェリクスは死んだか」
「らしいね。王妃も廃位したらしい」
「ノルベール王太子殿下の母君が王妃に?」
「王妃不在で進めるらしい。国王も具合が悪そうだ」
「王妃は浮気していたんだろう?何かしらの毒を盛っていたということはないのか?」
「でも王宮医が、」
「医師も万能ではないし、国が違えば、国特有の病もあるし、生存していない生き物や自生していない植物もある。
調理の仕方や食す部位も異なれば、医師には知らぬ事例となるんじゃないか?」
「試しにうちの国の毒の情報を送ってみるよ。
しかし、煩い兄に強力な睡眠薬、妹の方に媚薬か」
レティシアには飲み物に気を付けるように言ってきた。
今回、飲み物が並んでいるテーブルの前にいるのに 態々私達の分のグラスを手に持って現れた王子は不自然だった。
断り難い相手なら、相手のグラスを奪って飲み干せと教えていたからレティシアは実践した。
「娼婦はどうなった」
「怪我も性病も完治したらしい。
アレクは重度の性病持ちの娼婦を連れて来させたんだな」
「性病持ちの娼婦を指名したんだ。
客を付けてもらえないから困窮していた。治らなければクビになるしな。死ぬかもしれなかったが、娼婦は賭けに乗って見事に勝った。提示した金はちゃんと払ったよ。平民の慎ましい生活なら死ぬまで働かなくて済むだろう。怪我と性病の治療費も置いてきたしな。治ったなら良かった。
本当は、性病をうつさせて祖国に返して、あいつがばら撒けばと思ったけど、こっちに流通していない媚薬の副作用で死ぬとはな」
「レティシアは大丈夫か?」
「気付いていないよ」
「白い結婚は順調なのか?」
「ディオンはレティシアに手を付けたようだ。
シアが嫌がっていないなら制裁はできないが、キャロン領に来た時に絞ってやった」
「何したんだ?」
「ちょっと口で脅しただけだよ」
「じゃあ、本当なんだな…… あ~私の天使が!」
「言うな。あと、エリオットの天使じゃないからな」
「レティシアも連れて来たんだろう?何処にいるんだ?」
「もちろん王都のキャロン邸だよ。レイモンドの面倒を見てくれている」
「ウィルソン邸へは?」
「帰していない。レイモンドが懐いているから水入らずで過ごしているよ」
「夫人が可哀想だ。まだ帰ってこないのか?捨てられたんだろう」
「叔母夫妻の屋敷に行っていたんだ。
戻ってきたけど改良が必要だといって部屋に篭っているよ」
「何を研究しているんだ?」
「それは秘密だ」
屋敷に戻るとディオンがいた。
「何でレイモンドがレティシアの乳を吸っているんですか!」
「さあ。赤ちゃんだからじゃないか?」
「出ないんだから止めさせてください」
「奇跡的に出るようになるかもしれないだろう」
「早くレティシアをこっちに返してください」
「元々レティシアはキャロンの子だ」
「俺の妻です」
「白い結婚の約束を破ったくせに」
「愛しているんです!」
「それに、何かある。シアは言わなかったが隠しきれていない。傷付けていないのは分かったが、何を隠しているんだ?」
「愛ある夫婦生活を送っているだけです」
腹が立つから、まだまだレティシアを戻してやらないと決めていた。
だが、
「私も赤ちゃん 欲しくなっちゃうかも」
「シア?」
「この子を見ていると、そんな気になります」
「早い!駄目だ!寧ろ作らなくていい!」
夜中にレティシアの耳元で“妊娠したくない”“産みたくない”と囁き続け、レイモンドを連れて領地に戻った。
次はレイモンドを置いて1人で来よう。
結局、切り落とす勇気が無くて、もしかしたら元に戻るかもしれないと、毎日母上が持ってきた聖水をかけた。
だが異臭もして膿もでて一部溶けてきた。そのうちポロっと取れてしまった。
痛みや高熱や吐き気や様々な苦痛の末、安楽死を願い出た。
「先生、強い麻薬を致死量…投与してください」
「ですが、」
「母上ではなく、父上に許可を取って…ください」
「かしこまりました」
直ぐに医師は戻って来た。
「お許しが出ませんでした」
「そうか」
あれから一度も見舞いに来てくれなかった。
父上は俺を嫌っていたのだな。
夜、医師が連れて来たのはノルベールだった。
不様な姿を見たかったのだろうか。
「見てもつまらないぞ」
「ノルベール王太子殿下が国王陛下に頼み込んで麻薬の使用許可をとってくださいました」
「……」
「私はな、フェリクス。キャロン兄妹を見て羨ましかった。
彼らのようにフェリクスと仲の良い兄弟になりたかった。
別に王座なんて求めていない。母を攻撃せず私と仲良くしてくれていたら、王となったフェリクスを臣下として支えたよ」
「……」
「最後の兄からの慈悲だ。先生、楽にしてやってくれ」
「母上は」
「泥酔している」
「…兄上。ごめんなさい」
「分かった。眠るまで手を握っていてやるから安心しろ」
「個人資産は…全て兄上に」
「あの人も必要だろう」
「兄弟の助け合いです。 先生…」
「ちゃんと聞きましたぞ。遺言として陛下に報告を上げます」
「ごめんなさい…」
「もういい。許すから」
「ごめんなさ…」
【 アレクサンドルの視点 】
エリオットからの呼び出しで王都に来ていた。
フェリクス殿下の父である国王陛下と兄のノルベール王太子殿下から謝罪の手紙と詫びの品が届いていた。
「フェリクスは死んだか」
「らしいね。王妃も廃位したらしい」
「ノルベール王太子殿下の母君が王妃に?」
「王妃不在で進めるらしい。国王も具合が悪そうだ」
「王妃は浮気していたんだろう?何かしらの毒を盛っていたということはないのか?」
「でも王宮医が、」
「医師も万能ではないし、国が違えば、国特有の病もあるし、生存していない生き物や自生していない植物もある。
調理の仕方や食す部位も異なれば、医師には知らぬ事例となるんじゃないか?」
「試しにうちの国の毒の情報を送ってみるよ。
しかし、煩い兄に強力な睡眠薬、妹の方に媚薬か」
レティシアには飲み物に気を付けるように言ってきた。
今回、飲み物が並んでいるテーブルの前にいるのに 態々私達の分のグラスを手に持って現れた王子は不自然だった。
断り難い相手なら、相手のグラスを奪って飲み干せと教えていたからレティシアは実践した。
「娼婦はどうなった」
「怪我も性病も完治したらしい。
アレクは重度の性病持ちの娼婦を連れて来させたんだな」
「性病持ちの娼婦を指名したんだ。
客を付けてもらえないから困窮していた。治らなければクビになるしな。死ぬかもしれなかったが、娼婦は賭けに乗って見事に勝った。提示した金はちゃんと払ったよ。平民の慎ましい生活なら死ぬまで働かなくて済むだろう。怪我と性病の治療費も置いてきたしな。治ったなら良かった。
本当は、性病をうつさせて祖国に返して、あいつがばら撒けばと思ったけど、こっちに流通していない媚薬の副作用で死ぬとはな」
「レティシアは大丈夫か?」
「気付いていないよ」
「白い結婚は順調なのか?」
「ディオンはレティシアに手を付けたようだ。
シアが嫌がっていないなら制裁はできないが、キャロン領に来た時に絞ってやった」
「何したんだ?」
「ちょっと口で脅しただけだよ」
「じゃあ、本当なんだな…… あ~私の天使が!」
「言うな。あと、エリオットの天使じゃないからな」
「レティシアも連れて来たんだろう?何処にいるんだ?」
「もちろん王都のキャロン邸だよ。レイモンドの面倒を見てくれている」
「ウィルソン邸へは?」
「帰していない。レイモンドが懐いているから水入らずで過ごしているよ」
「夫人が可哀想だ。まだ帰ってこないのか?捨てられたんだろう」
「叔母夫妻の屋敷に行っていたんだ。
戻ってきたけど改良が必要だといって部屋に篭っているよ」
「何を研究しているんだ?」
「それは秘密だ」
屋敷に戻るとディオンがいた。
「何でレイモンドがレティシアの乳を吸っているんですか!」
「さあ。赤ちゃんだからじゃないか?」
「出ないんだから止めさせてください」
「奇跡的に出るようになるかもしれないだろう」
「早くレティシアをこっちに返してください」
「元々レティシアはキャロンの子だ」
「俺の妻です」
「白い結婚の約束を破ったくせに」
「愛しているんです!」
「それに、何かある。シアは言わなかったが隠しきれていない。傷付けていないのは分かったが、何を隠しているんだ?」
「愛ある夫婦生活を送っているだけです」
腹が立つから、まだまだレティシアを戻してやらないと決めていた。
だが、
「私も赤ちゃん 欲しくなっちゃうかも」
「シア?」
「この子を見ていると、そんな気になります」
「早い!駄目だ!寧ろ作らなくていい!」
夜中にレティシアの耳元で“妊娠したくない”“産みたくない”と囁き続け、レイモンドを連れて領地に戻った。
次はレイモンドを置いて1人で来よう。
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