【完結】孤独なドラゴン獣人と内気な聖獣人

ユユ

文字の大きさ
4 / 33

無口な子

しおりを挟む

翌朝、ファニアはメイドと一緒に調合室に現れた。

「おはよう、ファニア。よく眠れたかな?」

「…おはようございます」

「食事は口に合うか?」

コクン

ファニアは挨拶以外 先生の問いに頷いて答えた。

「さて、ファニアの希望が聞きたい。
どう過ごしたい?」

「……」

「無理強いはしたくないんだ。
何もしたくないならしなくていいし、他にやりたいことがあるならそれでいい。
私の仕事を手伝ってくれるのなら教えるし……もしかして本を読みたいのかな?」

コクン

「難しい本が多いぞ?」

コクン

「では図鑑の植物を覚えてみるかい?」

コクン

「一度読んだら城内の薬草園を見に行くといい。
管理者がいるから挨拶をして見せてもらいなさい」

「…はい」

「よし。ではあっちのソファで読むといい」

先生は本棚から薬草図鑑を取り、ファニアに渡した。

ファニアはソファに座り表紙を開けた。
本自体大きめの物だがファニアが膝の上に乗せていると巨大に見えた。
かなり真剣に見ている。

「ファニア。これはその薬草図鑑に載っている薬草だよ。この複数の薬草を全部使って、ある薬を作るんだ。一体何の薬を作るのかまで分かったら私のところに来て欲しい。
先ずはその図鑑を順に見ていって、薬草を見つけよう。それが終わったら別の本を貸すからね。慌てなくていいよ。何日かけてもいいからね」

コクン

ファニアが頷くと先生は頭を撫でようとしたがピタッと止め、その手を引っ込めた。潔癖症説のせいだろう。

僕は調合を許されているが、数種類しかない。
この子にもそれをやらせようというのかな。



毎朝、薬を保管するキャビネットの引き出しを覗いて記録と合っているか確認をする。今日も合っていて良かった。
鍵付きの扉が付いているキャビネットは僕は触れない。ソロン先生が毎朝確認をする。
高価な薬や毒になりうる薬が保管されている。大量に飲まないと命に関わらないとかそういうものは 僕の確認するキャビネットに。少しとか3倍4倍だと影響があったり、飲み合わせ次第で重篤になるようなものなどが鍵付きのキャビネットに保管されている。
合っていたのか、先生は扉を閉めて鍵をかけた。

そして常にあるべき数量は薬の名前と一緒に引き出しに書いてある。足りない分を補充するため調合していく。

後宮では朝の体調確認を行っている。
後宮担当の者が結果を伝えにくると、それを元に必要な薬をそろえる。求められていなくても問診の内容次第では 念のために準備をする。中には常備していないものもあるので薬草園に出向き、材料があるのか確認しておく。

薬は様々。予め用意できるものもあれば、必要なときに調合するものもある。

乾燥したものを使う場合なら、乾燥物同士に限って調剤済み在庫として保管しておける。
乾燥も天日乾燥、日陰乾燥、炙り乾燥、風乾燥など種類があり、更に乾燥具合も用途によって違う。
凍らせたものを使うこともあるし、煮出して使うこともある。
煮出して使う場合、温度や時間も関係する。乾燥させたものを使う場合 凍らせたものを使う場合 採りたてのものを使う場合があったり。
採りたてのものは、そのまま使ったり 刻んでから使ったり 擦り潰したり。

組み合わせが多すぎて、覚えるのは大変だ。
薬の材料は草だけではない。花も木の根や果実や種などもある。

そのため 図鑑や材料の取り扱いや加工方法、調合の仕方など細かい手順書を書き記した本は何冊か複製している。複製した本は何人もの人間が、挿絵や文字数字に間違いがないか何度も確認する。
業務用に2冊、勉強用に3冊常備してある。
原本は領主が管理する書物用金庫室で厳重に保管されている。

薬学医療の多くはウサギ領から伝わったもので、ウサギ領にも図鑑などはあるが、そこから本は書き足されている。
ウサギとドラゴンでは使う薬も治療の仕方も違うことがある。ウサギ領では使わない薬草もドラゴン領では必要だったりすることもある。
ドラゴン領にある書籍はウサギ領とドラゴン領の情報を合わせながら改版していったもので、ウサギ領の領主が一冊だけ受け取り保管している。
ドラゴン達にとって弱点を書き記した本でもある。ドラゴンの身体に合わない薬草もあるため、それを知られたら 今の統治に不満を持った他領の獣人族が悪用するかもしれない。だから取り扱いは厳重だ。

「イベリタ妃には排泄を促す薬湯を用意することになりそうだ。材料が足りるか確認しておいてくれ」

「分かりました」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

処理中です...