【完結】孤独なドラゴン獣人と内気な聖獣人

ユユ

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6年目

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あの頃とは違って僕は成長した。
食事が美味しくて穏やかな環境のおかげで食欲旺盛になった。身長がよく伸び肉付きもいい。

ウサギ獣人のすばしっこさや脚力は敵わないが腕力は僕の方が優れていた。だから休みの日は力仕事を手伝ったり、老ウサギ獣人の家に行き荷物整理とか掃除などのお手伝いをした。今では子ウサギ獣人の動く玩具にもなっている。

その環境は長い駆け引きで得たものだ。
2年生になってようやくウサギ獣人のクラスメイトが話しかけてくるようになった。それまでひたすら関わらないよう気を付けた。困っていたら手を貸すけど僕でなくてもいいときは放っておいた。
じっと我慢した。

3年生では勉強会に混ぜてもらうことができた。
4年生では休みの日に町に行こうと誘われることもあり、5年生では奉仕活動に加わった。
ウサギ領では孤児院は1つしかない。親に死なれたり病気や経済的な理由で養育出来なくなった子どもは親戚がいなければ孤児院で受け入れるが直ぐに里親が決まる。多産種族だから余裕のある家庭では1人や2人増えたところで変わらないという考えがある。
だから孤児院にはどこかに預けられるのを拒む子か、孤児院にきたときに既に成長していて独立が近い子が残っている。
最初は小さい子に泣かれたが、小さい子の方が好奇心旺盛で切り替えが早く、僕がうつ伏せになると乗ってきた。何人乗れるか挑戦したり獣化して飛び越えたり毛繕いを要求したり。
たくさん遊んであげた後はおやつをみんなで食べた。
孤児院に受け入れられると、違う奉仕活動に誘われるようになった。

順調に5年で卒業したのだけど 研究室に入れてもらえた。父上が許可してくれたので6年目を研究室で過ごしている。

僕が作りたい薬は、素質を持った者の獣化を促す薬と、死産を防ぐ薬だ。
だけど研究室の室長の話では、どの過程に問題があるのか分からない以上 死産を防ぐ薬は難しいと言われた。精子のせいか卵子のせいか胎の中で何かが起きるせいなのか。
でも僕は、あのときのお務め様の悲しい鳴き声が今でも耳に残っていて、思い起こす度に胸が締め付けられる。
毎日大切に温めていたであろう母上も 卵の中で我が子が死んでいたなんて、ショックだったに違いない。

そしてその薬は銀目に頼らず作らねばならない。

治癒の力を持った銀目はいるにはいるが、大抵は微々たる力だ。書類で切った指の皮膚を治す程度しかない。
大怪我を治せる銀目のうち 1人しか活動している銀目はいない。
命に関わるほどの大怪我を治癒できる銀目は聖獣人と崇められている。どの銀目にも治癒を強要することはできない。
王様と領主のみ頼むことはできるが、叶えるかどうかは聖獣人次第だ。実際に断られることの方が多いらしい。特に繁殖子育て中は。

僕を治してくれた銀目の聖獣人は王様が口説いて後宮入りをした。気性が荒いと聞いていたけど、何故僕を助けてくれたのか いまだにわからない。



「エリアスくん。更新を確認しておいて」

「分かりました」

薬草栽培や器具に関する連絡事項や、薬効の追加など薬学に関する告知は最初に掲示板に貼り出される。

ある薬草がうまく育たず生産が少ないだとか、器具の改良があり 次からは新しい器具が納品されるだとか、薬草Aと薬草Bの掛け合わせは副作用があると分かったとか、薬草Kはある病気に有効だとか 薬草Nには別の効果があったとか。


昼休憩に掲示板を見ると、整腸薬に使われる薬草の一つが鎮痛薬との相性が悪いことが判明したようだ。
鎮痛薬と同時に服用させる場合は、該当の薬草を別の類似薬草に変えて調合した整腸薬を処方するように…という内容だった。

「え?」

この類似薬草は、以前ファニアが僕に持って来た薬草じゃないか?
あのときは…整腸薬の調合をしていた?
記憶が曖昧でなんとも言えず、すぐに気にしなくなった。


だけど数ヶ月後、また似たようなことが起きた。
掲示板を見ると、調合割合の変更だった。ある薬草を少し多く配合させると書いてある。

「まさか…」

これもファニアが持って来た薬草だった気がする。

僕は現実を受け入れきれず、偶然だと思うことにした。




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