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初めての悪いウサギ獣人
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院長室に到着すると、院長はまず僕に事情を聞いた。
カルティナの求婚を断った話、ティールームでの話、その後の研究室への嫌がらせの話、そしてさっきの会話を包み隠すことなく話した。
「というわけで、今朝方 退学届を出しました。
研究室の業務に影響がある以上、僕はここにいることはできません。いつかは戻るつもりでしたのでこれもきっかけとして受け入れようと思います。お世話になりました」
「内科部長、本当か?」
「そんなわけがありません。何かの誤解です」
「ですが、内科からの書類はどんどん遅れて新しい実験も忙しいから延期と通達がありました。だから室長が外科にお願いをしたのです」
「バリーくん、内科に行って聞き取り調査をしてくれ。キャロンくん、研究室に行って聞き取り調査をしてくれ」
「「かしこまりました」」
「なっ!院長!?」
「両者の主張が違っている以上、調査は当たり前だ。終わるまでこの部屋から出ることは許さない」
「し、診察が…」
「内科は忙しいと言ったな。では君の代わりに私が患者を診ようか?」
「っ!そこまででは…」
「では大人しく待っていなさい」
院長は待っている間中、僕にドラゴン領のことを聞いていた。
2時間が経とうとした頃、院長の部下2人が戻って来た。
「キャロンくん、研究室はどうだった?」
「確かに、エリアス君がティールームで内科部長と会った日以降に、突然内科からの投薬結果も毎週遅れています。先週分は未だに出ていません。
そして、新たな治験は忙しいという理由で延期するという通知が届いておりました」
「なるほど。バリーくん、内科はどうだった?」
「欠員も休職している者もおらず、通常よりは患者が少ない状態でした。
投薬結果は既に仕上がっていて、何故研究室に提出しないのか問い詰めたところ、内科部長の指示だと4名の医師と10名以上の助手から証言を得ました。指摘する者もいたようですが、“生意気な若造を指導しているだけだから、長くはしない”と内科部長から言われたそうです」
「何かの間違いです!」
「内科部長」
「は、はい」
「今日付けで内科部長の任を解いて異動を命じる」
「え?」
「ヘルぺトンの診療所の助手を任せる」
「そんなっ!ヘルぺトンはヘビ領との領境にある町の診療所じゃないですか!」
「そうだ」
「あんまりです!」
「ここは公営だから、不正があれば犯罪として処罰される。故意に業務を妨害した罪で3年間ヘルぺトンでの仕事を命じる。
助手は外に薬草を探しに行く役目もあるからヘビには気を付けたまえ」
「院長!」
「彼はウサギ領を守ってくれているドラゴン獣人族の領主の息子だ。しかも授業料 滞在費の他に寄付金も払ってウサギ領に残って働いてくれているんだ。学生扱いだから給料も出していないんだぞ」
「っ!」
「彼らが守ってくれなければ多くの死者が出るんだぞ!
3年しっかり働いた後は退職して好きなところへ行くといい。さぼったり指示に従わないときは蛇の谷へ連れて行かせるからな」
「院長、どうかご慈悲を…内科部長として心を入れ替えますから」
「君は内科の者達に、そういうことをしてもいいと思わせてしまった。ここで厳しく罰しなければ示しがつかない。それとも何年も牢に繋がれるか?当然給料は出ないぞ。妻と子供達は田舎に引っ込むしかあるまい」
「っ!」
「それとカルティナだったか。
そんなにドラゴン獣人と結婚したいのなら望みを叶えてやろう」
「え?」
「娘カルティナをドラゴン領に連れて行き、嫁を欲しがっているドラゴン獣人に嫁がせよう」
「そんな!娘は、娘はただ」
「しっかり断ったのに 父親を連れて結婚を迫るほどだ。君の娘は内科で看護をしていて父親が何をしているのか知っていて何もしなかった。好きな相手にそんなことをするはずがない。ドラゴン獣人にこだわっていたのだろう?」
「カルティナはそんなつもりは、」
「ん?どんなつもりだと言うんだ?」
「っ!!」
「言っておくが、エリアス君は獣化せずとも我らより強いんだ。彼が理性的なドラゴン獣人で命拾いしたな。さあ、警備に付き添わせるから職場の私物を纏めるといい。そのまま君の家に行って支度をさせてヘルぺトンへ送ろう」
「どうか、どうかお許しください!」
「駄目だ」
院長が合図を送ると警備が元内科部長を連れて行った。
「すまなかったね。
室長のところに一緒に行こうか」
「は、はい」
院長ってすごい権限があるんだなと思っていたら、院長が内科に向かった後に室長が教えてくれた。
「院長先生は元領主様だよ。
その前の領主様が急に亡くなって、医者をしていた院長先生が数年中継ぎをしたんだ。今の領主様が継げるくらい成長するまで。
譲った後も院長をしながらああやって取り締まっているんだ。今でも病院と学校に限っては院長が取り締まっているんだよ。
内科部長も知っていたはずなのにね。
院長はかなり厳しい人で、罰するときは容赦なく罰する。例え今まで内科部長を務めていたとしても」
「そうなのですね。
カルティナは本当にドラゴン領に連れて行かれて結婚させるのでしょうか」
「院長がそう言ったのなら間違いない。先方に拒否されたら父親と同じ職場に向かわせるかもしれないな」
すぐに内科部長とカルティナの処遇は掲示板に貼り出された。そして次の内科部長が即、元通りにして治験は再開した。
カルティナの求婚を断った話、ティールームでの話、その後の研究室への嫌がらせの話、そしてさっきの会話を包み隠すことなく話した。
「というわけで、今朝方 退学届を出しました。
研究室の業務に影響がある以上、僕はここにいることはできません。いつかは戻るつもりでしたのでこれもきっかけとして受け入れようと思います。お世話になりました」
「内科部長、本当か?」
「そんなわけがありません。何かの誤解です」
「ですが、内科からの書類はどんどん遅れて新しい実験も忙しいから延期と通達がありました。だから室長が外科にお願いをしたのです」
「バリーくん、内科に行って聞き取り調査をしてくれ。キャロンくん、研究室に行って聞き取り調査をしてくれ」
「「かしこまりました」」
「なっ!院長!?」
「両者の主張が違っている以上、調査は当たり前だ。終わるまでこの部屋から出ることは許さない」
「し、診察が…」
「内科は忙しいと言ったな。では君の代わりに私が患者を診ようか?」
「っ!そこまででは…」
「では大人しく待っていなさい」
院長は待っている間中、僕にドラゴン領のことを聞いていた。
2時間が経とうとした頃、院長の部下2人が戻って来た。
「キャロンくん、研究室はどうだった?」
「確かに、エリアス君がティールームで内科部長と会った日以降に、突然内科からの投薬結果も毎週遅れています。先週分は未だに出ていません。
そして、新たな治験は忙しいという理由で延期するという通知が届いておりました」
「なるほど。バリーくん、内科はどうだった?」
「欠員も休職している者もおらず、通常よりは患者が少ない状態でした。
投薬結果は既に仕上がっていて、何故研究室に提出しないのか問い詰めたところ、内科部長の指示だと4名の医師と10名以上の助手から証言を得ました。指摘する者もいたようですが、“生意気な若造を指導しているだけだから、長くはしない”と内科部長から言われたそうです」
「何かの間違いです!」
「内科部長」
「は、はい」
「今日付けで内科部長の任を解いて異動を命じる」
「え?」
「ヘルぺトンの診療所の助手を任せる」
「そんなっ!ヘルぺトンはヘビ領との領境にある町の診療所じゃないですか!」
「そうだ」
「あんまりです!」
「ここは公営だから、不正があれば犯罪として処罰される。故意に業務を妨害した罪で3年間ヘルぺトンでの仕事を命じる。
助手は外に薬草を探しに行く役目もあるからヘビには気を付けたまえ」
「院長!」
「彼はウサギ領を守ってくれているドラゴン獣人族の領主の息子だ。しかも授業料 滞在費の他に寄付金も払ってウサギ領に残って働いてくれているんだ。学生扱いだから給料も出していないんだぞ」
「っ!」
「彼らが守ってくれなければ多くの死者が出るんだぞ!
3年しっかり働いた後は退職して好きなところへ行くといい。さぼったり指示に従わないときは蛇の谷へ連れて行かせるからな」
「院長、どうかご慈悲を…内科部長として心を入れ替えますから」
「君は内科の者達に、そういうことをしてもいいと思わせてしまった。ここで厳しく罰しなければ示しがつかない。それとも何年も牢に繋がれるか?当然給料は出ないぞ。妻と子供達は田舎に引っ込むしかあるまい」
「っ!」
「それとカルティナだったか。
そんなにドラゴン獣人と結婚したいのなら望みを叶えてやろう」
「え?」
「娘カルティナをドラゴン領に連れて行き、嫁を欲しがっているドラゴン獣人に嫁がせよう」
「そんな!娘は、娘はただ」
「しっかり断ったのに 父親を連れて結婚を迫るほどだ。君の娘は内科で看護をしていて父親が何をしているのか知っていて何もしなかった。好きな相手にそんなことをするはずがない。ドラゴン獣人にこだわっていたのだろう?」
「カルティナはそんなつもりは、」
「ん?どんなつもりだと言うんだ?」
「っ!!」
「言っておくが、エリアス君は獣化せずとも我らより強いんだ。彼が理性的なドラゴン獣人で命拾いしたな。さあ、警備に付き添わせるから職場の私物を纏めるといい。そのまま君の家に行って支度をさせてヘルぺトンへ送ろう」
「どうか、どうかお許しください!」
「駄目だ」
院長が合図を送ると警備が元内科部長を連れて行った。
「すまなかったね。
室長のところに一緒に行こうか」
「は、はい」
院長ってすごい権限があるんだなと思っていたら、院長が内科に向かった後に室長が教えてくれた。
「院長先生は元領主様だよ。
その前の領主様が急に亡くなって、医者をしていた院長先生が数年中継ぎをしたんだ。今の領主様が継げるくらい成長するまで。
譲った後も院長をしながらああやって取り締まっているんだ。今でも病院と学校に限っては院長が取り締まっているんだよ。
内科部長も知っていたはずなのにね。
院長はかなり厳しい人で、罰するときは容赦なく罰する。例え今まで内科部長を務めていたとしても」
「そうなのですね。
カルティナは本当にドラゴン領に連れて行かれて結婚させるのでしょうか」
「院長がそう言ったのなら間違いない。先方に拒否されたら父親と同じ職場に向かわせるかもしれないな」
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