12 / 15
貴族からの依頼
リヴォン家を出て、エクラに移り住んで1年。今では修復の腕を見込まれて、たまに高価な品の依頼まで請け負うようになってしまった。
基本的にはエクラの町の人だけではなくオプリード領民を優先したいから貴族の依頼は受け付けていない。質屋を経営するダニエルさんの店先に、“平民専門・修復屋リラ”と小さな看板を出している。だけど人伝に評判を聞いて貴族が依頼を出しに来る。
その場合は約束の日を決めて私が直接会うことにしている。今日もその日だ。
「……では、この依頼料ならお引き受けいたします」
「なっ! 何でこんなに高いの! 倍以上するじゃないの!」
「何故相場をご存知で?」
「い、一度他所に見せて修復が難しいと言われたと言ったじゃないの」
出来ないと断られたのなら値段の提示をされるわけがない。やっぱり嘘をついていたのね。
「近くのお店をご紹介いたします。そこでしたら修理は可能です。修復をお求めでしたら領都の、」
「私はあなたに頼んでいるのよ!」
「私は平民専門の修復士です。他の修復士が直せる貴族所有の物を扱うことはございません」
「何で貴族だからと差別するのよ!」
「いいえ。貴族の皆様が“貴族専用”と区別をなさっていますので、私もそれにならっているだけです」
「私を誰だと思っているの!」
「サジス男爵夫人です」
「生意気なっ!」
男爵夫人は立ち上がり、私の頬を打とうと手を振り上げた。
瞼をギュッと瞑り歯を食いしばった。
「い、痛い! 何をするの‼︎」
瞼をあけると夫人の手首をオスカーさんが掴んで後ろに捻り上げていた。
「リラ、そのまま座っていろ」
「え? ……はい」
彼は夫人の腕を捻り上げたまま店の外に出た。
どうしようと焦っていると、オスカーさんはすぐ戻ってきた。
「あの……夫人は?」
「お帰りいただいたよ。納得して帰ったから大丈夫」
「……」
「本当だ」
そう言ってオスカーさんはダニエルさんに合図を送った。
「やっぱり、外で会えばよかったですね」
「何故だ」
「ダニエルさんのお店に迷惑じゃないですか」
「俺達が見守っているからリラは安全なんだ。今後も貴族を断るときは質屋で会う約束をするように。それ以外は許可できない」
許可って……。
「パパ?」
「何でだよ」
「ふふっ、本当に仲がいいのね」
「ソニアさん、お騒がせしてすみません」
ダニエルさんの奥さんのソニアさんがティーカップを片付けた。
「いいのよ。うちは手数料を貰っているのだから。
でもさっきの男爵夫人の依頼を断って良かったの?
稼げたんじゃないの?」
「夫人には宝飾品店に持っていけば修復にかかるであろう代金の3倍を提示しました。すぐに反応したので、一度他のお店で見積額を告げられたはずです。多分、宝飾品店で修復を頼むより 平民専門の私に依頼をすれば安く済むと思ったのでしょう。それって、貴族が平民から搾取していることになりますよね? 貴族のあるべき姿ではありません」
「リラちゃんは貴族出身だから許せないのね」
「はい。それにもしかしたら、難癖付けて代金を支払わなかった可能性も捨てきれません。だからお断りしました。頬を叩かれるくらい平気です。オスカーさんに叩かれたら死んじゃいそうですけど、夫人なら明日には治りますから。それに、私は普通に暮らせれば満足です。老後や病気のときの蓄えさえあれば十分ですから」
「リラちゃんは欲がないのね」
「ありますよ。今回もソニアさんのお菓子を食べに来たみたいなものですから」
「ちゃんと作ってあるわよ。夕飯も食べて行きなさい」
「いいんですか!」
「ええ。息子もリラちゃんのファンだから」
「それ、俺もお邪魔していいですよね」
「もちろんよ」
オスカーさんをチラッと見ると少し不機嫌そうだった。
1時間後、もう一人の貴族のお客様と会った。
「すまないな。いくつかの工房に頼んではみたのだが、買い直せとしか言わないんだ」
「拝見いたします」
包みを開けるとボロボロのナイフが出てきた。
そしてもう1つナイフを置いた。
これは修復の材料に使うためのナイフだ。
「曽祖父の形見なんだ。このままでもいいのかもしれないが、ボロボロの剣も修復出来ると聞いたら諦めきれなくて。同じ素材の物を用意したんだが刃を入れ替えるのか?」
「修復です。……条件があります」
「言ってくれ」
「この町で1つナイフを買ってください」
「これじゃ駄目なのか?」
「普通なら困難な品を私が直すことで、買い替えという機会を奪い、商売人の足を引っ張ってしまいます。お客様は貴族の方ですので1本ナイフを買うくらいの余裕はありますよね?」
「どんなナイフでも構わないか?」
「はい。できれば貴方の護衛騎士に持たせたい剣を想像してご購入ください」
そういうと、依頼主は小さく笑った。
「わかった。引き取りまでに買っておく。いつ仕上がる?」
「来週、こちらにいらしてくだされば店主がお渡しします」
「いや、君から直接手渡してもらいたい。確認もしなくてはならないからな」
「……」
「言いがかりなどつけたりしないし、修復できなかったとしても代金はちゃんと支払おう」
「わかりました。来週のこの時間にお越しください」
「リラ嬢、助かったよ、ありがとう。私の名はアレン・ランカーだ。では失礼する」
「お気を付けて」
依頼人が店を出たので椅子に座り緊張を解いた。ランカー家といえば代々近衞騎士を輩出している名門侯爵家。騎士団長だった方もいたような。
「リラ」
「はい」
「俺はおまえを叩いたりしない」
テーブル席に座る私の横に立ったオスカーさんの顔は真剣だ。
「あれは例えですよ」
「例えでも嫌だ」
「……ごめんなさい」
「わかってくれたらいい」
オスカーさん、少しピリピリしてる?
基本的にはエクラの町の人だけではなくオプリード領民を優先したいから貴族の依頼は受け付けていない。質屋を経営するダニエルさんの店先に、“平民専門・修復屋リラ”と小さな看板を出している。だけど人伝に評判を聞いて貴族が依頼を出しに来る。
その場合は約束の日を決めて私が直接会うことにしている。今日もその日だ。
「……では、この依頼料ならお引き受けいたします」
「なっ! 何でこんなに高いの! 倍以上するじゃないの!」
「何故相場をご存知で?」
「い、一度他所に見せて修復が難しいと言われたと言ったじゃないの」
出来ないと断られたのなら値段の提示をされるわけがない。やっぱり嘘をついていたのね。
「近くのお店をご紹介いたします。そこでしたら修理は可能です。修復をお求めでしたら領都の、」
「私はあなたに頼んでいるのよ!」
「私は平民専門の修復士です。他の修復士が直せる貴族所有の物を扱うことはございません」
「何で貴族だからと差別するのよ!」
「いいえ。貴族の皆様が“貴族専用”と区別をなさっていますので、私もそれにならっているだけです」
「私を誰だと思っているの!」
「サジス男爵夫人です」
「生意気なっ!」
男爵夫人は立ち上がり、私の頬を打とうと手を振り上げた。
瞼をギュッと瞑り歯を食いしばった。
「い、痛い! 何をするの‼︎」
瞼をあけると夫人の手首をオスカーさんが掴んで後ろに捻り上げていた。
「リラ、そのまま座っていろ」
「え? ……はい」
彼は夫人の腕を捻り上げたまま店の外に出た。
どうしようと焦っていると、オスカーさんはすぐ戻ってきた。
「あの……夫人は?」
「お帰りいただいたよ。納得して帰ったから大丈夫」
「……」
「本当だ」
そう言ってオスカーさんはダニエルさんに合図を送った。
「やっぱり、外で会えばよかったですね」
「何故だ」
「ダニエルさんのお店に迷惑じゃないですか」
「俺達が見守っているからリラは安全なんだ。今後も貴族を断るときは質屋で会う約束をするように。それ以外は許可できない」
許可って……。
「パパ?」
「何でだよ」
「ふふっ、本当に仲がいいのね」
「ソニアさん、お騒がせしてすみません」
ダニエルさんの奥さんのソニアさんがティーカップを片付けた。
「いいのよ。うちは手数料を貰っているのだから。
でもさっきの男爵夫人の依頼を断って良かったの?
稼げたんじゃないの?」
「夫人には宝飾品店に持っていけば修復にかかるであろう代金の3倍を提示しました。すぐに反応したので、一度他のお店で見積額を告げられたはずです。多分、宝飾品店で修復を頼むより 平民専門の私に依頼をすれば安く済むと思ったのでしょう。それって、貴族が平民から搾取していることになりますよね? 貴族のあるべき姿ではありません」
「リラちゃんは貴族出身だから許せないのね」
「はい。それにもしかしたら、難癖付けて代金を支払わなかった可能性も捨てきれません。だからお断りしました。頬を叩かれるくらい平気です。オスカーさんに叩かれたら死んじゃいそうですけど、夫人なら明日には治りますから。それに、私は普通に暮らせれば満足です。老後や病気のときの蓄えさえあれば十分ですから」
「リラちゃんは欲がないのね」
「ありますよ。今回もソニアさんのお菓子を食べに来たみたいなものですから」
「ちゃんと作ってあるわよ。夕飯も食べて行きなさい」
「いいんですか!」
「ええ。息子もリラちゃんのファンだから」
「それ、俺もお邪魔していいですよね」
「もちろんよ」
オスカーさんをチラッと見ると少し不機嫌そうだった。
1時間後、もう一人の貴族のお客様と会った。
「すまないな。いくつかの工房に頼んではみたのだが、買い直せとしか言わないんだ」
「拝見いたします」
包みを開けるとボロボロのナイフが出てきた。
そしてもう1つナイフを置いた。
これは修復の材料に使うためのナイフだ。
「曽祖父の形見なんだ。このままでもいいのかもしれないが、ボロボロの剣も修復出来ると聞いたら諦めきれなくて。同じ素材の物を用意したんだが刃を入れ替えるのか?」
「修復です。……条件があります」
「言ってくれ」
「この町で1つナイフを買ってください」
「これじゃ駄目なのか?」
「普通なら困難な品を私が直すことで、買い替えという機会を奪い、商売人の足を引っ張ってしまいます。お客様は貴族の方ですので1本ナイフを買うくらいの余裕はありますよね?」
「どんなナイフでも構わないか?」
「はい。できれば貴方の護衛騎士に持たせたい剣を想像してご購入ください」
そういうと、依頼主は小さく笑った。
「わかった。引き取りまでに買っておく。いつ仕上がる?」
「来週、こちらにいらしてくだされば店主がお渡しします」
「いや、君から直接手渡してもらいたい。確認もしなくてはならないからな」
「……」
「言いがかりなどつけたりしないし、修復できなかったとしても代金はちゃんと支払おう」
「わかりました。来週のこの時間にお越しください」
「リラ嬢、助かったよ、ありがとう。私の名はアレン・ランカーだ。では失礼する」
「お気を付けて」
依頼人が店を出たので椅子に座り緊張を解いた。ランカー家といえば代々近衞騎士を輩出している名門侯爵家。騎士団長だった方もいたような。
「リラ」
「はい」
「俺はおまえを叩いたりしない」
テーブル席に座る私の横に立ったオスカーさんの顔は真剣だ。
「あれは例えですよ」
「例えでも嫌だ」
「……ごめんなさい」
「わかってくれたらいい」
オスカーさん、少しピリピリしてる?
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の白銀の指輪
夜桜
恋愛
公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。
婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。
違和感を感じたエリザ。
彼女には貴金属の目利きスキルがあった。
直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい
キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。
妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。
そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。
だけどそれは、彼女の求めた展開だった。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
知らない結婚
鈴木葵
恋愛
親が決めた相手と11歳の時に結婚した伯爵令嬢、エマ。しかし16歳になっても、いまだに一度も夫に会った事がない。よほど妻に興味がないのか、例えそうだとしても社交界へデビューする日にはエスコートしてくれるはずだと思った。けれど他の女性をエスコートするからと断られてしまう。それに耐えかねて夫の領地まで会いに行けば、宿屋の軒先で女の人と揉めている夫とばったり出会ってしまい……。
[完結]裏切りの果てに……
青空一夏
恋愛
王都に本邸を構える大商会、アルマード男爵家の一人娘リリアは、父の勧めで王立近衛騎士団から引き抜かれた青年カイルと婚約する。
彼は公爵家の分家筋の出身で、政争で没落したものの、誇り高く優秀な騎士だった。
穏やかで誠実な彼に惹かれていくリリア。
だが、学園の同級生レオンのささやいた一言が、彼女の心を揺らす。
「カイルは優しい人なんだろ? 君が望めば、何でもしてくれるはずさ。
でも、それは――仕事だからだよ。結婚も仕事のうちさ。
だって、雇い主の命令に逆らえないでしょ?
君に好意がなくても、義務でそうするんだ」
その言葉が頭から離れないリリアは、カイルの同僚たちに聞き込み、彼に病気の家族がいると知った。「治療費のために自分と結婚するの?」 そう思い込んだリリアに、父母がそろって事故死するという不幸が襲う。
レオンはリリアを惑わし、孤立させ、莫大な持参金を持って自分の元へ嫁ぐように仕向けるのだった。
だが、待っていたのは愛ではなく、孤独と裏切り。
日差しの差さない部屋に閉じ込められ、心身を衰弱させていくリリア。
「……カイル、助けて……」
そう呟いたとき。動き出したのは、かつて彼女を守ると誓った男――カイル・グランベルだった。そしてリリアも自らここを抜けだし、レオンを懲らしめてやろうと決意するようになり……
今、失われた愛と誇りを取り戻す物語が始まる。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します
ヨルノソラ
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。