1 / 19
逢瀬
しおりを挟む“レヴリー”は恋人達の逢瀬の館。
一泊か、休憩3時間かを選ぶことができる。
愛人との逢瀬や一夜限りの男女も利用する。
だが俺は成人してから一室を専属契約していた。
「アンジェル」
「ディオン様」
「今日は朝までご一緒できますの?」
「夜に帰らないと」
「寂しいですわ」
「すまないな。後3年1ヶ月待ってくれ」
「約束の証にリスフィユ伯爵令嬢よりも大きな宝石の付いた指輪をくださいませ。ディオン様の愛があるのは私だと感じ取りたいのです」
「分かった。今度見に行こう」
「嬉しいですわ」
プリムヴェル子爵家の長女アンジェルとは3ヶ月前から交際をしている。今まで何人かと交際してきたが、何回か体を重ねると飽きてしまった。だがアンジェルとはまだ続いている。時々貴族令嬢らしくない部分を見せるところに面白みを感じていた。
アンジェルを正妻にするには家格的に難しいし、我がロテュス侯爵家にとってプリムヴェル家との婚姻は旨みが無い。それに俺には1ヶ月後に婚姻を控えた婚約者がいる。リスフィユ伯爵家の次女ミアーナだ。父上が纏めた縁談だった。
リスフィユ伯爵家は王家や公爵家に何度も娘を送り出している。安定した家門でもあり美貌の伯爵家としても有名だ。ミアーナの姉は隣国の王太子妃になったばかり。兄は婚約者がいるにも関わらず ずっと王女が付き纏っていたほどの美男子だ。
友人達はミアーナと婚姻出来ることを羨ましいと口々に言うが あのキツそうな美人は俺の好みではない。ツンとすましていて他の令嬢達のように愛想が無い。俺が18歳 ミアーナが16歳の時に婚約して以来、月に1度の交流も俺と目を合わさない。きっと彼女も乗り気では無いのだろう。
ミアーナとの婚姻は決まったことで覆らない。だから18歳になり成人すると社交に出て恋人を作った。一夜限りの女も少なくない。
屋敷に戻り湯を浴びた。
3年後までアンジェルを飽きずに抱けるだろうか。
飽きてしまったら妾に迎える意味がない。あまり会いすぎるのも良くないかもしれない。
いざというときの慰謝料となるよう大きな宝石の付いた指輪を買い与えよう。
婚姻数日前になると侯爵邸はミアーナを迎え入れる準備の仕上げをしていた。
「あの、本当に若奥様のお部屋はあの場所でよろしいのでしょうか」
「別に夫婦の間の続き部屋を使わせなくてはならないわけではない。あそこだって良い部屋だろう」
「大旦那様が…」
「父上は常に領地にいるし、ミアーナの部屋を確認なんかしないだろう。お前達が漏らさなければ済む話だ。全て高級品で揃えたのだろう?景色もいいし部屋も広い。後はお前達がちゃんと持て成せばいい」
「かしこまりました」
ミアーナを孕ませるつもりはない。3年不妊にしてアンジェルを妾に迎えるつもりだ。アンジェルもそのつもりで待っている。
婚前契約書に先日署名させた。
ミアーナの顔が少し曇った気がしたが、文句言わずに署名した。
ロテュス侯爵家のルールに従い、夫に干渉しないこと。子作りは月に1度。社交と来客と両親への対応は妻として完璧に務めること。それ以外は自由にしていいというものだ。
“節度を守れば恋人も作って構わない”
そう告げると俺を見た。初めて表情を変えた。ほんの一瞬。俺はそれを“歓喜”だと受け取った。ミアーナの異性関係の噂は聞いたことが無いが、もう既に男がいるのかもしれない。
婚姻3日前、アンジェルを連れて宝飾店を訪ねた。
大きめの石の指輪をいくつか持ってきてくれと言うと5~10ctの宝石を用意された。
10ctだと色付きで高い石ではないが大きさ故に値は張る。
「ディオン様、これにします」
アンジェルが選んだのは10ctの桃色の石だった。
「ではこれをもらおう」
「ありがとうございます。指のサイズを測らせていただきます」
既にある台座に嵌め込み、直ぐにアンジェルの指に通した。大喜びではしゃいでいた。
帰りはレヴリーに寄って体を重ねた。
「もうすぐディオン様はリスフィユ伯爵令嬢と初夜を迎えるのですね」
「義務で抱くだけだ」
「それでも…ディオン様が令嬢のナカで果てると思うと」
「外に出したらバレるだろう」
「では、口付けはしないでくださいね」
「する気になるわけがない」
「リスフィユ伯爵令嬢の指輪の宝石はどのくらい大きいのですか」
「1ctを真ん中にして、小さな石も付けたものだ」
「小さな石?」
「全部合わせても2ctを少し超える程度だ」
「終わったら共寝なんてしないでくださいね」
「直ぐに自室に戻って洗い流すよ。そろそろ帰ろう」
「次はいつ会えますか」
「連絡するよ」
アンジェルを送って屋敷に戻った。
一泊か、休憩3時間かを選ぶことができる。
愛人との逢瀬や一夜限りの男女も利用する。
だが俺は成人してから一室を専属契約していた。
「アンジェル」
「ディオン様」
「今日は朝までご一緒できますの?」
「夜に帰らないと」
「寂しいですわ」
「すまないな。後3年1ヶ月待ってくれ」
「約束の証にリスフィユ伯爵令嬢よりも大きな宝石の付いた指輪をくださいませ。ディオン様の愛があるのは私だと感じ取りたいのです」
「分かった。今度見に行こう」
「嬉しいですわ」
プリムヴェル子爵家の長女アンジェルとは3ヶ月前から交際をしている。今まで何人かと交際してきたが、何回か体を重ねると飽きてしまった。だがアンジェルとはまだ続いている。時々貴族令嬢らしくない部分を見せるところに面白みを感じていた。
アンジェルを正妻にするには家格的に難しいし、我がロテュス侯爵家にとってプリムヴェル家との婚姻は旨みが無い。それに俺には1ヶ月後に婚姻を控えた婚約者がいる。リスフィユ伯爵家の次女ミアーナだ。父上が纏めた縁談だった。
リスフィユ伯爵家は王家や公爵家に何度も娘を送り出している。安定した家門でもあり美貌の伯爵家としても有名だ。ミアーナの姉は隣国の王太子妃になったばかり。兄は婚約者がいるにも関わらず ずっと王女が付き纏っていたほどの美男子だ。
友人達はミアーナと婚姻出来ることを羨ましいと口々に言うが あのキツそうな美人は俺の好みではない。ツンとすましていて他の令嬢達のように愛想が無い。俺が18歳 ミアーナが16歳の時に婚約して以来、月に1度の交流も俺と目を合わさない。きっと彼女も乗り気では無いのだろう。
ミアーナとの婚姻は決まったことで覆らない。だから18歳になり成人すると社交に出て恋人を作った。一夜限りの女も少なくない。
屋敷に戻り湯を浴びた。
3年後までアンジェルを飽きずに抱けるだろうか。
飽きてしまったら妾に迎える意味がない。あまり会いすぎるのも良くないかもしれない。
いざというときの慰謝料となるよう大きな宝石の付いた指輪を買い与えよう。
婚姻数日前になると侯爵邸はミアーナを迎え入れる準備の仕上げをしていた。
「あの、本当に若奥様のお部屋はあの場所でよろしいのでしょうか」
「別に夫婦の間の続き部屋を使わせなくてはならないわけではない。あそこだって良い部屋だろう」
「大旦那様が…」
「父上は常に領地にいるし、ミアーナの部屋を確認なんかしないだろう。お前達が漏らさなければ済む話だ。全て高級品で揃えたのだろう?景色もいいし部屋も広い。後はお前達がちゃんと持て成せばいい」
「かしこまりました」
ミアーナを孕ませるつもりはない。3年不妊にしてアンジェルを妾に迎えるつもりだ。アンジェルもそのつもりで待っている。
婚前契約書に先日署名させた。
ミアーナの顔が少し曇った気がしたが、文句言わずに署名した。
ロテュス侯爵家のルールに従い、夫に干渉しないこと。子作りは月に1度。社交と来客と両親への対応は妻として完璧に務めること。それ以外は自由にしていいというものだ。
“節度を守れば恋人も作って構わない”
そう告げると俺を見た。初めて表情を変えた。ほんの一瞬。俺はそれを“歓喜”だと受け取った。ミアーナの異性関係の噂は聞いたことが無いが、もう既に男がいるのかもしれない。
婚姻3日前、アンジェルを連れて宝飾店を訪ねた。
大きめの石の指輪をいくつか持ってきてくれと言うと5~10ctの宝石を用意された。
10ctだと色付きで高い石ではないが大きさ故に値は張る。
「ディオン様、これにします」
アンジェルが選んだのは10ctの桃色の石だった。
「ではこれをもらおう」
「ありがとうございます。指のサイズを測らせていただきます」
既にある台座に嵌め込み、直ぐにアンジェルの指に通した。大喜びではしゃいでいた。
帰りはレヴリーに寄って体を重ねた。
「もうすぐディオン様はリスフィユ伯爵令嬢と初夜を迎えるのですね」
「義務で抱くだけだ」
「それでも…ディオン様が令嬢のナカで果てると思うと」
「外に出したらバレるだろう」
「では、口付けはしないでくださいね」
「する気になるわけがない」
「リスフィユ伯爵令嬢の指輪の宝石はどのくらい大きいのですか」
「1ctを真ん中にして、小さな石も付けたものだ」
「小さな石?」
「全部合わせても2ctを少し超える程度だ」
「終わったら共寝なんてしないでくださいね」
「直ぐに自室に戻って洗い流すよ。そろそろ帰ろう」
「次はいつ会えますか」
「連絡するよ」
アンジェルを送って屋敷に戻った。
1,474
お気に入りに追加
2,292
あなたにおすすめの小説

真実の愛の取扱説明
ましろ
恋愛
「これは契約結婚だ。私には愛する人がいる。
君を抱く気はないし、子供を産むのも君ではない」
「あら、では私は美味しいとこ取りをしてよいということですのね?」
「は?」
真実の愛の為に契約結婚を持ち掛ける男と、そんな男の浪漫を打ち砕く女のお話。
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・話のタイトルを変更しました。
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!
小太りおばさん
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」
突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。
アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。
アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。
二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

さようなら、婚約者様。これは悪役令嬢の逆襲です。
パリパリかぷちーの
恋愛
舞台は、神の声を重んじる王国。
そこでは“聖女”の存在が政治と信仰を支配していた。
主人公ヴィオラ=エーデルワイスは、公爵令嬢として王太子ユリウスの婚約者という地位にあったが、
ある日、王太子は突如“聖女リュシエンヌ”に心を奪われ、公衆の場でヴィオラとの婚約を破棄する。
だがヴィオラは、泣き叫ぶでもなく、静かに微笑んで言った。
「――お幸せに。では、さようなら」
その言葉と共に、彼女の“悪役令嬢”としての立場は幕を閉じる。
そしてそれが、彼女の逆襲の幕開けだった。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。

戦場からお持ち帰りなんですか?
satomi
恋愛
幼馴染だったけど結婚してすぐの新婚!ってときに彼・ベンは徴兵されて戦場に行ってしまいました。戦争が終わったと聞いたので、毎日ご馳走を作って私エミーは彼を待っていました。
1週間が経ち、彼は帰ってきました。彼の隣に女性を連れて…。曰く、困っている所を拾って連れてきた です。
私の結婚生活はうまくいくのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる