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婚姻
しおりを挟む婚姻前日、リスフィユ伯爵家から荷物が運ばれた。
そして1時間しないうちに伯爵家の使用人達は帰っていった。
「メイド長、様子はどうだった」
「夫婦の間の続き部屋ではないことを確認なさって、
質問されたので 本来は貴賓室だった場所を改装したことをお伝えしました」
「反応は?」
「“そうですか”とだけ」
「荷物に不審な点は?」
「ございませんが、犬をお飼いになるということでしたが」
「ああ。婚約の条件だったな。馬も一頭連れてくるはずだ」
「はい。馬はお連れになりました。犬は婚姻後になるようです。ただ犬は室内犬でございます」
「え?」
「室内犬です、坊ちゃま」
「室内犬だったのか…てっきり庭で飼うのかと。
可愛い犬でリスフィユ伯爵家で代々繁殖させて飼っているらしい」
「大型犬です」
「お、大型犬?大型犬を室内で?」
「はい。犬用のベッドや皿からすると大型犬です」
「犬種は聞いたか」
「伺いました。“クロ”だそうです」
犬種ではなく、名前を答えたのだな。
「こちらが犬に関するルールだそうです」
マリアが紙を手渡した。
“ミアーナと専属メイドのモナとカトリーヌ 専属侍従のオスカー以外、クロに触れないこと。
ミアーナに危害を加えると命の保証はできない。
クロが死んだ場合、代わりの犬を与えるが、クロより獰猛になるので慎重にして欲しい。
クロの食事は専属メイドが用意するが食材はロテュス侯爵家で揃えて欲しい。飢えさせると他人を食糧として見てしまうので充分に与えて欲しい。
パトリック・リスフィユ”
伯爵からの手紙で、2枚目は犬の献立と材料だった。
「これを周知させてくれ」
「かしこまりました」
まあ、犬でもいれば退屈凌ぎになるだろうと安易に考えていた。
婚姻の儀の当時。
王都は厳戒態勢になっていた。
大聖堂には甲冑を着た兵士と赤い腕章の騎士達が配置され、まるで王族の婚姻かのような物々しさがあった。
その理由は隣国に嫁いだミアーナの姉ソフィア王太子妃と夫のゼイン王太子の参列にあった。一緒に弟王子までいた。
父と母が私を連れて挨拶をしに近寄った。
伯爵夫妻と兄のウィリアムも一緒に王太子殿下達といたので、すんなりと紹介してもらえた。
ゼ「ミアーナをよろしく頼むよ」
軍事国家なだけあって王太子も鍛え上げられていた。
ロ「ロジェと申します。ミアを妻にできるとは幸運の持ち主だ」
俺「仰る通りでございます」
ロ「くれぐれも、泣かせることのないよう頼んだよ」
俺「っ!」
握手の力が強い
ゼ「ロジェ。止めなさい。
すまないね。この子はミアーナの2歳下で、ミアーナと仲がいいんだ。私がソフィアを娶ったからロジェは同じ家門から妃を娶れないのだが、惚れ込んでしまって」
ロ「僕の方が幸せにできるよ」
ゼ「規則で娶れないんだから仕方ないだろう。もうすぐ花嫁が来るのだから笑顔で祝福しなさい」
あんたが娶れば 俺はミアーナを妻にしなくても良かったのに。
俺「肝に銘じます」
そして式は無事終わり、晩餐会は王宮で行われた。
つい昼間に婚姻をしたのだが、誓った後の妻は私の側にいない。リスフィユ伯爵家がミアーナから離れないしロジェ殿下達も一緒だ。
しかも晩餐の席まで変更になった。
“僕は簡単に会えないんだよ?”と瞳を潤ませて自分の席の横にミアーナを座らせたからだ。
離れた席から観察してもよく分かる。ミアーナは家族に愛されている。それは隣国の王家も同じだ。態々伯爵家の次女が侯爵家に嫁ぐだけなのに参列しに来るくらいだからな。
「ミア。これ剥くの難しい」
「もう。私より大きいのに手がかかるわ」
「あ~ん」
「自分で食べれるでしょう?」
「あ~ん」
「もう。ロジェったら」
困った顔をしながらも微笑んでロジェ王子の口に剥いたエビを入れた。
チュウッ
「私の指はエビじゃないのよ」
「間違えちゃった」
「もう。いつまでも子供なんだから」
本気で言ってるのか?箱入り過ぎるだろう!態と食べさせてもらって、態と指を舐めたんだよ!
だが、伯爵家も王太子夫妻もそれが当たり前のように見守っている。我が国の王族やロテュス家が唖然としていても全く気にする様子も無い。
義兄の伯爵が苦笑いをしながら忠告をした。
伯「これは大変だな。くれぐれも新婦を蔑ろにはしないように」
姉「もう遊びは卒業なさいよ」
俺「どうせミアーナも男がいますよ」
姉「そんなことあるはずないじゃない」
俺「あれが証拠です」
伯爵家に嫁いだ姉と夫のキリンズ伯爵は知らないのだろう。ミアーナのあの豊かな表情は俺には一度も向けられたことが無いことを。
伯「彼女は王子を異性として見ていないじゃないか」
姉「幼い弟のように接しているわよ」
俺「姉上達には分からないこともあるのです」
姉「本当に可愛いわ」
俺「可愛い?」
姉「ちゃんと婚姻前の挨拶にも来てくれたわ」
俺「キリンズ邸に?」
伯「態々領地まで来てくれたよ。確かに可愛かったな」
姉「家族になるからよろしくお願いしますって。いい子だわぁ」
伯「息子なんか“天使が迎えに来ちゃった”って泣いて逃げていたな」
姉「そうそう。ちょうど、瀕死の動物を天使が迎えに来て天国に連れて行ってしまう絵本を買ってあげたばかりだったのよ」
伯「天使じゃないと分かると離れないのよ。いつも手を繋いで屋敷や庭を散歩して、隣にピッタリくっついて座って、夜は膝の上で寝落ちするの」
俺「何日いたんですか」
姉「1週間よ」
伯「ミアーナが帰る時はレオンが泣き叫んで手が付けられなかったよ」
俺「知りませんでした」
伯「ロテュス侯爵領にも行ったはずだぞ」
俺「はい!?」
姉「領地の屋敷の使用人全員と仲良くなったらしいわよ」
伯「昨日お義父上から聞いたよ。お義母上の脚と肩をマッサージしてくれていたそうだぞ」
姉「健気よねぇ~(あんたには勿体無いわ)」
俺「なんて?」
姉「なんでもないわ。とにかく、大至急身綺麗になさい」
最後は王太子殿下にロジェ王子が引き剥がされてミアーナは解放された。
そして1時間しないうちに伯爵家の使用人達は帰っていった。
「メイド長、様子はどうだった」
「夫婦の間の続き部屋ではないことを確認なさって、
質問されたので 本来は貴賓室だった場所を改装したことをお伝えしました」
「反応は?」
「“そうですか”とだけ」
「荷物に不審な点は?」
「ございませんが、犬をお飼いになるということでしたが」
「ああ。婚約の条件だったな。馬も一頭連れてくるはずだ」
「はい。馬はお連れになりました。犬は婚姻後になるようです。ただ犬は室内犬でございます」
「え?」
「室内犬です、坊ちゃま」
「室内犬だったのか…てっきり庭で飼うのかと。
可愛い犬でリスフィユ伯爵家で代々繁殖させて飼っているらしい」
「大型犬です」
「お、大型犬?大型犬を室内で?」
「はい。犬用のベッドや皿からすると大型犬です」
「犬種は聞いたか」
「伺いました。“クロ”だそうです」
犬種ではなく、名前を答えたのだな。
「こちらが犬に関するルールだそうです」
マリアが紙を手渡した。
“ミアーナと専属メイドのモナとカトリーヌ 専属侍従のオスカー以外、クロに触れないこと。
ミアーナに危害を加えると命の保証はできない。
クロが死んだ場合、代わりの犬を与えるが、クロより獰猛になるので慎重にして欲しい。
クロの食事は専属メイドが用意するが食材はロテュス侯爵家で揃えて欲しい。飢えさせると他人を食糧として見てしまうので充分に与えて欲しい。
パトリック・リスフィユ”
伯爵からの手紙で、2枚目は犬の献立と材料だった。
「これを周知させてくれ」
「かしこまりました」
まあ、犬でもいれば退屈凌ぎになるだろうと安易に考えていた。
婚姻の儀の当時。
王都は厳戒態勢になっていた。
大聖堂には甲冑を着た兵士と赤い腕章の騎士達が配置され、まるで王族の婚姻かのような物々しさがあった。
その理由は隣国に嫁いだミアーナの姉ソフィア王太子妃と夫のゼイン王太子の参列にあった。一緒に弟王子までいた。
父と母が私を連れて挨拶をしに近寄った。
伯爵夫妻と兄のウィリアムも一緒に王太子殿下達といたので、すんなりと紹介してもらえた。
ゼ「ミアーナをよろしく頼むよ」
軍事国家なだけあって王太子も鍛え上げられていた。
ロ「ロジェと申します。ミアを妻にできるとは幸運の持ち主だ」
俺「仰る通りでございます」
ロ「くれぐれも、泣かせることのないよう頼んだよ」
俺「っ!」
握手の力が強い
ゼ「ロジェ。止めなさい。
すまないね。この子はミアーナの2歳下で、ミアーナと仲がいいんだ。私がソフィアを娶ったからロジェは同じ家門から妃を娶れないのだが、惚れ込んでしまって」
ロ「僕の方が幸せにできるよ」
ゼ「規則で娶れないんだから仕方ないだろう。もうすぐ花嫁が来るのだから笑顔で祝福しなさい」
あんたが娶れば 俺はミアーナを妻にしなくても良かったのに。
俺「肝に銘じます」
そして式は無事終わり、晩餐会は王宮で行われた。
つい昼間に婚姻をしたのだが、誓った後の妻は私の側にいない。リスフィユ伯爵家がミアーナから離れないしロジェ殿下達も一緒だ。
しかも晩餐の席まで変更になった。
“僕は簡単に会えないんだよ?”と瞳を潤ませて自分の席の横にミアーナを座らせたからだ。
離れた席から観察してもよく分かる。ミアーナは家族に愛されている。それは隣国の王家も同じだ。態々伯爵家の次女が侯爵家に嫁ぐだけなのに参列しに来るくらいだからな。
「ミア。これ剥くの難しい」
「もう。私より大きいのに手がかかるわ」
「あ~ん」
「自分で食べれるでしょう?」
「あ~ん」
「もう。ロジェったら」
困った顔をしながらも微笑んでロジェ王子の口に剥いたエビを入れた。
チュウッ
「私の指はエビじゃないのよ」
「間違えちゃった」
「もう。いつまでも子供なんだから」
本気で言ってるのか?箱入り過ぎるだろう!態と食べさせてもらって、態と指を舐めたんだよ!
だが、伯爵家も王太子夫妻もそれが当たり前のように見守っている。我が国の王族やロテュス家が唖然としていても全く気にする様子も無い。
義兄の伯爵が苦笑いをしながら忠告をした。
伯「これは大変だな。くれぐれも新婦を蔑ろにはしないように」
姉「もう遊びは卒業なさいよ」
俺「どうせミアーナも男がいますよ」
姉「そんなことあるはずないじゃない」
俺「あれが証拠です」
伯爵家に嫁いだ姉と夫のキリンズ伯爵は知らないのだろう。ミアーナのあの豊かな表情は俺には一度も向けられたことが無いことを。
伯「彼女は王子を異性として見ていないじゃないか」
姉「幼い弟のように接しているわよ」
俺「姉上達には分からないこともあるのです」
姉「本当に可愛いわ」
俺「可愛い?」
姉「ちゃんと婚姻前の挨拶にも来てくれたわ」
俺「キリンズ邸に?」
伯「態々領地まで来てくれたよ。確かに可愛かったな」
姉「家族になるからよろしくお願いしますって。いい子だわぁ」
伯「息子なんか“天使が迎えに来ちゃった”って泣いて逃げていたな」
姉「そうそう。ちょうど、瀕死の動物を天使が迎えに来て天国に連れて行ってしまう絵本を買ってあげたばかりだったのよ」
伯「天使じゃないと分かると離れないのよ。いつも手を繋いで屋敷や庭を散歩して、隣にピッタリくっついて座って、夜は膝の上で寝落ちするの」
俺「何日いたんですか」
姉「1週間よ」
伯「ミアーナが帰る時はレオンが泣き叫んで手が付けられなかったよ」
俺「知りませんでした」
伯「ロテュス侯爵領にも行ったはずだぞ」
俺「はい!?」
姉「領地の屋敷の使用人全員と仲良くなったらしいわよ」
伯「昨日お義父上から聞いたよ。お義母上の脚と肩をマッサージしてくれていたそうだぞ」
姉「健気よねぇ~(あんたには勿体無いわ)」
俺「なんて?」
姉「なんでもないわ。とにかく、大至急身綺麗になさい」
最後は王太子殿下にロジェ王子が引き剥がされてミアーナは解放された。
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