【完結】もう愛しくないです

ユユ

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アレクサンドルの見合い

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馬車で街並みをじっと見つめるエマに子爵夫人もアレクサンドルも安心していた。
馬車の中なら大丈夫そうだ。

先に婦人服の仕立て屋に先触れを出し、男性を出さないようお願いした。

店の真正面に馬車をつけ、アレクサンドルが抱き上げて馬車から降ろし店に入った。

採寸し、3着程似たサイズのワンピースを買い、後はオーダー品なので後日となった。

他の場所は馬車で待機し、菓子店だけは連れて行った。
男性客を見るとエマは震えてアレクサンドルに抱きついた。

「エマ、私がいるから大丈夫だよ。さっと選んで帰ろう」

「はい」





翌日、本邸と庭園が慌ただしくなっていた。

「公爵家のお見合いだから大変ね」

「坊ちゃまはモテる要素が複数おありですから」

「ご令嬢は何名いらっしゃるのかしら」

「公爵令嬢が1人と侯爵令嬢が2人です」

「身分の高いお嬢様方に失礼があってはならないから接触しないようにしなくてはね」

「そういえばファイエットがお嬢様を探しているそうですよ」

「あの猫が?」

「はい。屋敷の中に居ないと分かると外に出せとしつこく強請るのだそうです」

「可愛いわね」

「きっと動物はエマ様の心を感じ取れるのでしょう」

「有難いわね」




午後を過ぎると続々と馬車が到着していった。そして茶会という名の見合いが始まった。

コルネイユ公爵令嬢
10歳。広大な領地をもつ旧家の長女。
ブルネットの髪に濃い茶色の瞳。


レジュール侯爵令嬢
7歳。美貌の三姉妹の三女。
レジュール家自体は平凡な侯爵家だ。
ホワイトブロンドにピンク色の瞳。


ノワイエ侯爵令嬢
8歳。侯爵夫人が隣国の王女で恋愛結婚だ。
黒髪に濃い紫色の瞳。


「私はサースワルド公爵家嫡男のアレクサンドルと申します。サースワルドまで足を運んでいただき感謝を申し上げます。
コルネイユ公爵令嬢、レジュール侯爵令嬢、コルネイユ侯爵令嬢の順に挨拶をお願いします」

「エレーズ・コルネイユと申します。
お会いできて光栄です」

「ティファニー・レジュールと申します。
高貴なアレクサンドル様にお会いできて光栄ですわ」

「レオノール・ノワイエと申します。
お招きありがとうございます」


挨拶の後は菓子を食べ、花を見て解散した。

アレクサンドルはそれぞれの令嬢につくメイドに態度や言動、持ち物など細かく見て報告を上げるよう指示を出し、父の元に向かった。

「どうだった」

「何とも言えません。メイドに探らせます」

「第一印象は?」

「コルネイユ公爵令嬢は平凡です。可もなく不可もなく。政略的な意味があるのなら受け入れます。

レジュール侯爵令嬢は噂通りの容姿ですが、エマと会った後では惹かれません。

コルネイユ侯爵令嬢は少し傲慢さが見受けられます」

「政略ではない。まぁ、調査をした上で問題のない家門にしたのは確かだし高位貴族にしたのも確かだ。釣り合いがあるからな。

…その前にエマと会った後ではとはどういうことだ?」

「エマは子爵家でまだ5歳なのに3名の令嬢よりもずっと気品高いのです。

挨拶も足元にも及びませんし、話の内容も…正直くだらない。公爵令嬢は会話の用意もしていませんし、レジュール侯爵令嬢は擦り寄って来るだけで話に実がありません。コルネイユ侯爵令嬢は母上の王女時代の話や宝石の話ばかりです」

「成程」

「公爵令嬢は私より歳上で公爵家の令嬢なのですからもっと心配りができても良さそうなのにボーッとしています。そんなつまらない令嬢に愛情は持てそうにありません。

レジュール侯爵令嬢はあの歳から色仕掛けのような事をしてきます。コルネイユ侯爵令嬢の自慢話を聞いて、“アレクサンドル様の瞳の色の宝石を身につけたいです”と言い出す始末です。

エマは既製品のワンピースでさえ子爵家で払うと譲りませんでした。
使用人や店の者にも丁寧に接します」

「それでメイドに監視させたのか」

「はい。私がいない個室でどう振る舞うか見て考えます。

私は先にエマに会っていなければレジュール侯爵令嬢を選んでいたかもしれません。
あの強かさに気が付かずに…」

「エマは心に傷がある。公爵夫人にするには完全とはいかなくとも社交ができるくらいには回復してもらわねばならないし、跡継ぎを産んでもらわねばならない。

異性を怖がるということは、跡継ぎを作る行為も拒絶するかもしれない」

「それは私さえ受け入れてもらえれば浮気の心配は無いという事ですね!父上」

「…そうとも言うが、彼女は子爵令嬢だぞ?
周りから身分差について良く思われない」

「私の代でも困らないほどの潤沢な資金を病院、協会、孤児院、学校に寄付してくださったと聞きました。財力という武器とエマの気品があれば問題ありません。
文字も読めて計算もできますから。店で驚きました」

「だとしても第二関門は学園に通わせられないと駄目だということだ」

「王立学園ではなく女学校にすれば良いのです」

「…お前は決めているのだな」

「…申し訳ありません。そういう訳ではなかったのですが、皆、小さなエマに劣るのです。ところで第一関門は何ですか」

「固形物を拒絶する。すり潰した物も嫌がる。水のようなサラッとしたスープしか受け付けない」

「昨日、街でエマが菓子を選んで帰ってエマの部屋で一緒に食べましたよ」

「は?」

「小さくして食べさせたら食べました。
先に私が一口食べて、グルナ、ペルル、カネルにも一口ずつ食べさせた後にエマの口に持っていったら食べました」

「食べさせたのか」

「はい。可愛い口に指が挟まれて何とも言えませんでした」

「手掴みか」

「フォークが大きいので何だか怖くて。

順番にあげているので、エマが食べないと犬達の番が回ってきませんので、3匹にそれはもう懇願の瞳を向けられてエマの目は泳いでいました。

ですが尻尾が当たるし、涎は垂れてるしでエマが負けました」

「吐き戻したりは」

「しませんでした」

「そうか。王都に戻るまでエマに少しずつ食べさせてくれ」

「…帰らなくては駄目ですか」

「家庭教師が待ってるだろう」

「こっちで雇えば」

「彼らは一流だぞ」

「……」

「メイドの報告は私も一緒に聞こう」









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