【完結】もう愛しくないです

ユユ

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パトリシア

【 パトリシア・コルベーヌ 】

私は最初から男爵令嬢だったわけではない。幼い頃にお父様が男爵を賜った。

その後は大変だった。父と兄2人に1人の教師、母と私に1人の教師がついた。
貴族の歴史やマナーなどの紳士淑女の教育だった。

息苦しい生活が始まったのだと項垂れた。

ある程度進むと学園入学に向けて教師がつけられた。

お茶会では嫌な目に遭う事も多い。
新興貴族だからと馬鹿にされる。

そんな中で、ひとつだけ良いことがあった。
物語の王子様のような素敵な人と婚約者に
なれた。

優秀でもないし没落寸前の伯爵家の子息だけど、絵本や小説から抜け出たような麗しい令息だった。


パパは何でも与えてくれた。
絵本、ぬいぐるみ、宝石、お姫様のようなドレス。

お城が欲しいと言った時は田舎に小さな城を建てられるかもしれないが、パパ達は王都が仕事場だからパトリシアと使用人だけで住むことになるよと言われ諦めた。

その代わり私の部屋はお姫様の部屋に改装された。二部屋を続き部屋にして衣装部屋にしてくれた。

いつものように私は言った。

『パパ、あの令息が欲しい』


婚約の署名をする前にパパから話があると言われた。

『パトリシア。

この婚約は向こうの令息にとってはお金のための婚約だ。つまり今の段階で彼はパトリシアを好きではない。

逃げられないよう、他の令嬢に目が向かないよう契約書で縛るけど、愛情が欲しければパトリシアが彼に愛情を示さなくてはならないよ』

『パパ…』

『すぐ好きになってもらえるかもしれない。何年もかかるかもしれない。もしくは一生心は手に入らないかもしれない。それでも彼を選ぶかい?』

『大事にする。愛情をかけるわ』

『分かった。じゃあ、ここに名前を書いて』




彼は優しかった。美しい微笑み、洗練された振る舞い、優雅なエスコート。
伯爵令息となるとこんなに違うものかと驚いた。

お姫様になった気分だったが、出かけ先で令嬢達の声が僅かに耳に入った。

『全然釣り合っていないわね』

『下品だわ。令息がかわいそう』

彼には聞こえていないみたいでメニューを見ていた。
 

帰るとすぐにパパにお願いした。

『もっと厳しいマナーの先生をつけて』

『…デニス殿に何が言われたのかい?』

『彼は完璧よ。
私が見劣りしてると分かったの。
カフェで令嬢達が小さな声で私が下品だって』

『デニス殿はなんて?』

『私の斜め後ろにいた子達だから、小声過ぎて彼には聞こえていなかったの』

『そうか。なら中流貴族を教える先生を雇うが、厳しくても投げ出さずにやるんだよ』

『ありがとうパパ』



実際に習ってみるとこんなに違うものかと驚いた。今迄合格を貰えていた所作に指摘を受ける。

『熱っ!』

ガチャン

持ち方が悪くて指に熱さが伝わりカップを落としてしまった。

『……何故そうなったか分かりますか』

『ちょっと間違えました』

『集中力の欠如です。ちょっと調子よくできていると油断したのです。
息をするのと同じくらい無意識下でできるようになるまで気を抜いてはいけません。

起きている間はずっとです』

『気がおかしくなってしまいます』

『身につけば解放されます』

『高位貴族はもっと厳しいのですか』

『幼児から始めます。お茶会に出される歳には既にテーブルマナーは身についておられます。

学ぶことが沢山ありますから。語学も3カ国後は標準ですし、学園の成績もAかBクラスにいないと恥だと言われてしまいます』

『できない子はいないのですか』

『いても隠されるように生活させます。
家族と縁を繋ぎたい商家や、裕福な平民、貴族の妾、没落寸前の下位貴族、リタイアなさった殿方の後妻に嫁ぐのが主です。

分家の立場の弱い家に押し付ける場合もあります。稀に容姿が良ければ容姿を重視した殿方が召してくださいます。

それらにもなれなければ除籍されて平民として働きながら生きていくか修道院へ送られるか娼館に売られます』

『そんな!』

『良いことばかりではないのです。多くの義務を積み重ねて権利が与えられるのです。
手始めがマナーです。

この国ではそうですが、国が違えばまた女性の扱いは変わります。もっと優しい国もあれば、意見を言う事も許されない国もあります。

結婚まで家で保護という名の監禁をされて、家族以外の異性と話す事も許されず、綺麗な身で嫁がせるのです。

奴隷にされたり家長に処刑されてしまう厳しい国もあるのです。

恵まれた国で不自由なく暮らせることに感謝をしながら義務を果たしましょう』




先生からあまり注意を受けなくなってきて、茶会でも虐められなくなってきた。

会話が進むにつれて気になることができた。

『ロバートったら手袋を外して手を繋ぎたがるのです。汗をかくし、外なのに恥ずかしいですわ』

『直接肌に触れたいのですね。ジョージは頬や髪に触れる時に手袋を外すしますわ』

『羨ましいですわ。うちは完全な政略結婚なので、階段か茶会やパーティでしか手を取ってくださいませんの』

『パトリシア様は?』

『いつも優しくしてくださいますわ』

その時から違和感が私の中に巣くった。

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