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パトリシア 2
前に兄様に聞いてみたことがある。
『兄様は婚約者をお出掛けに誘うの?』
『誘うよ』
『あちらからも?』
『まあね。だいたい、会ったその日の別れ際に次どうするか話し合って決めて別れるから、どっちが誘ったとか判断し難いな』
『手は繋ぎますか?』
『シア。俺とローザを参考にしては駄目だ。
俺とローザはほぼ恋愛結婚になる。
デニス殿の場合は金で縛っているだろう』
『いつも優しく微笑んで優しくしてくださるわ』
兄様は深い溜息をつくと真剣な顔で言った。
『シア。彼は貴族だ。貴族は感情を表に出さないよう小さな頃から教え込む。
その優しい微笑みは仮面だ』
『えっ』
『シアはデニス殿を金で買ったようなものだ。有り難く思われるかもしれないし疎まれるかもしれない。
父上はそこまで言わなかっただろうが、やんわりと心は別だと言われなかったか?』
『でも大事にしているわ』
『伯爵令息と元平民の男爵令嬢だ。
はっきり言って屈辱だろう。援助というか融資だろう?渡している金は借金だ。伯爵家にとって金利は無いが違反するととんでもない制裁を加える金貸屋だ』
『酷い!』
『本当に必要最低限の金を貸していると聞いている。そんなんでお前をデートに誘えるか?そんな余分な金は無いし、あったとしても使えば借金に変わる。
返済義務のない支援金だったら愛される可能性はあったかもな』
『そんな…』
『今更だ。もう変えても手遅れだ。
嫌なら解消しろ。それでも欲しければ愛を求めず今のままでいろ。
変な期待をしない方が傷付かずに済むぞ』
衝撃的だった。
疎まれてる!?
兄様に言われて以来、出かけるたびに彼を観察した。
馬車の乗り降りや階段で手を差し出す意外は彼から手を繋ごうとしないし、絶対に手袋を外さない。
『手袋を外して手を繋ぎたいな』
『私達は貴族だよ。そんな慎みのないことは出来ないし、君に対しても失礼になる』
優しい微笑みは変わらない。
どんな話でも変わらない。
デビュータントのお祝いは真珠のネックレス。私は彼の色の宝石をプレゼントをしてもらったことがない。
エスコートもダンスも変わらぬ笑顔で模範的な距離。他の子達と話す時も同じ笑顔。
仮面だ。微笑みの仮面をつけている。
兄様の言う通りだった。
帰りの馬車でパパが心配そうに聞いた。
『何かあったのか』
『凄く緊張して疲れただけ』
屋敷に着いてドレスを脱ぐとメイドを下がらせた。
握り締められてかき回されるような例えようのない胸の痛みと止まらぬ涙が私を襲う。
愛されていると思っていた。大事にされていると。
しばらくすると兄様がノックした。
『…っ』
『シア、入るぞ。 ………』
兄様は私を抱きしめ頭を撫でた。
『人の気持ちは難しい。体や言葉を従わせるのはできるが心は無理なんだ。可能性が無いわけじゃない。だが奇跡に近いだろう。
デニス殿はお前には無理だと思う。
最初からお前を愛してくれる男と結婚した方がいい。
遅くなればなるほど解消は難しい。早い方がいいぞ』
『いやよ』
『なら涙を引っ込めて笑え』
『兄様』
『相手に非はない。だから愛してくれないことを責めたりするなよ。
面倒な女だと思われないように冷静になれ。
伯爵令息が望む貴族令嬢になるんだ』
学園では少し甘えて夜会では距離をとった。
少し不思議そうな顔になった気がした。
彼はあまり勉強に力を入れていないのか成績はクラスはCクラス。今までのテストの結果からすると2年生もCクラスだろうと思い少し手を抜いた。
また1年が過ぎもう少し手を抜いてCクラスになるようにした。なのに3年生のクラス分けで
『次はBクラス。
1位 デニス・ノーディング』
『はい!』
『えっ!?』
何故と聞いても分からないと言う。
学業に専念!? クラスメイトとの交流!?
後継者教育!? 遊んでいられない!?
一体どうしたと言うの! 昼食も
『たった1年だよ?学生の社交は1年しか残っていない。交流するとしたら昼食時しかないじゃないか。
私達は成人した貴族なんだ。いつまでも義務を放棄して子供のフリはできないよ』
夜、兄様に言われたことを相談してみた。
『確かにデニス殿の言う通り。デニス殿はシアの玩具じゃないんだ。思い通りになる所有物だと思っていたら痛い目にあうぞ』
『そんなこと思っていないわ』
『そのつもりがなくても相手にそう感じさせていると思うぞ。
とにかく、言い出すのが遅いくらいだ。結婚や爵位を継ぐことを真面目に考えたら当然のことだ。
シアも花を咲かせてないで社交をして伯爵夫人になるための勉強をするんだ。
デニス殿に付き纏っていないで母上の茶会に着いて行け。会話や表情を見聞きしてくるんだ。
行く前に参加者のことを調べてから行けよ。
ただ行って茶を飲んで菓子を食べることが社交じゃないからな。
口にするものも分かるくらいになれ。話のネタがない時の助けになる』
言われた通り休日は急遽、ママの呼ばれたお茶会に参加させてもらった。参加する家族のことや領地のことなどを軽く下調べしただけで全く違う空間に思えた。
菓子は何処かの店のものか、主催者側の手作りか。茶葉は?
『まぁ、このお菓子は最近出来たばかりの菓子店のものではありませんか』
『さすがですわ。お口に合いましたかしら』
そして会話を聞いていると、どこの誰と誰が婚約したとか、出世間近とか、降格したとか、病気だとか、領地の作物が不作だとか。
いろいろ聞けたけど彼と過ごす時間の方がいい。
『兄様は婚約者をお出掛けに誘うの?』
『誘うよ』
『あちらからも?』
『まあね。だいたい、会ったその日の別れ際に次どうするか話し合って決めて別れるから、どっちが誘ったとか判断し難いな』
『手は繋ぎますか?』
『シア。俺とローザを参考にしては駄目だ。
俺とローザはほぼ恋愛結婚になる。
デニス殿の場合は金で縛っているだろう』
『いつも優しく微笑んで優しくしてくださるわ』
兄様は深い溜息をつくと真剣な顔で言った。
『シア。彼は貴族だ。貴族は感情を表に出さないよう小さな頃から教え込む。
その優しい微笑みは仮面だ』
『えっ』
『シアはデニス殿を金で買ったようなものだ。有り難く思われるかもしれないし疎まれるかもしれない。
父上はそこまで言わなかっただろうが、やんわりと心は別だと言われなかったか?』
『でも大事にしているわ』
『伯爵令息と元平民の男爵令嬢だ。
はっきり言って屈辱だろう。援助というか融資だろう?渡している金は借金だ。伯爵家にとって金利は無いが違反するととんでもない制裁を加える金貸屋だ』
『酷い!』
『本当に必要最低限の金を貸していると聞いている。そんなんでお前をデートに誘えるか?そんな余分な金は無いし、あったとしても使えば借金に変わる。
返済義務のない支援金だったら愛される可能性はあったかもな』
『そんな…』
『今更だ。もう変えても手遅れだ。
嫌なら解消しろ。それでも欲しければ愛を求めず今のままでいろ。
変な期待をしない方が傷付かずに済むぞ』
衝撃的だった。
疎まれてる!?
兄様に言われて以来、出かけるたびに彼を観察した。
馬車の乗り降りや階段で手を差し出す意外は彼から手を繋ごうとしないし、絶対に手袋を外さない。
『手袋を外して手を繋ぎたいな』
『私達は貴族だよ。そんな慎みのないことは出来ないし、君に対しても失礼になる』
優しい微笑みは変わらない。
どんな話でも変わらない。
デビュータントのお祝いは真珠のネックレス。私は彼の色の宝石をプレゼントをしてもらったことがない。
エスコートもダンスも変わらぬ笑顔で模範的な距離。他の子達と話す時も同じ笑顔。
仮面だ。微笑みの仮面をつけている。
兄様の言う通りだった。
帰りの馬車でパパが心配そうに聞いた。
『何かあったのか』
『凄く緊張して疲れただけ』
屋敷に着いてドレスを脱ぐとメイドを下がらせた。
握り締められてかき回されるような例えようのない胸の痛みと止まらぬ涙が私を襲う。
愛されていると思っていた。大事にされていると。
しばらくすると兄様がノックした。
『…っ』
『シア、入るぞ。 ………』
兄様は私を抱きしめ頭を撫でた。
『人の気持ちは難しい。体や言葉を従わせるのはできるが心は無理なんだ。可能性が無いわけじゃない。だが奇跡に近いだろう。
デニス殿はお前には無理だと思う。
最初からお前を愛してくれる男と結婚した方がいい。
遅くなればなるほど解消は難しい。早い方がいいぞ』
『いやよ』
『なら涙を引っ込めて笑え』
『兄様』
『相手に非はない。だから愛してくれないことを責めたりするなよ。
面倒な女だと思われないように冷静になれ。
伯爵令息が望む貴族令嬢になるんだ』
学園では少し甘えて夜会では距離をとった。
少し不思議そうな顔になった気がした。
彼はあまり勉強に力を入れていないのか成績はクラスはCクラス。今までのテストの結果からすると2年生もCクラスだろうと思い少し手を抜いた。
また1年が過ぎもう少し手を抜いてCクラスになるようにした。なのに3年生のクラス分けで
『次はBクラス。
1位 デニス・ノーディング』
『はい!』
『えっ!?』
何故と聞いても分からないと言う。
学業に専念!? クラスメイトとの交流!?
後継者教育!? 遊んでいられない!?
一体どうしたと言うの! 昼食も
『たった1年だよ?学生の社交は1年しか残っていない。交流するとしたら昼食時しかないじゃないか。
私達は成人した貴族なんだ。いつまでも義務を放棄して子供のフリはできないよ』
夜、兄様に言われたことを相談してみた。
『確かにデニス殿の言う通り。デニス殿はシアの玩具じゃないんだ。思い通りになる所有物だと思っていたら痛い目にあうぞ』
『そんなこと思っていないわ』
『そのつもりがなくても相手にそう感じさせていると思うぞ。
とにかく、言い出すのが遅いくらいだ。結婚や爵位を継ぐことを真面目に考えたら当然のことだ。
シアも花を咲かせてないで社交をして伯爵夫人になるための勉強をするんだ。
デニス殿に付き纏っていないで母上の茶会に着いて行け。会話や表情を見聞きしてくるんだ。
行く前に参加者のことを調べてから行けよ。
ただ行って茶を飲んで菓子を食べることが社交じゃないからな。
口にするものも分かるくらいになれ。話のネタがない時の助けになる』
言われた通り休日は急遽、ママの呼ばれたお茶会に参加させてもらった。参加する家族のことや領地のことなどを軽く下調べしただけで全く違う空間に思えた。
菓子は何処かの店のものか、主催者側の手作りか。茶葉は?
『まぁ、このお菓子は最近出来たばかりの菓子店のものではありませんか』
『さすがですわ。お口に合いましたかしら』
そして会話を聞いていると、どこの誰と誰が婚約したとか、出世間近とか、降格したとか、病気だとか、領地の作物が不作だとか。
いろいろ聞けたけど彼と過ごす時間の方がいい。
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