【完結】王命の代行をお引き受けいたします

ユユ

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ヴァネッサという人

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ソワール邸に到着した日から、リオナード様は私のベッドで寝るようになった。

間違いが起こらないよう扉は開けたまま。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

並んで寝てるけど、いつの間にか抱きしめられて寝ている。

小さい頃はお兄様に最初から抱きしめられて寝ていた。あったかくて安心した。
お姉様の部屋に行った記憶がない。

ふと思った。

お姉様はどんな気持ちで過ごしていたのだろう。
あまり話もしなかった。

次に帰ったときはお姉様の部屋に行ってみようと思った。


食事も一緒に食べている。

日中は、侯爵様とリオナード様がお仕事をしている間、時々忙しくなる。

主に慈善活動だ。
領地の孤児院の子供達用の服などに刺繍を施したり、編み物をしたり。

時々訪問して教育実習をする。

文字や計算は職員がやってくれるので、私たちは領地で職を持てるよう教師を連れて来る。

宝石についての講義をする者を連れてきて教えてもらう。
私と夫人は助手だ。

名前を覚えることから始めて、いくつかのクオリティの違う物を持ってきて現物で教える。

要するに目利きが出来るように育てたいのだ。

磨き方、採掘、加工。

そのうち金属について教える。
シンプルな指輪を作らせてみたり彫金をさせてみたり。

最終的に自分が採掘した原石を磨き加工し、台座を彫金し宝石をはめる。

小さな粒を限定しているが、孤児院を出るときは自分の作品を持って卒院できる。


過去の事例で鑑定の素質のある子は、古物商や貴族向けの高価な品を扱う店に弟子入りすることができたり、女の子なら宝石を磨いたり本物かどうか確認をする奥様付きのメイドになったり。
商家で買い付け人見習いになる子もいるらしい。

大体は一作業員か別の道に進むようだ。



「今日は何をしていたんだ?」

「今日は何もない日でした。多分数日はないです。
いっそ里帰りをしようかなと」

「4日後はお呼ばれしてるじゃないか」

あ、そうだった。

「街に行ってこようかな」

「一緒に行く」

「ビビ達と行けますから」

「嫌か?」

「ついてきても楽しくないですよ。
可愛いものを見て回るだけですから」

「買わないのか」

「欲しいなと思えば考えます」



穏やかな日を過ごし、3か月ぶりに里帰りした。

お姉様の部屋に入ると、いかにも自分じゃない人の部屋という空気がある。

ヴァネッサの専属メイドだった人に質問をした。

「お姉様のお気に入りはどれ?」

ドレスや宝石、ペンやブラシなど様々なお気に入りを教えてくれた。


「意外」

教えてくれたのはどれも可愛らしいものだった。

「身に付けることは少なかったですね」

「どうして?」

「自分には似合わないからと」

お姉様は長身で美人。身に付けるものも大人っぽい物が多かった。

「本は?」

「恋愛やファンタジーを好んでいました」

「あれ、これは?」

「日記です。
日記と言っても書きたいときに書いておられました」

分厚くて少し古い。

最初のページは汚い字だった。
日付けを見ると私が生まれる前だった。

“お兄さまとケンカした。
上手く言葉にできなくてみんなを怒らせる”

“ごめんなさいが言えない”

捲って行くと私が生まれて2ヶ月後の日付けだった。

“やっと妹に会えた。
私たちと顔が違う。

すごく小さくて目が丸い。
お兄様はエステルに夢中”


私が2歳のときは、

“お兄様はエステルだけが可愛いみたい。
いつも側にいる。
私達とは違って、小さくて可愛い。 
エステルが笑うとお父様もお母様もお兄様も笑顔になる。

私は怒られてばかり”


私が3歳のときは、

“お兄様はエステルしか抱っこしない。
膝の上に乗せるのも、お菓子を食べさせるのも、
顔や頭にキスするのもエステルだけ。

私だって妹なのに。
お兄様にとって妹はエステルだけ”


ずっとすれ違いや素直になれないこと、私と兄のことが書いてあった。


お姉様が学園生になった辺りはリオナード様のことが出てくるようになった。

“廊下ですれ違っても無視するし、目があっても私を嫌そうな顔で見る。

これも顔合わせで失敗してからだ。弟ができたみたいと言ってしまい怒らせてしまった。

本当は仲良くして欲しかった。
今では彼の方が少し大きいけど、当時は私の方が大きかった。


デビュータントもエスコートしてくれたけど、ダンスはあまり目も合わせてくれないし、終わると友人達のところへ行ってしまった。

溝がどんどん深くなってしまった”


またページを捲っていくと、

“令息達が寄って来る。
あしらい方が分からない。

何度かリオナードが軽蔑の目で見ていた。

その内、彼は他の令嬢と付き合うようになった。
悲しかった。

自分も遊ぼうと思ったけど、私にはそんなことはできない。
彼が女性と関係を持っていく中でも、私にはフリしかできない。

素直になれていたら、兄様も私を少しは可愛がってくれたかな。
リオナードも優しくして、他の女性と付き合ったりしなかったかな”


またページを捲っていく、

“もうすぐ婚姻。
ルールを契約書にすることにした。
2人で前向きに会話をするなんて初めてだった。

私達を隔てるルールなのに。


本当は妾なんて迎えて欲しくない。
だけど嫌われたまま抱かれるなんて耐えられない。
嫌そうな顔をして子を産ませるためだけに体を使う。

そんなの無理だ。

だから白い結婚を提案した。
妾に産んでもらえと。

彼は安心した顔をした。

いつか心がなれるかしら”


そして最後のページは結婚の2日前、

“素直になれないまま明後日には妻になる。

やり直したい。
最初からやり直して、愛される妹、愛される花嫁になりたい”


涙が止まらなかった。




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