【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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お母様にバレる

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ああ……面倒な人にバレてしまった。

領地から離れたがらないお母様を置いて、お父様は王都へ向かおうとしたのだけど。

『では、明日から留守を頼む』

『私も行きますわよ』

『へ?』

のデビュータントに行くのは当たり前です』

『行かないって…』

『ダニエルの追放前はそうでした。ダニエルを待っていたんですもの』

『留守番でいいだろう。ドレスも作ってないし』

『作りました』

『何故』

『……あなた。女が王都にいるのですね』

『違う』

『もっとバレないようになさるのが甲斐性というものでしょう』

『女なんかいない!』

『でしたら母親が娘のデビュータントを見守ることを邪魔なさる理由は何ですの?』

『……』

『ほらごらんなさい。
はぁ。とにかく行きますから。終わればすぐ領地へ戻ります。その後、逢い引きでも何でもなさったら?』

誤解だと言い続けたお父様を、お母様は無視。

そして問題はもう一つ。
会場で、婚約者候補という話題があがれば否定するだろうこと。そして、私の結婚相手を積極的に探して声をかけるであろうことが予想された。

よって、成人の儀の1時間前に登城して陛下から話をしてもらった。

「うちの子が偽婚約者候補でございますか」

「すまないな。ハリソン侯爵家のこともあったのに、リヴィア嬢に協力を頼んでしまった。できるだけ知るものが少ない方がいいということで、領地を拠点とする夫人には伝えなかった」

「あなた、それで私を王都に連れてきたくなかったの?」

「すまん」

「ごめんなさい、お母様」

「そうまでして娘に偽婚約者候補をさせるメリットは何でございましょう」

「リヴィア嬢の勘を欲したのだ。実際に城内で成果をあげている」

「勘ですか」

以前、使用人を勘で選別した話をすると

「それではリヴィアが危険ではありませんか」

「お母様」

「あなたも、何故許したのです!危険な上に、婚期を遅らせるようなことを!」

「お母様、私が決めて 後からお父様にお願いしたのです。
そもそも私は結婚は避けたいと思っていたくらいでしたし、そのための対価を求めたのです。もう 一つは叶えていただきました」

一つはアングラード伯爵を助けることに使ったこと、残るは通行証と独立資金だと白状した。

「ダニエルもいないのよ!?」

「お兄様が帰ってくる前の話です」

「でも今は、」

「養子という選択肢だってあります。それにまだどうするか決めておりません。もし、独立することにした時の備えが欲しいのです」

「なんて親不孝なの!」

「お兄様にも留学前にそう言ったら宜しかったのでは?」

「リヴィア!」

「止めないか。もう契約は半分遂行されている。今更どうしようもないし、お前だって自由にしているじゃないか。リヴィアにはリヴィアの人生があるんだ。助言や助力はしても強制だけはするな」

「っ!」

「こちらが悪かったのだ。夫人にも話を通すべきだった。リヴィア嬢にも王命として依頼をしてしまった。伯爵、夫人。すまなかった」

「対価は娘が要求したと聞いております。本人が納得したのならかまいません。ですが安全配慮はお願いいたします」

「近衛で1番容赦のない男をつけている。しっかり守らせる」

こうして、お父様の浮気疑惑は晴れたけど泣かれてしまった。

でも、一度あんな人生を歩んだのだから、今回は許して欲しいの。



待合室に向かう廊下でお母様の腕にしがみついた。

「私、分かっています。
それでもお母様は、いざという時はお父様を敵に回してでも私を守ろうとしてくださる 勇敢で慈悲深い女神のような方だということを」

「……ずるい子ね」

だって、巻き戻り前がそうだったもの。

「だからこんな大胆な契約が結べたのです」

「まったく……」

「久しぶりにお父様と踊ってください。お母様はダンスがとても上手ですから」

「じゃあ、その対価で何かプレゼントしてもらおうかしら」

「もちろんです、お母様。それと、お父様はお母様一筋ですから安心してください」

「そう思う?」

「いつも目尻を下げているじゃないですか」

「ふふっ、分かったわ」

その後のお母様は機嫌がなおったのだけど、鏡を見て怒っていた。

「怒り過ぎてお化粧が崩れちゃったじゃないの!」

王宮メイドにお直ししてもらって、お気に召したのか大喜びだった。


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