【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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選んだ道

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今日も城内の見回りと、時々面接官の仕事と、陛下の謁見に立ち会っている。

私が入ることで“特務部隊”は“特務”に変わり、モロー室長と呼び名が変わった。私は右腕としてネルハデス室長補佐と呼ばれている。

学園を卒業して特務室に就職した。軍服を着て任務を全うする。

依頼があれば会談や契約などに立ち会う。大きな取引や国外が絡むとモロー室長も一緒だ。

最初は陰口を言ったり、剣も握れない小娘を国王陛下の直属にするのはいかがなものかと進言もあったらしいが、仕事の結果で黙らせてきた。

「リヴィア、もう今日はあがっていいぞ。明日は義理の弟の婚姻だ。主役ではなくてもレディは準備が大変だろう」

「ありがとうございます、先にあがらせていただきます」


ネルハデス邸に行き、慌ただしいみんなの間を抜けて自室に入ってベッドに横たわった。

もう就職して2年半になる。

迎えた次期ネルハデス伯爵は、私とモロー室長のをパスした子だった。
義理の弟コンスタンは元々の婚約者と婚姻する。
婚約者もにパスした令嬢だった。

お母様は、私に婚姻のことを煩く言わなくなった。
2人に別れを告げた後、部屋でひっそり泣いていたのを知っているのだろう。

翌日、コンスタンとエリーゼの婚姻式は無事終わり、その後はパーティが開かれた。そこには、ルネ・カシャとその妻フルールと、カシャ公爵夫妻が出席してくれた。

ルネ様は跡継ぎだから婚姻して子を成さねばならない。フルール様のお腹は膨らんでいた。

「フルール様、出席いただきありがとうございます。少しでも異変を感じましたら無理せず席を外してください」

「おめでとうございます。素敵な花嫁さんですわね」

「ありがとうございます」

「私は大丈夫ですわ。悪阻は食べ悪阻ですから、お菓子があれば問題ありません」

「楽しみですわね」

「お義母様は男の子じゃないかって仰るのですが、違った時が怖いですわ」

「母子共に元気なことが一番ですわ」

「そうですわね」

ルネ様はフルール様の手を取り、会場の端の椅子に身重の妻を座らせ、ケーキを取りに行った。


「リヴィア」

振り向くとオードリック・フレンデェとその妻ハンナだった。

2人は4ヶ月前に夫婦になった。
ハンナはブルーノ侯爵家のご令嬢で、私が3年生の時に1年間だけ一緒に学食を食べた人だ。
何故か私に感じ悪い気がしたが、コレが原因だったとやっと知った。

「元気だったか」

「もちろんです。コーネリア王太子妃殿下の誕生日パーティ以来ですね」

「あの日は酔って迷惑をかけた。すまなかった」

「お詫びの品もいただきましたし、忘れてください」

「そう言ってくれると気が楽になるよ」

と言いながら悲しそうな顔をする。
半年前のあの日 彼は酔ってしまい、会場の廊下で偶然すれ違った私をつかまえて 廊下を曲がりキスをした。
当時婚約者だったハンナ様と間違えたのかと思ったが、酒臭い息でこう言った。

“愛してる、リヴィア…ずっと”

見つかったら大変なことになる。
逃げようとしたけど、彼は力強くつかまえたまま もう一度キスをした。今度は優しく甘いキスで、彼の瞳は酔っているようには見えなかった。

10分以上キスをしていただろうか。話し声が近付いてきてオードリック様の手が緩んだ隙に逃げた。

後日、“ぶつかって申し訳ない。怪我はなかったか”とお詫びの手紙と品物が届いた。
やっぱり酔ってハンナ様と間違えたのかな、よく覚えていないのかなと無理矢理納得させた。

「婚姻パーティに参加できなくて申し訳ありませんでした」

「仕方ないさ、リヴィアのスケジュールは既に決まっていて、他国の要人との会談に同席する予定だったのだから。すっかり君は雲の上の人だな」

「まさか。いつかフレンデェ公爵となる公子が何を仰いますか」

「……公子か」

「あ、挨拶回りをしないと。失礼します」

止めて、止めて!
ハンナ様の瞳孔が歪んでる!
もうオードリック様は既婚者なの!ハンナ様という伴侶がいるの!


翌日、王城の部屋に戻った。
就職以来、ここに住んでいる。
仕事柄 敵を作り易いので、警備的な面を考慮してモロー室長の部屋と近い一室を与えられた。

「リヴィア、今度 隣国の王子と王女が交流に来るのは知っているよね」

ヘンリー王太子殿下に呼ばれて、殿下の応接間に来ていた。特務室から外れてヘンリー王太子殿下付きの近衞騎士になったカルフォン卿だけ残り、後は人払いされていた。

「はい。ジェルメーヌ王女殿下の留学のためにアルベリク第二王子殿下が付き添われるのですよね」

「ジェルメーヌ王女はこれから成人で、アルベリク王子は私達の1つ歳上だ。不安なのが王女に婚約者がいないということだ」

「心配していることは分かりますが、ヘンリー王太子殿下とコーネリア王太子妃殿下は婚姻したばかりです。王族法で新たな妃は迎えられないとお断りできます」

「相手が貴族令嬢ならそうだろうが、王族となれば例外措置をとるともある。王女と縁談が成立して王女と婚姻までにコーネリアが男児を産まなければ順位の入れ替えをするだろう」

「そんな」

つまり、3年後迄にコーネリア様が男児を産んでいなければ、ジェルメーヌ王女が王太子妃になり、コーネリア様は第二妃か側妃に格下げになる。
王女が有能ならコーネリア様は側妃、王女の公務に不安がある場合はコーネリア様が公務を受け持つことになるので第二妃となるだろう。

「それで、コーネリアは不安だと思うんだ。アルベリク王子が滞在する間だけでも、コーネリア付きの女官か何かに扮して側にいてやって欲しい。リヴィアが良ければ父上に掛け合うよ」

「コーネリア王太子妃殿下がお望みであれば、お側におります」

「ありがとう、リヴィア」

その日中に陛下経由で、期間限定のコーネリア様付き近衞騎士に扮することになった。







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