【完結】悪魔に祈るとき

ユユ

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ハンナ 幻

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【 ハンナの視点 】


婚姻から5ヶ月後、シュヴァール王国から来たアルベリク第二王子とジェルメーヌ王女との友好のために晩餐会が開かれた。

あの女は仕事でコーネリア様の側にいた。
あの女さえいなければ…毎日そう思わずにはいられなかった。

歓談が進む中、オードリック様が会場を出た。
トイレに行くらしい。

『ハンナ』

『ダイアナ、久しぶりね。お酒をもらいに行きましょう』

『ごめんなさい、飲めないの』

そう言いながら下腹部を撫でていた。

『おめでた?』

『うん。3ヶ月。心配だから欠席しようって夫に言われたけど、みんなに会いたくて来ちゃった。まだ悪阻は無いのよ』

『そうなの。良かったわね』

『義父母も大喜びで大変よ。今から名前を考えているわ』

私も、あの女がいなかったら今頃…

『夫が呼んでいるから行くわね』

『また今度ね』


オードリック様はまだ戻らないのか、会場を探していると、とても許せるものではない話が聞こえてきてしまった。

『すごいな。あの公子が引っ叩かれていたぞ』

『フレンデェ公子 無理矢理キスしていたからな』

『軍服を着た若い女って言えばネルハデス嬢だよな』

『婚姻しても彼女を追いかけるんだな』

『相当好きなんだろう。ネルハデス嬢も婚姻してあげれば良かったのに』

私の夫とキスをしていた!?私はキスをしたことも抱きしめられたことも同じベッドで寝たことも無いのに?手を握られたことも無いし微笑まれたことも無い!

カーッと全身に煮えたぎった血が巡ったように熱くなった。

夫オードリック様の姿を見付けて近寄ると、口元にはわずかに口紅が付いていた。

『信じられない』

…私の夫とキスをするなんて!

あの女を探すと会場の外に向かっていた。
コーネリア様とお花摘みに行くのだろう。小走りに後を追った。

『待て!』

オードリック様の止める声が益々私の気持ちを逆撫でた。

廊下に出てあの女を名を叫び、髪の毛を掴んで引き倒した。

オードリック様が私の手を解こうと指を折る勢いで引き剥がそうとした。

直ぐに別の誰かに腕を捻り上げられ、痛みと異音がした。うつ伏せに倒されて背中から押さえつけられて息ができない!!

私を押さえ付けていたのは 甲冑を着た男でアルベリク第二王子の護衛騎士だった。彼が退いたので身を起こそうとしたが、激痛が走る方の腕がぶらんと垂れ下がった。

あの音は折れたの!?どうして私が!?



貴族牢に入れられて1時間。痛みに悶えながら待っていると、先生として学園に潜入していた近衞騎士と医師が現れた。

私の腕を確認すると

「脱臼です。治しましょう」

「駄目です。診断だけでいい。今すぐ死ぬようなものでなければ治療しなくていいです」

は!?

「治して!早く治して!」

「脱臼は時間を置くとよくありませんよ」

「現行犯の罪人ですよ?構いません」

2人は部屋を出てドアを施錠してしまった。
痛み止めさえもらえなかった。


痛みのあまり時間の経過がものすごく遅く感じた。
その内 兵士が来て縛られて益々痛くて。


そしてあっという間に審議が終わり刑が決まった。
もう貴族としてお終いだ。

夫オードリック様はなんの躊躇いもなく、私を愛していないと…離縁すると言った。あんまりだわ。

確かに貴族の夫が愛人を待つのは珍しくもない。
だけどそれは正妻をちゃんと抱いて子作りをした夫の話よ!婚姻前からの女を許せるわけがない!

本当は薬でも何でも使って、交わるつもりだった。
だって、夫に抱いてもらえない妻が屋敷の中でどれだけ惨めか。
抱いてもらえないなんて言えないし、そのうち絶対に“子はまだか”とか“不妊にいい物”とか言って周囲に苦しめられるはず。跡継ぎと婚姻したら必ず跡継ぎを産まなければ公爵夫人の座が脆くなってしまう。

あの女をあのままにできなかった。もしあの女がオードリック様の子を孕んだら、私は簡単に捨てられる。


兵士に連れられて一般牢へ来た。貴族牢とは雲泥の差で、木を簡単に組み合わせたベッドに薄いマット。横にすごく小さなテーブル。椅子は無い。小さな窓はあっても人が通れる大きさでは無いしカーテンも無い。

私は侯爵家出身の令嬢で公爵家の嫁なのよ!?


夜、やっと医師が腕を治してくれた。
痛み止めもくれた。
こんな硬い粗末なベッドでも疲れていて眠りに落ちた。

だけど…

「ギャア!!」

飛び起きると真っ暗だった。

「はぁ はぁ 」

アレは何なの

「誰か!灯りを付けて!」

「煩い!静かにするなり寝るなりしろ。騒ぐと気を失わせるか口を塞ぐぞ!」

夢…夢よね。そうよ…



翌日、フレンデェ公爵が面会に来たと思ったら、

「君と息子の離縁は完了した。ブルーノ家には連絡済みだ」

「お義父様?嘘ですよね」

「公爵と呼ぶように」

「何で…あの女が私の夫とキスをしたのですよ」

「オードリックが無理にしたそうじゃないか。
目撃者もいる。
オードリック・フレンデェの妻だと名乗るなら、相応しい行動を取るべきだった。
リヴィア嬢が公務から外れた時に、夫の愚行を妻として詫びるべきだった。君は平民の家に嫁いだのではない 公爵家に嫁いだのだぞ。その程度のことが何故出来なかった。
責める相手は夫だろう。
そもそも恋愛婚でもないのだから愛人を作っても受け入れるなり知らないフリをするのも務めではないのか?

私の妻とは政略結婚だった。彼女は私に愛人ができても文句を言わず、愛人が変わる度に“夫を癒してくださりありがとうございます”と挨拶をした。そして愛人の誕生日には贈り物までする素晴らしい妻だ。美しいネックレスや指輪やドレス。平民ならを渡してくれていた。観劇などのチケットを入手すれば私に渡し、愛人を誘えと送り出した。
だから愛人は妻を敬い前に出ることはなかったし、私も絶対に愛人との間に子は作らなかった。
そして妻を大事にした。今では妻を愛している。

君は侯爵家に生まれたのに何を教育されてきた。
他国の王子の前で醜態を晒し王太子妃を護衛している者を公務中に襲うなどあり得ない。王太子妃はコーネリアだぞ。フレンデェ公爵家の娘だ。君の義妹でもあるのを忘れたか!
コーネリアがどれほど恥をかいたのか分からないのか!」

「ううっ…」

「1ヶ月拘留後、王都を追放されブルーノ領の修道院へ収容される。死罪じゃなくて良かったな」


午後にはお父様とお母様が面会に来た。

「お前はなんてことをしてくれたんだ!フレンデェ家とネルハデス家を敵に回しては王家も敵に回したようなものだし貴族達もブルーノを避けるだろう。
信じられない。私の代でブルーノが…誠実に慎ましく生きてきたのに…」

「姉や弟のことは考えなかったの?貴女は求めるばかりで公子のため婚家のためになるようなことはしていなかったんじゃないの?
綺麗な夫、未来の公爵夫人、そんなことしか頭にないから愛されなかったんじゃない?
最初は愛の無い夫婦生活でも、尽くしていれば情が湧いて家族愛として大事にされたはずよ」

「お父様やお母様には私の気持ちなんて分からないわ!」

「分かるわけがないだろう。理性を忘れた猿みたいに背後から令嬢に襲いかかるだなんて」

「領地内で、屋敷から一番遠い修道院に入れるわ。
全く反省の色が無いもの。ブルーノは関わらないわ」

「え?」

「最初の寄付金は払うが、追加は無い。だから修道院で悔改めしっかり働かないとどんどん待遇が悪くなるぞ。平民になるのだからな」

「平民!?」

「こんな状況になっても反省の色が見えない娘などブルーノの籍には入れておけない」

「お父様!!」

「次に会うときは侯爵、侯爵夫人と呼びなさい。姉も弟も同じだ。会うことがあったらな」

お父様達は泣き叫ぶ私の声を無視して 振り返りもせず帰ってしまった。


どうせこんなことになるなら、殺せば良かった。

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