笑顔で冷遇する婚約者に疲れてしまいました

ユユ

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続編:ヒューゴの結婚

烈火

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「クリスティーナ!!」

ソファに横たわるネグリジェ姿のクリスティーナにピッタリくっつくように座り手を握る美男子の姿を見て理性を飛ばした。

駆け寄りローテーブルを蹴飛ばし、男の胸ぐらを掴んだ。

「ヒュー!!何してるの!!手を離して!!」

「俺の女に触れるな!」

「ヒュー!!」

「ヒューゴ殿、手を離しなさい。彼は医者だ。離さなければ死ぬぞ」

金髪を束ねた茶色の瞳の男は俺に胸ぐらを掴まれ足を浮かせてはいたものの、俺の頸動脈に小さな刃物を当てていた。

彼を下ろし手を離した。

「……申し訳ありません」

だが手を握り合う必要はないだろう。

「バノア王国の医療は少し変わっていて、遥か昔にバノアに東国から輿入れした姫がもたらした文化で様変わりした。アレもその一つで脈診というものだ。ワムーラ先生、お久しぶりです。娘を治療してくださりありがとうございます。彼はヒューゴ・ジオといって娘の婚約者です」

「セルヴィー伯爵、お変わりなさそうですね。やはり彼女がご息女でしたか。ラヴィア様がセルヴィー伯爵家のご令嬢とはどうしても信じられず、ずっと疑っていたのですよ」

「ラヴィア卿はジオ公爵家の騎士です。それで、娘は」

「一度心臓も呼吸も止まっていました。上がった岸がバノア側でなければそのまま生き返ることはなかったでしょう。著しく下がった体温を上げさせて意識を取り戻させることができましたが、少しの間朦朧としたままで、はっきりしたのは3日ほど前です。心配は要りません。このまま安静にして、数日内にリハビリを始めれば完治するはずです」

「ティナ」

「ふん!」

「悪かった」

「助けてくれている人にすることじゃないわ」

いつもなら宥めただろうがどうも余裕があまりない。

「俺がどんな思いをしたのかわからないのか?最愛の女を見送ったことを後悔し、永遠に失う恐怖に押し潰されかけたんだ」

おまえが川に流されたと知った日から水と塩と飴しか口にしていない。ほとんど眠れず生きた心地などしなかった。
やっと生きたおまえに会えると思ったのに、美男子と親密そうにしていたらこうなっても仕方ないだろう。

「ヒューゴ殿はワムーラ先生に謝罪をしたのだからクリスティーナがあれこれ言う必要はない。クリスティーナこそ何か言わなくてはならないのではないか?不慮の事故とはいえ迷惑も心配もかけたんだ。ヒューゴ殿は陛下に越境捜索の協力を願う書簡を出してもらい、別の国を経由して探しに来てくれたのだ。セルヴィーにはジオ家から早馬が到着して娘の死を悟ったおまえの母は倒れてしまった」

「お母様が」

「おまえの兄も血の気が引いて立てなくなっていた。私が支度をしている間にバノア側から連絡が届いて無事だとわかり復活していたが、おまえを屋敷に縛り付けて出さないと言っていたぞ」

「お兄様……」

「で?」

「お父様、ヒューゴ様。探しに来てくれたことに感謝します。迷惑をかけてごめんなさい」

「具合は?」

「良くなりました」

「良かった」

伯爵は彼女の側に寄ると優しく抱きしめた。

「パパ……怖かった」

「もう大丈夫だ」

俺も彼女を抱きしめたいが、まだ胸の中に燻るものがある。怒りを消化しきれない。


お茶を用意されて、7年前の話を聞いた。
伯爵が旅の途中で、国外を旅していたバノア国王の姉を助け、それを聞いたバノア国王が伯爵を招待したという話だった。国王に気に入られ、通行証となる指輪を下賜された。国境で見せたのはその指輪ということだ。

「義父上、先程の“資格を失っている”とは?」

「バノア王国では国王陛下や王子殿下に嫁ぐには純潔であることが絶対条件だからだ」

それを聞いて彼女の目は泳ぎだした。

「だが平民だろうが貴族だろうが外国人だろうが身分は問わない。だから心配するならラヴィア卿だろう。彼女が純潔なら帰国は叶わないかもしれない」

「うちの騎士ですよ?」

伯爵の意見に医者のワムーラが補足した。

「バノアに入国してしまえばどの国の誰かなんて関係ないんです。バノアの法に則り王太子殿下が娶ると宣言すれば、ラヴィア卿は王太子妃となります。つまり資格があるのならラヴィア卿に拒否権はありません」

「え?でもアルゼラ殿下は私より歳下ですよ?」

つまりラヴィアの方が5歳以上歳上ということだ。

「子が産めるなら問題ありません。産めなくてもバノアは一夫多妻制ですから、他の妃が補えばいいのです」

もしクリスティーナが純潔だったら大変なことになっていた。国王の何番目かの妃になった可能性が高い。

廊下が騒がしくなり、ノックの後に数人が入室した。

ラヴィアとおそらく王太子だろう。そして護衛か。

「客人か」

「クリスティーナ様の父君セルヴィー伯爵と、婚約者のジオ公爵令息です」

伯爵と俺はバノア式の挨拶をした。

「じゃあ、おまえは?」

「すみません。私は貴族ではなくジオ公爵家の騎士です。セルヴィー家の娘というのは嘘です」

「早く言えよ。伯母上の恩人の家門と聞いていたのにおまえのような荒くれ者が娘だなんて奇抜な令嬢教育をしてるんだなと思ったじゃないか」

「聞き捨てなりませんね」

「お?もうひと勝負するか?」

「もう疲れました。私の役目はクリスティーナ様の側にいることだと言っているではありませんか」

「その役目はもう忘れていい。伯爵が迎えに来たしおまえは俺の嫁にするからな」

「はい!?」

「もう決めたからな。ワムーラ、女の医者に資格の検査をさせてくれ」

「かしこまりました」

「は?何!」

があるか確認するだけだ」

「はぁ!?私はクリスティーナ様にお仕えするんです!」

「入国した時点で自由などない」

「流されて岸に上がっただけじゃないですか!」

「不法入国者は腹を裂いた上で磔にされて晒されるぞ?つまり処刑だ」

「私、自分より弱い男は嫌です」

「ならば俺が勝つまで勝負を続けるだけだ。おまえは長時間は無理だろう?鍛えていても女の筋肉だからな」

「……」

「手っ取り早く剣で俺を貫こうなんて考えてるだろうが、王太子殺害も大罪だからな」

「チッ、結局は法で守られた王子じゃないですか」

「その通り。やっと理解したな」

「ちょっと!」

王太子はラヴィアの手を掴んで引きずるように退室した。

「多分、陛下に報告をなさるのでしょう。あの感じでは資格がありそうですのでラヴィア卿の帰国は叶いませんね」

あいつ、俺より位が高くなるのか。

「パパ」

「どうにもならん」

「でも私のせいで……」

「安全を確保するのが護衛の役目。一時的に護衛対象を死なせた卿は処罰対象だ。ここに残れば処罰はない」

「今の状況が処罰だと思うけど」

「まんざらでもなさそうだぞ。卿が少し頬を染めていたのがわからなかったか?」

「ええ!?」


それから4日後、ラヴィアを残してバノア王国を出国した。クリスティーナを連れ帰りたかったが、家族を安心させたいとセルヴィー領へ向かうことになり、俺も同行した。捜索隊のほとんどを先にジオ領に帰した。






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