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続編:シャルルと王女
目障り
【 王太子妃サフィリアの視点 】
誰もが、正妻が産んだ第二王子ローラン殿下が次期国王だと思っていた。婚約者は辺境伯の娘に早々に決まった。虐め抜いて辞退させようなどと思っても、相手は馬を操り剣を握り弓をも扱う男勝りな令嬢だったことから打てど全く響かず、鼻で笑う始末。社交にはほぼ出ないため、学園で仕掛けるが目撃者が多過ぎて仕掛けた者が咎を受けてしまった。
二番目の妻テサ妃が産んだ第一王子ゼブラン殿下の婚約者を選び始めたのは学園卒業後だった。だからこそローラン殿下が継承すると思っていた。
辺境伯の男勝りな娘に次期王妃は無理だろうから、婚約者の差し替えか、辺境伯の娘は正妃にはならないだろうと深読みしてチャンスを待つ貴族と、ゼブラン殿下でもいいから王子に嫁がせたい貴族、王子に興味がない貴族の3つに分かれた。
我がパウロ侯爵家はゼブラン殿下を選んだ。ローラン殿下の正妃を狙うのは博打のようなもの。2人目の妃を狙うのはリスクが高過ぎる。2人目は国王にならないと娶れないから。いつになるかわからないのに旬のある娘を無駄に枯らすことはできなかったから。
苛烈な競争だった。候補に上がった家門は脅し合い、より強いカードをチラつかせた方が生き残った。
最終選考のときに告げられたのは、わざと貴族派を残したことだった。次期王妃に求めるのは貴族派を束ねる力だと。
私と私の両親はその時初めて次期国王はゼブラン殿下だったことを知った。私たちは当たりを引いたと心の中で歓喜の声を上げた。
当然最終選考に残ったもう一人の令嬢にも同じ説明をしている。だけどパウロ家の方が影響力があると自負していたから最後のライバルを蹴落とすつもりで力説した。結婚前はパウロ家が、結婚後はこの私サフィリア・パウロが貴族派を束ねると強く誓った。王家もパウロ家が力を持っていることは知っている。この誓いによってゼブラン殿下の婚約者は私に決まった。妃教育を終えるとゼブラン殿下は王太子となり、私は王太子妃として嫁いだ。
気分か良かった。全てのレースに勝った気分で爽快だった。唯一気に入らなかったのは第四王女パリサの存在だった。唯一国王陛下に似た子というだけで陛下が溺愛していた。
ローラン殿下は王宮騎士団に籍を置き、27歳になったら辺境伯を継ぐべく国境へ向かうことになっている。ジェルヴェ殿下は病のため長くは生きられないだろうと言われている。そのうち邪魔者は消えて私とゼブラン殿下で王宮を支配できる。王女たちはパリサ以外は嫁いだので、パリサの婚約者が決まればと心待ちにしていた。
やっと他国から伯爵家の令息が婿入りしてくることが決まったのに、陛下から発表があったのは、パリサをルビー宮に住まわせ、そのまま王女として残し、公務も与えるというものだった。つまり私が遠慮する日々が何十年と続くかもしれないということだ。腹違いだというのにゼブラン殿下もパリサを可愛がっていた。私にはそれが本当に目障りだった。食事で集まっても陛下を中心にパリサのことばかり気にかける。私は次期王妃なのに誰も気遣ってくれない。
なんとかパリサを追い出せないか悩んでいた。
パリサの元へやって来た令息はとても美しかった。シャルル・ヘインズの素行調査の結果は私も知ることができた。あの美貌で婚約者がいなかったのは散々女遊びをして婚約していた令嬢に冷たくして破棄されたからだった。そんな男ならパリサと上手く行くはずがないと思っていた。その後は他国の王子との縁談を世話してやればいいと思っていた。
だけど彼は腰が低く人当たりが良く、使用人達を懐柔していった。しかも一番人を寄せ付けないジェルヴェ殿下を味方につけてしまった。陛下の寵愛を受けるパリサと陛下が心を痛める相手ジェルヴェ殿下を味方に付けた彼を崩すのは難しそうだ。元々は陛下の補佐の一人だったダオスがパリサ経由で彼の侍従に付けられて隙がない。女を近付けて浮気させるなんてことはできそうにもなかった。
どうしたものかと考えていたとき、陛下が彼に1年間の養生を命じた。ジェルヴェ殿下と過ごさせるためだ。
彼にこんな影響力があるなんて。1年後、2年後はどうなっているのだろうと嫌な予感しかしない。
追い出そう、そう思った。
パリサに、“国を出てやり直したい、夫の出身国へ移住したい”…と思うように仕向ければいいと閃いた。
誰もが、正妻が産んだ第二王子ローラン殿下が次期国王だと思っていた。婚約者は辺境伯の娘に早々に決まった。虐め抜いて辞退させようなどと思っても、相手は馬を操り剣を握り弓をも扱う男勝りな令嬢だったことから打てど全く響かず、鼻で笑う始末。社交にはほぼ出ないため、学園で仕掛けるが目撃者が多過ぎて仕掛けた者が咎を受けてしまった。
二番目の妻テサ妃が産んだ第一王子ゼブラン殿下の婚約者を選び始めたのは学園卒業後だった。だからこそローラン殿下が継承すると思っていた。
辺境伯の男勝りな娘に次期王妃は無理だろうから、婚約者の差し替えか、辺境伯の娘は正妃にはならないだろうと深読みしてチャンスを待つ貴族と、ゼブラン殿下でもいいから王子に嫁がせたい貴族、王子に興味がない貴族の3つに分かれた。
我がパウロ侯爵家はゼブラン殿下を選んだ。ローラン殿下の正妃を狙うのは博打のようなもの。2人目の妃を狙うのはリスクが高過ぎる。2人目は国王にならないと娶れないから。いつになるかわからないのに旬のある娘を無駄に枯らすことはできなかったから。
苛烈な競争だった。候補に上がった家門は脅し合い、より強いカードをチラつかせた方が生き残った。
最終選考のときに告げられたのは、わざと貴族派を残したことだった。次期王妃に求めるのは貴族派を束ねる力だと。
私と私の両親はその時初めて次期国王はゼブラン殿下だったことを知った。私たちは当たりを引いたと心の中で歓喜の声を上げた。
当然最終選考に残ったもう一人の令嬢にも同じ説明をしている。だけどパウロ家の方が影響力があると自負していたから最後のライバルを蹴落とすつもりで力説した。結婚前はパウロ家が、結婚後はこの私サフィリア・パウロが貴族派を束ねると強く誓った。王家もパウロ家が力を持っていることは知っている。この誓いによってゼブラン殿下の婚約者は私に決まった。妃教育を終えるとゼブラン殿下は王太子となり、私は王太子妃として嫁いだ。
気分か良かった。全てのレースに勝った気分で爽快だった。唯一気に入らなかったのは第四王女パリサの存在だった。唯一国王陛下に似た子というだけで陛下が溺愛していた。
ローラン殿下は王宮騎士団に籍を置き、27歳になったら辺境伯を継ぐべく国境へ向かうことになっている。ジェルヴェ殿下は病のため長くは生きられないだろうと言われている。そのうち邪魔者は消えて私とゼブラン殿下で王宮を支配できる。王女たちはパリサ以外は嫁いだので、パリサの婚約者が決まればと心待ちにしていた。
やっと他国から伯爵家の令息が婿入りしてくることが決まったのに、陛下から発表があったのは、パリサをルビー宮に住まわせ、そのまま王女として残し、公務も与えるというものだった。つまり私が遠慮する日々が何十年と続くかもしれないということだ。腹違いだというのにゼブラン殿下もパリサを可愛がっていた。私にはそれが本当に目障りだった。食事で集まっても陛下を中心にパリサのことばかり気にかける。私は次期王妃なのに誰も気遣ってくれない。
なんとかパリサを追い出せないか悩んでいた。
パリサの元へやって来た令息はとても美しかった。シャルル・ヘインズの素行調査の結果は私も知ることができた。あの美貌で婚約者がいなかったのは散々女遊びをして婚約していた令嬢に冷たくして破棄されたからだった。そんな男ならパリサと上手く行くはずがないと思っていた。その後は他国の王子との縁談を世話してやればいいと思っていた。
だけど彼は腰が低く人当たりが良く、使用人達を懐柔していった。しかも一番人を寄せ付けないジェルヴェ殿下を味方につけてしまった。陛下の寵愛を受けるパリサと陛下が心を痛める相手ジェルヴェ殿下を味方に付けた彼を崩すのは難しそうだ。元々は陛下の補佐の一人だったダオスがパリサ経由で彼の侍従に付けられて隙がない。女を近付けて浮気させるなんてことはできそうにもなかった。
どうしたものかと考えていたとき、陛下が彼に1年間の養生を命じた。ジェルヴェ殿下と過ごさせるためだ。
彼にこんな影響力があるなんて。1年後、2年後はどうなっているのだろうと嫌な予感しかしない。
追い出そう、そう思った。
パリサに、“国を出てやり直したい、夫の出身国へ移住したい”…と思うように仕向ければいいと閃いた。
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