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6月
5話 ふたりだけの世界
しおりを挟むまた、青い世界だった。しかしその青はこれまでの紺碧というよりは、もっと爽やかで南の島のコーラルブルーのようだった。
水面に反射する太陽のような眩しい光とともに、その少年は小さな船を自分の前に寄せた。透き通った瞳でこちらを見つめて優しく笑った。誘われるように船に乗ると、まばゆい光のしぶきを上げて、船は猛スピードでコーラルブルーを駆け巡る。
世界には自分と少年の立ったふたりだけ。誰も邪魔しない。ただ無数の光にまとわれて、どこまでだって行けそうな気持ちになる。
船はやがて穏やかになって、柔らかな光の玉が船の周りをほわほわと漂っている。見るもの全てが優しく光る。このままこの時が終わらなければいいのに。果てしなく続くこの世界でいつまでもこうして…。
「…ちゃん。起きて。碧ちゃん!」
急いで顔を上げると萌黄が心配そうに碧の肩を揺すっていた。あーあ、夢だったんだ。
「…萌黄…私…。」
「5時間目の途中からずっと寝てたのよ。もうホームルーム終わったよ?」
「あぁ…そうか。」
窓の外は思いっきり晴れていた。カナタには会えないんだと思うと何もかもがつまらなくて、気づいたら眠ってしまっていた。カナタと出会って、あらゆるものが輝いて見え始めたが、逆に会えないとわかると全てのものがつまらなく見えた。
碧は心配する萌黄を置いて荷物をまとめてふらふらと歩き出した。
「茜ちゃん、最近碧ちゃん、変じゃない?」
茜は待ってましたとばかりに口もとをニヤつかせた。
「碧はね、カナタのことが気になってるんだよ。」
萌黄はハッとして言葉を失った。ただ口元を手で隠して目をパチクリさせていた。
「へぇ、そうなんだ。素敵じゃない、碧ちゃん。」
萌黄はいつものおっとりした笑顔を忘れていた。考え込むような仕草をして、じゃあ。と一言残して茜のそばを早足で駈け去った。
茜はしめしめと言わんばかりにクスリと笑った。
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