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黒文鳥

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残章

1


「……ん、ぅ、あ?」

 微睡むには重すぎる快感が、繰り返し突かれる最奥に滲む。
 一瞬意識が飛んでいたらしい。
 ソファで一度、寝室に運ばれて二度。
 ぐしゃぐしゃになったシーツを掴んだはずの手には、殆ど力が入っていなかった。
 ああ、もう昼飯どころの話じゃないな。
 覆い被さったユーグレイはゆっくりと腰を押し込めながら、アトリの額を撫でる。

「限界か?」

 ぐらぐらする頭を何とか上下させて問いかけに頷く。
 そうか、と笑った唇が触れるだけの口付けを落とした。
 全く、こいつは。
 こう言ったら何だが、回数だけなら一時期より落ち着いたくらいだろう。
 ただ、まあ、ここのところ一回が凄く長い。
 
「もう、イ、きたい」

 焦ったくなるような愛撫を都度繰り返して、果てに手が届かないところで優しく揺さぶられる。
 無意識なのか、意図的なのか。
 限界まで我慢させられてから味わう絶頂は最早脅威ですらあった。
 いっそ貪るように滅茶苦茶にしてくれた方が楽なのでは。
 イキたい、と繰り返し懇願すると、ユーグレイは「わかった」と柔らかく応える。
 伸ばされた彼の手が、不意に勃ち上がったままの熱を撫でた。
 もう何が出ているのかわからない。
 濡れて震えるそれを擦り上げられて、咽喉の奥から悲鳴に似た喘ぎが溢れる。
 浮きそうになる腰は、ユーグレイに押さえつけられて動かない。
 
「あッ、う! ち、が……! ユー、グ!」

 一気に迫り上がって来た熱は留めようもなくユーグレイの手を汚した。
 白くなった視界。
 思考が溶けるのがわかる。
 気持ち良い。
 気持ち良いけれど、そうじゃなくて。
 
「少し落ち着いたか? アトリ」

 宥めるような優しい声に、息が詰まるような苦しさを覚えた。
 そうじゃない、と繰り返し訴えているのは自分だろうか。
 何て声を出してんだ、とほんの微かに思う。
 いや、もう、今更だけど。

「そうじゃ、なくて……、ちゃんと、イキ、たい……ッ!」

 アトリは必死に手を伸ばして、ユーグレイの身体を引き寄せる。
 擦れる肌が心地良くて、何故か泣きたいような気持ちなった。
 ぐぅっと奥を割り開かれるような感覚。
 もうちょっと、なのに。

「ちゃんと、か」

 額が触れるほどの距離で、ユーグレイが微かに笑った。
 深くまで受け入れた彼の熱だって、もう限界のはずなのに。
 お前、焦らすにしたっていい加減にしろ。
 アトリは嗚咽を飲み込んで、ユーグレイの背中を叩いた。
 彼は碧眼を細めて頷く。
 
「そうだな。それなら、ちゃんとここで、感じると良い」

「…………あ、ぇ?」

 あれ、何かちょっとおかしくないか。
 視界を遮るように、ユーグレイの銀髪が落ちて来た。
 どこか嬉しそうな瞳に、呆けたようなアトリの顔が映っている。
 いやいや。
 出したんだから、ちゃんとイッたはずだ。
 そうじゃないと言うのであれば。
 潜在的に、ナカで達することが正しいのだと認識していることになる。
 アトリは咄嗟にユーグレイの肩を押して顔を背けた。
 手の甲で目元を隠したが、耳まで熱くなるのがわかる。
 防衛反応でおかしくなっているのならともかく、普通にそう思ってしまうというのは。
 
「ま、って……、今の、なし」

「そういう大切な発言の撤回は認められないと、以前にも言わなかったか?」

 手首を取られると、心底嬉しそうな表情のユーグレイと目が合った。
 
「あ゛ッ、うく……ッ! ーーーーっ!」

 ぐぅっと奥を突かれて、そこが緩む感覚がした。
 痛いほどの快感で身体が痙攣する。
 
「君をそう変えたのが、僕であるのなら、それは光栄なことだな」

 お前以外に誰がいんだ、ばーか。
 けれど投げかけたかった言葉は結局音にもならなかった。
 酷い水音がして、ようやくそこに手が届く。
 何もかもが、蕩ける。
 太腿を掴まれて、身体を押し曲げられた。
 穿たれた熱が激しく抽挿されるのがぼんやりと見える。
 ああ、これは。
 絶頂と言うには、あまりに。
 意識に反して暴れる身体を、ユーグレイが抱き締めてくれる。
 
「愛している、アトリ」

 うん、それは、わかったから。
 せめて同じ言葉を返す余裕くらいは、持たせて欲しい。
 せっかくほら、ちゃんと恋人ってやつになったんだし。
 
「ゆ、ぅぐ」

 アトリはユーグレイの銀髪に指先を埋めて、彼の名前を呼ぶ。
 それだけでも一杯一杯だったのに、堪えるような顔をしたユーグレイに唇を塞がれてあっという間に力が抜けるのがわかった。
 注ぎ込まれる熱で、絶頂が終わらない。
 耐え難いほどの、快感。
 何もない空間に放り出されるようにふわりと意識が落ちて行く。
 それでもユーグレイが傍にいてくれるとわかるから。
 別に怖くはないなと、アトリは思った。
 
  
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