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間章
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ようやく掲示された二十日評価。
いつも自分たちの数段上にいたペアの名前は、そこにはなかった。
日中の哨戒を終えたばかりだったけれど、その疲労が一瞬で飛ぶような達成感。
何度も張り出された評価を確かめて、それが決して見間違いではないことを確認する。
本当に、本当だ。
やったね、と声をかけるとカグは不機嫌そうな表情のまま適当に「ああ」と答える。
「どうしたの? カグくん」
この期間自分たちの限界を見誤るような無茶はしなかったし、ちゃんとお互いにフォローし合って仕事が出来たと思う。
体調不良やら急用やらで時折出る穴を二人でカバーして、管理員にも直々にお褒めの言葉をもらったほどだ。
今回は、という手応えはずっとあった。
別に競争ではない。
ニール個人としては彼らに対抗意識を持っている訳でもなかった。
でも、わからなくもないなと思う。
ユーグレイ・フレンシッドという人は、カグが必死に努力をしてそれでも少しだけ手の届かない場所にいつも平然と立っている。
自身を追いかける相手に興味はなく、賞賛も嫌味も全く響く様子がない。
同年代のはずなのに、ニールはユーグレイを前にすると萎縮してしまう。
カグは、逆にそういう彼の人間性が悉く気に触るようだ。
「くっだらねぇの。そもそも名前もねーじゃんか。雑魚かよ」
「うん。だから、ぼくたちが勝ったってことだよね」
カグは掲示された二十日評価を睨んで、それから小さく舌打ちをして廊下を歩き出す。
ニールはその背中を慌てて追いかけた。
ユーグレイと彼のペアであるアトリは、ここのところ現場に出る仕事をセーブしている。
哨戒とは別に何やら仕事を依頼されているようだが、そういう出向任務は二十日評価には反映されない。
多分、アトリはまだ本調子ではないのだろう。
あの暗い海でニールを助けてくれたのは彼だ。
どうしてそんなことが可能だったのかわからないけれど、それがアトリにとって相当な負荷だったことは確かだと思う。
実際彼はユーグレイとのペアを解消して、一時現場から離れた。
ニールはもちろん、カグもこの件に関しては責任を感じたのだろう。
らしくもなく仲を取り持つようなことまでしたくらいだ。
でも、それはそれだとニールは思う。
「……ぼくたちが頑張ってそれを認めてもらったことは、嘘じゃないでしょ?」
もうちょっと大きな声で言えば良かった。
嫌になるほどの小さな呟きは、少し前を行くカグには届かなかったらしい。
茶色い癖毛が揺れる。
彼は振り返ってくれない。
駄目だな、とニールは背中を丸めた。
ペアなのだからちゃんと力になろうと決めたのに。
カグが欲しい言葉さえわからなくて、こうやっておどおどと後をついて行くくらいしか出来ない。
ユーグレイのペアである彼なら、どうしただろうか。
慰めるにせよ宥めるにせよ、きっとこんな風に躊躇はしないんだろうなと思った。
「おい、ニール」
足元に落ちていた視線を上げると、カグが立ち止まってニールを待っていた。
ごめん、と急いで駆け寄ると彼はニールの肩を軽く押す。
鋭く見える猫のような瞳には、微かに気遣うような気配があった。
「何で謝ってんだよ。お前には怒ってねぇっつーの」
「うん」
「飯、食いに行くんだろ?」
丁度、夕食時だ。
当然のようにカグに言われて、ニールは頷いた。
少し遅いニールの歩調に合わせて、彼は隣を歩いてくれる。
かつてはどうだったかなと思い返したが、はっきりとした記憶は残っていなかった。
ニールが気が付かなかっただけで、やっぱりこうやってぶっきらぼうに気を遣ってくれていたのかもしれない。
「カグくんて、本当は優しいよね」
「あ? 何だそれ」
照れてる。
そっぽを向くペアの横顔を見て、ニールは笑った。
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