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6章
11
アトリ、と名前を呼ばれた気がしてぼんやりとしたまま瞬いた。
辛うじて寝落ちてはいなかったようだが、意識はまた少し飛んでいたらしい。
ほとんど触れるほどの距離で、ユーグレイが笑う。
柔らかく緩む表情。
形の良い眉が少し下がって、彼は堪らないみたいな顔をする。
ああ、良かった。
終わりを惜しむようにただゆっくりと繋がった「一回」は、ちゃんとユーグレイにも快感を齎してくれたらしい。
ふっと濡れたままの目尻に唇が触れた。
「ーーーーん」
疲労感はあまりない。
よくそんな辛抱強く出来るものだと感心するほどに優しく抱かれたからだろう。
まだユーグレイを受け入れたままの身体も、今はただ溶けるように心地良い。
やっぱりこいつだからだな、と安堵した。
防衛反応があれば誰でも良い訳ではない。
ラルフに触れられたあの時、確かに達したはしたけれどそれ以上何かを欲しいとは思わなかった。
ユーグレイだからだ。
もうちょっとこのまま、とアトリは彼の背に腕を回す。
境界が曖昧になった接合部から、痺れるような絶頂の名残が滲んだ。
「……ユーグ」
少し大きな手が答えるようにアトリの首筋に触れ、髪を撫でる。
ユーグレイは瞳を細めて、すまないと囁くように謝った。
「今からなら十分に休めるだろう。次の哨戒に間に合う時間には起こすから、君は気にせず寝てくれ」
「ん、お前も、寝ろって」
ユーグレイの方が体力があるとはいえ、彼とて人間だ。
疲れがない訳ではないだろう。
アトリが掠れた声で促すとユーグレイはゆっくりと上体を起こす。
重なっていた肌が突然空気に晒されて、アトリは微かに身震いをした。
くちゅ、と湿った音を立ててあたたかく馴染んだそれが出て行こうとする。
「あ……ぁ、抜く、な」
咄嗟にユーグレイの腕を掴んで、アトリは弱く首を振る。
意図して熱を締め上げると、彼はぐっと唾を飲み込んだ。
せっかくこんなに気持ち良いのだから、まだ中にいて欲しい。
「君、はっ……!」
余裕のない声に、少しだけ優越感を覚えた。
大抵のことは涼しい顔でこなす相棒が取り乱すのが可笑しくて、ついこういうことをしてしまう。
可愛いーな、と笑って呟くと、ユーグレイの表情ががらりと変わった。
どこにそういう衝動を覚えるのか未だにわからないが、それでもユーグレイがアトリを欲しいと思ってくれているのはきちんと理解しているつもりだったが。
輝石のような碧眼に明確な欲が浮かぶ。
彼は息を吐きながら、アトリを見下ろして挑むように口の端を上げた。
いや、ちょっと調子に乗って煽り過ぎたかもしれない。
「違っ、もっかいやりたいとか、じゃ、なくて……!」
「そうだな。それは、次の哨戒の後に取っておこう」
脱力したままの脚を開かれ、ユーグレイを咥え込んだ後孔の縁を撫でられた。
その視線に晒されるのが嫌で手を伸ばすが、片手で軽くあしらわれてしまう。
アトリがどう動くかなんてとっくに予想していたような反応だ。
「寝て良いんじゃ、なかったっけ!?」
指先でくるりとなぞられたそこがひくひくと痙攣する。
穏やかな眠気はとうに吹き飛んで、羞恥でくらりと眩暈がした。
ユーグレイは楽しげにそれを観察して、「勿論」と頷く。
「後処理をするだけだ。君は勿論、寝ていて構わないが?」
「後、処理って……ぇ、ッ!」
ユーグレイの指先が、揶揄うように隙間から中へと埋め込まれる。
ぞくりと背中を重い快楽が駆け抜けた。
傷をつけないように慎重に、けれど聞き分けなく煽るような真似をした相手に思い知らせるように。
根本まで入り込んだその指は、濡れた粘膜に優しく爪を立てる。
「ん゛ッ、あ、あぁっ!」
アトリは縋るようにユーグレイの腕を掴んだまま、ぎゅうっと目を瞑った。
びくと腰が跳ねて、緩く勃ち上がった性器から熱いものが滴るのがわかる。
ユーグレイだってさっきから苦しそうなほどに反応しているというのに、そちらは全く動く様子はない。
これだけ中を圧迫しておいて、あくまで「後処理」を貫くつもりなのか。
「は、ぁッ! はあっ、キツ……ぅ」
激しく上下するアトリの胸を、ユーグレイが労わるように撫でる。
薄く目を開けると、彼が名残惜しげに引き抜いた自身の指を舐めるのが見えた。
何してんだとかやめろとか、結局言葉にならずにアトリは呻く。
濡れたユーグレイの唇が弧を描いた。
「あ、後処理、じゃ、ないだろーが、こんなの」
「抜くな、と言ったのは君だ。アトリ」
「そーだけど、そうじゃ、なくって」
ただ気持ち良かったから、もう少しこのままでいたかっただけだ。
素直にそう口にすると若干の居た堪れなさに襲われる。
でもまあ今更か。
ユーグレイは僅かに沈黙して、長く息を吐いた。
「それなら、尚更このままで構わないだろう?」
「このまま!? 構わない!?」
何言ってんだと必死にばたつかせた足を押さえられて、アトリは「ひえ」と情けない声を上げた。
身体を押さえ込むユーグレイは大型の肉食獣にしか見えない。
「君の中に注ぎ込んだものを掻き出すだけだ。挿れたままだと工夫は必要だろうが、別段問題はない。君は眠っていて良い」
「どーいう理屈なんだ、それぇ! ごめ、ほんと、悪かったからっ! だから、また、イッ……!」
今度は容赦なく二本の指が差し込まれて、アトリは息を呑んだ。
ぐぅっと拡げられた奥から、とろりとしたものが溢れ出す。
ごめんと繰り返し謝るが、どうもやめてはくれないらしい。
「またイッたのか、アトリ。君も大概、可愛いな」
降って来た言葉は意趣返しにしては、やけに甘く優しい。
うん。
不用意にユーグレイを煽るのはやめようと、アトリは酷く反省した。
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