【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま

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女なめんな

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「……っ、水瀬のバカ!!」

静まり返ったエントランスに反響するほど大声で叫ぶ。

『俺には言えないことか』だって?!

言いたかったに決まってるじゃん! 聞いてほしかったに決まってるじゃん!

いつだって何だって相談してきた。誰よりも近い存在で安心して一緒にいられた。

『ただの同期』と自分に言い聞かせながら、居心地のいい距離感を失いたくなくて、ズルいことは承知で側にいた。

そんな水瀬に泣きたいほど辛かった出来事を真っ先に話したかった。一緒に解決策を模索したかった。

化粧濃くするとかパンプス変えるとか下らないことじゃなくて、仕事で信頼を勝ち得るために次にどう動くか、一緒にお酒を飲みながら熱く語りたかった。

でも水瀬が馬鹿なこと言うから。爽くんに庇われたなんて言えば、やっぱりその程度の人間なんだって水瀬に思われるのが嫌だから。

もう嫌だ。王子なんて、御曹司なんて。

「御曹司なんてみんなハゲて太って虫歯まみれになってモテなくなってしまえ!!」

今まで生きてきた中で一番大きな声で呪いの言葉を叫んで、私は踵を返してエントランスから走って逃げ出した。

一瞬静まり返ったあと、後ろから爽くんの爆笑する声が聞こえたけど、振り返らずに一心不乱に駅を目指した。


◇ ◇ ◇

翌日はいつもより早めに出勤した。

もちろん化粧も靴もいつも通り。

いや、化粧だけは目元が少し濃いかもしれない。腫れぼったくなったのを隠すのに若干いつもより塗りたくってしまった。

いつものココアを飲みながら昨日帰ってしまったため読めなかったメールを確認しながら返信する。

始業時間になったら課長へ昨日の生田化成での話を報告して、担当を変えてもらうように相談しなくてはならない。

本音を言えば、悔しいし担当を離れるのは嫌だ。

でもこれはビジネス。

昨日は爽くんが盾になってくれたおかげでなんとなく話が進んだが、いつまでもそのままでいるわけにいかない。

それならいっそ、私が担当を降りたほうが双方気持ちよく仕事が出来るのではと昨晩眠れない頭で考えた結論だった。

今までの生田化成とのやりとりを纏めた資料のファイルを用意していると、ふと隣に人の気配がした。

「おはようございます」と挨拶をしようと椅子を回転させて右側を振り仰ぐと、そこに立っていたのは半年前にこのフロアに別れを告げたはずの水瀬だった。

「おはよう」
「……なんで」
「話がある。会議室取ったから、ちょっと来て」

そう強引に連れられてきた同じフロアにある小さな会議室。何がなんだかわからないまま向かい合わせに座らされた。

水瀬からは昨日の気まずさは何も感じられない。ついでに呪いの効果も。

しかし大声でなかなかの呪いの言葉をぶつけた自覚がある私は、今この密室でふたりきりの状況はかなり気まずい。

なぜ呼ばれたのか。何の話があるというのか。

まさか会社の会議室でこの前の焼き鳥屋の続きでもないだろうが、他に話というのが思い当たらずそわそわしてしまう。

「佐倉」
「は、はい」

なぜか敬語で返してしまった私に怪訝な表情を向けながら、水瀬がいきなり本題に入った。

「爽から聞いた。昨日の生田化成でのこと」

身構えていた身体がさらにギシリと固くなる。

『若い女』である私が担当では不満だと言われてしまったこと。それを『社長の息子』である爽くんに庇われてしまったこと。

きっと全部知られてしまったんだろう。

何を言ったらいいのかわからず、不安で視線が泳ぎ唇が震えた。

幻滅されてしまっただろうか。やはり『社長の息子』である爽くんに取り入ったと思われてしまったんだろうか。

目の前で大きくため息をつかれ、ビクッと肩が震える。

「バカ佐倉! しっかりしろよ」
「……え?」
「まさかお前、自分が担当降りようなんて考えてないだろうな」

じろりと睨まれて唇を噛む。

だってしょうがないじゃないか。ラーメン屋の息子じゃないけど、そんな言い訳しか浮かばない。

「向こうの担当が変わったくらいなんだよ。そういうオヤジをメロメロに口説いてなんぼって言ってたのはお前だろ」

…………そう。

「水瀬の名前なんかじゃなく、お前の営業で契約が取れるはずだ」

……そう。だって、そのためにこの半年尽くしてきたんだから。

「もっと頼れよ。同期なんだから。手伝うから、資料集めでも書類作りでも何でも」

真っ直ぐにこちらを見つめる瞳はキラキラ輝いていて、泥の中に沈んでいたような私の心がゆっくりと浮上していく。

どうしてだろう。どうして水瀬はいつも私の欲しい言葉がわかるんだろう。

私自身も自覚していないのに、どうして的確に当てて与えてくれるんだろう。

担当を降りたくない。でもそんなことただの我儘で自己満足なんじゃないかって思ってた。

庇ってくれたのは嬉しかった。でもそこに『水瀬』の冠が付いた時点で私の実力ではなくなってしまったのがやるせなかった。

でもこんなこと誰にも言えなかった。

営業課はみんないい人だけど男性ばかり。女性社員は営業事務の人が何人かいるだけで、営業に出る女性は私だけ。

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