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解かれた封印
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しおりを挟む伝えなくては。今水瀬が私にありったけの想いをぶつけてくれたように。
心の奥底に抱えていたものを全部。大事な彼に伝わるように。
「私……恋愛が向いてないって思ったの。仕事が楽しくて、集中するとそれに一直線になっちゃうから。その……浮気されたのも今思えば仕方ないっていうか」
じろりと睨むような視線に慌てて首を振る。
「べ、別に卑屈になってるわけじゃなくってね? それまではどうにかして時間取ろうとしてなかったなって。かといって無理して時間作るとあんな風に迷惑かけて。だからしばらく恋愛はいいやって思ってたの」
優しく握られた手が続きを促すから、そのまま話し続けた。
「浮気されて、他の女の影に嫉妬する独占欲みたいなのが人一倍強いんじゃないかって気付いて、そういう……モテる人は無理だなって思ってた」
だから、水瀬を好きになってはいけないと、ずっとそう思ってきた。
「水瀬が私に何か伝えようとしてるんじゃないかって思った時も、なんとか逃げられないかって、そればっか考えてた」
「うん」
「もしも、もしも私が考えてる通りの話だったら、何て答えたらいいのかわからなかったから」
ひたすらに勘違いならいいと願った。私の自惚れならいいと思ってた。
心のどこかで、ずっと彼の気持ちを期待していたくせに。
「爽くんにターゲットにされた時も、彼なりに本気で告白してくれた時も。すぐに『ごめんね』って返事が出来た。でも……」
「でも?」
「その時、爽くんに言われて気付いたの。あの同期会で水瀬が言ってくれた時、散々恋愛はもういいって自分に言い聞かせてたくせに、『ごめん』の一言が言えなかった」
ズルい自分に気が付いた。応えられないと思いながら、水瀬から差し出された手を振り払うことが出来なかった。
キスされて、好きだと言ってもらえたのが嬉しかった。
『ごめん』なんて言えなかった。言いたくなかった。
だって、だって私は……。
「ほ、本当に、私でいいの?」
「佐倉がいい」
「私、見ての通り普通の見た目だし、別にスタイルだって良くないし、めっちゃ仕事出来るって程でもないし、父親は酔っ払うと『星空のディスタンス』熱唱するようなただのサラリーマンだし、炊飯ボタン押し忘れの日本記録持ってそうなくらいうっかりなポンコツ主婦の母親に育てられたような女だよ?」
「ははは! 何それ! いいな、佐倉の両親っぽい。俺も会ってみたい」
「ちょ、そうじゃなくて」
「いいんだって」
ソファの上で繋いでいた手をグッと引き寄せられ、すぐ目の前の水瀬の胸にすっぽりと収まる。
「見た目とか育ちとか、そんなんどうでもいいくらい佐倉がいい」
「水瀬」
「あと不安なことは?」
抱き締められた腕の中。
あんなに頑なに自分の気持ちと向き合うのを恐れていたというのに。水瀬が丁寧に一つずつ不安を解消してくれたおかげで、今はこんなにも気持ちが凪いでいる。
しかし、まだ不安要素は残っていた。
爽くんも言っていた。御曹司ならではの不安。
「……爽くんが言ってたんだけどね?」
「爽?」
若干低い声で聞き返される。ちょっと怖いなと思いつつ、もしかしたら嫉妬してくれているのではと思うと少しだけ嬉しくなってしまう。
「うん、あの、いずれ自分は会社を継いで、親の決めた人と結婚するんだろうって」
だからこそ水瀬の言う『女癖だけは最悪』というあのキテレツな恋愛観になってしまったのだけど、そこは私が言っていいことではないと思うので割愛する。
「あぁ」
「だから、その、水瀬もいずれお見合いとか、そんな話があるんじゃないかって思って」
その度に相手の女性に嫉妬して、水瀬を疑って……。
そんなことを繰り返していればお互い徐々に疲れてしまうのなんて目に見えている。
「ないよ、大丈夫」
「へ?」
「爽のところはたまたま伯父が見合いで結婚しただけで、俺の両親は普通に恋愛結婚だったって聞いてる」
「そ、そうなの?!」
意外な話に思わず声が大きくなる。身体を引いて目を合わせれば、少しムッとした表情で睨まれた。
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