2 / 29
序章-赤坂村のベッコウ師-
02『蝶とカワヅザクラ』
しおりを挟む
着物と袴に着替えた上にブーツを履いたテフナは、自室を後にし…
和洋折衷の屋敷の正面玄関から庭先に出る。
「はぁ…もっと暖かくならないかなぁ…」
3月初めの朝ということもあり、テフナは身震いする。
「お嬢様、おはようございます…少し遅めのお目覚めですね。」
屋敷の本館から正面の門までの間に、広く広がる庭の草木を手入れする高齢の女性が、テフナに挨拶する。
「あはは…布団のお化けがなかなか離してくれなくてさぁ…なんてね、お清さんもおはよう。いつもありがとうございます。」
テフナは冗談交じりに、源坂家に仕える中でも最も古株の下女に対して返事をする。
「これ以上、鬼軍曹を待たせると不味いから行くね。」
手短に別れの言葉を伝えたテフナは、着物の袖、黒髪を半結びに束ねる為の赤いリボンを揺らしながら…
目新しい洋館に隣接する、古く赴きのある武家屋敷の方へと駆けていく。
ーーー
武家屋敷の一角にある弓術場に、佇む袴姿の少女は、遠くに置かれた円形の的がある方角を見つめている。
その少女の背後に、そろり…そろり…っとテフナが足音を立てない様に近付いた瞬間…
パン!っと一発の銃声が、弓術場内に響き渡る。
「ひぃ!…もう何も言わずに撃たないでよね…レイ。」
テフナに声を掛けられ振り返った【卜部レイ】は、キリっとした目元と短髪が特徴の少女である。
レイが踵を返したことで揺らめいた着物の袖には、河津桜の花柄が刺繍されている。
「遅い…お寝坊なお嬢さんには、空薬莢でも拾ってもらおうかしらね…」
朝の稽古に遅れた事に注意したレイの右手には、45口径の銃弾を使用する半自動式拳銃の【ミナカ式C型拳銃】が握られている。
「レイ、ゴメン!って…そうだね、私よりも弾を当てることが出来たら回収役してあげるよ。」
軽く謝罪したテフナは、【ミナカ式C型拳銃】の弾倉に45口径の実包を7発装填している。
「っう…良いわよ…」
レイのキリっとした目元が一瞬、揺らぐ。
「やった、私から撃つね。」
逆に口角が上がったテフナは、数歩前に出て…20メートル先の的に狙いを付ける。
そして、一定の間隔で銃声が7発響く…
テフナによって放たれた銃弾は、見事に全長40センチ程の標的の中心部に、7発すべてが密集している。
「我ながら流石の命中精度だわ~」
ふふん!っとテフナが自画自賛する。
「流石ね…とは言え、私もいつまでも負ける訳にはいけないから。」
テフナから受け取った【ミナカ式C型拳銃】に新たな弾倉を装填したレイは自分に言い聞かせる様に呟く。
躊躇うことなく引き金を引いたテフナとは打って代わって、レイは慎重に狙いを定めて銃弾を放つが…
1発目と2発目は標的の中心部を捉えているが、3発目以降から徐々に左斜め上へと着弾の跡がずれていく。
「レイは逆に慎重すぎて、発砲の反動を制御しきれていないんだよ。」
レイが撃った標的から、レイの方へと視線を合わせたテフナが、僅かに口角を上げながらアドバイスする。
「おほん…私たちの敵である【雷クモ】に寄生された人間と普通の人間は、通常時の外見的な違いは無くて遠目では分かりにくいから…」
テフナの得意げな顔に対して、冷静を取り繕ったレイが大きく一歩、近付いて言葉を続ける。
「この距離感なら…軍刀の方が早いのよね。」
そう告げたレイは自身の腰に差した鞘に収まる【ミナモト式軍刀】を指差す。
その軍刀は、源坂家にとって本家に当たる武家出身の刀匠が遺した…日本刀を基に、射撃から近接攻撃へと即座に対応し易さを重視し、片手でも扱える短い刀身に改修されている。
「うん、いつものレイの負け惜しみだね。」
テフナは、やれやれみたいな素振りをわざとらしく見せる。
「テフナの源坂家、私の卜部家は武家なのだから…【ベッコウ師】としても刀で雷クモを討つべきなのよ!」
持論を語りながら右手で拳を作るレイの家は…かつて、源坂家に仕えていた家臣のうちの一つであり、現在でも親交が続いている。
「お嬢さん方、こちらにおられたのですか!自転車では学校に遅れますので、私が車で送りますよ。」
雑談している二人の間に割って入ったのは、源坂家専属の板前の男性である。
「えっ、本当だ!広田さんお願いします。」
弓術場にある時計に目を向けたレイが、急いで軍刀を竹刀袋にしまい支度する。
「車かぁ…村の皆に見られるから嫌なんだけどなぁ…遅刻の罰掃除よりマシか…」
そうぼやきながらテフナが履く黒いのブーツの側面には、ベッコウ師の証である赤い蜂が刺繍されている。
ーーー
テフナとレイを乗せたセダン車のダットサンが、未舗装の山道を下っていく…
その最中、牛車を引く初老の農夫とすれ違う。
「あぁ…また源坂様のところかい…大きな山の上に、大きなお家が有るのも考え物だね…」
そう溢した農夫は、赤坂村の中心部である町へと続く、長い長い山道をゆっくりと下っていく。
和洋折衷の屋敷の正面玄関から庭先に出る。
「はぁ…もっと暖かくならないかなぁ…」
3月初めの朝ということもあり、テフナは身震いする。
「お嬢様、おはようございます…少し遅めのお目覚めですね。」
屋敷の本館から正面の門までの間に、広く広がる庭の草木を手入れする高齢の女性が、テフナに挨拶する。
「あはは…布団のお化けがなかなか離してくれなくてさぁ…なんてね、お清さんもおはよう。いつもありがとうございます。」
テフナは冗談交じりに、源坂家に仕える中でも最も古株の下女に対して返事をする。
「これ以上、鬼軍曹を待たせると不味いから行くね。」
手短に別れの言葉を伝えたテフナは、着物の袖、黒髪を半結びに束ねる為の赤いリボンを揺らしながら…
目新しい洋館に隣接する、古く赴きのある武家屋敷の方へと駆けていく。
ーーー
武家屋敷の一角にある弓術場に、佇む袴姿の少女は、遠くに置かれた円形の的がある方角を見つめている。
その少女の背後に、そろり…そろり…っとテフナが足音を立てない様に近付いた瞬間…
パン!っと一発の銃声が、弓術場内に響き渡る。
「ひぃ!…もう何も言わずに撃たないでよね…レイ。」
テフナに声を掛けられ振り返った【卜部レイ】は、キリっとした目元と短髪が特徴の少女である。
レイが踵を返したことで揺らめいた着物の袖には、河津桜の花柄が刺繍されている。
「遅い…お寝坊なお嬢さんには、空薬莢でも拾ってもらおうかしらね…」
朝の稽古に遅れた事に注意したレイの右手には、45口径の銃弾を使用する半自動式拳銃の【ミナカ式C型拳銃】が握られている。
「レイ、ゴメン!って…そうだね、私よりも弾を当てることが出来たら回収役してあげるよ。」
軽く謝罪したテフナは、【ミナカ式C型拳銃】の弾倉に45口径の実包を7発装填している。
「っう…良いわよ…」
レイのキリっとした目元が一瞬、揺らぐ。
「やった、私から撃つね。」
逆に口角が上がったテフナは、数歩前に出て…20メートル先の的に狙いを付ける。
そして、一定の間隔で銃声が7発響く…
テフナによって放たれた銃弾は、見事に全長40センチ程の標的の中心部に、7発すべてが密集している。
「我ながら流石の命中精度だわ~」
ふふん!っとテフナが自画自賛する。
「流石ね…とは言え、私もいつまでも負ける訳にはいけないから。」
テフナから受け取った【ミナカ式C型拳銃】に新たな弾倉を装填したレイは自分に言い聞かせる様に呟く。
躊躇うことなく引き金を引いたテフナとは打って代わって、レイは慎重に狙いを定めて銃弾を放つが…
1発目と2発目は標的の中心部を捉えているが、3発目以降から徐々に左斜め上へと着弾の跡がずれていく。
「レイは逆に慎重すぎて、発砲の反動を制御しきれていないんだよ。」
レイが撃った標的から、レイの方へと視線を合わせたテフナが、僅かに口角を上げながらアドバイスする。
「おほん…私たちの敵である【雷クモ】に寄生された人間と普通の人間は、通常時の外見的な違いは無くて遠目では分かりにくいから…」
テフナの得意げな顔に対して、冷静を取り繕ったレイが大きく一歩、近付いて言葉を続ける。
「この距離感なら…軍刀の方が早いのよね。」
そう告げたレイは自身の腰に差した鞘に収まる【ミナモト式軍刀】を指差す。
その軍刀は、源坂家にとって本家に当たる武家出身の刀匠が遺した…日本刀を基に、射撃から近接攻撃へと即座に対応し易さを重視し、片手でも扱える短い刀身に改修されている。
「うん、いつものレイの負け惜しみだね。」
テフナは、やれやれみたいな素振りをわざとらしく見せる。
「テフナの源坂家、私の卜部家は武家なのだから…【ベッコウ師】としても刀で雷クモを討つべきなのよ!」
持論を語りながら右手で拳を作るレイの家は…かつて、源坂家に仕えていた家臣のうちの一つであり、現在でも親交が続いている。
「お嬢さん方、こちらにおられたのですか!自転車では学校に遅れますので、私が車で送りますよ。」
雑談している二人の間に割って入ったのは、源坂家専属の板前の男性である。
「えっ、本当だ!広田さんお願いします。」
弓術場にある時計に目を向けたレイが、急いで軍刀を竹刀袋にしまい支度する。
「車かぁ…村の皆に見られるから嫌なんだけどなぁ…遅刻の罰掃除よりマシか…」
そうぼやきながらテフナが履く黒いのブーツの側面には、ベッコウ師の証である赤い蜂が刺繍されている。
ーーー
テフナとレイを乗せたセダン車のダットサンが、未舗装の山道を下っていく…
その最中、牛車を引く初老の農夫とすれ違う。
「あぁ…また源坂様のところかい…大きな山の上に、大きなお家が有るのも考え物だね…」
そう溢した農夫は、赤坂村の中心部である町へと続く、長い長い山道をゆっくりと下っていく。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる