帰還方法は、コーヒーブレイクののちに…文学少女の小国開拓譚

蒼伊シヲン

文字の大きさ
1 / 23
序章-ウリ・バルデンでの珈琲-

01『黄昏時の図書室ののちに…魔術?』

しおりを挟む
「寒い…それに…眠たくなってきた…」
高い山が連なる小国『ウリ・バルデン』の中にある一つ…標高1200メートルを超える山『アイフラウ』の山中で雨に打たれた少女【キシル・コナ】は、寒さのあまり身体を震わせている。

長い黒髪に眼鏡姿の彼女の身なりは、セーラー服姿にタイツ…そして、魔術師の証であるマント…っと登山をするにしては軽装に見えるものの…魔術による体温の維持を出来る為に、問題はない。

しかし…【キシル・コナ】は魔術が不得手な為に、今回の登山における目的地にたどり着く迄の到達予定ギリギリの時間の間しか、体温を維持をする魔術を行使出来ない…

そんな、【キシル】は、濃霧が原因で同級生たちとはぐれ、遭難してしまい現在に至る…

「あっ…」
まずいっと言う前に、キシルの瞳は閉じられ…意識レベルが低下していき…この魔術と錬金術が支配する世界を訪れる前の事を思い出す。

ーーー

放課後…長い黒髪に眼鏡姿の【霧島なつき】は、通う高校の図書室の受付の席に座り…図書委員の仕事に務めている。

「(久しぶりに飲んだけど…ハワイコナの甘い香りは良いわ)」
黄昏時の図書室を利用する生徒は疎らで、静かな時間が流れるなか…【なつき】は持参した豊潤な甘い香りと果実の様な酸味を放つ最高級の珈琲『ハワイコナ・エクストラファンシー』を喫しながら…なつき自身も知識の海に潜る…

「はい、委員長きりしまさん…これ宜しく…」
図書室の受付に借りた本をドサッっと置いた、同じクラスの長い金髪の少女【金手かなて・B・香奈子】が、なつきの珈琲の香りと読書の集中を遮る。

「ちょっと…金手さん、これ返本の期日過ぎてますよね…確か、前のテスト期間でも過ぎてましたよね?」
なつきは、不躾に読書とティータイムを遮られた事も相まって、短くため息を漏らす。

「いちいち細かいこと言わないでよ…みんなが嫌がる学級委員長も図書委員の仕事もこなしてくれる『仕事人フィクサー』さん、宜しくぅ~」
そう含みのある言葉を残した金手は、なつきの首もとにあるチョーカーに一瞥し…その場を後にする。

「(まったく、金梃かなてこのような名前のくせに…)」
常習犯である金手に対して、僅かに憤りを感じたなつきは、自身のチョーカーへと右手を添える。

「それに…その名前で呼ばないでくれる…」
そうなつきが溢した直後…最終の下校時間を伝えるクラシック曲『新世界よりの家路』が、図書室のスピーカーから流れてくる。

「はぁ…さっさと、返本作業して帰りますか…」
なつきは、そうぼやくと…本たちを元の場所へと返していく…

昼から夜の世界へと変わる、曖昧な境界線上の時間の中…図書委員の一人しかいない室内は不気味な位に静かである…
そして、また一冊…もう一冊…っと本を返していくなつきの視線が妙な物に気付く。

「なにこれ…床下への入り口?こんな物なかったよね?…そもそも、ここは3階だし…」
あるはずのない入り口を開くための錆び付いた持ち手に、なつきは好奇心をくすぐられる。

一呼吸ののちに…なつきが、床下への入り口を開くと…そこには、レンガ造りの下り階段が姿を現す…
図書室の中である筈なのに、追い風が微かに吹き…誘う。

その誘いに促される様に、なつきは…また一段、また一段っと階段を降りていく…
たどり着いた先には、大きな木造の扉が鎮座していた…

そして、なつきは大きな扉を開いて…その先の部屋に入る。

そこには、大きな図書館が広がっていた…
なつきの背丈よりも遥かに高く、倒れてきたら人溜まりもない本棚に挟まれている。

「凄い量の本…」
月と太陽が同じ時に存在する…黄昏時の膨大な図書館に、なつきは呆気に取られる。

「へぇ…これは、また変わった運命を背負ったお客人だねぇ…」
なつきが振り向いた先には、書斎に有るような作業机の席に座る女性がいた…

その女性は…魔術師や錬金術師と言った言葉が相応しい身なりで、ツバの広い帽子を深く被り…右目が隠れている。

「えっと…貴方は…」
なつきは風変わりな書斎の主に、問い掛けるが…

「私のことよりも…この部屋への入り口が君の前に現れたということは…君は、彼らに選ばれた訳だが…どうだい?運命を変える為の『権利』と『責務』を背負う覚悟はあるかな?『仕事人フィクサー』君?」
問い掛けをスルーした書斎の主は、なつきの首もとにあるチョーカーに視線を向ける。

「なんで…仕事人フィクサーと呼ばれる人達の事を…」
なつきの時代とは、明らかに異なる身なりの女性が知っている事に対して、驚きを露にする。

「まぁ…私の左目には、目の前にいる人の現在、過去…そして、未来が見えるんだよね。」
そう告げた書斎の主の左目は、僅かに瑠璃色の様に輝き…帽子全体を持上げたことで、眼帯に覆われた右目部分も露になる。

「ねぇ、教えて下さい…どうして、私達はこのような虐げられる環境に身を置く事になったのかを…そして、どうなるかを…」
思わず語気が強くなるなつきが懇願する。

「ごめんね、それは教えられない事になっているんだよね…それでどうする?」
改めて問い掛ける書斎の主は、何処からか林檎を取り出し…なつきに差し出す。

それに対して、なつきは歩みを進める。

「はい、運命を変えたいです。」
そう強い意思を示したなつきは、その林檎を受け取る。

次の瞬間…部屋全体が揺れ始め…なつきの両隣に立つ本棚が、ペンの様にしなる…
そして、なつきは本棚からこぼれ落ちる本の波に呑まれ…

意識を失う。

ーーー

「…おい、起きろ…キシル…キシル・コナ」
自分の名前が呼ばれている気がした…なつきの意識は、徐々に覚醒する。

「んぅ?…はぁい…」
なつきが寝ぼけた状態で、顔を上げた瞬間…右頬すれすれを熱い塊が、勢い良く通過する。

「えっあ!あっつぅ!?」
驚きのあまり奇声を上げたなつきは、正面をしっかりと視認する。

そこには、見慣れない魔術師の様な姿をした男性が黒板の前に立っており…
その教師らしき男性の右手近くに、火の玉が浮遊している。

「えぇ!なにこれ!?夢?」
驚きのあまりに、なつきが立ち上がり周囲を見ると…同年代の少年少女達が見慣れない制服の上にマントを羽織っている…

「はぁ…まだ寝ぼけているのかしらね?キシルさん?」
なつきが知っている【金手】に何処となく似ている、金髪縦ロールの少女がため息混じりに注意する。

「どうして…金手バールさんがここにいるの…」
霧島キシルは、金手と呼ぼうとしたが…実際に言葉として発音されたのは、バールだった…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。 語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!? で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。 ならば俺の願いは決まっている。 よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産? 否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。 万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て… チート風味の現代ダンジョン探索記。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...