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Chapter.4
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キキーーッと音を鳴らして自転車を止める。
町屋の路地に自転車を立てかけて、ドアの前まで駆け寄った。
「古賀さん!」
返事はない。
「古賀さん、古賀さん!」
僕は扉に手をかける。
鍵がかかっていない。
「え?」
僕は嫌な予感がして、扉を勢いよく開くと中に駆け込んだ。
すると予想した通り、青い顔をした古賀さんがたたきに転がっている。
僕は彼に駆け寄った。
「、、、古賀さん、また」
そこまで口にした僕の視線の先に、たたきに転がる携帯の画面が映る。
僕は古賀さんの頭を膝に寄り掛からせ、携帯を手に取った。
携帯画面のロックスクリーンはお寺の前でピースをする一人の少年の写真。
僕だった。
でもまだ少し幼い顔つきをしている。
自分はまだ中学生くらいだろうか。
数年前にしていた歯の矯正が、太陽に照らされ輝いている。
僕は膝の上で寝息を立てる古賀さんに視線を落とした。
「、、なんで」
古賀さんが倒れることは結構日常茶飯事になっていた。
普通は絶対に慣れてはいけない事なのは知っているが、目を覚ました瞬間に三人前くらいをペロッと平らげる場合は別だ。
僕は少しずつ安定した寝息を立て始める古賀さんの寝顔を覗き込んだ。
触ったら、、だめだよね。
彼の眉根がピクリと動く。
すると淡い唸り声とともにゆっくりとまぶたが開いた。
「古賀さん」
「、、、慎之介くん?」
寝起きのガサついた声で古賀さんが言うと、ゆっくりと体を起こした。
にかかる時計に視線を向けた。
「、、、ああ、慎之介君に作ってもらった弁当忘れて取りに帰ってきたら、ぶっ倒れたんだっけ」
そんなことを言う彼に、ため息を漏らす。
「朝いっぱい食べたでしょうに。毎日家に引きこもってるだけなのに、なんで古賀さんの体は筋肉むきむきな超人並みに栄養欲してるんや」
「さぁ、悪いが俺は生物学全般は専門外だ」
「いや、そもそも古賀さんの生体は常人の計算では解明できひんよ」
「あざっす」
「褒めてへん」
僕は普段通りに話す古賀さんに、胸をなでおろす。
立ち上がり、居間から出ようとすると、彼に「あのさ!」と呼び止められる。
振り返った僕を見上げる古賀さん。
「一応聞くけどさ、、、なんでいんの?」
僕は視線を逸らす。
「どうしても話したいことがあって」
「が、学校は?」
「抜けてきた」
「まじか」
茫然と僕は見上げる古賀さんを残しキッチンに行く。
冷蔵庫に入れていた昼用のご飯を電子レンジで温める。
居間に戻り、段ボールテーブルに並べた。
古賀さんはいつもより控えめに、口にご飯を運んだ。
「古賀さん」
「なに?」
僕は深いため息をつく。
震える指先を隠すように、こぶしを握りしめた。
「古賀さんはさ、気付いてたん?」
「え」
視線を逸らす僕。
「いつも感情見透かされてるみたいやったし、気付いてるんやろ?僕が、古賀さんのこと好きなこと」
そう聞くと古賀さんは少し気まずそうな顔をした。
「ま、まあ」
僕の頬がかっと赤く染まる。
「いつから?」
「、、、そういう意味で好かれてるって知ったのは結構最近。最初のころはなつかれてんなーくらいにしか思わなかったけど」
「そっか」
僕はあまりの羞恥に、鼻の奥がつんと熱くなる。
でももう覚悟を決めた。
僕は震える息を吐く。
「僕の想いが本当に一方的なものだってことは知ってる。でも」
僕はあふれそうな涙を必死に抑えながら顔を上げた。
「古賀さんが好きなんです。本当に好きなんです」
古賀さんは目を見開いて僕を見つめた。
「また次会う時に言えばいいてのはわかってるんやけど、どうしても早く伝えたかった。触りたいなんてひどいことを思った自分もいます。とりあえずは友達でなんてことを思っていたのはただの逃げやった。僕本当は遠慮するのが苦手や」
ぽつぽつと言葉を紡いでいくごとに、瞳からも暖かい涙が零れ落ちた。
「本当は、皐月がここに来た時、二人がしゃべってるの見ただけで嫉妬した。もし互いに気持ちが残ってたんやったら、奪ってやりたいなんてことも思った。でも、どうしたらいいかわからんくて、、、怖くて、、、」
僕がそう言いながら、涙を袖でぬぐい取る。
少しの沈黙。
すると、ぶはっと噴き出す音がした。
僕はバッと顔を上げた。
古賀さんが頬をピンク色に染めて笑っている。
「な、なんで笑って」
「だって、だってなんか急にしおらしくなって」
「ぼ、僕は真剣に!」
そこまで言うと、彼は急に僕の掌を握る。
「冗談だよ。でも触りたいとか思うことはひどいこやなかけん」
「え?」
古賀さんは今までにないほど優しい手つきで僕の涙をぬぐい取った。
「てか、んなこと言うたらひどかよ?俺、触りたいて思うたらなんも考えんで触るけど?」
僕は目を見開く。
「、、、さわ、りたい?」
彼は頷く。
「慎之介君かわいかけんね、昔から」
「昔?」
そう聞くと、古賀さんはポケットから携帯を取り出し、画面を見せてくる。
「あ、それ、、、」
「これ、見たっちゃろ?」
僕は古賀さんと携帯画面を交互に見やる。
「その写真、どこで、、、?」
「お前の姉ちゃん」
古賀さんはスマホを切ると、机に置いた。
「付き合ってた頃、結構いっぱいもらってさ」
隣に移動してくる彼を見上げる。
「俺ね、皐月と会ったころ、どうしても好きな女の子ができないことに悩んでたんだ。だから、告られたし付き合ってみた。」
「ひ、ひどい」
「わかってるよ。自分でも最低だったって思ってる。ぐうの音も出ねぇ。」
深いため息をつく古賀さん。
「付き合ってて楽しかったし、俺もやっと好きな女の子ができたと思ってうれしかった。そしたらさ、『あたしの弟ー』みたいなノリで写真送ってきたんだよ。」
「僕の写真、、」
古賀さんはうなずく。
「可愛いなっつったら、それから毎日写真送ってくるようになったんだ」
僕は彼の言葉にため息をつく。
「全然、知らなかった」
「それから、感情丸見えのお前の写真がどうも楽しみでさ、早く次!って急かすようになっちまった」
昔から自分がそんな感情丸見えだったことに羞恥を覚える。
「そのころかな。あいつが俺の幼馴染と浮気したんだ」
こないだ言っていた彼氏のことか。
僕は気まずげに頷く。
「私のこと好きじゃないでしょって言うんだ。あんたは、どう見ても」
古賀さんは僕の目をまっすぐ見る。
「弟に惚れてるでしょって言われた」
息をのんだ僕は目を見開いた。
「ぼ、僕?」
古賀さんが視線を逸らしつつ頷く。
「正直、あいつにそう言われた時、何言ってんだって思った。だって好きになるも何も、相手は男じゃねえかっ、てな」
男、、、。
僕はその一言にピクリと反応する。
「そ、そんなん男も女も関係ないやろ!」
急に腕を掴んで力を入れる。
すると、古賀さんは困ったように笑った。
「今ではわかるよ、でもあん時はまだガキだった」
「ガキって、、、僕と同じ年齢の時じゃ」
「そうだな」
古賀さんはバツが悪そうに首に手を当てた。
「お前は本当に大人だ。今の俺よりもずっと大人。そこは認めるしかねえ。今でもお前と会った時はなんか見たことあるなくらいにしか思ってなかった。ずっとつまんなさそうな顔してるんだもん」
肩を上下させて言う古賀さんの言葉に、僕の口からため息がこぼれる。
「でもさ、一緒にいてさ、だんだん表情に感情が出るお前になった。最初の頃は、なんか可愛いな程度にしか捉えてなかった。だって自分が男にこんな感情持ってるってのがどうしても認められなかった。でもさ、俺が好きって顔に書いてあるお前見てさ、そんなこと関係ねえんだって思ったし」
彼は歯を見せてニッと笑う。。
「ああ、好きだなって思った」
「え」
僕の頬が真っ赤に染まる。
「そんで、お前があん時の弟君ってわかってみ?まさに運命じゃねえか」
運命、、、。
僕は胸がジンジンと燃え上がる感覚に、無意識に胸に手を当てる。
「僕のこと好きなん?」
「うん」
「嘘じゃないん?」
「うん、嘘じゃない」
「嘘や」
「嘘じゃない」
古賀さんは、ははっと笑った。
頬を伝った涙を拭き取りながら、口角をあげる。
「なんや?ロリコン?」
「ろっ?!ひでぇ!」
そう文句を言いながらも、表情を崩す古賀さん。
よく見ると、瞳に涙が溜まってる。
「古賀さん泣いてる。クールなイメージが台無しや」
「慎之介ん君だって、偉そうなお母さんキャラが崩壊してんぞ」
いつものように言い合う僕ら。
「ってかこのしおらしい雰囲気、俺らには似合わんばい」
「うん」
僕が口を大きく開けて笑う。
すると、古賀さんが僕の両腕を掴んで急に引き寄せた。
僕の心臓がドキリと音を立てる。
「好き」
そう一言言った古賀さんをちらっと見やると、顔は髪で隠されているが、少しだけ見える耳が真っ赤に染まっている。
「、、、アンコール!というか、博多弁でもう一回」
「いや、無理。お前本当に俺の博多弁聞くの好きだな」
バツが悪そうに言う彼を覗き込む。
「だって可愛いし」
「、、、お前本当うまいよな」
「ほら、早く早く」
急かす僕に古賀さんは深いため息をついた。
「好きやけん」
「ふ、ふふふふ」
僕は頭を抱えて地面にヘタリ込む。
頬の緩みがなかなか止まらない。
「そこは俺がヘタリ込む流れじゃ」
「古賀さん」
「っ」
「僕も、好きやで」
そう囁くと、古賀さんも僕と同じように頭を抱えてはヘタリ込む。
「いや、それまじで反則な」
「わかった?方言男子の魅力」
「うるせえ」
僕たちは互いの体温を近くに感じたまま、照れ隠しに言い合う。
その日の帰り道も、僕は優しい笑顔を浮かべていた。
自然と鼻歌がこぼれる。
そっか、好きな人に好きって言ってもらうことはこんなにも幸せなことなんだ。
初めて古賀さんに会った翌日のように、胸に期待を膨らませ、僕は帰り道を急いだ。
その後、親からの説教地獄が待っているとも知らずに。
学校をサボったことを、親からびっしりしばかれた後、僕はソファーに腰をかけた。
脱力感が一気に押し寄せる。
幸せなことがあったら分、不幸が返ってくるってのはこのことか。
特に今日は人生で一番うれしかったから、その分がひどかった、、、。
隣に寝ころがりスマホをいじる皐月の様子を伺う。
「なに」
「え」
スマホ画面に視線を向けたまま声をかけられた。
「視線がうざいんやけど。見んなし」
「、、、、」
聞いてもいいかな。
僕は恐る恐る口を開ける。
「、、、古賀さんから、皐月と何があったのか全部聞いた」
「何勝手に話してんのあいつ!」
「いや、古賀さんは悪くないから。僕が無理やり言わせただけやから」
皐月はスマホ画面に親指で触れながら、深いため息をつく。
「で?」
「え?」
「なんか聞きたかったんやろ」
「あ、うん」
僕は彼女に体ごと向けて座った。
「なんで、浮気したん?姉ちゃんから告白したんやなかったん」
「は?なんでそんなことあんたに言わなあかんの」
「そう、やけどさ」
僕には関係ないことだけど、古賀さんのことが気になるのは当然なことだ。
それに、昨日から不機嫌そうな顔をしている皐月に、どうも調子が狂う。
気まずそうに視線を泳がす僕を、視線だけスマホから上げた皐月は、じろっと見る。
「、、、寂しかったから。だってあいつあたしのこと好きじゃなかったもん」
「、、、、」
「でももう終わったことやし。ただ、あんな奴が幸せそぉな顔して、京大行って、偉そうにしてんのにムカついただけ」
「そっか」
なんてことなさそうに話す彼女は、今の彼氏とメールで会話をしている。
もう未練はきっぱりなくなっているらしい。
この際、皐月には言いたい。
「姉ちゃん」
「まだなんかあるん?」
「僕ね」
僕はフニャリと微笑むと、、、。
「古賀さんのことが好きなんや」
そう言ったとたん、彼女の指がピタリと止まる。
「、、、なんて?」
「だから、僕古賀さんのことが好きなんやって言っ」
「うおおおおおおお」
いきなり大声で叫ぶ皐月に、僕はびくりと飛び上がる。
僕の肩を鷲掴む皐月。
「好きなの?」
「え?」
「あいつが好きなのね?!」
「うん」
僕が答えると彼女はそっと目頭を抑える。
「目の前に、純情年下受けがいる」
「、、、、う、け?」
「つまり今あたしは二人の恋を邪魔する当て馬ってことねっ。神様、こんな素晴らしいボジションを授けていただき、どうもありがとう」
いきなり手を合わせて祈りを捧げる姉から、僕は青ざめて一歩後ずさる。
しかし彼女は逃がしてくれない。
「こないだ!」
「あ、あの」
「あいつの家に泊まったわよね」
なんだか口調も変だ。
「う、うん泊まった、ね?」
「なんかあった?てかどこで寝た?」
「居間で、二人で寝たけど」
「、、、二人で、寝た?」
「うん」
やばい、こんな皐月の姿は始めて見る。
「うおおおおおおお、ありがとう!」
「なんのありがとう?!」
そこまで言った僕は、ふと皐月の部屋に入った時のことを思い出す。
確か、机の上に置いてあった本の表紙では、二人の男が妙に親しげに寝っ転がっていたのを見た。
ああ、、、。
僕は苦笑を浮かべた。
僕の姉は、腐るに女子と書く、あの人種だったのか。
その夜はよく寝た。
古賀さんの口から自分を好きだと聞けた。
それに加えて、姉の新しい一面も知った。
明日が、楽しみだ。
翌日の朝。
姉の熱い視線に見送られながら、僕は家を出た。
自転車をこいで祇園に急ぐ。
「古賀さーん」
チャイムを押すも返事がない。
僕は合鍵を鍵穴に指して回し、家の扉を開けた。
するとやはり予想した通り、古賀さんは地面に倒れていた。
「ほんっとに!」
怒りでブルブル震えながら叫ぶ。
「何回ぶっ倒れたら気がすむんじゃ!何回このオチをやらすん?!どうして、学ばんの!心配よりも先に、またかよって思ったわ!」
「ごめん、お母さん」
「こっちの身にもなってみ?!ほんまに病院送りになったら許さへんから!」
古賀さんのボケをスルーして頭をかかえる。
すると、手の甲に柔らかい感触を感じ、顔を上げた。
「心配させてごめん、慎之介」
、、、慎之介って呼ばれた。
まだ眠たそうな声で言いながら、僕の手を優しく掴む。
「、、、ずるい」
頬を染めて不満げにいう僕を見上げながらははっと笑う古賀さん。
僕たちはするっと指を絡めた。
「ほら、触りたいって思ったら触ればいいったい」
「、、、うん」
「あ、でも付き合うのは高校卒業してからな」
「え!なぜ」
「だってまたロリコンとか言われたくねえもん」
「あ、あれは冗談で」
「あはは」
「こ、古賀さん!」
ふと彼の手から力が抜けると、優しげな寝息が聞こえてくる。
なんて自由な人なんだ。
古賀さんとつないだ指に力を込める。
そういえば、せっかく教えてもらったネイティブの英語、あんまり使ってんかったな。
僕は古賀さんの寝顔をじっと見つめた。
「I love you」
そう言った時、絡めた指が、キュッと強まった気がした。
町屋の路地に自転車を立てかけて、ドアの前まで駆け寄った。
「古賀さん!」
返事はない。
「古賀さん、古賀さん!」
僕は扉に手をかける。
鍵がかかっていない。
「え?」
僕は嫌な予感がして、扉を勢いよく開くと中に駆け込んだ。
すると予想した通り、青い顔をした古賀さんがたたきに転がっている。
僕は彼に駆け寄った。
「、、、古賀さん、また」
そこまで口にした僕の視線の先に、たたきに転がる携帯の画面が映る。
僕は古賀さんの頭を膝に寄り掛からせ、携帯を手に取った。
携帯画面のロックスクリーンはお寺の前でピースをする一人の少年の写真。
僕だった。
でもまだ少し幼い顔つきをしている。
自分はまだ中学生くらいだろうか。
数年前にしていた歯の矯正が、太陽に照らされ輝いている。
僕は膝の上で寝息を立てる古賀さんに視線を落とした。
「、、なんで」
古賀さんが倒れることは結構日常茶飯事になっていた。
普通は絶対に慣れてはいけない事なのは知っているが、目を覚ました瞬間に三人前くらいをペロッと平らげる場合は別だ。
僕は少しずつ安定した寝息を立て始める古賀さんの寝顔を覗き込んだ。
触ったら、、だめだよね。
彼の眉根がピクリと動く。
すると淡い唸り声とともにゆっくりとまぶたが開いた。
「古賀さん」
「、、、慎之介くん?」
寝起きのガサついた声で古賀さんが言うと、ゆっくりと体を起こした。
にかかる時計に視線を向けた。
「、、、ああ、慎之介君に作ってもらった弁当忘れて取りに帰ってきたら、ぶっ倒れたんだっけ」
そんなことを言う彼に、ため息を漏らす。
「朝いっぱい食べたでしょうに。毎日家に引きこもってるだけなのに、なんで古賀さんの体は筋肉むきむきな超人並みに栄養欲してるんや」
「さぁ、悪いが俺は生物学全般は専門外だ」
「いや、そもそも古賀さんの生体は常人の計算では解明できひんよ」
「あざっす」
「褒めてへん」
僕は普段通りに話す古賀さんに、胸をなでおろす。
立ち上がり、居間から出ようとすると、彼に「あのさ!」と呼び止められる。
振り返った僕を見上げる古賀さん。
「一応聞くけどさ、、、なんでいんの?」
僕は視線を逸らす。
「どうしても話したいことがあって」
「が、学校は?」
「抜けてきた」
「まじか」
茫然と僕は見上げる古賀さんを残しキッチンに行く。
冷蔵庫に入れていた昼用のご飯を電子レンジで温める。
居間に戻り、段ボールテーブルに並べた。
古賀さんはいつもより控えめに、口にご飯を運んだ。
「古賀さん」
「なに?」
僕は深いため息をつく。
震える指先を隠すように、こぶしを握りしめた。
「古賀さんはさ、気付いてたん?」
「え」
視線を逸らす僕。
「いつも感情見透かされてるみたいやったし、気付いてるんやろ?僕が、古賀さんのこと好きなこと」
そう聞くと古賀さんは少し気まずそうな顔をした。
「ま、まあ」
僕の頬がかっと赤く染まる。
「いつから?」
「、、、そういう意味で好かれてるって知ったのは結構最近。最初のころはなつかれてんなーくらいにしか思わなかったけど」
「そっか」
僕はあまりの羞恥に、鼻の奥がつんと熱くなる。
でももう覚悟を決めた。
僕は震える息を吐く。
「僕の想いが本当に一方的なものだってことは知ってる。でも」
僕はあふれそうな涙を必死に抑えながら顔を上げた。
「古賀さんが好きなんです。本当に好きなんです」
古賀さんは目を見開いて僕を見つめた。
「また次会う時に言えばいいてのはわかってるんやけど、どうしても早く伝えたかった。触りたいなんてひどいことを思った自分もいます。とりあえずは友達でなんてことを思っていたのはただの逃げやった。僕本当は遠慮するのが苦手や」
ぽつぽつと言葉を紡いでいくごとに、瞳からも暖かい涙が零れ落ちた。
「本当は、皐月がここに来た時、二人がしゃべってるの見ただけで嫉妬した。もし互いに気持ちが残ってたんやったら、奪ってやりたいなんてことも思った。でも、どうしたらいいかわからんくて、、、怖くて、、、」
僕がそう言いながら、涙を袖でぬぐい取る。
少しの沈黙。
すると、ぶはっと噴き出す音がした。
僕はバッと顔を上げた。
古賀さんが頬をピンク色に染めて笑っている。
「な、なんで笑って」
「だって、だってなんか急にしおらしくなって」
「ぼ、僕は真剣に!」
そこまで言うと、彼は急に僕の掌を握る。
「冗談だよ。でも触りたいとか思うことはひどいこやなかけん」
「え?」
古賀さんは今までにないほど優しい手つきで僕の涙をぬぐい取った。
「てか、んなこと言うたらひどかよ?俺、触りたいて思うたらなんも考えんで触るけど?」
僕は目を見開く。
「、、、さわ、りたい?」
彼は頷く。
「慎之介君かわいかけんね、昔から」
「昔?」
そう聞くと、古賀さんはポケットから携帯を取り出し、画面を見せてくる。
「あ、それ、、、」
「これ、見たっちゃろ?」
僕は古賀さんと携帯画面を交互に見やる。
「その写真、どこで、、、?」
「お前の姉ちゃん」
古賀さんはスマホを切ると、机に置いた。
「付き合ってた頃、結構いっぱいもらってさ」
隣に移動してくる彼を見上げる。
「俺ね、皐月と会ったころ、どうしても好きな女の子ができないことに悩んでたんだ。だから、告られたし付き合ってみた。」
「ひ、ひどい」
「わかってるよ。自分でも最低だったって思ってる。ぐうの音も出ねぇ。」
深いため息をつく古賀さん。
「付き合ってて楽しかったし、俺もやっと好きな女の子ができたと思ってうれしかった。そしたらさ、『あたしの弟ー』みたいなノリで写真送ってきたんだよ。」
「僕の写真、、」
古賀さんはうなずく。
「可愛いなっつったら、それから毎日写真送ってくるようになったんだ」
僕は彼の言葉にため息をつく。
「全然、知らなかった」
「それから、感情丸見えのお前の写真がどうも楽しみでさ、早く次!って急かすようになっちまった」
昔から自分がそんな感情丸見えだったことに羞恥を覚える。
「そのころかな。あいつが俺の幼馴染と浮気したんだ」
こないだ言っていた彼氏のことか。
僕は気まずげに頷く。
「私のこと好きじゃないでしょって言うんだ。あんたは、どう見ても」
古賀さんは僕の目をまっすぐ見る。
「弟に惚れてるでしょって言われた」
息をのんだ僕は目を見開いた。
「ぼ、僕?」
古賀さんが視線を逸らしつつ頷く。
「正直、あいつにそう言われた時、何言ってんだって思った。だって好きになるも何も、相手は男じゃねえかっ、てな」
男、、、。
僕はその一言にピクリと反応する。
「そ、そんなん男も女も関係ないやろ!」
急に腕を掴んで力を入れる。
すると、古賀さんは困ったように笑った。
「今ではわかるよ、でもあん時はまだガキだった」
「ガキって、、、僕と同じ年齢の時じゃ」
「そうだな」
古賀さんはバツが悪そうに首に手を当てた。
「お前は本当に大人だ。今の俺よりもずっと大人。そこは認めるしかねえ。今でもお前と会った時はなんか見たことあるなくらいにしか思ってなかった。ずっとつまんなさそうな顔してるんだもん」
肩を上下させて言う古賀さんの言葉に、僕の口からため息がこぼれる。
「でもさ、一緒にいてさ、だんだん表情に感情が出るお前になった。最初の頃は、なんか可愛いな程度にしか捉えてなかった。だって自分が男にこんな感情持ってるってのがどうしても認められなかった。でもさ、俺が好きって顔に書いてあるお前見てさ、そんなこと関係ねえんだって思ったし」
彼は歯を見せてニッと笑う。。
「ああ、好きだなって思った」
「え」
僕の頬が真っ赤に染まる。
「そんで、お前があん時の弟君ってわかってみ?まさに運命じゃねえか」
運命、、、。
僕は胸がジンジンと燃え上がる感覚に、無意識に胸に手を当てる。
「僕のこと好きなん?」
「うん」
「嘘じゃないん?」
「うん、嘘じゃない」
「嘘や」
「嘘じゃない」
古賀さんは、ははっと笑った。
頬を伝った涙を拭き取りながら、口角をあげる。
「なんや?ロリコン?」
「ろっ?!ひでぇ!」
そう文句を言いながらも、表情を崩す古賀さん。
よく見ると、瞳に涙が溜まってる。
「古賀さん泣いてる。クールなイメージが台無しや」
「慎之介ん君だって、偉そうなお母さんキャラが崩壊してんぞ」
いつものように言い合う僕ら。
「ってかこのしおらしい雰囲気、俺らには似合わんばい」
「うん」
僕が口を大きく開けて笑う。
すると、古賀さんが僕の両腕を掴んで急に引き寄せた。
僕の心臓がドキリと音を立てる。
「好き」
そう一言言った古賀さんをちらっと見やると、顔は髪で隠されているが、少しだけ見える耳が真っ赤に染まっている。
「、、、アンコール!というか、博多弁でもう一回」
「いや、無理。お前本当に俺の博多弁聞くの好きだな」
バツが悪そうに言う彼を覗き込む。
「だって可愛いし」
「、、、お前本当うまいよな」
「ほら、早く早く」
急かす僕に古賀さんは深いため息をついた。
「好きやけん」
「ふ、ふふふふ」
僕は頭を抱えて地面にヘタリ込む。
頬の緩みがなかなか止まらない。
「そこは俺がヘタリ込む流れじゃ」
「古賀さん」
「っ」
「僕も、好きやで」
そう囁くと、古賀さんも僕と同じように頭を抱えてはヘタリ込む。
「いや、それまじで反則な」
「わかった?方言男子の魅力」
「うるせえ」
僕たちは互いの体温を近くに感じたまま、照れ隠しに言い合う。
その日の帰り道も、僕は優しい笑顔を浮かべていた。
自然と鼻歌がこぼれる。
そっか、好きな人に好きって言ってもらうことはこんなにも幸せなことなんだ。
初めて古賀さんに会った翌日のように、胸に期待を膨らませ、僕は帰り道を急いだ。
その後、親からの説教地獄が待っているとも知らずに。
学校をサボったことを、親からびっしりしばかれた後、僕はソファーに腰をかけた。
脱力感が一気に押し寄せる。
幸せなことがあったら分、不幸が返ってくるってのはこのことか。
特に今日は人生で一番うれしかったから、その分がひどかった、、、。
隣に寝ころがりスマホをいじる皐月の様子を伺う。
「なに」
「え」
スマホ画面に視線を向けたまま声をかけられた。
「視線がうざいんやけど。見んなし」
「、、、、」
聞いてもいいかな。
僕は恐る恐る口を開ける。
「、、、古賀さんから、皐月と何があったのか全部聞いた」
「何勝手に話してんのあいつ!」
「いや、古賀さんは悪くないから。僕が無理やり言わせただけやから」
皐月はスマホ画面に親指で触れながら、深いため息をつく。
「で?」
「え?」
「なんか聞きたかったんやろ」
「あ、うん」
僕は彼女に体ごと向けて座った。
「なんで、浮気したん?姉ちゃんから告白したんやなかったん」
「は?なんでそんなことあんたに言わなあかんの」
「そう、やけどさ」
僕には関係ないことだけど、古賀さんのことが気になるのは当然なことだ。
それに、昨日から不機嫌そうな顔をしている皐月に、どうも調子が狂う。
気まずそうに視線を泳がす僕を、視線だけスマホから上げた皐月は、じろっと見る。
「、、、寂しかったから。だってあいつあたしのこと好きじゃなかったもん」
「、、、、」
「でももう終わったことやし。ただ、あんな奴が幸せそぉな顔して、京大行って、偉そうにしてんのにムカついただけ」
「そっか」
なんてことなさそうに話す彼女は、今の彼氏とメールで会話をしている。
もう未練はきっぱりなくなっているらしい。
この際、皐月には言いたい。
「姉ちゃん」
「まだなんかあるん?」
「僕ね」
僕はフニャリと微笑むと、、、。
「古賀さんのことが好きなんや」
そう言ったとたん、彼女の指がピタリと止まる。
「、、、なんて?」
「だから、僕古賀さんのことが好きなんやって言っ」
「うおおおおおおお」
いきなり大声で叫ぶ皐月に、僕はびくりと飛び上がる。
僕の肩を鷲掴む皐月。
「好きなの?」
「え?」
「あいつが好きなのね?!」
「うん」
僕が答えると彼女はそっと目頭を抑える。
「目の前に、純情年下受けがいる」
「、、、、う、け?」
「つまり今あたしは二人の恋を邪魔する当て馬ってことねっ。神様、こんな素晴らしいボジションを授けていただき、どうもありがとう」
いきなり手を合わせて祈りを捧げる姉から、僕は青ざめて一歩後ずさる。
しかし彼女は逃がしてくれない。
「こないだ!」
「あ、あの」
「あいつの家に泊まったわよね」
なんだか口調も変だ。
「う、うん泊まった、ね?」
「なんかあった?てかどこで寝た?」
「居間で、二人で寝たけど」
「、、、二人で、寝た?」
「うん」
やばい、こんな皐月の姿は始めて見る。
「うおおおおおおお、ありがとう!」
「なんのありがとう?!」
そこまで言った僕は、ふと皐月の部屋に入った時のことを思い出す。
確か、机の上に置いてあった本の表紙では、二人の男が妙に親しげに寝っ転がっていたのを見た。
ああ、、、。
僕は苦笑を浮かべた。
僕の姉は、腐るに女子と書く、あの人種だったのか。
その夜はよく寝た。
古賀さんの口から自分を好きだと聞けた。
それに加えて、姉の新しい一面も知った。
明日が、楽しみだ。
翌日の朝。
姉の熱い視線に見送られながら、僕は家を出た。
自転車をこいで祇園に急ぐ。
「古賀さーん」
チャイムを押すも返事がない。
僕は合鍵を鍵穴に指して回し、家の扉を開けた。
するとやはり予想した通り、古賀さんは地面に倒れていた。
「ほんっとに!」
怒りでブルブル震えながら叫ぶ。
「何回ぶっ倒れたら気がすむんじゃ!何回このオチをやらすん?!どうして、学ばんの!心配よりも先に、またかよって思ったわ!」
「ごめん、お母さん」
「こっちの身にもなってみ?!ほんまに病院送りになったら許さへんから!」
古賀さんのボケをスルーして頭をかかえる。
すると、手の甲に柔らかい感触を感じ、顔を上げた。
「心配させてごめん、慎之介」
、、、慎之介って呼ばれた。
まだ眠たそうな声で言いながら、僕の手を優しく掴む。
「、、、ずるい」
頬を染めて不満げにいう僕を見上げながらははっと笑う古賀さん。
僕たちはするっと指を絡めた。
「ほら、触りたいって思ったら触ればいいったい」
「、、、うん」
「あ、でも付き合うのは高校卒業してからな」
「え!なぜ」
「だってまたロリコンとか言われたくねえもん」
「あ、あれは冗談で」
「あはは」
「こ、古賀さん!」
ふと彼の手から力が抜けると、優しげな寝息が聞こえてくる。
なんて自由な人なんだ。
古賀さんとつないだ指に力を込める。
そういえば、せっかく教えてもらったネイティブの英語、あんまり使ってんかったな。
僕は古賀さんの寝顔をじっと見つめた。
「I love you」
そう言った時、絡めた指が、キュッと強まった気がした。
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