ヒロインくんには敵わない。

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第七話『やっぱり、ヒロインには敵わねえや。』(最終話)

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ミーンミーン。
セミの大合唱が降り注ぐ。
俺は白い半袖に半ズボンの姿で、ゆっくり渡辺の家への道を歩いている。
ひたいを伝う汗を腕で拭った。
高校三年生の夏休み。
受験を控え、三年間のうち最も勉強に追われる時期だ。
俺は図書館での数時間にわたる学習から、息抜きを兼ねて渡辺の家に向かっている。
今日は大ニュースがあるとメールが来た。
なので、一緒に勉強していた俊と真琴に断りを入れて、図書館から駆け出して来た。
俊と真琴はもう吹っ切れたらしく、互いに普通に接している。
俊は、真琴が実はド変態のオタクだと知った。
真琴は、俊がお化け屋敷を女の子のようにキャーキャー叫びながら駆け出して行くようなやつだと知った。
そんなこんなで、互いに異性としての興味はなくなったらしい。
それはそれでどうかと思うが、、、まあ一件落着、か?

渡辺に会うのは結構久しぶりで、楽しみだったりする。
俺はウキウキしながら、マンションの玄関で504号室のチャイムを鳴らした。

「よ、よう」
「うす」
ガチャリという音ともに、渡辺が顔を出した。

、、、久しぶりの生渡辺。
俺はドキドキしながら、渡辺に続いて家に入る。
「お邪魔します」
「お邪魔されます」
「そう返されたのは初めてだわ」
俺はクククっと笑う。
相変わらず、地面には服の山。
しかし、もうこたつはしまってあり、なんだか広く感じる。
開け放たれたベランダの窓からは、生暖かい風が入ってくる。
「クーラーはー?」
「めっちゃ電気代高いじゃないすか」
「そうかも知んねえけど、、、俺勉強頑張ってっからご褒美!」
「ダメっす」
「ちぇ」
俺は冷たいテーブルにだらっと倒れこむ。
「はい、コーラ」
「おう。ありがと」
コトっと音を立てて俺の前にコップが置かれる。
俺はコップを掴むとゴクゴクと一気に飲み干した。
「っかー」
「受験生になって一層おっさんすね」
「っるせ」
渡辺もチビチビとコーラを口にする。
俺はそんな渡辺をちらりと見やる。

うわ、こんな暑いのに日焼け一つしてねえ。
ってか、、、クマがすごい。

俺は無意識に渡辺に手を伸ばす。
そっと指先で目元を撫でる。
「あんま寝てねえの?」
「っ」
渡辺は急に触ったからなのか、頬を赤く染めてコーラを咳き込む。
「お、わり」
ケラケラと笑ってそういう俺を、頬を染めたままじとっと眺めている渡辺。
「小説」
「ああ、スピンオフ?どう、進んだか?」
「終わりました」
「え!まじで」
俺は上半身を起こす。

ああ、目の下のクマは小説頑張って書いてたから、、、。

渡辺は、膝を地面につけたまま近くの棚からあるものを引っ張り出す。
「一応、一巻目の見本誌はできたんで一冊どうぞ。目を閉じてください」
俺は言われるように目を閉じて、手を差し出した。
「なんかされんのかな」
「な、何言ってんすか」
渡辺の声が一瞬裏返る。

今顔赤くなってんのかな、見たい。

俺は目を開けたい衝動を抑えて、じっと待つ。
「なあ、なんもしてくれねえの?」
ニヤッと笑ってそう言う。
「、、、ハッピバースデートゥーユー」
「そう言うコトして欲しいんじゃねえわ!ってか俺の誕生日じゃねえし」
「いや、なんかこの格好誕生日会を連想させるなと」
「もういいから、早く渡せ」
「うす」
俺が急かすと、手に本の感触がした。
「あざす」
目を開こうとすると、頬に何か柔らかくて暖かい感触がした。
俺は半目のままガッチリ固まった。
視線だけを渡辺に向けると、彼はもう俺に背中を向けていた。
「なななななな、何今の?!」
「、、、お礼的な、ご褒美的な」
そそくさともう一冊の見本誌をダンボール箱から取り出し、ペラッとめくる渡辺。

い、今のは、、、世に言う、ほっぺにチューってやつじゃねえか!

俺は顔を真っ赤に染めたままぎこちない動きで両手に乗った見本誌に視線を落とす。
あらすじの書いてある側を向けて、手においてある。
俺はひっくり返して表紙を見る。
「、、へえ」
予想していたよりはBL感は少なかった。
本屋でよく見る、どうやったらそうなるんだ的な服のはだけかたをした二人が絡み合いながらカメラ目線!な感じではなかった。
なんと言うか、もっと少女向けで清楚な感じ。
白森(俺)はなんだか不機嫌そうな顔で、背後に立つもう一人の小柄な男(渡辺)に視線を向けている。
対してもう一人の男はメモ帳を片手に、実際の渡辺のように静かな表情で白森をじっと見つめている。
BLを知らない子が手に取っても違和感がない。
「表紙めっちゃいいじゃん」
「俺も好きっす。いつもの派手な感じより、二人のキャラ的に意外と純粋な恋をしそうって担当さんが言ってました。まあ、しそうっていうか、そっちのが萌えるとかなんとか」
「担当さんがお前を通して、あっけなく腐女子バレしてるな」
俺は見本誌をそっと開く。
「読んでいい?」
「どうぞ」

なんだか忘れてたけど、俺今、誰よりも先に『なわたウタ』先生の作品読んでんだよな。
テンション上がってきた。

俺は小さく鼻歌を歌いながら、読み始める。
すると、隣に渡辺がぴったりと座ると、彼も読み始めた。

やばい、今なんかめっちゃ幸せなんだけど。

「橘先輩」
「ん?」
「俺の本と同じ出版社から出てる作品のアニソン歌わんでください」
「なんで?」
「なんかムカつくんで」
「自分の作品がアニメ化されてないから、逆恨みか?」
「まあ」
「あ、認めた」
「だって、作って欲しいアニメ会社、担当さん、声優さん、色々もうリストがあるんすよ」
「早えな」
俺はケラケラ笑う。
そして、そっと本に視線を戻した。

真夏の蒸し暑い風が白いカーテンを揺らす。
チッチッチと時計の針の動く音と、蝉の声が響く。
近くの公園から、子供達の楽しげな笑い声が聞こえてくる。

俺はページを読み進めていくごとに、だんだんと顔に熱が登ってゆくのを感じる。

*************************

 『こっち向けよ!』
 『あ!』
 俺は大河をぐっとこちらに向ける。
 心臓がどくどくなっている。
 『お前がいたから本当の俺になれたんだ!』
 『え?!』
 『好きだ!』
 大河のが目を見開いた。
 
 あ、可愛い。

 すると、大河が俺の服の裾をキュッと掴む。
 『一回しか、言わないからな』
 大河は俺の胸にコツンとひたいを押し当てた。
 ドキン!
 『好きだよ』
 
 嘘だろ?!大河が俺を?!

**************************

「おい渡辺!テメエはエスパーか!?ってかなんで俺目線なんだ!それに、俺こんな恥ずかしいこと言ったか?!」
「言ったっすよ」
「まじか!」
なんだか眠たげな声で、本から視線を上げずに返事する渡辺。
「ってか大河ってなんだよ」
「俺その名前に憧れてんですよね」
「あ、そう」
真夏の気温だけでもう十分熱いのに、まんま自分が主人公になっている、こっぱ恥ずかしい小説のせいで、ますます体温が上がってしまった。
俺は小説をそっと机に置くと、真っ赤に染まった頬を両手でパタパタ扇いだ。
「あ、でも渡辺、おもしろか」
そこまで言うと、肩に渡辺の頭がコツンと倒れ込んできた。
背中に彼の体重がかかる。
なんだか暖かい。
ってか熱いわ!
「わ、渡辺?」
俺はガチッと固まった体で視線だけを渡辺に向ける。
渡辺がスースーと静かな寝息を立てている。
俺はじっとそんな彼を眺めると、体から力を抜いた。
「お疲れさん」
そう小さくつぶやき、見本誌を手に取ると栞を挟んだページで開いた。

後で、俺の筋肉がつって動けなくなるのも、渡辺が顔を真っ赤に染めて起きるのも、俺たちはまだ知らない。


他人との恋愛をしているヒーローのモデルとして出会った、ヒロインは無表情でツンデレの男の子。
イケメン面した性悪なヒーロー。
俺たちの出会いから今現在までが描かれたその小説を読みながら、俺は思い出にふける。
どんな辛い場面でも、最終的にはヒロインがいる。
ヒーローがヒロインに救われる。
どの場面を読んでも思う。
特にかっこいい言葉を連ねる役でもない。
でも、ヒロインが結局は一番かっこいいのだ。
俺が辛い時、背中を押してくれたのは渡辺だった。
一番最初から。
だから今度は俺が渡辺を支える番だ。
作っただけじゃない、こんなキザなことを思うのは初めてかもしれない。

やっぱり、ヒロインには敵わねえや。

=THE END=
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