蕾娘

菊名 重陽

文字の大きさ
上 下
1 / 9

序・第一夜 ひめごと

しおりを挟む
      
 男の眼前に、白装束におおわれた娘がしている。
 乱れなく端正につくられた人形のように見える。

 し目の娘は、男の視界から逃げるように少し離れ、みずかはかまを解く。戸惑いがちに膝行しっこうし、いざるようにしてふたたび男の目の前へ来る。
 きぬ肌蹴はだけぬようふところあたりに手をあて、上身うわみを起こしたまま、おずおずと男の腰の上にまたがる。
 白い花が舞い落ちるように、衣擦きぬずれのおとしずかに男のひざの上に乗り身を寄せると、男の鼠径そけいに娘の内腿うちもものやわらかなはだがあたる。

 男には、このよわいになるまで閨事ねやごとの経験が無かった。今は幾分薄れてはいるが毒気が回りこわばった体で娘を見ている。女がねやでどんな顔をするのかさえ知らぬ。

 男は床柱とこばしらを背に、もたれ掛かるように座っている。
 床柱とこばしらをくるむよう敷きつめられた隈笹くまざざの上には布がかぶせられ、更にその上へしきものが重ねられている。手負いの男の胸にある傷の手あてのため、娘が心尽こころづくしをしてこしらえた仮初かりそめの座であろう。

 娘は、男のはかまを解き、探り、辿り着いた先へ指をわせる。
 その目は伏せられたままで男の目を見ない。

 娘はもう片方の手で、みずからの花弁を指で押し開き、男の先端に触れ、花唇にあてがう。指先は袖に隠れ、白いももすそのあわいからのぞく。
 四肢に残るしびれのままに、男は娘に触れることもできず、娘のおもてを見る。

 うつむき苦しげに見えたが、唇は閉じられたままゆがむこともなく、ただひたすらに男を自分のなかへ迎え入れようとしている。
 娘はわずかに前のめりになり、それでも男の胸の傷に触れぬよう不安定な姿勢のまま、不馴れな舟の川下りにおびえるように、男の上でぎこちなく揺れる。
 娘の唇が薄くひらき、深く息を吸い、ふうと息をく。男の先端が娘のなかに飲まれると、娘の唇はふたたびきつく閉じられた。

 こわばる四肢と裏腹に男の意識は冴え、眼前で起こることに戸惑いつつも、懸命に奮闘する娘がいじらしく抱きすくめたい思いに駆られながら、手負いのおのれの体を呪った。
 やがてつつましやかな水音を聞く。娘のなかは抗い、吸いつき、壁を擦り、また抗い、くりかえし狭いなかへ男を導く。

 男の首のうしろあたりへ蜘蛛の網のように快楽がい上がる。
 耐えがたい波が打ち寄せるのをこらえている。この娘をもっと見ていたい。刹那せつな、ふと開かれた娘の瞳はうるんで、男の目をみてまたたき、きつく目を閉じる。
 わずかに開かれた口に舌でも指でも
 じ込みたい

 娘は声にならぬ声をあげ、おもてをそむけるようにり白い喉がのぞく。男の思惑おもわくさえぎるように何度も、何度も深く杭打つ。

 娘のなかの肉はつらぬく男自身を包み、くちづけるように甘く吸い、さやの肉がきつからまる。
 男は娘のなかで果てた。
しおりを挟む

処理中です...