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第四章 新たなる棲み処
4-2 アリス ~新居 その二(依頼とスパイ)
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私とマイクはランニング中であったものの止む無く三人を引き連れて、家に戻ったのである。
但し、三人は家には招かないで、一階ホールの談話室で待ってもらったのである。
談話室は訪れた人との応接に使える公的な共用施設であり、空いている限り管理人に言えば使わせてもらえる仕組みになっている。
このコンドミニアムには三つの談話室が設備されているのだが、滅多に使う人もいない。
談話室を使うことにしたのは、最初から家に招いているようでは後が思いやられるからであり、彼らとは一定の距離を置くための方便でもある。
何となれば彼らは私達を便利な道具としか考えていないからである。
マスコミと同じでつけあがらせると際限がない。
私とマイクは急いでシャワーを浴び、着替えてから談話室に入ったのである。
談話室に入るなりダイアンが言った。
「しかし、驚いちゃったわ。
ここはクレアラスでも有名な億ションよ。
貴方たちがお金持ちだろうとは思ったけれど、まさかここにいるとは思いもしなかった。
で、二人、一緒に住んでいるの?」
「ええ、まぁ、・・・。
僕たち二人の事よりも、皆さんの話を伺いましょうか。
先ず時期はいつですか?
ダイアンさんからどうぞ。」
「モード・デ・ヴァリューは、ブラビアンカの前年に同じ開催場所で開かれるモードショーでね。
今年、9月の最後の週末に5日掛けて開催されることになっているの。
場所はクレアラス郊外のリゾート地エクィヴィスにあるパレ・デ・モーニャ。
内外のデザイナーがこぞって参加するので、モード界では一大イベントよ。
デザイナーだけで100名近くが参加することになる。
多分、デザイナー、モデル、それにアシスタントだけで千名は下らないし、アパレル業界関係者と一般の観客も併せると万を超える数になるから、少なくともこのモードショーの前後二日を含めて7日間はエクィヴィスにあるホテル群は半年前から予約でいっぱいの筈。
予約できなかった客は周辺のホテルに流れることになる。
私は必要数を無論抑えてあるけれどね。」
「なるほど、9月末ですか・・・。
僕らはその5日間だけモデルを勤めればいいわけでしょうか?」
「いいえ、とんでもない。
それじゃあ、どうにもならないわ。
あなた方がモデルとして人前に出るのは最終日の僅かに40分程度なのだけれど、それでも衣装を8度ぐらい替えて出てもらうことになる。
そうしてその前に準備が有る。
あなた方にあわせて衣装を作り上げなければならないから、採寸に半日、衣装合わせに半日、それとリハーサルが二回程度かな。
尤もこれはあなた方がモデルとして舞台に立って動けるとしての話。
モデルの動き方から稽古するとなると少なくとも三日や四日はかかることになる。
でも、あなた方のダンスを見ている限り半日もあれば動きは大丈夫だと思っている。」
「なるほど、最小限でも本番を併せて5日程度は、拘束されるということでしょうか。
場所は、エクィヴィスですか?」
「エクィヴィスは当日だけよ。
他は全て私のスタジオでやることになるわ。
ここからだとフリッターで10分前後、浮上車でも15分あれば十分、歩くにはちょっと遠いわね。
5セトランぐらいはあると思う。」
「一応の予定は、わかりました。
そのまま、御待ちを。
さて、マッカラムさんからはダンス大会の予定をお伺いしましょうか。」
「メィビスの地区大会が開催されるのは10月の5日から10日にかけての6日間になっております。
そのあとヤノシア地区大会が来年の1月10日から6日間、ディフィビア連合大会が5月7日から6日間となっています。
メィビスとヤノシア地区大会では、上位三位までの者が次の大会に進めます。
ディフィビア連合大会では上位7名までが連合代表としてブラビアンカの出場権を得られます。
場所はいずれもクレアラス市内のピエール記念公会堂で、ブラビアンカのダンス会場もそこになることが決定しています。
何れも公式の競技法に則って実施されますので、ペア競技は連続4日に渡って行われます。
ホールで一度に踊るのはペア4組から5組だけですが、全部で40組を超えるペアが出場しますので、これでも大会運営は結構きついスケジュールになります。
午前は10分間の規定演技で、予め指定されたステップとターンをダンスの中に取り入れなければなりません。
今回の場合、シルツでは、デーリットとクィビネアのステップ、それにリネルとガーセンのターンが指定されています。
クイックセットでは、パカレル、メイソンのステップ、モーレンとギエンのターン。
メッカスでは、ウォレット、エアロンのステップ、ファームズとホベックのターン。
エスポラルでは、ナオミとヤームのステップ、カロットとデンダリスのターンがそれぞれ指定されています。
午後は15分間の自由演技ですが、少なくとも4種類の異なるステップと3種類のターンを織り込まねばなりません。
規定演技も自由演技も、曲が指定されますが、当日、審査員の手でそれぞれの演技開始直前に16曲の中から選択されるので、各演技者はどの曲がかけられるかを知らない状態です。
各回ごとに選曲が異なりますので踊り手はその曲に合わせる技術が必要とされます。
これは正直な所かなり高度な舞踏技術と言えましょう。
シルツ、クイックセット、メッカス、エスポラルの規定演技、自由演技の際に指定され得る曲目は既に公表されており、出場者は、それに合わせて稽古に励んでいる処です。
但し、全部で128曲もありますから、これを全部マスターすることこそ至難の技と言えましょう。」
「なるほど、10月、1月、5月ですか。
念のためブラビアンカの競技はいつなのかお聞きしておきましょうか。」
「ブラビアンカ自体は来年9月から二か月をかけて行われますが、そのうちダンス競技会は9月の20日から6日間になります。」
「わかりました。
では次に、デルモンドさん。
ヤノシア地区のハイスクール吹奏楽コンテストは先日開催されたわけですが、この後の予定はどうなっていますか?」
「ディフィビア連合全体のハイスクール選抜吹奏楽コンテストが開催されるのは来年2月12日と13日です。
参加校は36校になりますので、1日では出来んのです。
規定曲演奏が12日、自由曲演奏が13日となります。
因みに、規定曲は地区予選からブラビアンカまで同じ曲になります。
そこで上位7位までの入賞校がブラビアンカの出場権を得られます。
幸いにして、今回選抜された二位と三位はいずれもメィビス星系のハイスクールです。
一つはこのクレアラスにあるランスロップ校、今一つはメィビス第5の都市になるカンドリンに所在するシュルツ校でございまして、必要とあれば両校の合宿による指導も可能なように手配します。
ただ、カインズ校はアルタミル星系にあってここへ来るだけで2か月近くの時間を要しますので、彼らにはコンテスト開催の1か月前に来てもらって集中的な指導をお願いしようかと存じています。」
「いや、それはいけないでしょう。
彼らは学業が本分です。
少なくとも往復4か月近く、船の中で少ないなりに一応の授業は行っているようですが、その時間を棒に振って更に余分な負担をかければ本末転倒というものです。
メィビスの生徒さん達も同様です。
ですからメィビスの2校にはそれぞれ10日間だけ指導します。
カインズの生徒には、その半分の5日間だけ指導することにしましょう。
それ以上は必要ありません。」
「あの、失礼ながら、カインズの生徒たちにはどのぐらいの期間指導をされたのでしょうか?」
「カインズの生徒には延べで9日間ほど指導しましたが、楽器を持たせて演奏したのは実質6日間でしょう。」
「うーん、・・・。
判りました。
では、シュルツはクレアラスに10日間来てもらって・・・。」
「その必要はありません。
カンドリンには私どもが参ります。
取り敢えずは、先ほど伺った他の方の日程と重ならないよう調整して、案を提示しますので、各ハイスクールに調整方をお願いします。
いずれの方も、ご要望には真摯に対応させていただきますが、私どもの予定も考えねばならないので今日のところは連絡先だけを置いてお引き取り下さい。
二日以内に正式にご返事を致します。」
最終的に私達は二人で色々話し合った結果、それぞれに二日後にメールをいれて、モデルを、ダンスの出場を、そうしてハイスクール吹奏楽部の指導をすることに決めたのである。
その日、私とマイクはメィビス地区社交ダンスコンテストのエントリーを正式に行った。
このエントリーは書簡でのみ受け付けられ、一方で、協会のサイトには、コンテストで指定される128曲のダンス曲が掲載されており、いつでもダウンロードできるようになっていた。
私とマイクはその128曲を次々に再生しながらダンスの構想を練ったのだが、実際にかけた日数は二日だけであった。
それ以後特段の練習はしないことにしている。
既に頭の中に入っている動作は敢えて反復する必要もなかったのである。
私とマイクが、二人で練り上げた動きを完璧に再現できるのは判っていたからである。
ダイアンからは早速に7月の15日頃までに採寸を行ないたいと言って来た。
ダイアンとしては早めに済ませておきたいようだった。
私とダイアンは14日にダイアンの事務所を訪れた。
ダイアンの事務所は、中心街に近いクラマン街区にあるダールトンビルの7階を占有している。
これまでの彼女のデザイン衣装を飾りつけたホールに受付があり、その奥に専属モデルたちの事務室、デザインルーム、縫製室、ショーフロアなどが配置されている。
ダイアンは12名のモデルを含めると総勢50名のスタッフに囲まれていた。
マイクはダイアンの専用執務室に入るなり言った。
「この事務所にはかなりたくさんの盗聴装置が仕掛けられているようですね。
ダイアンさんが設置されましたか?」
ダイアンは一瞬青ざめた。
「まさか・・・。
一体どこに?」
「少なくとも受付に一か所、ここに来る途中のデザインルームにも幾つかありそうです。」
「そんな馬鹿な、デザインルームは部外者の出入りはできないわ。
照明の取り換えだって他人任せにはしていないもの。」
「ふむ、でも今日の採寸はいいとしても、早めに専門業者を入れて確認させるべきでしょうね。
それと防犯カメラが有るようですがあれはどちらで管理していますか?」
「入り口まではビルの管理会社がやっているけれど、事務所内はスタッフが管理しているわ。」
「その管制室はありますか?
「ええ、管制室とまでは行かないけれど、デザインルームに録画装置のついた装置がダブルで配置されている。」
「じゃぁ、一つお芝居をしてくれませんか。
スタッフ全員を呼んでもらって、一人一人紙に何かを書かせてください。
一人につき一枚です。」
「そんなもので何するの?」
「指紋をとって、盗聴装置についているであろう指紋と比較します。
指紋が取れたらすぐに照合できます。」
「まるで、探偵ごっこね。
スタッフを疑うのは嫌だけれど・・・。
私にも思い当たる節が無いでもない。
仕方がないわね。
じゃぁ、あなた方をモデルにしてデザイン画でも描かせるわ。
半数ずつショーフロアに入れて5分で描かせるわ。
デザイナーならすぐにできるけれど、縫い子たちはどうかな。
まぁ一つの試験ね。
それが終わってから採寸をする。」
「じゃぁ、紙を50枚、それに透明なマニュキュアとダイドー社のコロンが用意できますか?」
「ええ、美容師が居るから彼女たちが持っている筈。」
ダイアンは早速にそれらの品を用意させた。
最初に行ったのは、白手袋をはめてダイアンと私が紙を一枚一枚念入りにティッシュでふきあげることだった。
生憎と女物の白手袋しか見当たらなかったので私とダイアンがその役に当てられたのだった。
それから、ダイアンの右手指にマニュキュアを薄く塗った。
爪ではなく肌に直接塗ったのだ。
それから半数のスタッフをショールームに集め、私とマイクをモデルにデザイン画を描かせたのである。
15分後、50枚の紙がダイアンの手元に合った。
マイクはデザイン画に使うコンテをナイフで薄く削り粉末状にしていた。
紙に一枚一枚コロンを吹きかけ、その上にコンテの粉末を振りかけると綺麗に指紋が浮き出た。
そうして、受付の脇の棚の隅に隠されていた盗聴器を取り出し、同じような処理をしてから各指紋を照合しだした。
5分もしないうちにマイクが言った。
「盗聴器にはサリー・エクスタンさんの指紋が付いていますね。」
「サリーが?
なんてこと・・・。」
「いずれにせよ。
ほかにも多分盗聴器が有ると思いますから、ノートン探偵社に頼まれると良いでしょう。
こいつは超短波を利用しているから、探査装置を使えばすぐにわかる筈です。
僕のセルフォンに干渉したぐらいですから、探知装置を持ってくればすぐにわかる。
受付の盗聴装置は電池式で精々2週間が限度、取り換えなければいけない筈です。」
ダイアンはすぐに縫い子であったサリーを呼び出した。
盗聴器を突きつけてダイアンが迫るとあっさりと泣き崩れて白状した。
仕掛け人は、同じクレアラスでデザイナーをやっているナイゼル・カールトンであった。
多額の報酬を餌に、ダイアンのデザインを盗ませていたのである。
サリーは二年前からナイゼルの手先を勤め、事務所内のあちこちに盗聴器を仕掛け、事務所内の監視カメラの映像も小型発信器で流せるようにしていたのである。
その小型発信器は、マイクがすぐに取り外し、事務所内の盗聴器は一応全て撤去された。
1時間後ようやく事務所内が収まってから、採寸を始めたのである。
採寸自体は30分もしないうちに終わった。
サリーは即日解雇された。
刑事告発をしても良いところであったが、敢えてダイアンは告発しなかった。
サリーはダイアンの事務所創設時からの縫い子だったのであり、その功績に免じて告発をしなかったのである。
ダイアンは、ノートン探偵事務所に依頼して定期的に事務所内の捜索をしてもらうようにした。
皮切りが翌日であったが、幸いにも他に異常は認められなかった。
ダイアンから早速お礼のメールが入っていた。
次の予定はデザインを一新するので少し遅くなるとのことであった。
デザイン画を盗まれている可能性もあったので、全く新たにすることにしたらしい。
それでも20日後の8月5日には衣装合わせがあった。
マイクと私はそれぞれ8回も衣装を着替えなければならないらしい。
衣装合わせは結構時間がかかった。
実際に縫製した衣装をモデルに着せて、細部の修正を行うのである。
これは結構時間がかかり、ほぼ一日を要した。
他のモデルたち男二人、女10人については、これまでの積み重ねもあって、比較的簡単に終わっていた。
私の場合、ブラも脱がされて薄いショーツ一枚でとっかえひっかえ衣装を着る羽目になった。
無論、私の周りには女性スタッフだけなのだけれど、カーテン一枚隔ててマイクもいるのだからある意味とてもスリルが有ったのは確かである。
尤も、当日はもっとすごいことになるらしい。
何しろ40分程度の時間の中で8回も着替えをしなければならないのである。
着替えをしたなら1分半ほどはステージの中にいることになる。
衣装によってはアクセサリーも交換することになる。
従って二人のスタッフがモデルにつきっきりで着替えを手伝うことになる。
概ね2分で着替えをしなければならないらしい。
衣装合わせが済んで残り一カ月、ダイアンはその衣装を元に更に多少の変化を付けることになるようだ。
その衣装の数々は事務所の機密事項として、大型金庫の中に保管されるのである。
但し、三人は家には招かないで、一階ホールの談話室で待ってもらったのである。
談話室は訪れた人との応接に使える公的な共用施設であり、空いている限り管理人に言えば使わせてもらえる仕組みになっている。
このコンドミニアムには三つの談話室が設備されているのだが、滅多に使う人もいない。
談話室を使うことにしたのは、最初から家に招いているようでは後が思いやられるからであり、彼らとは一定の距離を置くための方便でもある。
何となれば彼らは私達を便利な道具としか考えていないからである。
マスコミと同じでつけあがらせると際限がない。
私とマイクは急いでシャワーを浴び、着替えてから談話室に入ったのである。
談話室に入るなりダイアンが言った。
「しかし、驚いちゃったわ。
ここはクレアラスでも有名な億ションよ。
貴方たちがお金持ちだろうとは思ったけれど、まさかここにいるとは思いもしなかった。
で、二人、一緒に住んでいるの?」
「ええ、まぁ、・・・。
僕たち二人の事よりも、皆さんの話を伺いましょうか。
先ず時期はいつですか?
ダイアンさんからどうぞ。」
「モード・デ・ヴァリューは、ブラビアンカの前年に同じ開催場所で開かれるモードショーでね。
今年、9月の最後の週末に5日掛けて開催されることになっているの。
場所はクレアラス郊外のリゾート地エクィヴィスにあるパレ・デ・モーニャ。
内外のデザイナーがこぞって参加するので、モード界では一大イベントよ。
デザイナーだけで100名近くが参加することになる。
多分、デザイナー、モデル、それにアシスタントだけで千名は下らないし、アパレル業界関係者と一般の観客も併せると万を超える数になるから、少なくともこのモードショーの前後二日を含めて7日間はエクィヴィスにあるホテル群は半年前から予約でいっぱいの筈。
予約できなかった客は周辺のホテルに流れることになる。
私は必要数を無論抑えてあるけれどね。」
「なるほど、9月末ですか・・・。
僕らはその5日間だけモデルを勤めればいいわけでしょうか?」
「いいえ、とんでもない。
それじゃあ、どうにもならないわ。
あなた方がモデルとして人前に出るのは最終日の僅かに40分程度なのだけれど、それでも衣装を8度ぐらい替えて出てもらうことになる。
そうしてその前に準備が有る。
あなた方にあわせて衣装を作り上げなければならないから、採寸に半日、衣装合わせに半日、それとリハーサルが二回程度かな。
尤もこれはあなた方がモデルとして舞台に立って動けるとしての話。
モデルの動き方から稽古するとなると少なくとも三日や四日はかかることになる。
でも、あなた方のダンスを見ている限り半日もあれば動きは大丈夫だと思っている。」
「なるほど、最小限でも本番を併せて5日程度は、拘束されるということでしょうか。
場所は、エクィヴィスですか?」
「エクィヴィスは当日だけよ。
他は全て私のスタジオでやることになるわ。
ここからだとフリッターで10分前後、浮上車でも15分あれば十分、歩くにはちょっと遠いわね。
5セトランぐらいはあると思う。」
「一応の予定は、わかりました。
そのまま、御待ちを。
さて、マッカラムさんからはダンス大会の予定をお伺いしましょうか。」
「メィビスの地区大会が開催されるのは10月の5日から10日にかけての6日間になっております。
そのあとヤノシア地区大会が来年の1月10日から6日間、ディフィビア連合大会が5月7日から6日間となっています。
メィビスとヤノシア地区大会では、上位三位までの者が次の大会に進めます。
ディフィビア連合大会では上位7名までが連合代表としてブラビアンカの出場権を得られます。
場所はいずれもクレアラス市内のピエール記念公会堂で、ブラビアンカのダンス会場もそこになることが決定しています。
何れも公式の競技法に則って実施されますので、ペア競技は連続4日に渡って行われます。
ホールで一度に踊るのはペア4組から5組だけですが、全部で40組を超えるペアが出場しますので、これでも大会運営は結構きついスケジュールになります。
午前は10分間の規定演技で、予め指定されたステップとターンをダンスの中に取り入れなければなりません。
今回の場合、シルツでは、デーリットとクィビネアのステップ、それにリネルとガーセンのターンが指定されています。
クイックセットでは、パカレル、メイソンのステップ、モーレンとギエンのターン。
メッカスでは、ウォレット、エアロンのステップ、ファームズとホベックのターン。
エスポラルでは、ナオミとヤームのステップ、カロットとデンダリスのターンがそれぞれ指定されています。
午後は15分間の自由演技ですが、少なくとも4種類の異なるステップと3種類のターンを織り込まねばなりません。
規定演技も自由演技も、曲が指定されますが、当日、審査員の手でそれぞれの演技開始直前に16曲の中から選択されるので、各演技者はどの曲がかけられるかを知らない状態です。
各回ごとに選曲が異なりますので踊り手はその曲に合わせる技術が必要とされます。
これは正直な所かなり高度な舞踏技術と言えましょう。
シルツ、クイックセット、メッカス、エスポラルの規定演技、自由演技の際に指定され得る曲目は既に公表されており、出場者は、それに合わせて稽古に励んでいる処です。
但し、全部で128曲もありますから、これを全部マスターすることこそ至難の技と言えましょう。」
「なるほど、10月、1月、5月ですか。
念のためブラビアンカの競技はいつなのかお聞きしておきましょうか。」
「ブラビアンカ自体は来年9月から二か月をかけて行われますが、そのうちダンス競技会は9月の20日から6日間になります。」
「わかりました。
では次に、デルモンドさん。
ヤノシア地区のハイスクール吹奏楽コンテストは先日開催されたわけですが、この後の予定はどうなっていますか?」
「ディフィビア連合全体のハイスクール選抜吹奏楽コンテストが開催されるのは来年2月12日と13日です。
参加校は36校になりますので、1日では出来んのです。
規定曲演奏が12日、自由曲演奏が13日となります。
因みに、規定曲は地区予選からブラビアンカまで同じ曲になります。
そこで上位7位までの入賞校がブラビアンカの出場権を得られます。
幸いにして、今回選抜された二位と三位はいずれもメィビス星系のハイスクールです。
一つはこのクレアラスにあるランスロップ校、今一つはメィビス第5の都市になるカンドリンに所在するシュルツ校でございまして、必要とあれば両校の合宿による指導も可能なように手配します。
ただ、カインズ校はアルタミル星系にあってここへ来るだけで2か月近くの時間を要しますので、彼らにはコンテスト開催の1か月前に来てもらって集中的な指導をお願いしようかと存じています。」
「いや、それはいけないでしょう。
彼らは学業が本分です。
少なくとも往復4か月近く、船の中で少ないなりに一応の授業は行っているようですが、その時間を棒に振って更に余分な負担をかければ本末転倒というものです。
メィビスの生徒さん達も同様です。
ですからメィビスの2校にはそれぞれ10日間だけ指導します。
カインズの生徒には、その半分の5日間だけ指導することにしましょう。
それ以上は必要ありません。」
「あの、失礼ながら、カインズの生徒たちにはどのぐらいの期間指導をされたのでしょうか?」
「カインズの生徒には延べで9日間ほど指導しましたが、楽器を持たせて演奏したのは実質6日間でしょう。」
「うーん、・・・。
判りました。
では、シュルツはクレアラスに10日間来てもらって・・・。」
「その必要はありません。
カンドリンには私どもが参ります。
取り敢えずは、先ほど伺った他の方の日程と重ならないよう調整して、案を提示しますので、各ハイスクールに調整方をお願いします。
いずれの方も、ご要望には真摯に対応させていただきますが、私どもの予定も考えねばならないので今日のところは連絡先だけを置いてお引き取り下さい。
二日以内に正式にご返事を致します。」
最終的に私達は二人で色々話し合った結果、それぞれに二日後にメールをいれて、モデルを、ダンスの出場を、そうしてハイスクール吹奏楽部の指導をすることに決めたのである。
その日、私とマイクはメィビス地区社交ダンスコンテストのエントリーを正式に行った。
このエントリーは書簡でのみ受け付けられ、一方で、協会のサイトには、コンテストで指定される128曲のダンス曲が掲載されており、いつでもダウンロードできるようになっていた。
私とマイクはその128曲を次々に再生しながらダンスの構想を練ったのだが、実際にかけた日数は二日だけであった。
それ以後特段の練習はしないことにしている。
既に頭の中に入っている動作は敢えて反復する必要もなかったのである。
私とマイクが、二人で練り上げた動きを完璧に再現できるのは判っていたからである。
ダイアンからは早速に7月の15日頃までに採寸を行ないたいと言って来た。
ダイアンとしては早めに済ませておきたいようだった。
私とダイアンは14日にダイアンの事務所を訪れた。
ダイアンの事務所は、中心街に近いクラマン街区にあるダールトンビルの7階を占有している。
これまでの彼女のデザイン衣装を飾りつけたホールに受付があり、その奥に専属モデルたちの事務室、デザインルーム、縫製室、ショーフロアなどが配置されている。
ダイアンは12名のモデルを含めると総勢50名のスタッフに囲まれていた。
マイクはダイアンの専用執務室に入るなり言った。
「この事務所にはかなりたくさんの盗聴装置が仕掛けられているようですね。
ダイアンさんが設置されましたか?」
ダイアンは一瞬青ざめた。
「まさか・・・。
一体どこに?」
「少なくとも受付に一か所、ここに来る途中のデザインルームにも幾つかありそうです。」
「そんな馬鹿な、デザインルームは部外者の出入りはできないわ。
照明の取り換えだって他人任せにはしていないもの。」
「ふむ、でも今日の採寸はいいとしても、早めに専門業者を入れて確認させるべきでしょうね。
それと防犯カメラが有るようですがあれはどちらで管理していますか?」
「入り口まではビルの管理会社がやっているけれど、事務所内はスタッフが管理しているわ。」
「その管制室はありますか?
「ええ、管制室とまでは行かないけれど、デザインルームに録画装置のついた装置がダブルで配置されている。」
「じゃぁ、一つお芝居をしてくれませんか。
スタッフ全員を呼んでもらって、一人一人紙に何かを書かせてください。
一人につき一枚です。」
「そんなもので何するの?」
「指紋をとって、盗聴装置についているであろう指紋と比較します。
指紋が取れたらすぐに照合できます。」
「まるで、探偵ごっこね。
スタッフを疑うのは嫌だけれど・・・。
私にも思い当たる節が無いでもない。
仕方がないわね。
じゃぁ、あなた方をモデルにしてデザイン画でも描かせるわ。
半数ずつショーフロアに入れて5分で描かせるわ。
デザイナーならすぐにできるけれど、縫い子たちはどうかな。
まぁ一つの試験ね。
それが終わってから採寸をする。」
「じゃぁ、紙を50枚、それに透明なマニュキュアとダイドー社のコロンが用意できますか?」
「ええ、美容師が居るから彼女たちが持っている筈。」
ダイアンは早速にそれらの品を用意させた。
最初に行ったのは、白手袋をはめてダイアンと私が紙を一枚一枚念入りにティッシュでふきあげることだった。
生憎と女物の白手袋しか見当たらなかったので私とダイアンがその役に当てられたのだった。
それから、ダイアンの右手指にマニュキュアを薄く塗った。
爪ではなく肌に直接塗ったのだ。
それから半数のスタッフをショールームに集め、私とマイクをモデルにデザイン画を描かせたのである。
15分後、50枚の紙がダイアンの手元に合った。
マイクはデザイン画に使うコンテをナイフで薄く削り粉末状にしていた。
紙に一枚一枚コロンを吹きかけ、その上にコンテの粉末を振りかけると綺麗に指紋が浮き出た。
そうして、受付の脇の棚の隅に隠されていた盗聴器を取り出し、同じような処理をしてから各指紋を照合しだした。
5分もしないうちにマイクが言った。
「盗聴器にはサリー・エクスタンさんの指紋が付いていますね。」
「サリーが?
なんてこと・・・。」
「いずれにせよ。
ほかにも多分盗聴器が有ると思いますから、ノートン探偵社に頼まれると良いでしょう。
こいつは超短波を利用しているから、探査装置を使えばすぐにわかる筈です。
僕のセルフォンに干渉したぐらいですから、探知装置を持ってくればすぐにわかる。
受付の盗聴装置は電池式で精々2週間が限度、取り換えなければいけない筈です。」
ダイアンはすぐに縫い子であったサリーを呼び出した。
盗聴器を突きつけてダイアンが迫るとあっさりと泣き崩れて白状した。
仕掛け人は、同じクレアラスでデザイナーをやっているナイゼル・カールトンであった。
多額の報酬を餌に、ダイアンのデザインを盗ませていたのである。
サリーは二年前からナイゼルの手先を勤め、事務所内のあちこちに盗聴器を仕掛け、事務所内の監視カメラの映像も小型発信器で流せるようにしていたのである。
その小型発信器は、マイクがすぐに取り外し、事務所内の盗聴器は一応全て撤去された。
1時間後ようやく事務所内が収まってから、採寸を始めたのである。
採寸自体は30分もしないうちに終わった。
サリーは即日解雇された。
刑事告発をしても良いところであったが、敢えてダイアンは告発しなかった。
サリーはダイアンの事務所創設時からの縫い子だったのであり、その功績に免じて告発をしなかったのである。
ダイアンは、ノートン探偵事務所に依頼して定期的に事務所内の捜索をしてもらうようにした。
皮切りが翌日であったが、幸いにも他に異常は認められなかった。
ダイアンから早速お礼のメールが入っていた。
次の予定はデザインを一新するので少し遅くなるとのことであった。
デザイン画を盗まれている可能性もあったので、全く新たにすることにしたらしい。
それでも20日後の8月5日には衣装合わせがあった。
マイクと私はそれぞれ8回も衣装を着替えなければならないらしい。
衣装合わせは結構時間がかかった。
実際に縫製した衣装をモデルに着せて、細部の修正を行うのである。
これは結構時間がかかり、ほぼ一日を要した。
他のモデルたち男二人、女10人については、これまでの積み重ねもあって、比較的簡単に終わっていた。
私の場合、ブラも脱がされて薄いショーツ一枚でとっかえひっかえ衣装を着る羽目になった。
無論、私の周りには女性スタッフだけなのだけれど、カーテン一枚隔ててマイクもいるのだからある意味とてもスリルが有ったのは確かである。
尤も、当日はもっとすごいことになるらしい。
何しろ40分程度の時間の中で8回も着替えをしなければならないのである。
着替えをしたなら1分半ほどはステージの中にいることになる。
衣装によってはアクセサリーも交換することになる。
従って二人のスタッフがモデルにつきっきりで着替えを手伝うことになる。
概ね2分で着替えをしなければならないらしい。
衣装合わせが済んで残り一カ月、ダイアンはその衣装を元に更に多少の変化を付けることになるようだ。
その衣装の数々は事務所の機密事項として、大型金庫の中に保管されるのである。
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
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⭐︎注意⭐︎
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死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
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◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
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「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
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秋月レンジ。高校2年生。
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