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第六章 それぞれの兆し
6-4 マルス ~侯国王
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ロザリンは、ふうとため息をついた。
「私は、これまで何度か同じ質問を投げかけたことがございますが、学士を含めてクレイン殿のように明快にお答えになった方は初めてです。
後の二つは不要かもしれませんが・・・。」
ロザリンは、それでもダメ押しのように残り二つの難題をクレインに問うた。
クレインはそのいずれにもこれまでの学説を説明し、その上で私見を踏まえて明快に答えた。
ロザリンは目を輝かせ、素敵な笑顔を見せた。
「クレイン様、もう一つお願いがございます。」
「はい、何でしょう?」
ロザリンは下を向いて少しもじもじとしていたが、やがてクレインの目を見て言った。
「私に求婚していただけませんか?」
クレインは驚いた。
クレインの望むところではあったものの、先ほど有ったばかりでいきなりそんな話になるとは予想もしていなかったから慌てたのである。
「あの、・・・。
私とロザリン殿は先ほど顔を合わせたばかりにございます。
ある意味互いにその人となりを知らぬ間柄です。
そのほとんど見ず知らずの男に求婚してほしいと仰るのですか?」
ロザリンは言った。
「御不審でしょうが、私は妻となるべき人は私よりも強く、英知を持った方と決めております。
今少し条件があったのですが、貴方はそれにも合致しているのです。
ですから何としても貴方に求婚してほしいと思います。」
「さて、ロザリン殿のような美しき女性を妻に娶るのは男として願ったりかなったりではありますが・・・。
物事には順序が有るような気がします。
親同士が決めて、やむなく婚姻を結ぶならばともかく、私ならば相手の性格がわかるくらいにはお付き合いをしてから申し込むのが妥当ではないかと思うのですが。
何か急がねばならぬ事情がございますか?」
「はい、ございます。
父と母が、私が余りに結婚を嫌がるので親同士で決めた結婚をさせようと動き出しているのです。
折も折、父と母が密談しているのを聞いてしまったのです。
これ以上私の我儘を聞いていると、私が行かず後家になってしまうのは避けられない。あのお転婆娘・・・、これは父が言った言葉です。
お転婆娘に敵う相手など匆々は居らぬはずだから、適当なところで妥協させるしかないと言い切っていました。
私は結婚を嫌がっているのではありません。
私に相応しい人が現れるのを待っていたのです。
聞いてください。
私は幼い時に占い師に将来の夫となるべき人を占ってもらったのです。
占い師のお婆さんはもう亡くなってしまいましたけれど、私にはっきりと言いました。
私の夫になる人は海の傍で私を助ける人。
その人は私よりも剣技で勝り、英知で勝る人物であり、何より、綺麗なオーラを持つ人であると。
私は18歳でその方と結ばれると占ってくれました。
昨年までは、きっとそのような人が私の目の前に現れてくれるものと期待していましたが、あいにくとそのような人は現れませんでした。
後半年もすれば私は18歳になってしまうと自分ながら焦りさえ感じていました。
私自身半分諦めていたところに貴方が現れた。
貴方は私がこれまで見た誰よりもオーラが大きく綺麗です。
貴方の強さは先ほど見せて頂きました。
貴方の英知は学士も叶わぬほどの域に達していると私は思っています。
ですから、私の夫になる方は貴方しかいないのです。」
「うーん、困ったなぁ・・・。
それよりも、ロザリン殿は本当に私のオーラを見ることができるのですか。」
「えっ、・・・。
クレイン様はオーラをご存知なのですか。」
「ええ、僕も、とあるきっかけでオーラを見ることができるようになったのです。
貴方のオーラも大きくて凄く綺麗ですよ。
妹と変わりないぐらいじゃないかな?」
「妹さんも?
貴方と同じぐらいなのかしら?」
「いや、自分のオーラは見ることができないから比較はできない。
ただ、・・・。
結婚のことは、私とておいそれと私一人の判断だけでは決められないことなのです。
無論、ロザリン殿ならば血筋、家格のどれをとっても問題は無い筈なんだが、それでも父からの了承を得られなければどうにもならない。
これでも一応はサディス家の総領息子なのでね。
では、妥協しましょう。
ロザリン殿が18歳になるまでの半年間、結婚を前提としたお付き合いをして、その上で、二人が納得すれば結婚する。
どうでしょうか。」
「私は今すぐにでも結婚の申し込みをしていただいた方がいいのですけれど・・・。
仮に今日結婚の約束をしてもその準備で半年ほどはすぐ過ぎてしまいます。
でも仕方がないですね。
では、明日、私とご一緒に王宮へ行っていただけますか。
結婚を前提としたお付き合いの許しを得るために。」
「それは・・・。
うーん、仕方がないですね。
私もロザリン殿という女性ともう少し知り会いたい。
そのために侯国王にお会いしてお許しを得ねばならぬのなら会いに参りましょう。」
クレインはそのまま別邸に泊まり込むことになった。
その旨は、侍従から騎士団の方へ連絡をされ、王都クラシャスからクレインが戻るまで、ドレドランの港で待機してもらうことになった。
無論、海賊などが現れた時は艦長の判断で動いて差し支えないと指示をしておいたのである。
翌朝クレインはロザリンと共に、バハン侯国の王都クラシャスに向かった。
警護の者は20人ほどと少ない。
欠けた駐屯地の兵力を補うため半数以上を取り敢えず置いてきたのである。
ドレドランからクラシャスまではおよそ50レグルほど、半日で王都へ到達した。
既にドレドランの海賊襲撃については、昨日の内に伝令が走っており、王都ではロザリンが無事なこと、隣国バルディアス海軍が危ういところを救援に駆け付けたことなどを知っていた。
また、ロザリン一行に先んじて急使を派遣したことから、姫とクレインが王都に連立ってくることを知っており、クレインはクラシャスの城門から盛大な歓迎を受けた。
近衛兵が馬車の前後左右を固め、そのまま王宮の門をくぐったのである。
すぐに侯国王ダレモンと王妃ライラ、それに次期国王である王子モンドルスそれにその妃であるシャリーン、元第二王女サラメ、元第三王女メルリーとその配偶者であるムルマンド公爵及びケイン伯爵が待ち構える謁見の間に通された。
その他にも侯国の宰相などのお歴々が居並ぶ大広間である。
ロザリンの案内でその中央を通って、クレインは王座の前に進み出た。
王宮の礼儀をもって重厚な挨拶を行ったクレインは周囲の意識が変化したのを感じた。
最初は少しとげとげしいほどの視線が明らかに軟化したのを感じていた。
能力を使うのはマルスから禁じられていた。
特に見知らぬ中では危険極まりない状況に陥る可能性があるからである。
先ず、ロザリンがクレインを紹介した。
「ここに居られるクレイン・サディス殿は、隣国バルディアスの軍港マルビスを収めるサディス公爵の子息にて、ドレドランに海賊が襲い来たりし時、たまたま駐屯部隊のほとんどが隣のゴズミ小港に遠征していたため、兵力不足となった我らがあわやという危機に際して、バルディアスの軍船で海賊船4隻を葬り、更に陸戦隊を指揮して、ドレドランの蹂躙を救ってくれたお方、正しく私の命の恩人と言うべきお方にございます。」
侯国王ダレモンが声を掛けた。
「クレイン殿、我が姫の危急をようも救ってくれた。
その功績には誠に大なるものがある。
何か望みがあるなれば、言って見よ。
我に叶うことなれば何なりと聞いて取らす。」
「私自身は、至極当然のことを致したまでにて、左程の功績をなしたとも思うてはおりませぬが、侯国王陛下の折角のお言葉なれば、只一つお願いがございます。」
「ふむ、言うてみよ。」
「はい、ここに居わすロザリン殿との結婚を前提にお付き合いをお許し願いたく、無礼を承知でお願い申し上げます。」
侯国王と王妃が驚いて顔を見合わせた。
「ほう、ロザリンを妻にと望むか。」
「はい、お付き合いの結果、二人が共に望むならばロザリン殿を妻と迎えたいと思っておりますが、私もまたサディス公爵家の嫡子、私の一存では嫁を決められませぬ。
マルビスに戻って、二親に話をした上で、改めて正式な申し出を成したいと存じます。
いずれにせよ結婚までは幾分かの時間をかけてお互いを知り会うことが必要かと存じます。」
「なるほど、クレイン殿の申し出、尤もな話じゃ。
が、ロザリン、そなたはこのクレイン殿を夫とする意思はあるのか?
これまで幾度も嫁入りの話を断ったそなたじゃ。
此度もその前例で試しをするのかな。」
「いいえ、クレイン殿の力は昨日の内に見極めてございます。
海賊が数十人も密集している中にこのクレイン殿が雄叫びを上げて斬り込み、あっという間に10人以上も倒されました。
その力量はとても私の及ぶところではございませぬ。
また、クレイン殿とバルディスの陸戦隊の働きで海賊を蹴散らし、生き残りが山に逃れた後、駐屯部隊が戻って参りましたので、クレイン殿を別邸にお招きし、種々お話をし、その時にクレイン殿の英知も確かめました。
クレイン殿は私の試しに十分に叶う殿方にございます。
そうして幼い時に占ってもらった私の未来の伴侶としての人物にもぴたりと符合するお方にございます。
私に異存はございません。
今すぐにでも嫁げと言われれば嫁いで参ります。」
今度こそ、侯国王と王妃の顔が驚きの表情を浮かべ、そうして二人顔を見合わせて微笑んだ。
ロザリンとクレインに視線を合わせた時、侯国王と王妃の顔は笑っていた。
侯国王ダレモンが言った。
「何とも、明日はどのような天候になっても可笑しくは無いな。
どうやら男嫌いのロザリンがクレイン殿に惚れた様子じゃ。」
多少の皮肉を込めた言い方であるが、ロザリンは慣れているのか平気な顔で答えた。
「はい、初めて殿方に惚れましてございます。」
それを聞いて本当に嬉しそうに王妃ライラが口を開いた。
「なんとまぁ、姫が一目惚れですか。
クレイン殿のどのようなところに惚れましたか。」
その問いにも快活に答えるロザリンである。
「クレイン殿の容姿、品性、知恵、そうして剣技に惚れました。
侯国広しと言えど、クレイン殿の様なお方は居られまいと存じます。」
笑みを一杯に浮かべてライラ王妃がその言を肯定した。
「姫は馬に乗れるようになってからは、侯国領内を所狭しと走り回りましたからねぇ。
確かに姫が一番侯国内の領民を知っておりましょう。」
ダレモンがその後を継いだ。
「クレイン殿、そなたの願いを聞き届けよう。
と言うよりも、我が愛娘ロザリンを宜しく頼む。
じゃじゃ馬が過ぎて、姫がどの男も相手にせぬので困っていたところだ。
このまま行かず後家になっては困るので、誰ぞ適当な者と無理やり連れ添わそうかとも思っていたところなのだ。」
クレインは一礼をして、言った。
「かくも不躾なお願いをお許しいただき誠にありがたく存じます。
精々、ロザリン殿に嫌われないよう相努めます。」
ロザリンがその後を継いで言った。
「父上それに母上、私からもお願いがございます。
クレイン殿はマルビスに戻られて、ご両親のお許しを得ることを考えておられます。
このクラシャスに、二人で父上と母上のお許しを願ったように、私もクレイン殿にお供して、サディス公爵夫妻にお許しを願いたいと存じます。
クレイン殿と共にマルビスへ赴く旅を御了承頂けましょうか?」
「ほう、それはまた急な話じゃが・・・。
よかろう。
クレイン殿と一緒にサディス公爵の許しを得て参れ、叶うならば一月ほどもマルビスに逗留してもよい。
その間に二人の絆が強まればそれはそれで良い。
じゃが、陸路は遠いぞ。」
「侯国王陛下のお許しがあれば、バルディアスの軍船に姫を載せてお連れしたいと存じますが如何でしょうか。」
「ふむ、陸路なれば間にある山地を迂回しての旅で半月ほどもかかろうが、海路なれば二日ほどかな。
我が侯国の軍船は未だに復興しておらぬ。
昨日の海賊の襲撃でようやく復興なった造船所も大半が焼失したと聞いている。
頭の痛いところじゃが・・・。
バルディアスの軍船ならば姫を安心して託せよう。
節操も無いが、帰りもお願いできようか。」
「はい、帰りも私が必ずや無事に送り届けます。」
うむ、なれば今宵は内祝いといたそう。
じゃじゃ馬と呼ばれた姫にようやく訪れた春じゃ。
盛大に祝おうぞ。」
侯国王の発声で、王宮はたちまち忙しくなった。
さすがに婚約祝いのようなことは想定してはいなかったが、姫が無事に帰還したこと、客人を連れてきたと言うことで一応の宴は準備していたのだが、侯国王のお声掛かりとなれば当然に内容も異なってくる。
厨房もロザリン付きの侍女たちも途端に忙しく立ち働くようになった。
その合間にも、ロザリンの旅立ちに備えて伴の者の選抜や持参する品々等の吟味が始まった。
仮にも隣国に赴く姫である。
他国で恥をかかせる様な訳には行かないから、単なる旅とはいっても相応の準備が必要であった。
「私は、これまで何度か同じ質問を投げかけたことがございますが、学士を含めてクレイン殿のように明快にお答えになった方は初めてです。
後の二つは不要かもしれませんが・・・。」
ロザリンは、それでもダメ押しのように残り二つの難題をクレインに問うた。
クレインはそのいずれにもこれまでの学説を説明し、その上で私見を踏まえて明快に答えた。
ロザリンは目を輝かせ、素敵な笑顔を見せた。
「クレイン様、もう一つお願いがございます。」
「はい、何でしょう?」
ロザリンは下を向いて少しもじもじとしていたが、やがてクレインの目を見て言った。
「私に求婚していただけませんか?」
クレインは驚いた。
クレインの望むところではあったものの、先ほど有ったばかりでいきなりそんな話になるとは予想もしていなかったから慌てたのである。
「あの、・・・。
私とロザリン殿は先ほど顔を合わせたばかりにございます。
ある意味互いにその人となりを知らぬ間柄です。
そのほとんど見ず知らずの男に求婚してほしいと仰るのですか?」
ロザリンは言った。
「御不審でしょうが、私は妻となるべき人は私よりも強く、英知を持った方と決めております。
今少し条件があったのですが、貴方はそれにも合致しているのです。
ですから何としても貴方に求婚してほしいと思います。」
「さて、ロザリン殿のような美しき女性を妻に娶るのは男として願ったりかなったりではありますが・・・。
物事には順序が有るような気がします。
親同士が決めて、やむなく婚姻を結ぶならばともかく、私ならば相手の性格がわかるくらいにはお付き合いをしてから申し込むのが妥当ではないかと思うのですが。
何か急がねばならぬ事情がございますか?」
「はい、ございます。
父と母が、私が余りに結婚を嫌がるので親同士で決めた結婚をさせようと動き出しているのです。
折も折、父と母が密談しているのを聞いてしまったのです。
これ以上私の我儘を聞いていると、私が行かず後家になってしまうのは避けられない。あのお転婆娘・・・、これは父が言った言葉です。
お転婆娘に敵う相手など匆々は居らぬはずだから、適当なところで妥協させるしかないと言い切っていました。
私は結婚を嫌がっているのではありません。
私に相応しい人が現れるのを待っていたのです。
聞いてください。
私は幼い時に占い師に将来の夫となるべき人を占ってもらったのです。
占い師のお婆さんはもう亡くなってしまいましたけれど、私にはっきりと言いました。
私の夫になる人は海の傍で私を助ける人。
その人は私よりも剣技で勝り、英知で勝る人物であり、何より、綺麗なオーラを持つ人であると。
私は18歳でその方と結ばれると占ってくれました。
昨年までは、きっとそのような人が私の目の前に現れてくれるものと期待していましたが、あいにくとそのような人は現れませんでした。
後半年もすれば私は18歳になってしまうと自分ながら焦りさえ感じていました。
私自身半分諦めていたところに貴方が現れた。
貴方は私がこれまで見た誰よりもオーラが大きく綺麗です。
貴方の強さは先ほど見せて頂きました。
貴方の英知は学士も叶わぬほどの域に達していると私は思っています。
ですから、私の夫になる方は貴方しかいないのです。」
「うーん、困ったなぁ・・・。
それよりも、ロザリン殿は本当に私のオーラを見ることができるのですか。」
「えっ、・・・。
クレイン様はオーラをご存知なのですか。」
「ええ、僕も、とあるきっかけでオーラを見ることができるようになったのです。
貴方のオーラも大きくて凄く綺麗ですよ。
妹と変わりないぐらいじゃないかな?」
「妹さんも?
貴方と同じぐらいなのかしら?」
「いや、自分のオーラは見ることができないから比較はできない。
ただ、・・・。
結婚のことは、私とておいそれと私一人の判断だけでは決められないことなのです。
無論、ロザリン殿ならば血筋、家格のどれをとっても問題は無い筈なんだが、それでも父からの了承を得られなければどうにもならない。
これでも一応はサディス家の総領息子なのでね。
では、妥協しましょう。
ロザリン殿が18歳になるまでの半年間、結婚を前提としたお付き合いをして、その上で、二人が納得すれば結婚する。
どうでしょうか。」
「私は今すぐにでも結婚の申し込みをしていただいた方がいいのですけれど・・・。
仮に今日結婚の約束をしてもその準備で半年ほどはすぐ過ぎてしまいます。
でも仕方がないですね。
では、明日、私とご一緒に王宮へ行っていただけますか。
結婚を前提としたお付き合いの許しを得るために。」
「それは・・・。
うーん、仕方がないですね。
私もロザリン殿という女性ともう少し知り会いたい。
そのために侯国王にお会いしてお許しを得ねばならぬのなら会いに参りましょう。」
クレインはそのまま別邸に泊まり込むことになった。
その旨は、侍従から騎士団の方へ連絡をされ、王都クラシャスからクレインが戻るまで、ドレドランの港で待機してもらうことになった。
無論、海賊などが現れた時は艦長の判断で動いて差し支えないと指示をしておいたのである。
翌朝クレインはロザリンと共に、バハン侯国の王都クラシャスに向かった。
警護の者は20人ほどと少ない。
欠けた駐屯地の兵力を補うため半数以上を取り敢えず置いてきたのである。
ドレドランからクラシャスまではおよそ50レグルほど、半日で王都へ到達した。
既にドレドランの海賊襲撃については、昨日の内に伝令が走っており、王都ではロザリンが無事なこと、隣国バルディアス海軍が危ういところを救援に駆け付けたことなどを知っていた。
また、ロザリン一行に先んじて急使を派遣したことから、姫とクレインが王都に連立ってくることを知っており、クレインはクラシャスの城門から盛大な歓迎を受けた。
近衛兵が馬車の前後左右を固め、そのまま王宮の門をくぐったのである。
すぐに侯国王ダレモンと王妃ライラ、それに次期国王である王子モンドルスそれにその妃であるシャリーン、元第二王女サラメ、元第三王女メルリーとその配偶者であるムルマンド公爵及びケイン伯爵が待ち構える謁見の間に通された。
その他にも侯国の宰相などのお歴々が居並ぶ大広間である。
ロザリンの案内でその中央を通って、クレインは王座の前に進み出た。
王宮の礼儀をもって重厚な挨拶を行ったクレインは周囲の意識が変化したのを感じた。
最初は少しとげとげしいほどの視線が明らかに軟化したのを感じていた。
能力を使うのはマルスから禁じられていた。
特に見知らぬ中では危険極まりない状況に陥る可能性があるからである。
先ず、ロザリンがクレインを紹介した。
「ここに居られるクレイン・サディス殿は、隣国バルディアスの軍港マルビスを収めるサディス公爵の子息にて、ドレドランに海賊が襲い来たりし時、たまたま駐屯部隊のほとんどが隣のゴズミ小港に遠征していたため、兵力不足となった我らがあわやという危機に際して、バルディアスの軍船で海賊船4隻を葬り、更に陸戦隊を指揮して、ドレドランの蹂躙を救ってくれたお方、正しく私の命の恩人と言うべきお方にございます。」
侯国王ダレモンが声を掛けた。
「クレイン殿、我が姫の危急をようも救ってくれた。
その功績には誠に大なるものがある。
何か望みがあるなれば、言って見よ。
我に叶うことなれば何なりと聞いて取らす。」
「私自身は、至極当然のことを致したまでにて、左程の功績をなしたとも思うてはおりませぬが、侯国王陛下の折角のお言葉なれば、只一つお願いがございます。」
「ふむ、言うてみよ。」
「はい、ここに居わすロザリン殿との結婚を前提にお付き合いをお許し願いたく、無礼を承知でお願い申し上げます。」
侯国王と王妃が驚いて顔を見合わせた。
「ほう、ロザリンを妻にと望むか。」
「はい、お付き合いの結果、二人が共に望むならばロザリン殿を妻と迎えたいと思っておりますが、私もまたサディス公爵家の嫡子、私の一存では嫁を決められませぬ。
マルビスに戻って、二親に話をした上で、改めて正式な申し出を成したいと存じます。
いずれにせよ結婚までは幾分かの時間をかけてお互いを知り会うことが必要かと存じます。」
「なるほど、クレイン殿の申し出、尤もな話じゃ。
が、ロザリン、そなたはこのクレイン殿を夫とする意思はあるのか?
これまで幾度も嫁入りの話を断ったそなたじゃ。
此度もその前例で試しをするのかな。」
「いいえ、クレイン殿の力は昨日の内に見極めてございます。
海賊が数十人も密集している中にこのクレイン殿が雄叫びを上げて斬り込み、あっという間に10人以上も倒されました。
その力量はとても私の及ぶところではございませぬ。
また、クレイン殿とバルディスの陸戦隊の働きで海賊を蹴散らし、生き残りが山に逃れた後、駐屯部隊が戻って参りましたので、クレイン殿を別邸にお招きし、種々お話をし、その時にクレイン殿の英知も確かめました。
クレイン殿は私の試しに十分に叶う殿方にございます。
そうして幼い時に占ってもらった私の未来の伴侶としての人物にもぴたりと符合するお方にございます。
私に異存はございません。
今すぐにでも嫁げと言われれば嫁いで参ります。」
今度こそ、侯国王と王妃の顔が驚きの表情を浮かべ、そうして二人顔を見合わせて微笑んだ。
ロザリンとクレインに視線を合わせた時、侯国王と王妃の顔は笑っていた。
侯国王ダレモンが言った。
「何とも、明日はどのような天候になっても可笑しくは無いな。
どうやら男嫌いのロザリンがクレイン殿に惚れた様子じゃ。」
多少の皮肉を込めた言い方であるが、ロザリンは慣れているのか平気な顔で答えた。
「はい、初めて殿方に惚れましてございます。」
それを聞いて本当に嬉しそうに王妃ライラが口を開いた。
「なんとまぁ、姫が一目惚れですか。
クレイン殿のどのようなところに惚れましたか。」
その問いにも快活に答えるロザリンである。
「クレイン殿の容姿、品性、知恵、そうして剣技に惚れました。
侯国広しと言えど、クレイン殿の様なお方は居られまいと存じます。」
笑みを一杯に浮かべてライラ王妃がその言を肯定した。
「姫は馬に乗れるようになってからは、侯国領内を所狭しと走り回りましたからねぇ。
確かに姫が一番侯国内の領民を知っておりましょう。」
ダレモンがその後を継いだ。
「クレイン殿、そなたの願いを聞き届けよう。
と言うよりも、我が愛娘ロザリンを宜しく頼む。
じゃじゃ馬が過ぎて、姫がどの男も相手にせぬので困っていたところだ。
このまま行かず後家になっては困るので、誰ぞ適当な者と無理やり連れ添わそうかとも思っていたところなのだ。」
クレインは一礼をして、言った。
「かくも不躾なお願いをお許しいただき誠にありがたく存じます。
精々、ロザリン殿に嫌われないよう相努めます。」
ロザリンがその後を継いで言った。
「父上それに母上、私からもお願いがございます。
クレイン殿はマルビスに戻られて、ご両親のお許しを得ることを考えておられます。
このクラシャスに、二人で父上と母上のお許しを願ったように、私もクレイン殿にお供して、サディス公爵夫妻にお許しを願いたいと存じます。
クレイン殿と共にマルビスへ赴く旅を御了承頂けましょうか?」
「ほう、それはまた急な話じゃが・・・。
よかろう。
クレイン殿と一緒にサディス公爵の許しを得て参れ、叶うならば一月ほどもマルビスに逗留してもよい。
その間に二人の絆が強まればそれはそれで良い。
じゃが、陸路は遠いぞ。」
「侯国王陛下のお許しがあれば、バルディアスの軍船に姫を載せてお連れしたいと存じますが如何でしょうか。」
「ふむ、陸路なれば間にある山地を迂回しての旅で半月ほどもかかろうが、海路なれば二日ほどかな。
我が侯国の軍船は未だに復興しておらぬ。
昨日の海賊の襲撃でようやく復興なった造船所も大半が焼失したと聞いている。
頭の痛いところじゃが・・・。
バルディアスの軍船ならば姫を安心して託せよう。
節操も無いが、帰りもお願いできようか。」
「はい、帰りも私が必ずや無事に送り届けます。」
うむ、なれば今宵は内祝いといたそう。
じゃじゃ馬と呼ばれた姫にようやく訪れた春じゃ。
盛大に祝おうぞ。」
侯国王の発声で、王宮はたちまち忙しくなった。
さすがに婚約祝いのようなことは想定してはいなかったが、姫が無事に帰還したこと、客人を連れてきたと言うことで一応の宴は準備していたのだが、侯国王のお声掛かりとなれば当然に内容も異なってくる。
厨房もロザリン付きの侍女たちも途端に忙しく立ち働くようになった。
その合間にも、ロザリンの旅立ちに備えて伴の者の選抜や持参する品々等の吟味が始まった。
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ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
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