二つの異世界物語 ~時空の迷子とアルタミルの娘

サクラ近衛将監

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第六章 それぞれの兆し

6-7 アリス ~マクリアス夫妻

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 その5日後、いつものようにタイム・パークを周回し、クールダウンしている最中に、スポーツウェアにパーカーを着た男女二人が近づいてきた。
 敵意は無いようだが、どちらもかなり大きい。

 マイクの身長が1.76トラン、私は1.70トランで標準よりはどちらも背が高い方なのだが、男性は2トランを超え、女性も1.85トランほどありそうだ。
 男が丁寧な口調で言った。

「マイク・ペンデルトンさんに、アリス・ゲーブリングさんですね。
 私はハーマン・マクリアスと申します。
 こちらは妻のサラです。」

「初めまして、マイクです。
 こちらは婚約者のアリス。
 あなた方のお名前だけはケイン中佐から聞いております。」

「どうも、・・・。
 宜しければ少しお話をしたいのですが、お時間はございますでしょうか。」

「ええ、構いません。
 では、家が近くですのでそちらの方へまいりましょうか。」

「失礼ながら、初対面の人物を自宅へ入れるのは不用心かと存じますが、いつもそのようなことをされているのですか?」

「いいえ、我が家には中々客は招かないのですよ。
 多分あなた方を入れてもこれまで10人未満でしょうか。」

「ほう、・・・。
 ですが、結構訪問される方は多いとお見受けしましたが。」

「多分色々と調査済みなのでしょうけれど、コンドミニアムのロビー階の奥まったところに談話室が三つほどあるのは漏れていましたかな?
 通常の訪問客はそちらで応対させてもらっています。
 他の住人は余り利用されていないようで、専ら我が家の応接間になっています。」

「なるほど・・・。
 ではそちらでお話を伺いたいと存じます。」

 マイクは頷き、四人は揃ってコンドミニアムに入った。
 マイクが応接間ならぬ談話室利用の届けを受け付けに出し、その間に私はカレンに電話をして、二人の来客を告げた。

 カレンがいつものようにお茶を持って来てくれるはずである。
 談話室に腰を降ろしてマイクが言った。

「さて、どのようなお話をすれば宜しいでしょうか。」

「セキュリティについてどのようにお考えなのかをお聞きしたいと存じます。」

「セキュリティと言っても色々ありますが、何を対象に?」

「第一にあなたご自身、それに婚約者、第二にご自宅、それから新たにバームルトン周辺に創設される造船所の事では如何でしょう。」

「なるほど、・・・。
 個人を狙った長距離狙撃だと防ぐのは難しいでしょうね。
 目に見える範囲での狙撃ならば、少なくとも致命傷を負わないだけの訓練を私もアリスもしています。
 誘拐を目当てに近づいてきた者であれば多分撃退できます。
 私もアリスもです。
 自宅の方は、窓ガラスは一応強化デオ・スラストに変えていますので、口径の余程大きなものでなければ貫通は難しいでしょう。
 コンドミニアムのセキュリティは通常の範囲に収まるAクラスです。
 我が家に繋がるエレベーターはカードキーが無ければ上がれません。
 非常階段の扉は内部からは開けられますが、外部からは同様にカードキーが無ければ開けられません。
 カードキーは、私どもが入居した時に変えました。
 生体認証がついていますので他人では使えない。
 その他にも色々と設計図には無い改造を自分でやっています。
 会社の方のセキュリティは、警備担当の者が決ってから決めますが、基本的には海軍本部施設のセキュリティに上乗せした物を考えています。」

「あなた方の運動能力が高いのは承知していますが、海兵隊の猛者数人が襲ってきても撃退できると?」

「ええ、多分、アリス一人で十分でしょう。
 尤も、今後、彼女が妊娠するような場合は、少し難しいでしょうね。」

 ハーマンは苦笑しながら言った。

「それは、大した自信ですな。
 妊娠について言えば、サラも同じですな。
 あなた方の護身術の技量は、後でも確認できましょうが、海軍のSSEに上乗せする機能としてはどのようなものを考えておられますか?」

「生体認証機能の強化ですね。
 カードキーに生体認証機能を組み込ませると同時に非接触センサーで人物の身体をスキャンして同一性と危険物の持ち込みを確認します。
 第二に5段階のブロックごとに入室できる者が限定されます。
 内部で使用される情報端末も同様です。
 UI記憶素子は使用させません。
 訪問者については、基本的に内部には入れずに外殻別棟の応接室で応対することになるでしょう。
 造船所敷地はフェンスで囲み、センサーと監視カメラを適宜配置します。
 基本的に敷地内はフェンスから50トランは何も置きませんし、樹木も伐採します。
 フェンスは地中50トランまで杭を打ち込んで侵入を防ぎます。
 敷地中央には空井戸を掘り、地中での震動検地装置が設置されることになるでしょう。
 空井戸は業者に掘ってもらいますが、検知装置は自前の物を設置することになります。
 更にバグの侵入に備えてフェンスの間には電撃装置が組み込まれます。
 空からの侵入に備えて、パラソル上の天蓋が通常の場合敷地に展開されます。
 造船所の上屋天井部には指向性の曲面指向レーダーが設置されることになります。
 パラソルにはバグの駆除のためランダムに静電気が発生するようにすることになります。」

「一つ、教えてください。
 非接触型のセンサーとはまさかエックス線ではないでしょうね。」

「これから私が作るので、市場には無い筈ですが、人の身体には影響を与えずに、空間に占有する原子間配列を測定する装置です。
 簡単に言えば、書物を閉じたまま中を覗けるようなスキャン装置と考えてくれればいいでしょう。
 会社員の身体は全て情報端末のデーターベースに登録され、肥満などの体形変化にも骨格などとの比較で本人判断ができるようなシステムになります。
 仮にご本人が整形美容の手術を受けたとしても判別は可能ですし、一卵性双生児であってもシックス・ナインの精度で判別は可能です。
 尤も機械だけに頼らず、守衛を配置しますけれどね。」

「武器の方は?」

「ご承知でしょうが、民間警備に使えるのは28口径の拳銃まで、後はショック警棒とパラライザーぐらいでしょうか。
 但し、軍の重要施設と認定されれば、上位の武器の保管も可能になるでしょうが、当面は無理でしょう。」

 ハーマンは頷いた。

「驚いたかたですなぁ。
 舞踊家、音楽家でありスポーツマンでもある人とは知っていましたが、どうやらセキュリティにも電子工学にも詳しいようだ。
 サラ、何か聞いておきたいことは?」

「そうね。
 アリスさんにお聞きしましょうか。
 護身術はどなたから習いました?」

「マイクからです。」

「何か、段位みたいなものは?」

「何もありませんわね。
 でも、マイクからは、普通の痴漢や暴漢相手にはやりすぎないようにと注意されています。」

「何故ですの?」

「まともにやっつけたら死ぬか半身不随になるそうです。
 先日、デーニッツ街区で男性四人を相手に立ち回りをしましたけれど、全力では危ないので手加減しました。
 本番はその一度だけです。」

「まさか、デーニッツ街区に一人で?」

「いいえ、マイクと一緒でした。
 ちょっと尋ね人が有りましたもので。」

「なんとまぁ、とんでもない人たちですね。
 余程の事が無ければ、ハーマンと一緒でもあそこには行きたくないわ。」

「そうですね。
 余り関わりたくはない所でした。」

 サラは頷き、ハーマンに言った。

「ハム、私は、この二人なら信用してもいいと思うわ。」

「ああ、そうだな。
 マイクさん。
 ケイン中佐には改めて連絡しますが、出来れば来月からでも雇用の件はお願いします。
 今の雇い主は、大手企業の社主なんですが、女が絡む揉め事から地元のマフィアに狙われているんです。
 我儘が多い上に、我々の注意を少しも聞かないお人でして、毎晩複数の妾のところに出向いている人です。
 我々二人がいくら頑張っても、早晩、危害が及びます。
 表向きは人当たりのいい人物なんですが、その実、煮ても焼いても食えないとはあの人のようなことを言うのでしょう。
 但し、2年契約を結んだもので、途中で契約を破棄すると、報酬が貰えないんですよ。
 月々の報酬はそれなりに貰っていますけれどね。
 我々も食っていかなければなりませんので。」

「それなら、明日にでも契約を破棄したらいいでしょう。
 そんな人物のためにあなた方が危険を冒す必要はない。
 私の方はいつでも構わない。
 取り敢えずは私達のボディガードを頼むことにしましょう。
 住まいの方は?」

「ありません。
 雇い主の家に寝泊まりでボディガードの契約ですので、以前住んでいたアパートは解約しています。」

「それなら、我が家にいらっしゃい。
 部屋ならあります。
 尤もたくさんの荷物があると大変だが・・。」

「荷物はほとんどありません。
 アパートを解約した時に家具なんぞは処分してしまいましたから、私とサラでトランク4個分でしょう。」

「それなら、大丈夫です。
 あなた方の都合がいい時にいらっしゃい。
 受付を通せば、誰かをロビーまで迎えに来させます。」

「一応、私らの特技を知らせておきましょう。」

「その必要はないですよ。
 ハーマンさんはスナイパー部隊でしたね。
 サラさんは電子対策班におられて、電子機器の操作に長けておられる。
 お二人とも格闘術では特Aの技量をお持ちだ。
 特にサラさんは刃物を使った格闘術に長けていらっしゃる。」

 ハーマンが驚きの表情を見せた。

「一体、どこでそんな情報を・・・。
 ケイン中佐がそんなことを言うとは思えないし・・・。」

「海軍の人事情報を内緒で見ました。」

 今度はサラが驚愕の表情を見せた。

「まさか、ハッキングで?」

「ええ、少しばかりそう言った知識が有るんです。」

「でも、海軍のセキュリティは、連合でも最上の部類なのに・・・。」

「まぁ、確かにそうなんですが、海軍で使っている機器そのものが最新とは言え、かなり処理速度が遅い代物なんです。
 だからその10倍ほどの処理速度を持つ機器からなら容易に侵入を許してしまう。
 それほど速い信号には対処ができていないんです。

「こちらに来てからでいいのですけれど、その端末を見せて頂けますか?」

「ええ、あなた方の部屋に二つ用意しておきましょう。」

「あの、そんなに簡単に入手できるものなんですか?」

「余所では無理です。
 中央演算処理装置を含めて僕が作った物ですから。」

 マクリアス夫妻は唖然とした表情を見せていた。

 それから二日後にマクリアス夫妻が我が家に引っ越してきた。
 夫妻には、客間の一つが与えられ、我が家の住人は7人となった。

 我が家の寝室は全てツインで居室がついている。
 ちょっとしたホテルのスィートルームを思い浮かべればいい。

 従って彼らの日常生活には何の不便も無かった。
 但し、彼らが持ってきた衣装は正しくボディガード然とした服装だけで有ったので、マイクは支度金20万ルーブを与えて、種々の宴会にも着て行けるような衣装を選ぶようにと指示をしたのである。

 彼らはそれだけで戸惑ってしまっていた。
 そんな衣装はこれまで準備したことも無かったからである。

 私とマイクがネットでいくつか見繕って上げた所、彼らはまさにその衣装を頼んだようだ。
 こうしてボディガード二人が私達二人に着くようになったのである。

 毎朝のジョギングは、彼らは自転車でついてくる。
 私が出かける時はサラが、マイクが出かける時はハーマンが常に近くにいた。

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