コンバット

サクラ近衛将監

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第四章 学院生活(中等部編)

4ー42 セルデン訪問と道具造り

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 お元気ですか、ヴィオラですよ~ん。
 ブルボン領都のセルデンに来ておりますが、岩塩層が地下深くに眠っていることについて侯爵にお話しいたしましたので、今回のブルボン領訪問の主目的はほぼ終わったようなものではありますけれど、サブの目的として侯爵夫人それに前侯爵夫人ともお会いして様子を確認しなければなりません。

 マーガレット侯爵夫人の趣味である寄木細工のためのニスは、マーガレット様の要望に応じて定期的に送付しているわけですが、とても見栄えが良いとの高評価を得て、最近はその送付量を増やして欲しいとお願いされています。
 マーガレット様には、当然私(ヴィオラ)からのサービスで送付していますが、これが他のご婦人方にも評判になるようでしたら商売も考えねばなりません。

 今回はその状況を見極めに来ました。
 また、木材工芸の工房で、螺鈿細工や蒔絵細工がどのように進展したかも確認しなければなりません。

 前回とは異なり、今回は滞在が三日と少ないので効率的に動かねばなりませんね。
 滞在期間が短いのは、主としてレイノルズ様のご都合と私の夏休みの期限の所為なのです。

 ある意味でたった三日の顔出しのために王都からセルデンまでの旅をするのはとても非効率ではありますけれど、これも貴族の慣行として受忍するしかありませんね。
 嫡男の許嫁がちゃんと元気ですよという意味合いで一年に一度か二度程度の顔出し義務でもあるのです。

 今回のセルデン訪問では、ヒルベルト御祖母様おばあさまのその後の容態を確認して、リジェネヒールをかけなおし、また、セルデン東側山中に多い瘴気の発生場所の浄化を行うのが従たる目的なのです。
 岩塩の採掘については、私(ヴィオラ)の説明により、侯爵が前向きに検討しており、半月後には試掘を開始できるように準備を進めているとのことでした。

 残念ながら、今回は、市中や市外を公式に訪問する時間的余裕はありませんでしたね。
 従って、馬車での行き来の際に確認できる範囲でしか見られませんデシタが、市内は前回と余り変わらない様子でした。

 市外域の小麦畑については、ロデアルからの指導員がうまく働いてくれているみたいで、堆肥たいひ作りや輪作のための他品種の栽培を始めているのが垣間見えましたね。
 山林の方は馬車から見えませんでしたけれど、式神を飛ばして空中から俯瞰ふかんしたところでは、乱伐された斜面での植林が始まっていました。

 但し、元の山に戻るのはこれから少なくとも二十年ほどはかかるでしょう。
 林業は、伐採と同時に植林も併せて行わないと続かないのです。

 少なくともレイノルズ様はその重要性が分かっておられるので、私(ヴィオラ)が口を挟む必要はないようですね。
 セルデン滞在中の三日の間に、私(ヴィオラ)のところにわざわざご挨拶に来られた方と親しく話をいたしました。

 その中では木材工房で蒔絵や螺鈿細工に種々工夫を凝らしているとの報告があり、実際にその試作品を見せてもらいましたが、よくできていると思えました。
 ただ、やはり、蒔絵や螺鈿細工の作業を増やすことで、どうしても漆風呂の回数が増えることで手間暇がかかることがネックになっているようです。

 特に、漆風呂での湿度や温度を保つことが結構難しいようなのですが、魔法師を雇ってその問題をクリアすることにしているそうです。
 詳細な部分については、職人としてのこだわりなのでしょうから、私が口を挟む余地はありませんね。

 それ以外にも前回の訪問でお会いした人々から、種々の情報を入手した上でセルデンを発ちました。
 私(ヴィオラ)の嫁入りの日は未だ確定はしていませんが、来年若しくは再来年にはブルボン家の嫁としてセルデンに来なければならないでしょう。

 嫁入りの日は、ブルボン家とエルグンド家双方の話し合いで決まるはずです。
 その話し合いは、慣例通りであれば、今年の年末から来春にかけて開催されるでしょうね。

 覚悟はしているつもりではありますけれど、前世・現世を通じて初めての嫁入りです。
 マリッジブルーなのでしょうか、初めてのことだけに何となく不安が付きまとうのですけれど、これも女の戦いと思って最後まで戦い抜きましょう。

◇◇◇◇

 王都に戻って、再び学院生活が始まりました。
 ロデアルでの引継ぎは、大筋で済ませたつもりでいますが、嫁入りまでにいろいろと片付けておかねばならない些細な問題もありますね。

 でも残っている課題をおおよそ書き出してしまうと、ようやく時間的な余裕が生まれました。
 その暇を使って、色々と魔導具の制作を始めたいと思います。

 懸案事項と考えていたセルデンでの温泉掘削と井戸若しくは浄水場の確保のために、予め種々の道具若しくは魔導具を制作しておこうと思ったのです。
 既存の地下水をセルデンの侯爵邸で便利に利用するためには、どうしても多段式の魔導ポンプが必要です。

 一応前世にあった渦巻きポンプをサンプルとして、魔石を用いて駆動させるポンプを考えています。
 高所へ水を届けるにはには、渦巻きポンプよりも複動ピストンの方が、送水圧力を高く取れますけれど、菅系のつなぎ目からの漏洩や腐食等で老朽化して漏水が生じることを考えると、左程に高い圧力は必要ないのかもしれません。

 どちらの場合でも逆止弁と安全弁を設けるつもりでは居ますよ。
 勿論、侯爵邸の必要な個所に水を届けるためには、ポンプだけでは足りませんから、鋼管等の配管が必要です。

 配管代わりに木製の樋を使うのも一つの案ではありますけれど、衛生上の問題があることに加えて、長年の使用には耐えられませんから、地下道を掘ってその中に水道管を這わせる方式の上水道を建設する方式が望ましいと思っています。
 下水の方はさらに深い地下に前世のパリやロンドンで設けられていたような大きな下水道網を造り、浄化設備を通して川に流す方式を採用したいと考えています。

 但し、これをセルデン全域に敷設するには、通常の人夫を使った工事だと十年単位の時間がかかることになりますよね。
 無論それなりの経費も掛かるので、おいそれとはできないかもしれません。

 それでも、土属性の魔法師が居れば、その工事期間を十分の一程度に短縮できると思います。
 私(ヴィオラ)一人がやってしまう方がはるかに速くできるのはわかっていても、人を育てるという意味では、能力のある者を教育・指導して、やらせなければならないでしょうね。

 そうしてまた、公衆衛生を保つためには、風呂の習慣を庶民にまで根付かせなければならないと思っていますから、温泉も必須のものになるでしょう。
 セルデンには地下に温泉の溜まりがありますから、そこから温泉を掘り出せばよいと考えています。

 一方で、セルデン以外の地域では、そうした温泉が掘り当てられない場所もあります。
 例えば王都はそういう場所の一つですね。

 従って、そうした場所では温水が使えるような魔導具が必要になってきます。
 但し、これまでにある魔道具では、コンスタントに冷水を温水に換えられるほどの熱量を与えられる魔導具が存在しませんでした。

 火属性魔法を補助する魔導具はあっても、魔法師ではない者、特に魔力の少ないものが扱える加熱のための魔導具が存在しなかったのです。
 着火装置ですら一定以上の魔力を保有する者でなければ魔導具の発動ができないものでした。

 元々魔導具が錬金術師と言う比較的魔力の多い人間が生み出したものであって、魔力の無い者が操作できるような配慮をしていないということにその理由があります。
 前世のように誰でもスイッチを入れれば電気が通るというような仕組みの発想が無かった所為でもありますね。

 『魔力の発動』を魔石に委ね、今一つ、『魔法の発動』も別の魔石に委ねることにより、魔導具に魔石二つが必要にはなりますが、魔力を保有する者であるか否かを問わず、誰でも使えるような魔導具が造れると思うのです。
 魔力発動用の魔石は非常に小さなものでも構いませんが、魔法発動用の魔石はその属性の魔法で相応の大きさの物が必要になりますね。

 ライヒベルゼン王国に、あまねく風呂を普及させるにはどうしても魔導温水器が必要だと思います。
 当座は、公衆浴場を造って、そこに魔導温水器を設置し、誰もが入浴できる環境を造るんでしょうね。

 私(ヴィオラ)としては、無料ただでも構わないんですけれど、他所よその地域にも普及をさせようとするならば、有料にして『銭湯』が商売として成り立つようにした方が良いのでしょうね。
 無論裕福な者に対しては、いわゆる風呂場の建設と温水器をセットにしたものが販売可能になることが必要になるでしょう。

 いずれにせよ、風呂を普及させるためにも上水道と下水道の整備が是非とも必要ですね。
 ロデアルでは簡易浄化装置を設置することにより、ある程度上水道と下水道の整備ができていますが、セルデンではもう一段階上の整備を心掛け、いずれはセルデンからロデアルに技術移転することになるでしょうね。

 そうして将来的には、ライヒベルゼン王国全体に上水道と下水道を普及させたいなと考えています。
 もう一つ私(ヴィオラ)ならば魔法でもできますけれど、温泉を掘り当てるために、地下深くを掘る魔道具が必要かと思っています。

 前世でもそんな機械があったことは知っていますけれど、あいにくと実物を見たことはありません。
 そんな中で思いついたのはドリルです。

 ねじ込みで地下に穴をあける方式ですね。
 かなり深く掘るわけですのでドリルの柄を継ぎ足せるようにし、なおかつ岩盤をも刳り貫くくりぬくようにするために、非常に強度の高い金属を使わねばなりません。

 幸いにして、この世界ではアダマンタイトという非常に硬く丈夫な金属があります。
 少々重いのと加工が難しいのが欠点であり、一般の鍛冶師では扱えない代物ではあります。

 その鉱床がセルデン西方の山地にありますし、私の錬金術の能力でアダマンタイトの加工も可能なのです。
 今のところは、機器の設計どまりで、ブルボン家に嫁いでから、改めて制作することにいたしましょう。
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