コンバット

サクラ近衛将監

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第三章 学院生活編

3ー16 職人候補?

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 ハーイ、ヴィオラ(私)は、ロデアル孤児院に来ています。
 この孤児院は一年前に設立されたばかりで、聖フランセーズ記念教会の敷地の東に隣り合って作られています。

 同時期に初等教育を与える場として、ヴァニスヒル初等学院が記念教会の西隣に造られました。
 聖フランセーズ記念教会は、ヴァニスヒルに領都移転の際に建てられた教会で歴史は浅いのですけれど、ロデアル領を代表する教会なんです。

 孤児院の基金は、エルグンド伯爵家から出されていますが、運営には人手が要ります。
 この為に知識階級の聖職者がおり、地域の教育にも熱心な聖フランセーズ記念教会に孤児院と学院の運営をお願いし、教員も学識者を領都等から選抜して雇用しているのです。

 孤児院の運営には、副司教のイングリッド様が長となり、シスター三名が手伝っているようです。
 運営資金出資者の娘の来訪ということで、孤児院の方は結構緊張していたようですけれど、ヴィオラ(私)がイングリッド様とお会いして来訪の目的が人材の発掘と聞いて、ある意味でほっとしていたようでした。

 どうも孤児院側では何らかの不備を問われるのではないかと多少不安に感じていたようです。
 予算は無尽蔵にあるわけではなく、受け入れ人数にはどうしても限度があるのです。

 一応11歳までを限度として孤児を受け入れており、10歳を超える者は巣立つ準備をしなければならないようです。
 そうして巣立った孤児の代わりに別の孤児を受け入れられるようですね。

 巣立つ先についても孤児院で色々探しているようですけれど、なかなかに孤児を雇ってくれるところが無くて苦労しているようです。
 ちょうどよい機会ですから、収容されている孤児全員の適性を調べてまいりましょう。
 
 勿論、ヴィオラ(私)がそんなことをできるとはイングリッド様は知りません。
 孤児院で収容している孤児数は全部で38名ですが、手のかかる3歳以下の幼児6名は下働きの人を雇って世話をさせているようです。


 この幼児6名については、裁縫に適性のある者、調理に適性のある者、治癒師に適性のある者、そうして剣士若しくは騎士に適性のある者が居ましたが、錬金術師や薬師に適性のある者は居ませんでした。
 仮にいたにしても三歳以下の幼児については流石に訓練もままなりませんから、数年は様子見になるでしょう。

 四歳から七歳未満の子には、錬金術に適性のある子が一人いましたが、未だ五歳でしたので、もう一、二年は様子見になるでしょうね。
 今から訓練してやれば伸びるかもしれませんが、逆に無理をすると壊れる可能性もあるのです。

 実は孤児院から才能のある者を引き抜くにあたり、ルテナに相談してみたのです。
 ヴィオラ(私)の場合は、種々の神々の加護により耐性が大きかった所為せいで、幼い時から魔力の錬成や訓練を行っても問題は無かったのですけれど、普通の人はそうした耐性が低いので余り無理はできないのだそうです。

 極端な事例では、三歳以下の子が保有魔力を空にした場合、死に至るケースがあるそうです。
 従って、比較的魔力が多いとされる貴族の子女でも、四歳になってから軽度の魔力放出を主とする訓練を始めるのだそうで、ヴィオラ(私)みたいに一歳のお誕生日が来る前から魔力錬成の訓練をしていたのは例外中の例外だそうです。

 ですから、お母様があれほど心配していたのですね。
 始めて人に知られる形で魔法を使ったのは、四歳の折のヴェイツ・エルグラードでの追悼式典でした。

 多数の襲撃者があったため、氷結魔法を使って襲撃者を仮死状態にし、同時に傷ついた者を救うために治癒魔法を使いました。
 どちらも私としては内緒のつもりでしたが、お母様付きのメイドが特殊能力を持っていて、魔法が使われるとその発生源を感知してしまい、四歳児の私が魔法を使ったと特定されてしまいました。

 いずれにせよ、襲撃者を事実上倒したために急激なレベルアップを引き起こし、お屋敷に辿り着いた際に、ヴィオラ(私)は昏倒してしまったのですけれどね。
 いずれにせよ、仮に十分な適性のある貴族の子女たちでも魔法の訓練を始めるには、四歳以上、できれば五歳か六歳になってから始めるのが無理をさせずに済むとされているようです。

 そう言えば、お姉様の魔法の訓練も学院に行かれる1年前から始めておられましたね。
 七歳になる年に学院に入学しますので、家庭教師から魔法を習ったのはお姉様が五歳の誕生日を迎えて四月目ぐらいの時でしたね。

 ルテナの仰せに従い、今回の引き抜きに関しても満年齢で五歳以上、できれば六歳より上の子を対象にしています。
 今回の場合、できれば錬金術師に適性のある者が望ましいのですけれど、各属性魔法にお適性のある者、付与魔法に適性のある者、鑑定眼の適性を持っている者、鍛冶師に適性のある者、薬師に適性のある者、更に植物魔法に適性のある者なども引き抜きたいと考えています。

 ちょっと欲張りでしょうかねぇ?
 でもできるだけ早めに適性のある子の素質を伸ばしてあげることで、本人も収入を得られますし、周囲もその恩恵を被ることができるはずです。

 おまけにヴィオラ(私)の負担を軽減してくれるんですから一石三鳥ですよね。
 まぁ、うまく育ってくれないとダメなんですけれどね。

 師匠となるヴィオラ(私)が一番問題かもしれません。
 弟子となるべき人材を見つけても私自身が傍にいられる時間を作るのが一番問題なんです。

 ですから、人材が見つかれば王都の別邸に連れて行くつもりなんです。
 場合によっては別の邸を構えてそこに住まわせることも考えています。

 王都別邸は左程大きな屋敷ではありませんし、そもそもお父様が王都滞在中に公務その他の交友で使うためのお屋敷ですから、ヴィオラ(私)が私用で自由にしてよいものでもありません。
 幸いにして、お化粧品の収益の極一部ですけれど私のお小遣い口座に入っていますので、それを使えば、候補者の住む寮と寮母さんぐらいは準備できそうです。

 そのための目星も夏休み前にはつけてきました。
 王都別邸の執事にお願いして手続きを済ませれば、すぐにも実現可能となるはずです。

 その日、ヴィオラ(私)が見出した6歳以上で能力がありそうな孤児は七名でした。
 ビルギット・ラーゲンフェルトは、10歳で来年年明けには孤児院を出なければなりませんが、巣立ち先はまだ決まっていません。

 彼女は植物魔法に適性がありますので、有用植物の品種改良に取り組んでもらうつもりです。
 カール・エマーソンは、10歳で同じく来年年明けには孤児院を出なければなりませんが、読み書きが多少できることから一応の就職先として商家の丁稚が候補としてあげられていますけれど、行く先は未だ決まってはいないのです。

 彼は、鑑定眼の適性を持っているけれど未だ発現はしていません。
 多分、魔力の使い方がわからないのでしょうけれど、グロリアお姉様と同様に魔力を一旦通してあげると、魔力の流れが分かり、鑑定眼が発現するかもしれません。

 彼については、職人が作ったロデアルの特産品の目利きをしてもらい、工房の顔として商人との懸け橋になってもらうつもりなのです。
 ディオーナ・バリエンタールは、9歳で水属性魔法に適性があります。

 彼女の魔法は、聖水など錬金術師や薬師が必要とするものを供給してくれるはずですし、将来的には液状の薬品化合物なども扱えるかもしれません。
 ヘルマン・マンデールは、9歳で土属性魔法に適性があり、鍛冶師の適性も有しています。

 鏡を造るためのスキルがありそうですし、錬金術師とは異なる錬成で岩などから有用物質を抽出できると思います。
 それに土属性魔法で力がついたなら土木工事も一手に引き受けられるようになるかもしれません。

 そのなるためには魔力量をかなり増大させねばなりませんけれど、多分、今から適切な訓練を始めれば十倍程度にはなるのじゃないかと捕らぬ狸の皮算用をしています。
 マティルダ・ノルデンは、8歳で付与魔法に適性があります。

 この付与魔法は色々な場面で使えますよね。
 例えば魔力がやや不足するような場面で底値をあげてくれますので、一人ではできないことも彼女が付与魔法でバフを掛けることによりできるようになる場合があるのです。

 そうして、リンダ・ハンセンは7歳、ケヴィン・シュエルベンは6歳ですけれど、この二人が錬金術師の適性を持っていました。
 この二人が取り敢えず私の考えているメインになりそうですけれど、王都のスラムでも有用な人材を募集するつもりでいますので、養う人数はもう少し増えるかもしれません。

 でも正直なところ、孤児院にこれほど適性を持った者がいるとは想像もしていませんでした。
 見込みでは2人ほども居れば上々と考えていたのに、将来的に役に立ちそうな適性を有した子が38人中8名も居て、その他にもうまく能力を伸ばすことができれば色々と社会に役立つ人物が4人も居ました。

 私が望む適性を持っている子が2割余りもいるなんて、流石に魔法の存在する異世界ですね。
 おそらくはこうした素質のある子でその適性が見過ごされている人物が多々いるのだろうと思いますが、ある程度年齢が上になると修正も育成も難しくなります。
 
 その意味では早い時期に見いだせたこの子たちは幸せじゃないかと思います。
 勿論、他の子が役立たないとは決して申しませんが、素質のある子が相応の訓練や指導を受けた場合と素質の無い子が同じことをされた場合とでは成果が違うはずです。

 これらの特殊能力は天性のものですから、周囲の者がうまくその適性を伸ばしてやれば良いと思います。
 ヴィオラ(私)が選んだこの子たちは、ヴァニスヒルの本宅裏手にある古くなって使用しなくなった使用人寮に当面寝起きしてもらい、ヴィオラ(私)が王都に戻る際には一緒に王都へ連れてゆくつもりです。

 そのためにエルグンド家の馬車とは別にもう一台予備の馬車を造りました。
 エルグンド家が使う馬車は満席で6名乗りですけれど、今回作ったのは少し長さが大きい8人乗りなんです。

 子供だから6人乗りでも大丈夫とは思ったのですけれど、貴族用の馬車に乗れるのは従者までとされていますので、正式に言うと従者ではない彼らを乗せるのは慣例に反するのです。
 旅の途中で病人を拾って最寄りの集落まで運ぶなど緊急の場合には許されることなのですけれど、正式な従者として雇われた者ではない平民が貴族の馬車に乗ることは、良くないことと見做されるのです。

 貴族の慣行って理屈抜きで面倒なものが多いですよね。
 彼らの場合の身分は、ヴィオラ(私)が雇い入れた工房の職人という身分であって、執事やメイドのような貴族に仕える従者とは明確に区別されます。

 もっと難しいのはこれからやろうとしている王都のスラムに住む孤児を拾い上げることかもしれません。
 彼らは、王国の中の住人ではあっても、単に住むことを暗黙の了解で許容されている者達であって、国民とは言えない者達なのです。

 従って国から特段の保護の手は差し伸べられていません。
 一部の教会組織が喜捨の金子を使って時折炊き出しをしているぐらいが関の山なのです。

 従って、スラムはどうしても犯罪の温床になるのです。
 今日食べるものもない者に法を守れと言っても無理かもしれません。

 小さな菜園などを造っている者もいますけれど、実ったものが片端から盗まれているような状態ではせっかく作っても自分の口には入らないのです。
 何もしなければ死を待つだけの人たちなのです。

 むしろ一万人ほどの人が生きていることの方が不思議なくらいですね。
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