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第19話 刺客が来る?

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 くそ暑い夏と一緒に何だか物騒な人たちがやって来るみたいだ。
 エレック君がメールで情報をくれたんだ。

 以前、例の爆破予告事件に際して、エレック君に追跡をお願いした外国人メンバーについては、その後もエレック君の好意で継続的に関連する電子情報を集めてくれていたようだ。
 その結果エレック君のサーチ網にひっかかったのが、何と俺と警視庁への報復に関する情報だった。
 
 あれ?
 ちょっと待てよ?
 
 俺って、警察の中でも極一部の人しか知らない特殊な存在じゃなかったっけ?
 これって、警察内部にリークした奴が居るってことか?

 エレック君に種々確認してもらったら、警察内部の極秘資料の一部がハッキングで奪取された模様だ。
 そうしてそれには情報提供者として俺の名前が入っていたようだ。

 一応、職業、住所、年齢は記載されておらず、『都内在住の明石大吾なる人物』となっているらしいんだが、「明石大吾」ってぇ名前は、それほど特殊なものではないから、老若を含めて全国に数人はいる様だ。
 そうして、都内在住は俺一人だけだから、特定は左程難しくないのだろうな。

 送られてくる刺客の連中は、そういうやばい仕事を専門にしている他所の闇組織からリクルートしてきた奴らしい。
 この危ない環境保護団体は、「テラ・ピース」と名乗る集団で、2024年頃から他の弱小環境団体を吸収して大規模な組織に膨れ上がった任意団体で、豪州に拠点を置き、主としてオセアニアと欧州域で活動を行っていたんだが、何故か一昨年辺りから反捕鯨で日本を標的にし出したらしい。

 とにかく環境保護の為なら法律に違反してもやむを得ないという発想のもとに動く団体なので、各国とも危険視しているんだが、表に立っているテラ・ピースの代表者なんかは環境に関連するテロの発生に対して一切関与をしていないというポーズをとり続けている。
 実際問題として、動いているのは末端の組織であり、それらとの接点を極小化するとともに、巧妙に証拠を残さない連中だ。

 尤も、昨年の爆破テロ予告事件でエレックが収集した秘密情報は、国際刑事警察機構インターポールを通じて各国の警察機関に流されたことから、関係者の多くが一旦は身柄を拘束され、その後各国政府の監視下におかれたために、彼らとしても非常に動きにくくなったらしい。
 何しろ爆弾設置に直接関与したものだけでも7人、そのほかに支援をした者達多数のIPアドレスなども手繰られて、この半年は海外での活動計画が見送られるほどの打撃を被ったらしい。

 従って、その原因を造った警視庁(特に対テロ対策課)と、警察資料の中で情報提供者とされている俺に怒りをぶつける作戦であるらしい。
 こいつらは絶対に環境保護団体じゃなくって、どこやらの○○解放戦線みたいなテロ集団と何も変わりないよな。

 警視庁若しくはその対テロ対策課にミサイルを撃ち込んだり、爆弾を放り込んだりするのはさすがに難しそうだが、こ奴らは身元が手繰たぐれないようにゴーストカンパニーを経由して巧妙な手法で日本の関連団体から協力を得て、対テロ対策課のメンバーを既に割り出しており、そのメンバーを個々に襲撃するという手筈の様である。
 流石にテロ対策課要員全員の襲撃は時間もかかるので困難であることから、情報で得られたメンバーリスト(本来はこれもマル秘扱いの筈)から、テロ対策課の課長、課長補佐、班長3名及び副班長3名の総勢8名を選び、そのついでに俺も含めて一斉に殺害するために刺客17名を日本に送り込む手筈となっている。

 生憎と日本で銃器を入手することは難しいのだが、そこはそれ、闇ルートで狙撃用ライフル(自動小銃タイプ)14丁を密輸し、既に都内某所に秘匿保管している状況である。
 この保管先は都内のトランクルームで、テラ・ピースとは無関係に見える豪州のとある法人からの依頼があって、6畳間程度のスペースを貸しているだけの間柄である。

 狙撃用ライフルの密輸を請け負ったのは、横浜のチャイナ・マフィアである海龍ハイロンであり、洋上でブツを瀬取りした上で、都内某所のトランクルームまで搬入したのも海龍の配下である。
 エレック君のお陰でトランクルームの場所等については確認済みであり、派遣されてくる刺客17名の特定も済んでいる。

 狙撃対象者の人定は、どうやら日本の私立探偵数人に依頼したようだ。
 グレイな仕事でも手掛ける奴は日本にも居るからね。

 そもそも警察官の身元を確認するとわかった時点でやばい話だと分かっているはずなのに、報酬に目がくらんでついつい受けてしまう。
 まぁ、依頼を受けて調査することが探偵の仕事と言えば仕事なんだけれど、非合法な活動の一環だとわかったら仕事はやめるべきだよな。

 俺だったらそうするぜ。
 ともあれ、対象者の住所や行動パターンまで確認した上での作戦だから、発動されれば命が危ない。

 テロ対策課の終業時刻と杉並区にある警視庁職員の宿舎への帰路で狙う計画を立てているようだ。
 テロ対策課の職員は、概ね班ごとの行動パターンが多く、一つの班は宿直なので庁舎に居る。

 残り二つの班のうちの一つはハナ木(はなもく)(木曜日)に富士見台駅周辺の飲み屋で飲むことが多い。
 襲撃は、木曜日のいつもの飲み屋で襲撃するのが一つ目の組の4名。

 宿舎近くで待ち伏せして襲撃するのが二つ目の組で4名。
 庁舎に居る者を襲撃するのが3名。

 もう一組は俺の家に襲撃を掛ける算段で2名。
 更に落ちこぼれを始末するための予備隊4名と、追尾・監視役で三人の都合17名らしい。

 それもまとめて来るわけじゃなく、東京の集合場所4か所が決められており、前日までに日本に入国しておくことが決められている様だ。
 そのうち3人は、トランクルームからライフルを運び出す役割で、その際にはバンをレンタルする予定らしい。

 車の運転はどうやら何でも屋(依頼されて雑用を引き受ける職業)に任せるようだな。
 まぁ、慣れない都会の道路を走るんなら、慣れた者に任せるべきなんだろう。

 個別に武器を運ぶ際は、旅行用の大型トランクや楽器のケース、ゴルフクラブのバッグなど様々な方法で長尺もののライフルを人目に晒さないように工夫するようだ。
 用済み後は、別のトランクルームに預けて、事後に海龍にライフルを処分してもらう予定らしい。

 ピンポイントの狙撃ならば周囲に対する影響も少ないんだが、こ奴らは第三者の被害など屁とも思っていない。
 特に飲み屋が襲撃ポイントの場合は、店内で自動小銃をぶっ放す計画だ。

 四人の刺客が25発入りの弾丸が詰まった自動小銃を3秒で連射すれば、かなり多くの被害者が生じることになる。
 逃走ルートは一応確保されている様だが、行きあたりばったりのところも多々ありそうだ。

 それでも、まぁ、よく考えられた計画だとは思うよ。
 特に警視庁の当直でいる第二班の班長や副班長一人は、法曹会館の屋上から狙い撃つ計画で、侵入方法やら襲撃時間まで隠れている場所など、かなり綿密な計画を立てている。

 狙撃手は二人で、標的も二人。
 予備の狙撃手がもう一名居てミスった時の保険のようだ。

 但し、テロ対策課は、庁舎の南東側に面した部屋ながら庁舎の13階に位置しているから予定されている法曹会館屋上からの狙撃でもおよそ200m越えの打ち上げ状態になる。
 しかも標的が窓際に居るとは通常考えないものだが、それについても、桜田通りの法務省側道路の路側帯に故障車両として車両(レンタカー)を止めて、タイマーで爆破炎上させる計画を立てている。

 当然のことながら、見える位置にあるテロ対策課の当直員が窓際に寄った時が狙撃ポイントだ。
 この爆破時間と、飲み屋の襲撃時間、更には帰宅途中若しくは帰宅してからの襲撃を狙う時刻は基本的に同じ時間帯を予定している。

 俺への刺客は、単純に他の仕事が終わってからの襲撃予定らしいが、仮にその時間帯に成功の通報が無くても予定時刻の三十分後には、家もしくは野外で殺害する予定らしい。
 そもそも俺の場合は、予定が有って無きがごとしなので、彼らもスケジュールに組み込むことができなかったようだな。

 そのために俺にはわざわざ監視役が付けられるらしい。
 よくできている計画ではあるが、色々な意味で行きあたりばったりが多そうな計画だよな。

 例えば俺の場合、数日の泊りがけ調査に出かけることだってないわけじゃないんだぜ。
 そうしたらどうするのかと言うことが何も決まっていない。

 また、同様にテロ事案の発生で現場に対策班が向かったような場合、その後を追いかけるのは非常に難しいと思うぜ。
 テロ対策班は緊急車両での移動だからな、信号が赤でも突っ走る場合があるけれど、一般人が同じことをできるわけもないし、振り切られるのは目に見えているし、現場周辺は当然に封鎖されるので出入りはできない。

 また飲み会をいつもの場所ではなく、別の場所で始めるような場合は、そこからの移動が地理不案内な外人さんには難しい話だろう。
 飲み屋が集まる小路というのはとにかくわかりづらいし、下手に長物の道具を持ちながら入って行くと絶対に絡まれるぜ。

 いずれにせよ、奴らにしては捕らぬ狸の皮算用という奴だが、実際に発動すると大混乱になるから、そこに至るまでに止める動きをするのが俺の役割だな。
 いや、正直に言っておくけれど、今のところ本件に関しては、トランクルームの確認以外俺は何も働いていないぜ。

 全てエレック君が好意的にやってくれた成果だよ。
 正規、不正規に関わらず、彼らがパスポートを取った時点で、その情報をエレック君が教えてくれるので、それが確認できた時点で俺の役割が生じ、警視庁に通報ができる。

 少なくとも刺客集団に銃器を与えてはならないだろうし、本来であれば日本の土を踏ませるのも回避したいところなんだが、・・・。
 どのように対応するかは、餅は餅屋で警察に任せることにしよう。

 俺は、奴らのパスポート入手が確認(エレック君)された時点で、大山さんを通じて、警視庁の神山氏に各種情報を添えて通報した。
 襲撃計画が始まる四日前のことだった。

 二週間後、例によってミリオン・ボーイ(ウチの女子事務員二人が勝手に名付けた秘密のあだ名)の柳沢君が100万円の札束sを届けに来たよ。
 情報料込みで何と二百万円也だった。

 うん、暫くはウチの女子事務員二人がにこやかになるね。
 ところで刺客が捕まったのは良いんだけれど、トカゲのしっぽ切りがされちゃうとまた別の刺客が送ってこられるかもしれないので、元凶となるテラ・ピースを何とか叩き潰す方法が無いものかと三日ほど悩んだよ。

 その所為か、夢の中にダイモーンが出て来たよ。
 ダイモーンっていうのは、ギリシャからついてきて俺の亜空間に住み着いている精霊の一体だ。

 ウーン、アニメに出て来そうな目がぱっちりとしたリトル・サタンと形容したらわかるかな?
 結構、見た目は可愛いんだぜ。

 こいつは俺の亜空間に居る奴でも無報酬で動いてくれる稀な奴なんだ。
 今回も俺の夢の中に出てきて言ったもんだ。

「僕に任せなよ。
 二度と刺客なんて送り出せないようにしてあげるから。」

「あぁ、お願いできるなら頼む。
 ただ、できるだけ人死には避けてもらえる?」

「相変わらず、甘ちゃんだねぇ。
 そんなところが気に入って付いてきたんだけど・・・。
 まぁ、できるだけ直接の死人は出ないようにしてあげよう。」

 そう言って消えたダイモーンだったが、翌日の夜にも現れて、終わったよと教えてくれた。
 方法なんかは教えてくれなかったが、多分闇魔法とか黒魔術に属するものなんだろうな。

 その日から一週間後、エレック君が関連のネットニュースを教えてくれたよ。
 テラ・ピースが債務不履行で瓦解、代表者等は家屋敷を放置して失踪中なので、豪州政府はテラ・ピースの資産を凍結したし、欧州各国も同様の措置を講じている模様だ。

 活動資金を失ったテラ・ピースは、まぁ自然消滅だな。
 結局、ダイモーンが何をしたのかは不明のままだった。

 ダイモーンには念話で最大限の謝意を送っておいた。
 ダイモーンからは、『またな♡』と返ってきただけだったな。

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 12月23日、字句の一部修正を行いました。

  By サクラ近衛将監

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