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本編
エピローグ
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カーテンを開けると、よく晴れた青空が目に飛び込んできて、空はうんと伸びをした。
この病室の窓からの景色も今日で見納めだ。
志岐と付き合い始めてから、5年の月日が流れていた。
数ヶ月前、オリジナルの人間サイズになれる薬が実用化され、周りにも色々相談をし、空はその薬を飲むことにした。
匡の話では最低5年、もっとかかる可能性の方が高いとのことだったが、思っていた以上の速さで、薬は完成した。
身体が大きくなったとはいえ、Ωの発情期がなくなるわけではなく、寿命が延びるわけでもない。それでも――
空はベッドに座って足をぶらぶらさせる。
薬を飲んだ後、しばらくは違和感があったが、今はもうすっかり馴染んだ。今日、退院したら真っ先に志岐と会うことになっている。
志岐には何度も、見舞いに行きたいと言われたけれど、退院するまで会わないと言って、今日まで断っていた。
本当は、自分だって1秒でも早く志岐に会いたいけれど。
でも、会ったら絶対に抱き締めたくなるし、キスだってしたくなるに決まっている。まだ感覚が戻っておらず、自分の身体が自分のものではないような感じだったのに、5年も待ったファーストキスをそんな時にするのはもったいないと思った。
「おはようございます、大島さん。体調はどうですか?」
主治医の先生が部屋に入ってくる。空はベッドから立ち上がった。
「おはようございます。すごくいいです」
「それは良かった。では行きましょうか」
「はい」
荷物を持って、そのまま病室を後にした。
✦✦✦
何かあったらいつでも来てくださいね、と親切丁寧に言ってくれる先生に食い気味に返事をして、空は逸る気持ちを抑えながら病院を出た。志岐とは近くの公園で会う約束をしている。
早歩きで歩いていたのが、どんどんスピードが上がり、気付けば走り出していた。
まだ誰もいない朝の公園の中に佇む志岐の後ろ姿を見つけ、ぱぁっと笑みが溢れる。
「志岐ー!」
「っ! 空⋯!」
走っている勢いのまま飛びつくと、志岐はバランスを崩しながらもなんとか受け止めてくれた。
ぎゅっと抱きついて肩口に顔を埋めると、志岐の匂いがした。会わなかったのはほんの1週間くらいなのに、すごく懐かしいように思える。
「空、顔見せて」
耳許で囁く声に、ゆっくりと顔を上げる。
志岐は笑っていたが、その目は涙で潤んでいた。
「どうしよう⋯。なんか、夢みたい⋯」
「うん⋯。でも、夢じゃないよ?」
そう言いながらも、空も何度も夢に見た光景だった。
もう1度ぎゅっと抱きつくと、志岐の手が髪を梳くように撫でる。唇が頰に触れ、熱い吐息が耳朶をくすぐった。
「空⋯」
空の目にも涙が溜まり、視界が霞む。
目を閉じると、唇に志岐のそれが重なった。角度を変えて、ゆっくりとキスが深くなる。
ほんの少しだけ近くなった青空の下。
堪えていた雫が、空の頰を静かに伝っていった。
END.
この病室の窓からの景色も今日で見納めだ。
志岐と付き合い始めてから、5年の月日が流れていた。
数ヶ月前、オリジナルの人間サイズになれる薬が実用化され、周りにも色々相談をし、空はその薬を飲むことにした。
匡の話では最低5年、もっとかかる可能性の方が高いとのことだったが、思っていた以上の速さで、薬は完成した。
身体が大きくなったとはいえ、Ωの発情期がなくなるわけではなく、寿命が延びるわけでもない。それでも――
空はベッドに座って足をぶらぶらさせる。
薬を飲んだ後、しばらくは違和感があったが、今はもうすっかり馴染んだ。今日、退院したら真っ先に志岐と会うことになっている。
志岐には何度も、見舞いに行きたいと言われたけれど、退院するまで会わないと言って、今日まで断っていた。
本当は、自分だって1秒でも早く志岐に会いたいけれど。
でも、会ったら絶対に抱き締めたくなるし、キスだってしたくなるに決まっている。まだ感覚が戻っておらず、自分の身体が自分のものではないような感じだったのに、5年も待ったファーストキスをそんな時にするのはもったいないと思った。
「おはようございます、大島さん。体調はどうですか?」
主治医の先生が部屋に入ってくる。空はベッドから立ち上がった。
「おはようございます。すごくいいです」
「それは良かった。では行きましょうか」
「はい」
荷物を持って、そのまま病室を後にした。
✦✦✦
何かあったらいつでも来てくださいね、と親切丁寧に言ってくれる先生に食い気味に返事をして、空は逸る気持ちを抑えながら病院を出た。志岐とは近くの公園で会う約束をしている。
早歩きで歩いていたのが、どんどんスピードが上がり、気付けば走り出していた。
まだ誰もいない朝の公園の中に佇む志岐の後ろ姿を見つけ、ぱぁっと笑みが溢れる。
「志岐ー!」
「っ! 空⋯!」
走っている勢いのまま飛びつくと、志岐はバランスを崩しながらもなんとか受け止めてくれた。
ぎゅっと抱きついて肩口に顔を埋めると、志岐の匂いがした。会わなかったのはほんの1週間くらいなのに、すごく懐かしいように思える。
「空、顔見せて」
耳許で囁く声に、ゆっくりと顔を上げる。
志岐は笑っていたが、その目は涙で潤んでいた。
「どうしよう⋯。なんか、夢みたい⋯」
「うん⋯。でも、夢じゃないよ?」
そう言いながらも、空も何度も夢に見た光景だった。
もう1度ぎゅっと抱きつくと、志岐の手が髪を梳くように撫でる。唇が頰に触れ、熱い吐息が耳朶をくすぐった。
「空⋯」
空の目にも涙が溜まり、視界が霞む。
目を閉じると、唇に志岐のそれが重なった。角度を変えて、ゆっくりとキスが深くなる。
ほんの少しだけ近くなった青空の下。
堪えていた雫が、空の頰を静かに伝っていった。
END.
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