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2.推し友
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開いているレストランに入り、お互い名前すら名乗っていなかったので、まずは自己紹介をした。
「川瀬理人です」
「二条昭博です。理人君って呼んでいい?」
「はい」
料理を注文し終わると、二条さんはフレンドリーに色々話してくれた。
「理人君は大学生?」
「はい。大学3年です。二条さんは⋯歳上、ですよね?」
「俺は25」
5歳上か。友達以外の人とこうして2人で食事とかしたことないから、ちょっと緊張してしまう。彼女とかもいたことないし。
「今日びっくりしたよ。また会えるなんて思ってなかったし」
「俺もです。家この近くなんですか?」
「ここから車で20分くらいかな」
車で、ということは今日も車で来ているのだろう。俺はここからだと電車で15分くらいだ。
初対面であまりプライベートなことを聞くのは良くないかと思い、話題を変える。
せっかくライブ直後なのに、ライブの話をしない手はない。
お互い興奮冷めやらぬ感じだったので、ライブの話はすごく盛り上がった。時間を忘れてしゃべってしまい、気付けば店内のお客さんもまばらになっていた。
「ごめん、結構遅くなっちゃった。時間大丈夫?」
「平気です。まだ電車もあるし」
「良かった。あ、連絡先聞いてもいい?」
「はい」
スマホを出して連絡先を交換する。ついでにアプリゲームのフレンド登録も済ませる。
「俺、あんまりアプリやってないんだけど」
「大丈夫です。別に一緒にイベントやったりするわけじゃないし」
ログインしないフレンドがいると足を引っ張られるとか、そういう系のゲームなら困るだろうが、このアプリは何の影響もないので問題ない。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。すごく楽しかった」
「俺もです」
店の前で解散すると、二条さんは駐車場の方へ歩いていった。お酒も飲んでなかったし、やっぱり車で来ていたのだろう。俺も駅へ向かう。
連絡先を交換したということは、また会えるだろうか。イベントとかあったら誘ってもいいのかな。正直距離感がよくわかんないけど、まあいいか。
ニヤけそうになる頰を押さえながら、俺は家路についた。
✦✦✦
初の推し友に距離感が掴めずにいた俺だったけど、割とすぐに、これは連絡するしかないという事態に陥った。
「コラボ遊園地⋯!」
都内にある遊園地と期間限定でコラボし、イベントをするという告知に目が釘付けになる。
えーなにこれ、グッズかわいい。入場特典のグッズかわいい。
行きたい。めっちゃ行きたい。でも遊園地は1人じゃ無理!気にせず行ける人もいるんだろうけど俺は無理!
「誘ったら、迷惑かな⋯?」
男2人で遊園地も無理!って人もいるだろう。
かるーく言ってみるか? 無理だったら大丈夫でーすって。向こうは社会人だから、学生の俺より忙しいだろうし、それもわかってることをちゃんと伝えれば、断りにくいということもないだろう。
よし!
意を決して二条さんにメッセージを送った。
『行く行く! 是非!』
あっさり了承された。悩んだ意味なし!
まあいいか。もしかしたら、二条さんも誘っていいかどうか悩んでいたのかもしれない。
「ん?」
またメッセージが来た。
『いきなり遊園地っていうのもあれだし、その前に1回会わない?』
「そういうもんかな?」
あれだし、の『あれ』が何なのかイマイチ不明だが、確かに初デートとかで遊園地に行くと、待ち時間が気まずくて別れやすいとかも聞く。まあアトラクションはあんまり乗らなくてもいいんだけど。っていうかそもそもデートじゃないし。
ともあれ、会うのは別に構わないので了承する。この前会った映画館が入っているショッピングモールで会うことになった。
楽しみだけどなんとなく落ち着かない気持ちになるのは、大学の友達と遊ぶのとは違う感覚だ。どっちかというとライブやイベントの時のわくわく感に近い気がするのは、やっぱりこれも推し活の一環だからなのかな。
スマホのカレンダーに予定を登録して、俺はふっと笑みを浮かべた。
✦✦✦
「お待たせ」
「こんばんは」
土曜の夜。約束していたショッピングモールにやって来た二条さんは、スーツ姿だった。
「お仕事だったんですか?」
「うん。休日出勤」
「お疲れ様です」
二条さんは心なしか疲れているように見える。無理に今日じゃなくても良かったんだけど。
「今週ヤバくてさ。だから理人君に誘って貰えたの凄く嬉しかった」
「それなら良かったですけど」
「今日、先に寄りたいところあるんだけど、いい?」
「はい」
そう言ってやって来たのは、100円ショップだった。
「俺、この前理人君に聞くまで、100均にそんな便利なグッズがあるなんて知らなくて」
「そうだったんですか?」
結構前からあるぞ? 100円ショップ自体あんまり行かないのかな?
「だから、ちょっと見てみたかったんだよね」
「それなら、向こうの方の棚ですよ」
ここは俺もよく来ているので、だいたいの場所は把握している。
「こんなのあるんだ」
二条さんはペンライト立てを物珍しそうに見ていた。
「それは俺も重宝してます。ペンラは毎年増えていくので」
「わかる。ライブあると絶対買う」
事前通販だとまだチケットの抽選前だったりするから、最悪行けない可能性もあるんだけど、それでも買っちゃうんだよな。
二条さんは、しかし買うわけじゃないのか、棚に戻していた。
「俺は半円型のドームみたいなのに突き刺してあるよ。よく店で棒キャンディ刺してあるやつみたいな」
「え、なにそれ見たい」
「写真見る?」
二条さんはスマホに保存されてる写真を見せてくれた。ペンライトが10本以上刺さっている。
「これ手作りですか?」
「友達が作ってくれた」
「すご」
結局二条さんは、缶バッチを保管するファイルを購入していた。この前も缶バッチ買ってたし、好きなのかな。
「缶バッチ集めてるんですか?」
「好きなんだよね」
「痛バ作ったりとか?」
「あれは無理。あんなには集められない。作ってる人ほんと凄いと思う」
「ですよね」
缶バッチって大抵ランダムなのに。もちろん交換して集めるんだろうけど、それにしたってすごいよな。
レストラン街へ着き、食事のリクエストを聞かれて迷う。どれも美味しそうではあるんだけど⋯。
「えっと⋯」
「今日は俺が奢るよ」
「えっ? いいですよ。悪いです」
「いいからいいから。焼肉でいい?」
「⋯ありがとうございます」
いいのかな。けど俺の財布事情に合わせてもらうのも申し訳ないし、それなら二条さんが食べたいものの方がいいよな。
そう思ってお言葉に甘えることにした。
一緒に食べたお肉は、凄く美味しかった。
「川瀬理人です」
「二条昭博です。理人君って呼んでいい?」
「はい」
料理を注文し終わると、二条さんはフレンドリーに色々話してくれた。
「理人君は大学生?」
「はい。大学3年です。二条さんは⋯歳上、ですよね?」
「俺は25」
5歳上か。友達以外の人とこうして2人で食事とかしたことないから、ちょっと緊張してしまう。彼女とかもいたことないし。
「今日びっくりしたよ。また会えるなんて思ってなかったし」
「俺もです。家この近くなんですか?」
「ここから車で20分くらいかな」
車で、ということは今日も車で来ているのだろう。俺はここからだと電車で15分くらいだ。
初対面であまりプライベートなことを聞くのは良くないかと思い、話題を変える。
せっかくライブ直後なのに、ライブの話をしない手はない。
お互い興奮冷めやらぬ感じだったので、ライブの話はすごく盛り上がった。時間を忘れてしゃべってしまい、気付けば店内のお客さんもまばらになっていた。
「ごめん、結構遅くなっちゃった。時間大丈夫?」
「平気です。まだ電車もあるし」
「良かった。あ、連絡先聞いてもいい?」
「はい」
スマホを出して連絡先を交換する。ついでにアプリゲームのフレンド登録も済ませる。
「俺、あんまりアプリやってないんだけど」
「大丈夫です。別に一緒にイベントやったりするわけじゃないし」
ログインしないフレンドがいると足を引っ張られるとか、そういう系のゲームなら困るだろうが、このアプリは何の影響もないので問題ない。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ。すごく楽しかった」
「俺もです」
店の前で解散すると、二条さんは駐車場の方へ歩いていった。お酒も飲んでなかったし、やっぱり車で来ていたのだろう。俺も駅へ向かう。
連絡先を交換したということは、また会えるだろうか。イベントとかあったら誘ってもいいのかな。正直距離感がよくわかんないけど、まあいいか。
ニヤけそうになる頰を押さえながら、俺は家路についた。
✦✦✦
初の推し友に距離感が掴めずにいた俺だったけど、割とすぐに、これは連絡するしかないという事態に陥った。
「コラボ遊園地⋯!」
都内にある遊園地と期間限定でコラボし、イベントをするという告知に目が釘付けになる。
えーなにこれ、グッズかわいい。入場特典のグッズかわいい。
行きたい。めっちゃ行きたい。でも遊園地は1人じゃ無理!気にせず行ける人もいるんだろうけど俺は無理!
「誘ったら、迷惑かな⋯?」
男2人で遊園地も無理!って人もいるだろう。
かるーく言ってみるか? 無理だったら大丈夫でーすって。向こうは社会人だから、学生の俺より忙しいだろうし、それもわかってることをちゃんと伝えれば、断りにくいということもないだろう。
よし!
意を決して二条さんにメッセージを送った。
『行く行く! 是非!』
あっさり了承された。悩んだ意味なし!
まあいいか。もしかしたら、二条さんも誘っていいかどうか悩んでいたのかもしれない。
「ん?」
またメッセージが来た。
『いきなり遊園地っていうのもあれだし、その前に1回会わない?』
「そういうもんかな?」
あれだし、の『あれ』が何なのかイマイチ不明だが、確かに初デートとかで遊園地に行くと、待ち時間が気まずくて別れやすいとかも聞く。まあアトラクションはあんまり乗らなくてもいいんだけど。っていうかそもそもデートじゃないし。
ともあれ、会うのは別に構わないので了承する。この前会った映画館が入っているショッピングモールで会うことになった。
楽しみだけどなんとなく落ち着かない気持ちになるのは、大学の友達と遊ぶのとは違う感覚だ。どっちかというとライブやイベントの時のわくわく感に近い気がするのは、やっぱりこれも推し活の一環だからなのかな。
スマホのカレンダーに予定を登録して、俺はふっと笑みを浮かべた。
✦✦✦
「お待たせ」
「こんばんは」
土曜の夜。約束していたショッピングモールにやって来た二条さんは、スーツ姿だった。
「お仕事だったんですか?」
「うん。休日出勤」
「お疲れ様です」
二条さんは心なしか疲れているように見える。無理に今日じゃなくても良かったんだけど。
「今週ヤバくてさ。だから理人君に誘って貰えたの凄く嬉しかった」
「それなら良かったですけど」
「今日、先に寄りたいところあるんだけど、いい?」
「はい」
そう言ってやって来たのは、100円ショップだった。
「俺、この前理人君に聞くまで、100均にそんな便利なグッズがあるなんて知らなくて」
「そうだったんですか?」
結構前からあるぞ? 100円ショップ自体あんまり行かないのかな?
「だから、ちょっと見てみたかったんだよね」
「それなら、向こうの方の棚ですよ」
ここは俺もよく来ているので、だいたいの場所は把握している。
「こんなのあるんだ」
二条さんはペンライト立てを物珍しそうに見ていた。
「それは俺も重宝してます。ペンラは毎年増えていくので」
「わかる。ライブあると絶対買う」
事前通販だとまだチケットの抽選前だったりするから、最悪行けない可能性もあるんだけど、それでも買っちゃうんだよな。
二条さんは、しかし買うわけじゃないのか、棚に戻していた。
「俺は半円型のドームみたいなのに突き刺してあるよ。よく店で棒キャンディ刺してあるやつみたいな」
「え、なにそれ見たい」
「写真見る?」
二条さんはスマホに保存されてる写真を見せてくれた。ペンライトが10本以上刺さっている。
「これ手作りですか?」
「友達が作ってくれた」
「すご」
結局二条さんは、缶バッチを保管するファイルを購入していた。この前も缶バッチ買ってたし、好きなのかな。
「缶バッチ集めてるんですか?」
「好きなんだよね」
「痛バ作ったりとか?」
「あれは無理。あんなには集められない。作ってる人ほんと凄いと思う」
「ですよね」
缶バッチって大抵ランダムなのに。もちろん交換して集めるんだろうけど、それにしたってすごいよな。
レストラン街へ着き、食事のリクエストを聞かれて迷う。どれも美味しそうではあるんだけど⋯。
「えっと⋯」
「今日は俺が奢るよ」
「えっ? いいですよ。悪いです」
「いいからいいから。焼肉でいい?」
「⋯ありがとうございます」
いいのかな。けど俺の財布事情に合わせてもらうのも申し訳ないし、それなら二条さんが食べたいものの方がいいよな。
そう思ってお言葉に甘えることにした。
一緒に食べたお肉は、凄く美味しかった。
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