素敵な趣味のお誘い

さくら優

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番外編

王様ゲーム

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「暇だし、王様ゲームやろうぜ」

放課後、教室で友人を待っていると、一緒に待っていた荒井が唐突にそんなことを言い出した。

「いや、暇なら勉強しろよ」
「マジメか。いいじゃん。なあ、お前らもやんね?」

荒井は、教室に残っていた女子たちにも声をかける。

「いいけど、エロい命令すんなよ」

そう言ったのは、その場にいた女子グループの中で1番気の強いタイプの田口だ。

「委員長もやろうぜ~」
「いいよ」

凛も加わり、男子4人、女子3人の計7人で、王様ゲームをすることになった。

「王様だーれだ」

最初のうちは、デコピンや尻文字などのオーソドックスな命令が続く。

何度目かのターンで、俺や荒井といつもつるんでいる沢田が王様になった。

「んー、じゃあ、1番が6番に膝枕をしてもらう」
「お、俺1番だ」

隣にいた荒井が声を上げた。

「げ、あたし6番じゃん」

そう言ったのは田口だった。

「それじゃ、失礼しまーす」
「お前、変なとこ触ったら潰すからな。あと感想とか言ったら舌引っこ抜く」
「こわ! え、こんな恐怖の膝枕ある?」

まるで死刑台に登るような表情で膝枕をしてもらっている荒井を見ながら、前半部分は以前凛にも同じことを言われたなと思った。流行ってるのかな。

数秒間黙って膝枕をした後、次のターンになった。

「王様だーれだ」
「あ、俺王様だ」

次の王様は荒井だった。

「えーっと、じゃあ4番が5番をくすぐる!」
「⋯え」

俺は自分のくじを見て固まる。4番。

「や、やだっ」

正面にいた女子、吉澤さんが声を上げた。彼女が5番なのだろう。泣きそうな顔をして、明らかに嫌がっている。

「ちょっと、エロいの禁止って言ったじゃん」
「くすぐるのは別にエロくないだろ。子どもの遊びじゃんか。なあ晴翔」
「俺に振るなよ」

どうするべきか。チラッと凛の方を見ると、吉澤さんの方を見ながら、何か逡巡しているように見えた。

「嫌がってる女の子の身体触るとかサイテー」
「なっ! ちょ、言い方! 晴翔もなんか言って」
「いや、俺も普通にやだよ。嫌がってる子になんかするとか」

というか、相手が女だろうと男だろうと、凛以外の人を擽るとか正直ものすごく嫌だ。普通の人ならなんでもないことなのかもしれないが、俺の場合、これって浮気行為に等しいのではないだろうか。

「じゃあほら、足ならいいだろ」
「いやっ」

荒井も命令を変えればいいのだが、こういう時無駄に頑固なのを知っているので、どうにかしなければと思っていると、ふと凛が吉澤さんの元へ向かった。

「吉澤さん、くじ、交換しよ」
「⋯⋯え⋯?」
「たかがゲームで、誰かが泣くほど嫌な思いするとかおかしいし。これくらいいいよね、王様?」
「え、や⋯」
「荒井、いいじゃん。こんなの誰がやったって同じだろ。これ以上ごねんな。しらける」

沢田も助け船を出してくれたので、荒井も納得したようだ。凛と吉澤さんがくじを交換するのを見て、俺はゆっくりと立ち上がる。

「じゃあ、凛が5番でいいの?」
「――うん」

顔を見つめると、凛は皆の前だからか、挑戦的な笑みを浮かべた。

仰向けに寝転がらせた凛の上に覆い被さる。慣れた体勢のはずなのに、教室で、しかも人が見ている前だと思うと異様に緊張した。教室にいた全員がゲームに参加していたから、無関係のギャラリーがいなかったのがまだ救いだ。

「じゃあ、両手バンザイして」
「⋯⋯」

そう言うと、凛は恥ずかしそうに顔を背けた後、言われた通り手を上げた。

そっと脇腹に手を置き、服の上から優しく擽る。

「っ、ひゃっ! あははは! やぁあっ」
「こちょこちょこちょ~」

さすがに手加減してあげないとなと思って、弱い触り方は避けるようにしていると、可愛い顔で笑い声を響かせる。

「もっ、あ、ははっ、やっ、やめっ」
「王様ー、もういい?」
「お、おう⋯」

すぐに手を離すと、凛は自分で自分を抱き締めるようにして、呼吸を整えるように目を閉じた。

チラッとみんなの様子を窺う。荒井は顔を赤くしてこっちを見ないようにしていた。

お前が照れてんじゃねーよ。

「はい、じゃあ次。晴翔たちはいったんパスでもいいよ」
「じゃあそうする」
「オッケー。4番と5番はなしで命令な」

沢田が空気を変えてくれたので、俺もほっと息を吐いた。

「凛、大丈夫?」
「うん⋯」

横向きで寝転がっている凛の耳許に唇を寄せて、こそっと耳打ちする。

「手加減したし、いつもに比べたら大したことないだろ」
「っ、ばか⋯」

からかうように笑うと、赤い顔で睨まれた。身体を起こすのを手伝ってやり、埃を落とすように軽く制服を払う。

「あの⋯」

すると、吉澤さんが俺たちの所へやって来た。

「櫻井君、ありがとう。助けてくれて」
「ああうん。別に気にしないで」
「冴島君も、あの、私別に冴島君が嫌だとかそういうんじゃなくて」
「わかってる。凛も言ってたけど、たかがゲームなんだから、そんな気にすんなって」

そう言うと、吉澤さんはもう1度お礼を言って戻っていった。
俺はそっと溜息を吐くと、凛と2人で密かに笑い合った。


   ✦✦✦

待っていた友人が戻って来たところで、ゲームはお開きになった。用事を済ませてから凛と2人で帰路につく。

「なんだかんだ楽しかったな。凛、かっこよかったし」
「茶化さないでよ」
「んー、でも、別に凛にとっては罰ゲームでもなんでもないか」
「⋯普通に恥ずかしかったんだけど。晴翔君だって顔赤くなってたじゃん」
「う⋯」

緊張していたのがバレていたらしい。

「でも良かった。吉澤さんも凄く感謝してたし」
「⋯そんな、大したことじゃない」
「え?」
「4番が晴翔君じゃなかったら、あんなことしなかったかもしれないし」
「⋯それでも、感謝してるのは間違いないし、それに多分、1番助けられたのは俺だから」
「え?」

俺は凛の手を引いて、人気のない校舎裏に入る。
そういえばここは、凛に例の漫画を見せられた場所だった。

肩口に顔を埋め、軽く抱き締めるように背中に腕を回す。

「ほかの人相手にとか、すげー嫌だったから、凛が代わってくれてほんとに良かった。ありがと」
「晴翔君⋯」

髪を撫でるように、そっと頭に手を乗せられる。いつもと立場が逆転している感じがして、なんだか新鮮だった。

手の平で頰に触れ顔を寄せると、凛は潤んだ瞳を僅かに泳がせる。

「ここ、学校だよ」
「誰も見てないし」

そっと唇を覆うと、凛もゆっくりと目を閉じた。

END.
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